『リチャード三世』


 シェイクスピア若き日の戯曲。1471年のテュークスベリーの戦いから、十四年後のボズワースの戦いまでのイングランドが描かれており、シェイクスピアの作品の中では「歴史劇」に分類される。先に書かれた三作品、 ヘンリー六世 第一部 第二部 第三部 に続く時代が描かれており、合わせてシェイクスピアの第一・四部作といわれるそうだ。共通の登場人物も多いので、戯曲で読むのなら4冊続けて読むのがベストだ。

 さてこの『リチャード三世』、主人公のリチャードは兄王エドワード四世の家臣、グロスター公リチャードとして登場し、本作の中ほどでイングランド王リチャード三世となる。「王様」というと威厳があって、正義、勇気、愛、信頼といった言葉が連想されるのだが、ここで描かれるリチャード三世は全く違う。正反対だ。奸謀術策、嘘と罠・・・。極悪非道の冷血漢。ずる賢く、言葉巧みに人を陥れ、ライバルの屍の上にのし上がる。「おいおいおい、そんな事考えるかよ」というような事を考え、実行して、やり遂げてしまう。「あーぁ、本当にやっちゃったよ・・・」こんな事が次から次へと続く中で、リチャードはどんどん上り詰めていく。ここまで見事な悪者ぶりはかえって気持ちがよい。

 解説によるとシェイクスピアの時代にはすでに「極悪非道の悪党」というリチャード観はできあがっていたそうだ。悪党をいかに悪党らしく描くかというのも劇作家の腕の見せ所、若きシェイクスピアはその才能を十分に発揮したのだろう。『リチャード三世』は大人気を得て、幾度も上演されたそうだ。役者はとびきりの悪者を演じ、観客は舞台上のリチャードを、身近にいる「リチャード三世のようなヤツ」に重ね合わせる。いつの世にもずる賢く立ち回りたがるヤツはいる。シェイクスピアの時代も、21世紀の現代も同じだ。

リチャード三世 (白水Uブックス (4))