はるか昔の話だ。40年以上前の話。大阪にインタープレイ8(はち)というジャズ喫茶があった。ぼくはジャズ喫茶と書いたけれど、今になって思うとたぶんジャズ喫茶ではない。学生時代からコーヒーしか飲んだことがないし、それ以外のものを頼もうと考えたこともないので、ほくらの間ではジャズ喫茶と見做されていた。 クセの強いママがいた。しゃがれ声で相手が客であろうが言いたい放題だった。そんなママの思い出がある。 ひとつは、こうだった。 『マル・ウォルドロンをお願いします』と告げた僕の顔をたっぷり時間をかけて確認したママは、 『そんなやつのレコードはない』と、しゃがれてはいたが聞き間違いのないはっきりとした口調で…