首都高が帰宅ラッシュで込みだしたころ、霊幻は繁華街を抜けた先にあるバーへと急いでいた。そのバーは駅前から少し離れた調味二丁目の飲み屋街内に位置していて、夜になると看板のネオンが怪しく光る。 その日は雨が降っていた。だが霊幻は傘を持っていなかった。天気予報は晴れだと言っていたのに。霊幻は片手カバンを頭上に掲げて小走りで駆けていった。 「ふう……ここだな」スマホのリマインドにはこう書いてある。ショットバー『APOLLO(アポロ)』、午後7時から、持ち物は彼女の名入り指輪。 現在時刻6時53分。電池残量41パーセント。どうやら約束の時刻には間に合ったようだった。 霊幻が戸を開け中に入ると軽快に入店ベ…