小田急線連続立体事業認可処分取消事件についての若干のコメント

ついに出ましたね。 判決全文はこちらです。
一番死にそうな時期に限って重要判決が出る、というのは冬休みに勉強せいという啓示なのでしょうか(爆)いや、でも、某行政法行政訴訟法学者様*1に圧力をかけた手前、自分も何か書かねばなるまい・・・。
その、「社会的圧力」の所産のエントリは↓これです。
http://d.hatena.ne.jp/dpi/20051208/p1
とはいえ、難しいですね。以下は、雑感にとどめるべきコメントですが、自分が一読して興味を持った点を書きとめておくというのは後学のためにもよいと思いますので、学部生のぐだぐだ話としてお読みください。

原告適格という摩訶不思議

まず、そもそも原告適格というものがなぜ争いになっているのかが普通の人にはわかりにくい、という問題があると思います。ちょうど今ゼミで基本権についての独語文献*2を読んでいるのですが・・・この問題を、せめて問題意識を、法律学の経験の無い人に説明するのは至難の業です。日常的にそういう場面というのは訪れまして、一番頭を働かせないといけないのは実はバイトの休憩時間での店長との雑談だったり。店長は仕事柄さまざまなタイプの会社の方とお付き合いがあるので、こちらとしても間違ったことをいうわけにもいかないし・・・でいつも困るのです。建築確認については、多少なりとも説明はつきましたが。
ということで、以下、店長に説明を求められたらどうしようかなあ、と思いながらこの節、考えてみます。


なぜ訴えることができないのか。そのボーダーケースである本件において、上告人の中でも判断が分かれたのはなぜかを説明できないと、一般の方は納得が出来ないでしょう。この点、dpi先生のように「線が引いてあることが重要」と考えることや、条例が無かった場合はどうするのだ、というのももっともな指摘なのですが・・・。原告適格なるものがどちらの視点から考えるかによるのではないでしょうか。
不満があれば訴えることが出来るのが当たり前だ、と考えるならば、なぜ線を引くのかを説明できないといけないし、逆に皆の利益であり誰の利益でもないのだ、と考えれば、なぜ当該市民が訴えることができるのかを説明せねばならず、その中間にあるということは忘れてはいけないと思います。極限的には「調整問題」なのかもしれないのですが・・・。まだ、原告適格についての説明がつかない、というのが悔しいところ。

多数意見について

以上は法律学の素養の無い人との対話でしたが、以下はもう行政法を習ったことのある人を前提に書きます。
多数意見について。9条2項を参照し、具体的に鉄道事業のほうの原告適格を認めた点については、依存は無く、歓迎します。

補足意見・反対意見の対立〜街路事業をどう扱うの?

実は本件に対する知識が浅く、この論点には気がついてませんでした。請求はひとつではなく、鉄道事業に関するものと付属街路事業の二つ*3があったのですね。この両者での原告適格の扱いを分けたというのがこの判決のクライマックスでもあるわけです。鉄道事業についての原告適格肯定についてはもう9条2項の新設と本件の大法廷回付のときに期待されてましたから。


気がついてなかった論点だけに、下手なことはかけないので、気になった部分の引用にとどめます。(以下、強調は引用者による)

多数意見

(3) 次に,別紙上告人目録2記載の上告人らが別紙事業認可目録6記載の認可の,別紙上告人目録3記載の上告人らが別紙事業認可目録7記載の認可の,各取消しを求める原告適格を有するほかに,上記(2)の見解に立って,上告人らが本件各付属街路事業の実施により健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれのある者に当たるとして,当該事業認可の取消しを求める原告適格を有するか否かについて検討する。
 前記事実関係等によれば,本件各付属街路事業に係る付属街路は,本件鉄道事業による沿線の日照への影響を軽減することのほか,沿線地域内の交通の処理や災害時の緊急車両の通行に供すること,地域の街づくりのために役立てること等をも目的として設置されるものであるというのであり,本件各付属街路事業は,本件鉄道事業と密接な関連を有するものの,これとは別個のそれぞれ独立した都市計画事業であることは明らかであるから,上告人らの本件各付属街路事業認可の取消しを求める上記の原告適格についても,個々の事業の認可ごとにその有無を検討すべきである。
 上告人らは,別紙上告人目録2及び3記載の各上告人らがそれぞれ別紙事業認可目録6及び7記載の各認可に係る事業の事業地内の不動産につき権利を有する旨をいうほかには,本件各付属街路事業に係る個々の事業の認可によって,自己のどのような権利若しくは法律上保護された利益を侵害され,又は必然的に侵害されるおそれがあるかについて,具体的な主張をしていない。そして,本件各付属街路事業に係る付属街路が,小田急小田原線の連続立体交差化に当たり,環境に配慮して日照への影響を軽減することを主たる目的として設置されるものであることに加え,これらの付属街路の規模等に照らせば,本件各付属街路事業の事業地内の不動産につき権利を有しない上告人らについて,本件各付属街路事業が実施されることにより健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれがあると認めることはできない。
 したがって,上告人らは,別紙上告人目録2記載の上告人らが別紙事業認可目録6記載の認可の,別紙上告人目録3記載の上告人らが別紙事業認可目録7記載の認可の,各取消しを求める原告適格を有するほかに,本件各付属街路事業認可の取消しを求める原告適格を有すると解することはできない。

