『白い果実』

あらすじ

悪夢のような理想形態都市を支配する独裁者の命令を受け、観相官クレイは盗まれた奇跡の白い果実を捜すため属領アナマソビアへと赴く。待ち受けるものは青い鉱石と化す鉱夫たち、奇怪な神を祀る聖教会、そして僻地の町でただひとり観相学を学ぶ美しい娘…

帯より

 まず、装丁が素晴らしくて手に取った。緻密な点描のイラスト、帯の書体、紙の質感など、本屋の店頭でなんとも言えない存在感を放っていた。後記によると、この本の文体を活かすために、一度日本語に翻訳されたものを、山尾悠子さんにより独特の文体へと移しとられたのだという。この作品に対する訳者の方の思い入れの強さが伝わって来る後記だった。こんな後記のある作品は、私の経験ではたいてい優れた作品であることが多い。


 実際読んでみると、不思議な世界観が構築されていて素晴らしい。世界幻想文学大賞を受賞したのだそうだが、確かにファンタジーというよりは幻想文学と呼ぶのにふさわしい。繊細で魅力的で無気味な要素が次々と登場し、それらが独特の雰囲気を作り上げている。


 例えば、歳を経ると青い鉱石となって固まる鉱夫たち、精密で独特な器具で測る観相学、植物と人間の中間の〈緑人〉、地上の楽園〈ウィナウ〉、そこから来たという、人間とは異なる〈旅人〉、〈白い果実〉を得るにいたった不思議な冒険の〈断片〉、〈美薬〉の見せる幻覚、機械仕掛けの発明品や、頭の中に歯車や発条ばねを入れられた人々、猿の作るカクテル〈甘き薔薇の耳ローズ・イアー・スイート〉、暗闇に潜む人狼や魔物、クリスタルや珊瑚で飾られた美しい〈理想形態市ウェルビルトシティ〉…。こういった要素でこの物語は形作られている。レトロで繊細でゴシックで、不思議な魅力がある。美しさとおぞましさが絶妙なバランスで同居していて、なるほど、この文体でなければならないというのもうなずける。

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