『ヘンリー六世 第一部』
- 作者: ウィリアム・シェイクスピア,小田島雄志
- 出版社/メーカー: 白水社
- 発売日: 1983/10/01
- メディア: 新書
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この手の歴史モノを読むときはたいていそうなのだが、Wikipediaや地図で登場人物や場所について調べることが多い。戯曲を書く側も、お芝居を見る側も当然知っている「常識」のようなモノを我々は知らないのだから仕方がない。にわか仕込みの知識で追いつこうとするわけだ。そんなわけで、この作品を読みながらWikipediaを引いていて思った。あれ、この人ってこの時点ではもう死んでるんじゃなかったっけ・・・。
シェイクスピアは史実をありのまま忠実に戯曲化するのではなく、史実を自由に組み合わせ、時にはフィクションさえもとりまぜながら劇としてのクオリティーを上げるいう手法をとっている。現代の日本人の感覚では史実をできるだけ尊重し逸脱を避ける事が好ましいと思ってしまうのだが、当時は違ったようだ。当時の観客は全部分かった上で一つのアレンジとして認めてくれる懐の深さがあったのか、それとも単に歴史の知識が乏しかったのかは分からない(中には「おかしいじゃないか」と青筋を立てた人がいたのかも)。いずれにせよ冒頭にも書いたとおり「ヘンリー6世」はシェイクスピア初期の作品。20代前半の若き作家シェイクスピア君にとって、歴史を忠実にトレースすることより、お客さんのハートをグイグイ引き付けて離さない事、それが至上命題であることは明らか。長すぎてもいけないし、短すぎてもダメ、そして明らかすぎる嘘はきっとばれる。このあたりは、小説を映画化する際の悩みと同じだろう。そして、若きシェイクスピアはそれに成功したのだ。
それにしてもこの戯曲、もし舞台で観たのなら、前述のトールボット卿親子の最後の場面など涙なしでは観られないだろう。日本人の心にもグッとくるものがある。そして物語は薔薇戦争を描く別の戯曲、 ヘンリー六世第二部 、 第三部 へと続くのであった。楽しみたのしみ。