読書:『中国経済史入門』

中国経済史入門

中国経済史入門

 中国民衆の大半は個人所得税を払っていない。そういうと、日本人は皆びっくりし、中国人は日本人がびっくりすることに対し、びっくりする。実際、21世紀初頭の現在、日本の国税収入のなかで所得税は約30%を占めるのに対し、中国は約7%程度にすぎない。全国民1人当たりの負担額を単純平均で求めれば、日本人が払っている所得税額は年間11万9277円、中国人は年間2868円である(いずれも2005−07年の平均)。なぜ、そのような違いが生まれるのか。その背後には両国財政の歴史的な相異が横たわっている。(第11章 財政史、p.127)

 「今の中国って社会主義なんですか」という質問をしばしば受ける。
 現在の中国が社会主義なのかどうかは、なかなか答えるのが難しい問題である。中国政府自身は、自国の経済体制を「社会主義市場経済」と規定しており、社会主義であるという立場を堅持している。しかし、当の本人が「私は○×である」と言っているからといって、そうか○×なのかと信じてしまっては科学的な態度とはいえない。そもそも社会主義とはどのような概念であり、それが現在の中国に当てはまるほかどうかという点から考えるのが筋であろう。
 ただし困ったことに、社会主義の定義についてもいろいろな意見があり、統一した見解がない。社会主義という概念の使われ方を見ても、それがカバーする範囲は非常に広く、ある時は社会変革の思想を指し、またある時は経済運営のシステムを意味する。こうした社会主義概念の多様性が、「中国は社会主義か」という問題を難しくしていることは明らかである。概念自体があいまいであれば、対象がそれに該当するか否かの判断がおぼつかないのは当然であろう。(第15章 計画経済期の経済史、p.175)


この間の『近代中国研究入門』が、心構えをとくならば、こちらは、具体的に何を読むべきかがガッチリ書かれています。出版社は一緒ですが、あんまり面子もかぶっていないですね。面白い。

別に経済じゃなくても、中国関連のことをやるなら、読んどいたほうがいいんじゃないですかねえ。引用書もそれぞれ内容紹介があるので、いちいち元を見なくても、だいたいこんなもんか、というのが分かります。

ともかく、これくらいの具体的な話がなくて、なんかあいまいな感じでイメージだけで「中国」を語るのはとにかくイカン。
「西洋」でも「日本」でも、「カンボジア」でも「アフリカ」でも、国や地域の名前だけで、何かを語るのはそれだけでホント間抜けであるということを痛感しますな。「それはいつのどこの話よ?」と。秘密のケンミンSHOWじゃないんだからね。自分も気を付けよう…。

ところで、読んでて面白いなあ、と感じたのは臺灣が、日本と同じように「中国」の外部から「中国」を見ている存在であるかのように思えたことです(つまり本書の「中国」は中華人民共和国とニアリーイコールっぽいということ)。臺灣の研究はたくさん引いてあるんだけど、19世紀後半から20世紀の臺灣そのものについてはあまり触れてないんですね(香港は言及アリ)。まあ、「臺灣は中国の隣の、よその国でしょ?」といわれりゃその通りなんですけど。
上海研究はたくさんあるんで、そこに香港と台湾(あとシンガポール)をどういう風に組み込んで考えるかって、金の流れ的には結構重要なんだと思うんだけど、資料多すぎて難しいんですかね…。