藤田補足意見

2 なお,本件各付属街路事業の認可につき,対象事業地についての権利を有しない上告人らには取消訴訟原告適格が認められないとする多数意見に対して,本件各付属街路事業認可は鉄道事業認可と実質上一体であるとの理由に基づく反対意見があるので,私が多数意見に賛成する理由を以下簡単に述べておきたい。
 本件各事業が,行政上のプロジェクトとして一体性を有することは反対意見の指摘するとおりであり,また,本件の場合,紛争の実態としても,鉄道事業認可に対するそれと付属街路事業に対するそれとは,後者が専ら前者の一部として展開されている意味において(すなわち,後者においては,付属街路の建設それ自体によって生じる生命健康の被害については,一切の主張立証がなされず,専ら鉄道認可事業の違法性が問題とされているにすぎない,という意味において)実質的に一体であるということができる。他方でしかし,本件における鉄道事業認可と付属街路事業認可とが法的に別物であることは,いうまでもないことである(仮に両者が文字どおり法的に一体であるとすれば,そのそれぞれに対する取消訴訟は,いわば二重起訴の関係に立つことになるのではないか,という問題も出てこよう。)。

(中略)
しかし,一般的に言えば,法的にそのような分節がなされているのは,まさに,立法者がそれを選択した結果に他ならないのであるから,仮に例外的な解釈を許すとしても,それは,国民の権利救済の必要上やむをえないことについて,真に合理的な理由がある場合に限られるものというべきであろう。ところが,本件の場合,先に見た紛争の実態に照らしても明らかであるように,上告人らにおいて,本件各付属街路事業認可の取消訴訟は,実質的に,鉄道事業認可取消訴訟に加えて,上告人らの主張する権利利益を守るための固有の意味を持つものではなく,そこで主張されていることは,鉄道事業認可取消訴訟内において,充分主張することが可能な内容なのである(因みに,本件において上告人らが主張し,また一審判決が採用した「一体論」は,専ら,本判決によって変更される当審平成11年判決の考え方,すなわち事業対象地に関する権利を有する者以外は原告適格を有しない,という考え方を前提としたとしても原告適格を認められる者,すなわち,本件の場合,付属街路事業対象地につき権利を有する者に,本件鉄道事業認可の取消訴訟についても原告適格を認めるための便法として機能すべく,考案されたものであった。・・・

