こんな夢を見た((C)夏目漱石)
…なんとも言えない、シュールな夢でした。
夢の中で、自分はなぜか大石内蔵助でした。
それも、今まさに切腹の座に向かおうとしている瞬間の。
よく時代劇や小説で描写されている内蔵助の最期の場面のように、自分が明鏡止水の気持ちでいたかというと、さにあらず。
「え、なんで俺切腹することになっちゃったの? イヤだ、死にたくないよ。カンベンしてよ」
そればっかり。
まあ、シチュエーションは大石内蔵助であっても意識は私本人そのままなわけですから、当たり前といえば当たり前なんですけど。
切腹場に向かう足取りの重いこと重いこと。
牛の歩みのようでした。
刑場に着席し。
浅葱色の裃を作法にのっとって(なぜか知ってるんだ、これが)取りはずしながら、考えたのは。
「…確か、江戸時代の切腹って、切腹人が小刀置いてある三方に手を伸ばしたら介錯人が首を落としてもいいってことになってたよなあ。そんなのまっぴらゴメンだよ。なんとか時間稼げないもんかなあ」という。
往生際の悪さ全開の発想でした。
努めて平静を装い。
『新選組!』で堺雅人演じる山南敬助が切腹の瞬間に介錯の沖田総司に言ったように。
「声をかけるまで待つように」と介錯人に一言。
ところが!
介錯人、返して曰く。
「あのー、すみません、後がつかえてるんで…」
…とまあ、ここで携帯のアラームが鳴って目が覚めたわけです。
しかしまあ、これで私がホンモノの切腹人だったとしたら、さぞや見苦しい最期だったことでしょう。
見かねて、後ろから介錯人が抜き打ちでバッサリとしかねないような。
念のために断っておきますが、大石内蔵助の切腹はこんなグズグズだったわけがあるはずもなく、首尾よく終わったとのことです。また、このとき内蔵助の介錯を務めた熊本藩士の安場一平も、きっとこんな情のカケラもない発言はしなかったことでしょう。