cello

よく、自分の声を録音して聞くと、全然違っていて驚くという話を聞く。 自分の声は自分の内部（骨伝導）で聴こえるためだという。 チェロも、自分に聴こえる音と、聴衆に聴こえる音は違うのではないかと思っていた。 例えば「楽器が鳴る」ということに関しても、 私自身には楽器が鳴っているかはわからない。 振動しているかどうかはわかる。 だから私はいつも、自分に聴こえる音を「手元で聴こえる音」と書いてきた。 楽器が鳴るようになって、てっきり私はこの手元の音が表に出ていると思っていた。 でも違うのだろうか。 一つ思い当たるのは、ニスだった。 駒と魂柱を取り換える時に、職人の方からニスの塗り替えを提案されていたか…

ここでちょっと弦の話。 元々使っていたのは、太い方からC、G線はスピロコア、D、A線はラーセンを使っていた。定番の弦、組み合わせの一つである。 楽器が鳴るようになって、一度職人宅へ伺ったときに、D、A線をヤーガーにしてみようということになった。音がキンキンしていると。 そして新品ではないが、職人宅にあったヤーガーをつけてくれた。 柔らかい。音色が。 このキンキンは、弦の音だよ、と教えてくれた。 弦の音。 弓を選ぶときに感じた、弓の音。ふと思い出す。 弦の特徴をはっきり表すこの楽器はいい楽器、と職人は言った。 このように書いてくると、職人と私は意気投合しており、 いつも上手く行っているようにみえ…

ウルフとの闘い。 職人にウルフが強い時の対処法も教えてもらっていた。 が、問題が出てきた。 そもそも、ウルフキラーをつけると、D線自体の音がすごく変になる。 さらに、ウルフが消える様子はない。いや、D線のFisは消える。 でもG線のウルフは消えない。 このD線の変な音は、なんと表現したらいいだろうか。 もわーんとした、こもった、音というか響きというか。 一本だけ異質な音がするので、曲を弾くと嫌になる。 この楽器は面白くて、 始めはその現象が起こるまで数日かかる。 私が楽器を寝かせて弾くようになってから、でんじろう先生の空気砲の現象がおこるまで、数日かかった。 でんじろう先生の空気砲から楽器全体…

これまでとは違う弾き方にして数日。 いつも通りエンドピンを伸ばして寝かせた状態で楽器を弾いていると、急にボンッボンッという音がする。 チェロの中でしている。 何事？思わずｆ字孔から中をのぞく。 もちろん何事もない。 魂柱もちゃんと立っている。 気を取り直して弾いてみる。 すると今度は、ｆ字孔から空気の塊がバフッバフッとでてくる。 でんじろう先生の段ボールの空気砲のように。 面白過ぎて笑ってしまう。 いくらなんでも、チェロはそんな鳴り方はしないでしょう。 おそらく、魂柱が振動し始め、それに伴って裏板も振動し始めたのだろう。 だからでんじろう先生の空気砲のように、裏板の振動がｆ字孔から空気の塊にな…

楽器はよくなった。 嬉しくて毎日のように弾く。しかし一方で、再びレッスンに行くかどうか悩んだ。 私が弾いたとき、職人はがっかりした様子だった。それは、かつてレッスンに行っていたころ、先生がよく見せたしぐさと同じだった。 そういうのを見るのは辛い。 やっぱりボウイングはよくないんだ。 わかっていない私。このまま一人で弾き続けても、楽器は鳴らせないのではないか。 50時間弾くとなると、毎日1時間（…も弾けないのが現状だが）弾いたとしても一か月以上かかる。変化を楽しみにしながら弾いていた。 そして一か月くらいたったころ、急に弓の毛が切れるようになった。 それまで何かに引っかけない限り、弓の毛が切れる…

職人からメールが来る。 「駒と魂柱を換えました。 ひとつお伺いしたい事が有ります。 チェロの弦、今装着されているものは、いつ頃から使われている弦でしょうか。 交換された時期を記憶されていたならば、お教えいただきたく思います。」 時期を送信する。すぐに返事が返ってくる。 「やはりそうでしたか。弦は寿命を遥かに超えています。 チェロの鳴り方が変わって、弦の良し悪しと相性ががはっきりと露呈するようになり ましたので、 今後、このチェロから音色を引き出せる弦を探す楽しみが出てきました。 今回、ニスの塗り替えまで手を伸ばさなかったのは正解でした。」 どういう意味だろう。 「チェロはこの先５０時間程弾くと…

帰り道、私は茫然としていた。 いろんな考えが渦巻いていた。 いい楽器？本当に？ ハーゼはいいことだったのか。傷だらけなんて思ってしまってごめん。 この楽器は鳴ったことがない。…オケでは十分音が出ているのに。 鳴るって何？ 振動すればいいってこと…？ でも振動にもいろいろあるんだな。だって裏板振動してたもんな。 家に戻って楽器を取り出してみるが、 魂柱は細いままで、今だ鳴っていない楽器。 そうわかってしまうと、あまり弾く気にはならない。 でも、弾かずにはいられない。 これは鳴ってない状態なんだなあ…と思いながら、練習する。 あの職人さん、楽器を見ただけで私がずっと考えてたことを言い当ててしまった…