今井補足意見

2 ・・・ 確かに,本件各付属街路事業の目的は上記のようなものであるから,これが本件鉄道事業に付属する事業であることは疑いがない。しかし,付属事業であるからといって,形式的に別個の行政処分であるものをその取消しを求める原告適格の面において,一体のものとして扱う必要性はなく,また,そのような取扱いをすることについては,看過しがたい問題点があると考える。
 まず,両者を一体として取り扱う必要性について,反対意見は,上告人らの環境利益を保護するためには,付属街路事業を含めた鉄道事業全体について検討をする必要があるとされる。鉄道事業が周辺の環境にどのような影響を及ぼすかを考えるに際しては,鉄道の高架による日照被害を軽減することを主たる目的として付属街路が設置されることをも考慮して行われるべきことは当然のことであって,付属街路事業認可が鉄道事業認可と一体の行政処分であるとしなければ,付属街路事業が実施されることを考慮できないということにはならない。
 次に,両者を一体として取り扱うことは次のような不都合な結果をもたらすことになる。すなわち,原告適格の面において両者を一体として取り扱うとすれば,その当然の帰結として,違法性の判断においても両者を一体として取り扱わなければならないこととなる。そうすると,両事業のいずれかに瑕疵があるときは,全体について瑕疵を帯び,全体が違法となるという結果となるものといわざるを得ないが,この結果は到底容認することができない。これを本件に即していえば,鉄道事業は一つであるが,付属街路事業は,複数存在し,本件では,そのうち,3号線から6号線まで及び9,10号線の6個の付属街路事業(この事業の行われる一番西端は祖師ヶ谷大蔵駅付近であり,一番東端は梅ヶ丘駅付近である。)につき取消しが求められている。原告適格の面で鉄道事業及び各付属街路事業を一体として取り扱うとすることは,法的には,これらの事業すべてが一体のものとして取り扱われるということであり,その結果,その違法性の判断においても一体として取り扱われなければならないこととなる。したがって,仮に係争の6個の付属街路事業認可の一つにつき何らかの違法があるとした場合に,当該事業認可を取り消すべきことは当然であるが,そのことの故に,実体的に一つの行政処分であるとされる本件鉄道事業認可及び他の付属街路事業認可もすべて違法となり,そのすべてを取り消さざるを得なくなる。この結論は,いかにも不当である。このような結果を招いてまで,両者を一体のものとする必要性はないと考える。
 これに対しては,原告適格の判断と違法性の判断(取消事由の有無)とは別個に考えてはどうかという見解,すなわち原告適格について一体的に判断するとしつつ,違法性の判断については一体でなくてもよいとする見解もあり得ないではない。これは,本件各認可が実体的には一体ではないことを認めつつ,原告適格の判断においてのみ一体として取り扱おうとするものである。しかし,原告適格は,行政処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者に認められるのであるから,両者を切り離して考えることは相当でないというべきである。
 3 また,反対意見は,本件鉄道事業認可と付属街路事業認可とが別個独立の行政処分であるとすれば,付属街路事業認可の違法事由として,鉄道事業認可の違法性を主張することはできないとされるが,そのようなことはない。付属街路事業は,鉄道事業が実施されることを前提として,それに伴う日照被害等の軽減を図ることを主たる目的として実施されるものであるから,前提たる鉄道事業が違法で実施できないものであるとすれば,それを前提とする付属街路事業もその前提を欠くこととなる結果,違法となることもあり得るのであるから,両事業の認可を一体の処分と解しなくても,付属街路事業認可の違法事由として鉄道事業認可の違法を主張することができる場合もあり得ると解すべきである(これに対して,鉄道事業と付属街路事業とは,いわば主従の関係にあるのであるから,主たる事業である鉄道事業認可の違法事由として,従たる事業である付属街路事業認可の違法事由を主張することはできないと解すべきである。)。
 なお,反対意見は,上告人らに本件各付属街路事業認可取消の原告適格を認めないと,仮に上告人らが本件鉄道事業認可の取消請求訴訟に勝訴しても,取消判決の拘束力は本件各付属事業認可には及ばないから,連続立体交差化事業の計画内容全体の見直しを得ることができないとされる。しかし,付属街路事業が鉄道事業と上記のような関係にあることを考えると,付属街路事業認可の重要な前提である鉄道事業認可が取り消された場合には,付属街路事業を認可した行政庁において,その事実を踏まえて,付属街路事業について適切な判断がされることになるのであって,反対意見の懸念は当たらないと考える。

反対意見

私たちは,別紙上告人目録1ないし3記載の上告人ら(以下「上告人ら」という。)は,本件各付属街路事業認可の全部について,その取消しを求める原告適格を有すると考える。その理由は,次のとおりである。
 1 原判決の認定及び本件記録によると,次の事実が認められる。
 (1)ア 建設省運輸省との間で昭和44年9月1日に締結し平成4年3月31日に改正した「都市における道路と鉄道との連続立体交差化に関する協定」(以下「建運協定」という。)は,都市における道路と鉄道との連続立体交差化に関し,事業の施行方法,費用負担方法,その他必要な事項を定めることにより連続立体交差化を促進し,もって都市交通の安全化と円滑化を図り,都市の健全な発展に寄与することを目的として,① 建設大臣又は都道府県知事は都市計画法の定めるところにより,連続立体交差化に関する都市計画を定めること,② 都市計画決定された連続立体交差化に関する事業(以下「連続立体交差化事業」という。)は都市計画事業として都道府県又は政令指定都市が施行すること,③ 連続立体交差化事業費である高架施設費等は鉄道事業者と都市計画事業施行者とがこの協定の定めるところにより負担すること,④ 運輸省及び建設省は連続立体交差化事業が円滑に実施されるよう鉄道事業者及び都市計画事業施行者を指導すること,⑤ この協定を円滑に運用するため,運輸省及び建設省の職員で構成する連続立体交差化協議会を設けることなどを定めている。

