分科会「犯罪被害者と刑事手続」 1
日本刑法学会第85回大会(名城大学)に参加したので報告する。と言っても最初から順序だった考察をするわけではない。
まずは書き散らかして,このエントリで少しずつ整序していく(こういう使い方ができるのがブログの良いところ)。
http://www.moj.go.jp/HOUAN/HANZAI-KENRI/refer04.html
を参照願いたい。
パネリスト(敬称略) 酒巻匡(司会 京都大学),川出敏裕(東京大学),長沼範良(上智大学),加藤克佳(愛知大学),番敦子(弁護士)
以下は,リアルタイムでタイピングし,最小限度の補訂を加えたもの。
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被害者にとって,民事訴訟は大きな負担。
刑事手続の成果利用。
有罪判決の後の手続開始。
同一裁判所が民事手続をやる。
損害額の算定 自白事件
損害賠償請求で,刑事裁判終了後,事実上,心証を持ち越す。
印紙額2000円
審尋による決定
異議申立による民事訴訟移行 記録自動引継 決定
生命・身体の被害 ダメージが大きいので,簡易迅速
不法行為に限定
弁護人が代理人になるわけではない。
刑事和解の他に,被害者に選択肢を1つ与えた(と言う以上のものではない)。
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従来の考え 被害者は証拠である。
手続参加権・直接関与
参加 被害者の尊厳にふさわしい扱い。訴因の設定はダメ
質問権 参加人として(検察官への「補助」参加でなく,「被害者」参加)
情状証人の弾劾等に限る。罪体への質問は除外。
被告人質問。
意見陳述(弁論) 事実・法律の適用に関する意見も可(ただし訴因に限定)
「被害者参加人」という呼称
相当と認められる範囲の政策的決断。
裁判官の負担。
簡易迅速な処理にふさわしいもの。
争いのない事件がほとんど。
記録送付
被害者の地位(根本問題) 法制審議会でも認識は共有されていない。
生の復讐感情?
制度を利用しない被害者に対する不利益。
弁護士委託。損害の積算。
刑事弁護人の役割
二局構造を壊す先駆けになる・・・・・。
公判前整理手続の傍聴権
補助者でない−審議会見解 「被害者」に「ある地位」があってそこから権限が派生するのではない。処遇として,ふさわしい権利は何か・・・・。
被害者の論告 求刑
検察官は被害者の代理人か? 被害者に弁護士代理人についた場合。
古典的な枠組みが,崩れないかという危惧。
「犯罪被害者と刑事手続」 2 (雑談)
分科会終了後,参加者と雑談した。雑談というのは仲間内でやるものなので,自ずから「刑事弁護系の人」が多くなる(ミランダの会会員とか,日弁連刑弁センター委員とか)。したがって,分科会への評価は,自ずから「辛口」になったのも当然である。「辛口」というのは控えめな評価で,実際のところ「ズタボロ」であった。
(休憩中)
Barl 「あのおばさん,刺激的だな。一発言ってやらないと」
Beatniks 「Barlさんが一発やれば言えばいいよ」
(終了後)
「この分科会は,いったい何なんだ」
「ま,メンバーが全員立法にかかわっているから・・・」
「(発言者中)まともなのは,村岡啓一(一橋)と三島聡(大阪市大)だけだね」
「村岡さんは『損害賠償命令』から質問したのだが,それでは切り口が矮小化されてしまう。」 「だよね。」
「<損害賠償命令>にしても<被害者参加>にしても,対象事件は,被害者は単なる<処罰請求心>でなく,<復讐心>をもちたくなる事件だ。そこに注意しないといけない。」
「<損害賠償命令申立?> 全然役に立たない。この手続が奏功する事件は,たいてい刑事手続の中で示談が成立している筈。」
「被害者に質問・尋問させると<遠山の金さん>みたいなことになる。<証人>が尋問するのは変だ。<このお腹の傷が目に入らぬか>とか」
「民事ではそういうこともあるけど,何か?」
「<情状関連事実の主張立証>は,<訴因(罪体)の主張立証>と本質は同じなので,情状に関して被害者に主張・立証権を与えるのは,おかしい」
等々。
鯰越鎰弘(新潟大学)は,「損害賠償命令は役に立たない」という点については,私見と同旨であったが,「犯罪被害者を刑事手続に参加させる」ことには賛成らしい。
Barl 「国家による刑罰権独占,国家の代理人・刑罰請求権者としての検察官が,刑事訴訟法における二局構造の基礎にある。」
