399.『道草』番外編(5)――長谷川如是閑『初めて逢った漱石君』(3) (前項より続き)長谷川如是閑『初めて逢った漱石君』(つづき)Ⅷ 江戸っ子の所作 話は外れたが、夏目君とそうして相対しているうち、私はふと君の顔の表情や身体のこなしに、強く現れている特徴を観察することが出来て、何んだか擽ぐったくなった。夫れは全く私達の家庭の生活の夫れであった。私達の江戸趣味の家庭は、私自身の書生生活とは全然趣味の異ったものであった。私は此の意味でも二重生活をして来たものである。ところが夏目君と斯う二人きりで相対していると、私の平生の書生生活から、昔の家庭生活に飛び退(しさ)ってしまったような気がするのだ。…