2 上記1に掲げた事実からすれば,本件各付属街路事業は,本件鉄道事業による小田急小田原線の高架化に伴い沿線の住居に日照阻害が生じることに対応し,建築基準法及び「東京都日影による中高層建築物の高さの制限に関する条例」に準じ,等時間日影線が規制値を満足しないところについて環境空間(環境側道)を設けることを主たる目的とするものであって,本件鉄道事業を環境保全の面で支える性質を有し,建運協定の連続立体交差化事業の一部を構成するものであることが明らかである。そして,本件各付属街路事業は,東京都が事実上本件鉄道事業に併せて行うというものではなく,東京都が,本件鉄道事業の事業者の立場で,本件条例により作成を義務付けられた環境影響評価書に,環境の保全のための措置として,環境空間としての鉄道付属街路を設けると記載したことに由来する事業である。都市計画法59条1項の規定からすれば,本件各付属街路事業は,本来,世田谷区が施行すべきものであるが,東京都が上記の環境影響評価書において本件鉄道事業の事業者の立場で自ら施行すると記載したものであり,また,建運協定で都道府県又は政令指定都市が行うとされている連続立体交差化事業の一部を構成するものであるところから,同条2項の「特別な事情がある場合」として,東京都が都市計画事業認可を申請したものであり,建設大臣も,本件鉄道事業と本件各付属街路事業とが共に建運協定の連続立体交差化事業を構成するものとして,東京都に対し都市計画事業認可を与えたものである。建運協定自体は,行政機関内部における取決めにすぎないにしても,連続立体交差化事業に関する行政指針をなすものであり,東京都の前記都市計画事業認可申請書が示すとおり,本件鉄道事業認可と本件各付属街路事業認可という都市計画法に基づき建設大臣が行った行政処分の内容として組み込まれ,両者の行政処分を一体のものとして結合させているのである。そうすると,本件鉄道事業認可と本件各付属街路事業認可とは,形式はともあれ,実体的には一体の行政処分であるというべきである。

4・・・上告人らに対し,本件鉄道事業認可の取消しを求める原告適格のみを認め,本件各付属街路事業認可については原告適格を認めないとすると,仮に上告人らが前者の取消請求訴訟に勝訴しても,取消判決の行政庁に対する拘束力は本件各付属街路事業認可には及ばないから,連続立体交差化事業の計画内容全体の見直しを得ることができないのである。上告人らが,上記事業計画全体を見直して,上告人らに被害を生じさせないよう求めている以上,本件各付属街路事業認可についても,その取消しを求める利益を認めるべきである。本件鉄道事業認可と本件各付属街路事業認可とは,形式的に見れば別個独立の行政処分ではあるが,その実体的な一体性から,上告人らが両認可の取消しを求めている本件においては,これを許さないとする理由はないといわなければならない
 5 なお,原判決は,本件鉄道事業認可と別紙事業認可目録6及び7記載の付属街路の事業認可とが別個独立の処分であるとしているが,そうであるとすれば,上記付属街路の事業認可の違法事由として本件鉄道事業認可の違法性を主張することができず,上記付属街路の事業認可自体に固有の違法事由が存する旨の主張のない本件においては,上記付属街路に係る事業認可の取消請求は棄却を免れないことになるはずである。しかし,原判決は,上記付属街路に係る都市計画は本件鉄道事業に係る都市計画において,小田急小田原線の高架化が図られることを前提に,環境に配慮し「東京都日影による中高層建築物の高さの制限に関する条例」に準じて環境側道を設置することを主たる目的として定められたものであり,本件鉄道事業に係る都市計画決定が違法で,同都市計画決定に基づき都市計画事業を実施することができないものであれば,側道設置の必要性もなくなり,上記付属街路に係る都市計画決定もその必要性を欠くものとして違法となり,その結果,同決定を基礎とする上記付属街路の事業認可も違法になるという。これは,本件各付属街路事業認可が本件鉄道事業認可に依存する処分であって,両者が実体的適法要件を共通にすることを認めたものにほかならない。そうだとすれば,前記のとおり,本件鉄道事業の事業地の周辺住民に対し,本件各付属街路事業認可の取消しを求める原告適格も認める方が,論理が一貫すると考える。


さて、訴訟物は?民訴142条との関係は?そして、「一体説」の可能性は?悩みが尽きません。このままだと眠れなくなるので、以上で終わり。

*1:どうして自ら対象を狭めるのですか、と小一時間問い詰めたい気分だけれどもそんな気力も時間もないorz

*2:ここでは、「国家」に対して請求する権利の根源を教会法学からたどる旅をしています

*3:街路事業は複数である点注意