「春になったのですからね。今日は声も少しお聞かせなさいよ、 鶯《うぐいす》よりも何よりもそれが待ち遠しかったのですよ」 と言うと、 「さへづる春は」 (百千鳥《ももちどり》囀《さへづ》る春は物ごとに 改まれどもわれぞ古《ふ》り行《ゆ》く) とだけをやっと小声で言った。 「ありがとう。二年越しにやっと報いられた」 と笑って、 「忘れては夢かとぞ思ふ」 という古歌を口にしながら 帰って行く源氏を見送るが、 口を被《おお》うた袖の蔭《かげ》から 例の末摘花が赤く見えていた。 見苦しいことであると歩きながら源氏は思った。 二条の院へ帰って源氏の見た、 半分だけ大人のような姿の若紫がかわいかった。 紅《…