象徴界

⚫︎精神分析によれば、シニフィアンの連鎖(≒象徴界)は、自動機械のように機能する。『他なる映画と 1』(濱口竜介)を読んでいて、シネフィルによる、人の関心とは無関係に世界を記録する実写カメラの自動機械的な「記録性」の尊重とは、いわば「象徴界の確保」という意味があるのだなあと思った。実写映像は、映像＝想像界(断片性・フィクション性)の領域であると同時に、カメラの自動機械性において、象徴界(≒シニフィアンの連鎖)との通路が確保されている。後者の尊重が、想像的な映像の中に、その外にある他者や世界との通路があることを知らせる、と。カメラ＝象徴界というか、カメラ(＋プロジェクター)が想像界と象徴界とを媒…

⚫︎『ラカン 主体の精神分析的理論』(立木康介)、序章より、引用、メモ。分析の目的＝集結はどのように訪れるのか。 まず、精神分析の論理的概要。シニフィアン、〈父の名〉、大文字の他者と「主体」、現実界。これはかなりわかりやすい。 《シニフィアンとは、言語を構成する物質的＝質量的な要素の、a≠bのように互いに区別できる最小単位(最終的には表音文字によって担保される「音」)、および、それらが―象徴界独自の法則によって―組み合わされたもの(意味を持ちうる単語やそれより上位のレベルの要素)を指す。ただし、ソシュールにおいてシニフィアンと対をなす独立の次元を構成していた「シニフィエ」を、ラカンはシニフィア…

1955-1956に行われたラカンの第３セミネール。シュレーバーの回想録を読み進めながら精神病の特質を神経症との違いから考察していく講義録で、弟子筋の精神分析家に対しての教育的側面が強く表れていて、分析家ではない一般読者には少々近寄りがたい空気も強くあるのだが、言語とその意味作用に関する部分の講義については比較的一般化できるものが多く、興味を惹かれる。患者の語るパロルのシニフィアンの配置を丹念に分析し症状のもとにある問題を慎重にあぶり出していくことを繰り返し説くラカンの姿勢がとても印象に残る年度であった。 パロルの執拗な反復、神経症の強迫様式と精神病の欠如したシニフィアンと妄想を取り上げたセミ…

いささか抽象的で、分かりにくいかもしれませんが。そこで、もう少し視野を広げて、人生におけるファンタスムの役割について考えてみましょう。 唐突に「人生」などという言葉を使いましたが、それには理由があります。というのも、ファンタスムは私たちがどう生きていくかの指標となるからです。 本能を失った人間は（153頁）、「我々はどこから来たのか、我々は何者か、我々はどこへ行くのか」という人生の意味や目的を欠いています。だから人は《他者》に生や死の意味を教えてもらおうとします。しかし前述の通り、《他者》は欠如を抱えた存在であり、万能ではありません（212頁）。それゆえ《他者》にも答えられない問いというものが…

玄関の上がり框の段差解消用手すりと踏み台 レベッカ「MOON」 ▶ まあAI（電子頭脳）のシンギュラリティ（特異点）の頃にはおそらく僕はこの世にいないので、どうでもいいっちゃどうでもいいんだけど、困る人もいるだろうから、ヒントの断片を日々書き残しているのだが、こういう場合にインターネットの分散型の特性は便利だと思う。エシディシみたいに封筒に切手を貼らなくてもいいし。 西垣通は新聞のインタビューで「生成AIの開発理念の背景には、一神教文化圏の思想がある。」と言っていた。 一神教と多神教の違いというのは、単に神様の人数や序列や役割の問題だけではなく、それについては少し遊んでから文献から引用する。 …

諸君、ごきげんよう。 我は音楽を哲学的に考え思考する メロディウスである。 今回は AlexandrosBoy Fearless について哲学的に考察していく。 Alexandros「Boy Fearless」MV Boy Fearlessの歌詞・和訳 序論 「少年」とは誰か？ 第一章 鏡像の囚われからの脱出 第二章 恐れなき存在―BOY FEARLESS 第三章 仮面の脱却と真の「声」 第四章 システムとゲーム―勝者としての自己 第五章 少年の力を侮るなー未来への挑戦 結論 「少年」の声が語るもの (adsbygoogle = window.adsbygoogle || []).push({…

ある意味で、欲望と欲動の性質は正反対と言ってもよいでしょう。欲望は〈法〉に従います。他方、欲動は欲望の〈法〉より根源的なので、〈法〉を逸脱しえます。欲望とはつねに〈他のもの〉を目指す不満足そのものなので、「欲望の満足」という概念は存在しません（193頁）。他方、欲動の満足には享楽という明確な概念が与えられています（259頁）。 しかし、それでも、両者はある共通の根を持っています。それは何かというと、やはり《もの》の体験です。ラカンの議論の重心が現実界に移るにつれて、欲望も現実的なものとの関わりの中で捉えられるようになり、「欲望とは《もの》の享楽を取り戻すことの欲望だ」と定義されるようになりまし…

＊ ポストメディア時代の思想家 フランスの哲学者ジル・ドゥルーズと精神分析家フェリックス・ガタリの共著『アンチ・オイディプス』（1972）は1968年にフランスで起きたいわゆる「5月革命」を駆動させた「欲望」の奔流を原理的に考察し、1970年代の大陸哲学最大のムーブメントを巻き起こした哲学書として知られています。同書の主旋律を成すのはその極めて激越なまでの精神分析批判です。この点、精神分析の創始者であるジークムント・フロイトは19世紀末、当時謎の奇病とされたヒステリーをはじめとする神経症の治療法を試行錯誤する中で、その原因が幼児期の性生活に由来する性的欲望と性的空想のなかにある事を突き止めて、…

8時から二年生1班の日語基礎写作（一）。前回の課題を返却し、「（…）」作文。あいかわらず空気は重いのだが、それでも作文を書き終わったあとのひとときを利用し、最前列に着席しているY.KさんやY.Tさん、S.Eくんと雑談を交わせば相応には盛りあがるし、S.IくんとR.GくんとK.IくんとS.Gくんは競ってふざけた作文を書きあう（ときどきくすくすと笑い声が生じる）。だから先学期よりはずっとマシだといえる。K.SくんとS.Hくんのふたりは今日も出席していたが、作文を書きはじめる前の導入の時間は例によってずっとスマホをいじっているだけであり、それだけだったらもうどうでもいいやというアレなのだが、監査期間…

皆、言葉を替えて同じことを言っている。 それに気づいた時、自分の中に変化が起こる。 心の世界のありようを、ラカンさんは「現実界・想像界・象徴界」に分けて考えた。 言い換えればそれは「知覚・感情・思考」であり、「無意識・意識・超意識」であり、「脳幹・大脳辺縁系・大脳新皮質」であり、「ペンタクル・カップ・ソード」であり、うんぬんかんぬんであり……。 これらがどれだけ「そのもの」を言い当てているかに程度の差はあれど（あるいは「言葉を替えたら違うものになる*1」という批判を抜きにしても）、このように人間心理をだいたい３つに分けて考えるというのは、割と誰もが納得できる、それなりに普遍的な「事実」のようで…