ところで中宮の御産は、陣痛は続くのだが、難産である。 なかなかご誕生にならない。 つきそっていた入道清盛や奥方は、 ただ胸に手を押しあてたまま、おろおろするばかりで、 頼りにならぬことおびただしい。 人びとが、うかがいを立てても、 「どうかうまくやってくれ、 よいように急いでやってくれ」 と声をふるわすばかりであった。 戦場なら、こんなみじめな思いはしないと、 後程人に話したが、 人の親清盛の狼狽《ろうばい》ぶりは想像にあまりあるものがある。 このご難産に、殿中でお祈りする者は、 房覚《ぼうかく》、性運《しょううん》の両僧正、 俊尭《しゅんぎょう》法印、豪禅《ごうぜん》、 実全《じつぜん》両僧…