本書は1976年から雑誌「幻影城」に連載され、1979年に単行本になったものだが、それ以前の1974年に「小説宝石」で発表された短編がもとになっている。この時から題名「朱の絶筆」や登場人物の名前、事件のあらましは変わっていない。 本書には、その両方(450ページほどの長編と50ページほどの短編)が収められている。特に短編の方は犯人当て懸賞(20万円)が付いていて、1,381通の応募があり真犯人を当てたのが857通あった。作者が仕掛けた4つの手掛かりすべてを見破った、剛の者もいたという。 そんな短編をなぜ長編化したかというと、そこには「本格の鬼」鮎川哲也ならではのこだわりがあった。「幻影城」に連…