鯰 「国家刑罰権の基礎はどこにあるのだ。社会契約論から考えれば,市民(被害者)が国家に刑罰権を信託したわけだろ。」
Barl 「先生は,刑法の私法的基礎付けを・私法と公法との峻別の否定を考えておられるのか。」
鯰 「俺の考えの,どこがおかしいのか?」
「犯罪被害者と刑事手続」 3 変な法律案
法律というのはこれを正確に読解することは難しい。括弧を読み飛ばして読んでみると,とりあえず意味が分かる。
さて,現在参議院審議中の法案は,以下のとおりである。
犯罪被害者等の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律
第九条 次に掲げる罪に係る刑事被告事件(刑事訴訟法 の被害者又はその一般承継
第四百五十一条第一項の規定により更に審判をするこ
ととされたものを除く。)
人は、当該被告事件の係属する裁判所(地方裁判所に
限る。)に対し、その弁論の終結までに、損害賠償命
令(当該被告事件に係る訴因として特定された事実を
原因とする不法行為に基づく損害賠償の請求(これに
附帯する損害賠償の請求を含む。)について、その賠 の申立
償を被告人に命ずることをいう。以下同じ。)
てをすることができる。
一 故意の犯罪行為により人を死傷させた罪又はその
未遂罪
二 次に掲げる罪又はその未遂罪
イ 刑法(明治四十年法律第四十五号)第百七十六
条から第百七十八条まで(強制わいせつ、強姦、
準強制わいせつ及び準強姦)の罪
ロ 刑法第二百二十条(逮捕及び監禁)の罪
ハ 刑法第二百二十四条から第二百二十七条まで(
未成年者略取及び誘拐、営利目的等略取及び誘拐
、身の代金目的略取等、所在国外移送目的略取及
び誘拐、人身売買、被略取者等所在国外移送、被
略取者引渡し等)の罪
ニ イからハまでに掲げる罪のほか、その犯罪行為
にこれらの罪の犯罪行為を含む罪(前号に掲げる
罪を除く。)
前に書いたとおり,この法律には,種々の批判が可能である。つまり,以下にかかわる問題である。
1 刑事手続の成果利用。
2 有罪判決の後の手続開始。
3 同一裁判所が民事手続をやる。
4 損害賠償請求で,刑事裁判終了後,事実上,心証を持ち越す。
5 生命・身体の被害 ダメージが大きいので,簡易迅速
6 <損害賠償命令>にしても<被害者参加>にしても,対象事件は,被害者は単なる<処罰請求心>でなく,<復讐心>をもちたくなる事件だ。そこに注意しないといけない。
「1〜4」について
民事訴訟でも,刑事訴訟でも「関連事件」について関与した裁判官(裁判所)は,除斥・忌避・回避になる。
http://homepage3.nifty.com/office-wada/edu/recusation.html
しかし,このたびの法案は,被告人に対して有罪判決を下した刑事裁判所(裁判官)が引き続いて損害賠償命令事件を審理するのである(このたびの法案は,その辺が売り・ミソなのだ)。
そりゃいくら何でも酷いんじゃないのかい?
刑事事件で有罪判決を受けた被告人が「呼出状」をもらい,審尋室に出頭する。そしたら,また,同じ裁判官!! どんな気分になるだろう。これ以上の説明を要するまい。まして,当該裁判官は被告・弁護人の無罪主張を排斥して有罪判決を出しているのかも知れない。
「5・6」
対象事件の主立ったものは,「殺人・強盗殺人・傷害致死」,「性犯罪」などであり,財産犯罪は対象事件でない。「交通犯罪−業務上過失致死傷」はなぜか,「被害者参加対象事件」であるが,損害賠償命令申立対象事件にはなっていない。
第三節 被害者参加
第三百十六条の三十三 裁判所は、次に掲げる罪に係る
被告事件の被害者等若しくは当該被害者の法定代理人
又はこれらの者から委託を受けた弁護士から、被告事
件の手続への参加の申出があるときは、被告人又は弁
護人の意見を聴き、犯罪の性質、被告人との関係その
他の事情を考慮し、相当と認めるときは、決定で、当
該被害者等又は当該被害者の法定代理人の被告事件の
手続への参加を許すものとする。
二 第二百十一条第一項
これらの犯罪被害者・遺族(業過を含め)の心情は理性的なものではないことが多い。つまり,単なる「適当な処罰・相応の損害賠償を求める心情」でなく「加害者を八つ裂きにしたい,殺してやりたい,同じような思いをさせたい,一生赦さない」というものだ。
これらの「被害者」が「バーの中」に入ってきたらどうなるだろうか? (続く)
憲法第37条
すべて刑事事件においては、被告人は、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する。