名大SF研記録ブログ

名古屋大学SF・ミステリ・幻想小説研究会

名大祭

たぶんこのブログのカウンターを回してくれているのはほとんど名大SF研の会員か準会員みたいな人なので宣伝にどれほどの効果があるかはわかりませんが一応。ちらちら漏らしてますが、51stの名大祭にSF研も参加します。日にちは6/4,5,6で、時間は朝10時から夕方6時まで。ただし最終日は片付けの関係もあって終了時刻が夕方4時なので見に来てくれるつもりの人は注意してください。場所は全学教育棟A館三階A-33教室です。大学西側の小さな入り口から入ってすぐ右手にある建物がA館で、階段をえっちらおっちら登って三階すぐ右の教室がそうです。企画内容は”早川書房出版の「SFが読みたい!」2010年度版にて発表されたゼロ年代SFベスト30のうち、国内・海外それぞれ1位から10位までの作品のレビューを行います。会報の販売も予定しています。”って感じで、ちなみに十位までってのは
国内
1. 虐殺器官伊藤計劃
2. グラン・ヴァカンス 廃園の天使I/飛浩隆
3. マルドゥック・スクランブル冲方丁
4. Self-Reference ENGINE円城塔
5. ラギッド・ガール 廃園の天使II/飛浩隆
6. アラビアの夜の種族/古川日出男
7. 太陽の簒奪者/野尻抱介
8. 永遠の森 博物館惑星/菅浩江
9. 象られた力/飛浩隆
10. 新世界より貴志祐介
海外
1. あなたの人生の物語テッド・チャン
2. 万物理論グレッグ・イーガン
3. しあわせの理由/グレッグ・イーガン
4. 双生児/クリストファー・プリースト
5. 時間封鎖/ロバート・チャールズ・ウィルスン
6. ディアスポラグレッグ・イーガン
7. デス博士の島その他の物語/ジーン・ウルフ
8. 20世紀SF/中村融山岸真:編
9. 奇術師/クリストファー・プリースト
10. ダイヤモンド・エイジ/ニール・スティーヴンスン
というラインナップなのです。今年は飲食店も復活してるので、名大祭いってみようかなーという人は足を運んでくれるとうれしいです。ついたての奥でボドゲに熱中しているダメ会員の姿が見れると思います。誰得ですが。まぁ近所の人よろしくです。もちろん遠くから来て参加してやろうというツワモノも歓迎します。

天涯の砦(小川一水)

天涯の砦 (ハヤカワ文庫JA)

天涯の砦 (ハヤカワ文庫JA)

私の小川一水3冊目。三冊の中ではもっとも人に勧めやすい作品。まずなんといっても完成度が高い。慣れてきた頃にやらかしてしまう人間っぽさと周囲の環境の重要さが身に染みる。キャラクターの立ち位置がはっきりと異なっているため『復活の地』にみられた群像劇としてのおもしろさにもさらに磨きがかかっている。分量も適度で、満足感と物足りなさが交じり合う絶妙なポイントで読み終えることが出来る。しかし今回は男女ともに「こいつはものすごく好きだ」というキャラクターはいなかった。とくに若いやつらのウザさときたら!作者の世代には一部の若者はこんな感じで映っているのかなぁ。まぁちゃんと成長してくれたので文句はないのだけれども。では概要を。

軌道ステーション“望天”で起こった破滅的な大事故。その残骸と月往還船からなる構造体は、無数の死体とともに漂流を始める。だが、隔離された気密区画には数名の生存者がいた。空気ダクトによる声だけの接触を通じて生存への道を探る彼らであったが、やがて構造体は大気圏内への突入軌道にあることが判明する…。真空との絶望的な闘いの果てに待ち受けているものとは?―小川一水作品史上、最も苛酷なサバイバル。(「BOOK」データベースより)


たぶん設定において最も大事な点は物資から完全に隔離されたサバイバル状態にある、というところ。極限状態でも人間は正しく生きられるのか。希望が見え隠れしハラハラする展開も楽しめると思う。難解で読みにくい類の本ではないので普通に良作が読みたい人は手を出すといいかと。

あなたのための物語(長谷敏司)

あなたのための物語 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)

あなたのための物語 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)

オバサンが死ぬ話。いってしまえばそれだけだ。ただ、"死ぬ"とはそれだけのことだろうか。簡単に片付けてしまっていいのだろうか。本作はその部分に果敢に挑んだ作品である。データとして自分の複製が残せれば死んだことにはならない?どうせ死ぬのならばなにをしても構わない?未来のことを考えて行動すべき?
脳科学や意識という問題を扱っている点や発行年のせいで『ハーモニー』と比較してみたくなるが『あなたのための物語』は徹底して個人に焦点をあてた作品である。一人の人間が世界の趨勢どころか周囲の人間にすらたいした影響を与えられないところが非常にリアルだった。世界の問題は個人に帰着されない。それが普通である。意識の入れ物としての肉体(感覚)を重要視しているところにも好感が持てた。わたしには『ハーモニー』は面白かったがどこか納得できない部分が残っていたのだが、本作は腑に落ちた、まさにそんな感じだった。そして主人公のおかあさんがいい人すぎて泣ける。肉迫する、そんな表現がふさわしいリアリティに他の欠点は見えなくなった。一歩引いて物語を眺めてしまう人に強くはオススメしないが、本にどっぷり浸かって読むタイプの人にはぜひ読んでほしい。(まつの)