1917年(大6)文芸社刊。作者の青木緑園は脚本家出身だが、明治末期から大正にかけて、悲劇小説という恋愛物の通俗小説を多く書いた。前半の舞台は伯爵家が別邸を構える赤羽岩淵付近。当時はまだ小作農たちが貧しい暮らしを送る田舎だった。別邸で気ままに暮らす伯爵令嬢と苦学生との交友が恋愛に発展するが、身分の違いは如何ともしがたく、一度絶交する。華族の甘い汁を吸う家令たちの密議や強盗事件を挟んで、令嬢は望まぬ結婚に追い込まれる。人物描写、風景描写とも水彩画風に浅くさらりと描くのは青木緑園の手法だが、それを浅薄と言い切ってもいいのだが、ちょっとした味わいが出ている。副題の千葉情話は後半に稲毛海岸などが出てく…