おのしゅうのブログ

旧タイトル 注釈の多いオノマトペ

神奈川縦断 徒歩の旅  まとめ版 「前編」

まず、これをご覧ください。

わたしが住んでいる、神奈川県の白地図です。


この神奈川『県』の面積は、以前わたしが何年か住んでいた釧路『市』の2倍もないのです。
小さい県なのですね。



突然話は変わるのですが、最近体力の衰えを感じる場面が非常に多く
体を動かしたいな、と常々思っていました。
ただ、なにかのスポーツをするとなるとなかなか難しいところがあります。
  (筋金入りの運動オンチでもあるし、一緒になにかやってくれる相手がいない)
一応わたしの専門分野である「山とカヌー」はこの時期に行うのはキビシいものがあります。
  (雪山に行く技術はないし、川の水は冷たい)


そこで手っ取り早く『歩く』ことを考えました。
なにしろ歩くのはひとりでも簡単にできますし、お金もかかりません。特別な技術もいりません。



話は戻るのですが、神奈川県は面積の小さい県です。
ここから、「神奈川県を歩いて縦断する」という企画を、ふと思いつきました。


先ほどの白地図をご覧くだされば、
北側の、真ん中よりやや右寄りが大きく南方にえぐれていることが
お分かりいただけると思います。


その神奈川県を「えぐっている」部分が、『東京都町田市』です。
『町田市』は、23区内在住の正真正銘の都会人から、
「町田って都内として認められないよねー。」
「東京を名乗って欲しくないよねー。神奈川みたいなもんだもんねー。」
などと、しばしばからかいの対象になることもあるようですが、(このような発言、何回か耳にしたことがある)
れっきとした『東京都』の市です。
(この発言は、『町田市』及び『神奈川県』の二方面をバカにしており、一神奈川県民として憤りを感じています。)


この東京都の市である『町田市』から歩き始め、
最終的に海まで突き当たることができれば
堂々と『神奈川県を縦断した』と言えるのではないか、と考えたのです。


これにさらに付加価値を加え、
境川』(東京都と神奈川県の境界に沿って流れ始め、最終的に藤沢市の片瀬海岸から相模湾にそそぐ川)沿いを歩き始め、
『引地川』(神奈川県大和市に水源があり、藤沢市を流れやはり相模湾にそそぐ)を水源から海までなぞる、
という計画を立てました。


サブタイトルを付け
『神奈川県縦断』 〜二本の川をめぐり歩く旅〜
としました。計画を図で示すと以下のようになります。


指でおおよそをはかってみると、30km強ぐらいの道のりのようです。


改めて地図を確認してみると、南北の一番距離の短い部分を姑息に結んでおり、
果たしてこれを『縦断』と表現していいものかどうか、若干のためらいは感じます。
ですが、だからといって、


かながわ「通り抜け」
では造幣局に桜を見に行くみたいですし、
かながわ「漫遊」
では越後のちりめん問屋みたいですし、
かながわ「回遊」
ではサンマやイワシみたいなので、


ここは思い切って『縦断』と言い切ってしまいたいと思います。



この企画を遂行するにあたり、何人かを誘ってみたのですが
「それ何が面白いの?」
と至極真っ当なご意見を頂戴するばかりで、
一緒に歩いてやろうという奇特な方はいらっしゃいませんでした。


そのような経緯で、平成22年2月7日
単身、町田駅に降り立ったのでした。


【11:00】【「町田駅」(スタート地点)】


町田駅は北口はかなり栄えていますが、
今回の出発点である南口は殺風景で、


殺風景というよりむしろアレな感じで、


23区民の「町田は・・・」
という発言も決して故なきものでもないのかな、と思ったりもしてしまいました。


なんとなくげんなりしてしまい、出ばなをくじかれた気分でしたが
ともかく旅の始まりです。


町田駅から歩き始め、すぐに「境川」にぶつかります。


【11:15】【「町田駅」から0.5km】


『境橋』

川の名前が、橋の名になっているということは
この橋は「境川」のフラッグブリッジ(こんな言葉があるのかどうか知らないけど)ということになるんでしょうか。



川沿いをだらだら歩きます。
この辺りは、この「境川」が東京都と神奈川県の県境になっています。


いかにも「ウォーキング」という風情の方が大勢行き交っていました。
ウォーキング人口ってなかなかのものなのですね。


川を覗き込んでみると気味が悪い程、鯉がうじゃうじゃいました。


【11:30】【「町田駅」から1.5km】

「メダカの学校」ならぬ、「鯉の学校」という文言が頭に浮かびましたが、
よくよく観察してみると、
バチャバチャと跳ね回っているようなのがいたり、
端の方で不貞腐れているようなやつがいたり、
他の鯉を追っかけ回しているようなのがいたりと、
「みんなでお遊戯している」とは程遠い様子でした。
鯉の学級運営もなかなか大変なようです。


