車谷長吉という小説家に興味を覚えたのは2015年、彼が亡くなったときのことである。死亡記事のなかで、彼が朝日新聞の人生相談「悩みのるつぼ」で出した答えが紹介されていて、それがちょっと普通ではなく、この人はおもしろい人だなと思った。同時に、恐ろしい人だとも思った。その相談は高校の教師をしている男性からで、教え子の生徒が好きになってしまったけれど、どうしたらよいのかという相談であり、車谷長吉は「好きになった女生徒と出来てしまえばよい」と返したというのである。この人、人生に対して並々ならぬ覚悟を持っているらしい、でなけりゃこんなこと言えない。どういう理屈でこんなふうに言えるのかと朝日文庫『車谷長吉の…