『宇宙から恐怖がやってくる!』


 普通なら決して知ることのできないことを、本は教えてくれる。中には教えてくれたついでに、読者の恐怖や危機感をあおる本もある。『実は・・・なのです!あなたどうしますか?』「え!本当?どうしよう」。『実は・・・なのです!あなたこのままで良いのですか?』「え!良かぁないけど・・・」悪徳宗教やニセ健康食品の販売に似ている。昔、五島勉の『ノストラダムスの大予言』シリーズにはかなりビビらされたのだけれど、「仮にそうだとしても、どうしようもない!」と開き直るしかなかった。
 さてこの『宇宙から恐怖がやってくる!』の著者フィリップ・プレイトは天文学者。著者紹介によるとヴァージニア大学出で、NASAの研究活動の広報をも行ったという。「アポロ計画は捏造」などの陰謀論エセ科学論への鋭い反論、的確な分析にファンが多いというから、単に読者をビビらせて売上を伸ばすトンデモ本とは正反対の立場だろう。本書には小惑星や彗星の衝突、エイリアンの攻撃、ブラックホール、太陽の死など全部で9つの地球滅亡のシナリオが書かれている。ガンマ線バースト(何それ?)といったオソロシ気なモノも上げられている。各章の冒頭でその被害の様子がリアルに描かれ、その後で、それぞれの起こりうる確率やその背景を分かりやすく説明してくれる。決して読者の恐怖をあおるようなことはなく、いたって科学的。オソロシ気なタイトルだが、ひたすら面白い。

 ものすごく大きな数字のことを「天文学的」と表現するが、なるほど、天文学の本に出てくる数字は文字通り「天文学的」だ。「137プラスマイナス2億年前に宇宙は生まれた」「1個の超新星から地球5000個分の鉄がつくられる」宇宙の営みを語るには我々人間のスケールはあまりに小さい(=宇宙の話をして一般人を驚かせるのは簡単だ)。しかし著者のフィリップ・プレイトは紳士だ。「天文学的」数字に不慣れな読者のため、「10の12乗は、10の11乗よりちょっとだけ大きいように見えるが、実際は10倍も大きい」「10の20乗は10の10乗のたった2倍に見えるが、実は100億倍も大きい!」などと解説してくれたりする。一般読者がついてこられるよう、細かな気配りが随所に見られ、さり気なくちりばめられたユーモアにもホッとさせられる。このあたりが人気の秘密なのだろう。

 印象的なのは第5章でブラックホールに落下する人間について詳しくかかれているところ。また、第6章で太陽系と地球生成のプロセスについて書かれているところも興味深かった。そして何より、地球上の動物、人間、そして自分自身がものすごく小さな存在であることがよーく分かる。ここまで小さいとかえって気持ちが良く、自分を卑下する気にもならない。元来楽天的でクヨクヨしない人生を歩んできているが、この本を読んでさらに磨きがかかったかも。

宇宙から恐怖がやってくる! ~地球滅亡9つのシナリオ
作者: フィリップ・プレイト, 斉藤隆央
メーカー/出版社: 日本放送出版協会
発売日: 2010/03/24
ジャンル: 和書