ユジャ・ワン ピアノ・リサイタル



 小娘が小娘離れしたやり方で西洋音楽の精華を見せつけた。幅の広い強弱、音域によって異なる音色、内声を殺さない声部感覚が、プロコフィエフの「第六ソナタ」をハルモニームジーク(管楽合奏)のように響かせ、ラフマニノフの「第二ソナタ」を管弦楽付き協奏曲のように轟かせる。
 より重要なのはこの音楽家の知性だ。こうした難易度の高いプログラムを圧倒的な技術力と音楽性とで折伏したあと、アンコールで弾き始めたのはシューベルト/リストの「糸を紡ぐグレートヒェン」。「驚かせたけれど私はただのグレートヒェン(=小娘)よ」ということ。その後、プロコフィエフの「トッカータ」で改めて技巧を示し、ショパンの「ワルツ嬰ハ短調」で恋人たちのささやき合いを再現。その上で最後を締めくくったのがロッシーニ/ギンズブルグの「フィガロのアリア」なのだから恐れ入る。バリトンの声をピアノから引き出し、悪魔か小娘かという問いに「何でも屋さ」と答える二十五歳がかつていただろうか。(2013年4月21日 サントリーホール


初出:音楽現代 2013年7月号