奴之助 悪魔1 1911年(明44)嵩山堂刊(すうざんどう)(青木嵩山堂から社名を変更したらしい) 題名から想像して、犯罪小説かと思って読み始めたが、明治期の悲劇小説の部類だった。「悪魔」と題したのは恋人に振られた画学生が、恨みつらみを込めてその恋人の肖像画を描き、それを画題として出品したことによる。画学生は友人に励まされながら、その絵を完成させることで失恋を克服し、芸術家として成功の道を確立する。それに対して華族夫人となることを選んだヒロインの澄子は、その美貌が災いして、横恋慕では攻め寄られ、小姑からはいびり倒され、ついには夫から離縁されるに至る。因果応報の悲劇とも読めるのだが、たまたま小間…