川の向こうは東京都

こちらは神奈川県です。


国道246号に突き当たり、ここで「境川」とお別れします。


【12:30】【「町田駅」から6.0km】


246を歩き、今度は「引地川」の水源がある
大和市の「泉の森」を目指します。


246は、よくクルマでは通るのですが
あまり歩いたことはありません。なんだか違和感を感じます。
車の往来はかなり激しいですが、歩行者の姿はほとんど見えません。
まあこのあたりは、歩いて楽しい道でないことはたしかです。


排気ガスにまみれながら、大和市に入りました。


【12:40】【「町田駅」から6.5km】


国道246号を歩いていきます。
この日はとても天気が良く、遠くの山並みがキレイでした。

おそらく「大山」とその仲間たちだと思います。(たぶんです)


そして小田急線の線路をくぐり抜けます。


【13:00】【「町田駅」から8.0km】


今回の徒歩旅行の道のりを、この小田急線の駅で言うと、
「町田」「相模大野」「東林間」「中央林間」「南林間」「鶴間」「大和」
「桜ヶ丘」「高座渋谷」「長後」「湘南台」「六会日大前」「善行」「藤沢本町」
「藤沢」「本鵠沼」「鵠沼海岸」「片瀬江ノ島
の全18駅分に相当します。
運賃にすると360円です。
町田駅」から「片瀬江ノ島駅」まで、電車を使うと40分程度なのですが、
これが徒歩だと歩き始めて2時間を過ぎても、全行程の1/3にも達していないのです。
文明というものの偉大さを感じます。


線路を越えてまもなく『泉の森』(引地川の源流がある自然公園)に到着しました。
「泉の森」の入り口です。こう見るとなかなか趣があります。


【13:15】【「町田駅」から9.0km】


しかし、この「入り口地点」で後ろを振り返ってみると以下のような風景が広がっています。
[ ]
もう少し何とかならなかったのでしょうか。
家族連れが、この入り口(もちろん他にも入り口はたくさんあるようですが)から入る際、
「パパー、これなんのタテモノなのー?」
と子供にスルドイ質問をされたらなんと答えれば良いのでしょうか。


この「やたらとピンクな宿」の前を通ったとき、ちょうど中から車が出てきて
なんとなくボケーッとそれを眺めてしまっていたら、
けたたましくクラクションを鳴らされた上、
運転手がわたしをにらみながら、さも不愉快そうにエンジンを激しくブォンブォン吹かして行ってしまいました。
「おのれ、無礼な奴!!!」
と、一瞬『ユルセナイ!』との心持ちになりましたが、
冷静になって考えてみると、どちらかというと無礼だったのはわたしの方だったので、
なんとなく『ヤルセナイ』という思いを抱えながら『泉の森』に入って行くことになりました。


『泉の森』はキレイに整備されていて、なかなかに賑わっていました。
吊り橋が架かっていて

水車まであります


明るく平和な家族連れや、年配集団のウォーキング愛好会風、また中学生ぐらいの純朴カップルなどが
メインのユーザーとなっており、
わたしのような、「暗い顔をした20代後半男性おひとり様」
というのはこの場にそぐわないことこの上ないのでした。


公園を行き交うひとが、なんだかわたしに対し訝しむような視線を向けているような気がします。
(実際には「気にも留めていない」というのが正しいのでしょうが、
 わたしは自意識過剰の上、被害者意識がとても強いのです。)
なんだか非常に不本意な気持ちになり、
「いや、別にわたしは無目的にうろついているのではなく、『神奈川縦断』という壮大な企画の遂行のために町田から歩いてきたのです。これからも江ノ島まで歩くのです」
と、説明と弁解をして回ろうかとも考えましたが、
そんなことをしたら、それこそ通報されかねないし、
そもそもそんなに主張して回る程、たいしたことはやっていない、ということに気づき
思いとどまることができました。危うかったです。


引地川の水源。

フェンスに囲まれていて近づくことができないのでなんだか良くわかりません。


ここから流れ出す引地川沿いに歩いて行けば海に出られるはずです。

      

『泉の森』の内部では、そこそこ清らかな「引地川」ですが、
川の流れは、公園の端っこで一度せき止められており

公園を出ると、まるでどぶ川のように姿をかえてしまいます。
変わり果てた無惨な姿です。


ここから少し進むと、川は『ふれあいの森』という公園の中を通ります。
この『ふれあいの森』はよく整備されていて、川もそれなりの姿に戻ります。


【13:50】【「町田駅」から10.5km】

「引地川」復活。
ここからずんずん歩いていけば海に出ることができます。


相鉄の線路を越えていきます。


【14:00】【「町田駅」から11.0km】


新幹線の線路を越えたあたりで
わが藤沢市に入ったことになったようです。(市境がよくわからなかった)


