わすれなぐさの香り(8/100)

数日前、BSで木下恵介の『女の園』をやっていて、なんとなーく最後まで観てしまった。京都(?)の女子大を舞台に、封建的な教育を押し付ける教師と、それに反発し苦しむ生徒(岸恵子高峰秀子など)の対立などが描かれていた。寄宿舎の門限を破っただけでお寺送りになるって……時代を感じた。「あなたはアカ*1なのですか」という台詞にも。
観終わった後、女学校を舞台にした吉屋信子少女小説を思わず一気読み。読了日は1/5。

わすれなぐさ (吉屋信子乙女小説コレクション)

わすれなぐさ (吉屋信子乙女小説コレクション)

お金持ちのお嬢様で「軟派」の陽子、真面目で勉強好きな「硬派」の一枝、軟派にも硬派にも属さずマイペースな牧子。クラスの女王様的存在の陽子に思いがけず好かれながら、一枝のつつましさにも心を動かされる牧子の葛藤が、繊細な文章で描かれる。

3人の容姿や人物像が細かく書き込まれており、しかもそれぞれに魅力的(一枝は若干添え物っぽい感じかな)。ストーリー展開や心理描写も実に巧み。陽子の愛用するわすれなぐさの香水の芳香が、キーポイントとしてたびたび登場するのも素敵。
男尊女卑で娘をないがしろにする父親、それに密かに反発する牧子に、当時の女性が置かれていた境遇に対する作者の不満が見え隠れしている感じを受けた。
それにしても陽子、14歳くらいなのに、コティの口紅をつけて運転手付きの車でショッピング、横浜の舶来洋品店でドレスを誂え、ホテルニューグランドのグリルでお食事って……しかも大人抜き。ませてるなー。同世代の登場人物がこういうモダンな行動を取る描写に、昭和7年*2当時の読者は夢と憧れを掻き立てられたのではないかなーと思った。

嶽本野ばら氏の熱意あふるる細かい注釈がつけられているけれど、これはまず本文を一気に読んだ後、照らし合わせる形で目を通すのがいいと思う。注釈がないと理解できないほど難しいことは書かれていないし、ちょっとくだけすぎかな、って感じもするので(勿論、読書に親しんでいない女の子にも理解できるよう、野ばら氏が心を砕いているのが伝わってくるので、これはこれでgood。宝塚少女歌劇の部分は若干間違いがあったけど、よくこれだけ調べたな〜とびっくり)。


中原淳一のイラストを使った装丁も美しい。図書館で借りた本だけど、自分でも手元に置いておきたい。

*1:共産党

*2:1932年