【15:15】【「町田駅」から16.0km】


このあたりから、風景にメリハリが乏しくなります。
こんなのが延々と続くのです。


【15:40】【「町田駅」から18.0km】


このあたりで全身が疲労感に包まれはじめ、足が痛くなってきました。



今回の道のりは、おおよそ30km弱なので
歩く速度を時速4kmとすると、全行程はだいたい8時間ぐらいということになります。


普段、山に登ったりもするのですが、そのときも8時間程度は歩きますし
山道はアップダウンも激しい上、場合によっては20kg弱の荷物を背負って登ることもあります。


今回は、歩く時間こそ8時間程度ありますが、
荷物はほぼなく、また道も全くの平坦なので、登山の場合と比べ本来かなり楽なはずなのです。
しかし、なぜか登山の比ではないぐらい疲れるのです。


この原因のひとつとして、
山の場合歩くことが途中で嫌になってしまっても、とにかく最後まで歩ききらないと帰れない、
というのに対し、今回のように町中を歩く場合、飽きちゃったら電車に乗ればお家に帰れる、
というどこか「甘え」のようなものがある、ということが考えられます。
「背水の陣」というと少し大げさですが、
退路を断つというのは、モチベーションを保つ上で必要なことかもしれません。
少し教訓を得たような気がします。


単調な道をだらだらと歩き続け、
「引地川親水公園」に到達しました。
引地川沿いに公園は数あれど、「引地川」の名を冠した公園はこれのみで、
ここはさしずめ、引地川の「フラッグパーク」ということになるのでしょう。
(また勝手に言葉を作ってしまいました)


【17:20】【「町田駅」から24.0km】
[ ]
だいぶ日が暮れてきてしまいました。


そういえば、この辺りに近頃「不審者」が出るのだ、との話を思い出しました。


わたしが不審者に襲われることはあまりないでしょうが、
「不審者」という嫌疑をかけられる可能性はおおいにありそうです。


警察の方に、
「こんな時間に何をやっていたんだ!!!」
と問いつめられて、
「いや、神奈川県の縦断を・・・。」
と説明をして、納得していただける自信がまるでありません。
そしてカメラから、「町田駅前や泉の森入り口で撮ったピンクな宿の写真」
などが見つかっては、もうおしまいです。
職務質問に会わずに済んで本当によかったです。



「引地橋」にさしかかった頃、ついに日が暮れてしまいました。


【18:00】【「町田駅」から26.0km】

夜の「引地橋」です。(引地川のフラッグブリッジ)


ここから海まではおそらくあと2km程、時間にして30分くらいでしょう。ゴールは目前です。


しかしもうこの時点で日は暮れてしまったし足は痛いしおなかは空いたし寒いし
なによりもここからは私の家がとても近いのです。
つまりこれが先ほども申し上げた「甘え」です。


要するに、この時点で「家に帰りたくなってしまった」のです。


ただ、ゴールの「江ノ島」も目前なのです。歩いて30分強程度なのです。
ここで家に帰ってしまったら、『神奈川縦断』は成し遂げられず、
わたしのこれまでの7時間は、
町田駅から歩いて家まで帰ってきました」
という、はなはだ気の抜けたものになってしまいます。


でももう足が痛いのです。日も暮れたのです。おなかもすいたのです。


かなり思案をしたのですが、結局のところ
ゴールをあきらめて、ここから家に帰ってしまいました。


家に到着し、ひとごこちつくと猛烈な後悔が襲ってきました。


「無意義かつ中途半端な計画を立てしまい、さらにそれを達成することすらできずに投げ出してしまった。」
と考えると、なんだかしみじみと自分が情けなく、悲しくなってしまいました。


そこで、
「このままではイカン」
と、もう一度気持ちを奮い立たせ、知恵をしぼって考えだした結論が
『計画を大幅に拡大する』
とのプランです。


つまり、
「疲れたから途中でやめて帰っちゃった」
というのを、
「フレキシブルに計画を変更し、そのため企画を一時中断し戦略的撤退をおこなった」
と、自分への言い訳の為に表現を改めるということです。


図で示すと以下のようになります。


当初の予定


変更プラン


変更プランのゴール地点は三浦市の『城ヶ島』と定めました。
城ヶ島』は「神奈川県の最南端」なので、
これで名実共に『神奈川県縦断』となるのではないでしょうか。


ちなみに、この追加分は、
江ノ島」「七里ケ浜」「稲村ケ崎」「長谷寺」「由比ケ浜」「葉山マリーナ」
などのメジャーな観光スポットの近くを多数通るのです。


これまでの、
「ラブホテルから出てきた車にクラクションを鳴らされた」
「鯉とにらめっこをした」
などとの、陰々滅々とした内容とはうってかわって、華やかになるのではないでしょうか。



「後編」に続く