被害者と周囲の人に対してどう対応すればいいのでしょうか?

 
 被害後の支援については、非常に情報が少ないですが、知りえるものをあげておきます。


 1)まず、事件や事故などについてのできるだけ正確な情報を得ておくことが大切です。被害を受けた後で起こりえる事柄、心身への影響、相談機関の連絡先や援助体制などについても必要に応じて情報を得ておいて下さい。地元の警察や自治体の専門相談窓口を利用することもひとつの方法です。法的な措置が考えられる場合には、弁護士会の相談窓口へ問い合わせるなどの対応を取って下さい。

 2)それまでに経験した事のない出来事を体験した後には、急に具合が悪くなるのは当然のことです。気持ちや記憶の整理がつくまでは、様々な心身の反応を示すことがあります。まず安心して休息を取ることのできる環境を整えて下さい。また、事件による被害であれば、可能な限り再被害を予防するため「安全の確保」が優先されます。

 3)回復の早さは人によりそれぞれ違います。不安や落ち込みが長引くと「自分が弱いからではないか」と思う人もいます。そんなときに周りが、「終わったことだからいつまでもくよくよしないで」「しっかりしないとどうするの」などと励ますと、思うように良くならない事への焦りや自分を責める気持ちが強くなってしまいます。回復に時期があることと、焦らずに自分のペースいいのだということを伝えて下さい。

 4)眠れない(寝付きが悪い、途中で目が覚める、朝早く目が覚める)、食欲がない、集中できない、など身体や気持ちへの影響が強いときには、お薬の助けを借りることも回復を早めます。そのような時には、早めに医療機関で診察を受けるように助言して下さい。

 5)被害を受けた人、あるいは周囲の人が出来事の後すぐに自分から専門機関へ相談できないのが普通です。もし、身近な人が最初に相談を受けたときには、話をするだけでも非常に大変な状態であることを少し理解した上で話を聞いて下さい。相手が安心して話したいことを話せるように配慮して下さい。

 6)被害者や周囲の人たちが、できる限り日常生活を保てるように助けて下さい。ショックを受けた後しばらくの間は、いままでのように働くことは難しいと感じながら、かろうじて生活している人は多いです。花の水やり、犬の散歩など小さな事でもいいので自分にできることがあれば、相手が落ち着きを取りもどすまで必要だとおもう援助をしてあげて下さい。

 7)被害者や周囲の人たちの話を聞いたり、できる援助を行うことは、少なからず援助する側にも何らかの影響を与えます。自分の生活も整え、また必要であれば信頼し話のできる人を持っておくことが大切です。
  
参考文献:小西聖子 トラウマの心理学:心の傷と向き合う方法、NHKライブラリ
     三重県こころの健康センター 「こころのケア」ハンドブック



学校における緊急介入の概要

 1.事件・事故についての説明や告知
  通常事故・事件については、学校では学校長や担任から児童や保護者に対し説明がある場合がほとんどである。また、保護者や関係者から児童へ知らされることもある。
 
 2.学校への専門家の派遣
  学校や自治体の方針により、介入までの手順や内容は異なるが、精神科医臨床心理士などからなるチームで対応することが多い。

 3.集団・個別の支援
  学校内で児童に対しては、基本的にはクラスまたは学年単位で、担任の教師あるいは学年の担当教師が対応する。クラスでHRなどを利用し話し合いを行う、文章を書く、(低学年の場合などで)絵やその他の芸術的な方法で表現する、などいくつかの方法がある。いずれも長所短所をふまえ、児童の負担にならないように配慮する。

  専門家チームは、集団への支援について主に担当教師のサポーターの役割を負う。特に個別の対応が必要な場合も、担任やその他の学校スタッフとの連携のもとで行う。専門家チームは、特に事件・事故の影響について、アセスメントを行い、その結果に基づき、学校スタッフへの個別のサポートやメモリアル(記念の式典)などの学校のその後の対応についての相談に応じる。

 4.メディア対策
  出来事そのものに加え、児童、保護者、学校スタッフへの影響を考慮したメディアへの対応を検討する。

 5.フォローアップ
  担当教師および専門家チームは、その後の経過について定期的にアセスメントとフォローアップを行う。(最低でも6ヶ月〜1年は必要)


 引用文献:A.R. Roberts; Crisis Intervention Handbook:Asessment, Treatment, And Research (2nd ed.). Oxford University Press, 2000

学校における事件・事故がもたらす影響

 
 学校において、事件や事故が起こった場合に、被害者やその周囲の人々がその後どのような影響を受けるかについては、その出来事の起こった状況や被害の程度、出来事後の周囲の対応などにより異なるため、予測は困難である。しかし特に被害者が死亡した場合、被害者の周囲で事故や事件を目撃した場合、また被害者と親しい関係にある場合には、児童並びに他の関係者におおよそ次のような問題が起こる可能性を考慮する。

 +出来事直後から、強い不安感、恐怖感あるいは無力感が出現する
 +(子供の場合)怒りやイライラなどの感情の爆発や多動などの問題行動が見られる
 +過呼吸などのパニック発作、頭痛・腹痛や嘔吐などの身体的なストレス反応が起こる
 +出来事が頭から離れない、繰り返し思い出す、悪夢を見る
 +集中力、物事への興味がなくなる、ぼんやりして何も手に着かない
 +眠れない(まれに眠りすぎる)、食欲がなくなる、物忘れがひどくなる、など
 +(集団の事故や事件の場合)生き残ったことへの罪悪感、自責感が出現する

 出来事の後、数日以内に上記のような急性ストレス反応(ASD)が起こることがあるが、多くはいったんピークを過ぎた後、時間の経過と共に次第に回復する。しかし、このような症状が1ヶ月以上続くと、心的外傷後ストレス障害(PTSD)と診断される。

 まれに、出来事の後しばらくは特に問題なく過ごしていた人が、数ヶ月〜数年後に、上記のような症状を現すこともある。(遅発性PTSD

 出来事の後、ストレス反応を示す可能性を高める要因としては、次のようなものが考えられる

 -被害者と性格、興味、特徴に共通点がある場合(強い不安や恐怖反応が起こりやすい)
 -事件・事故と直接関係ない別の問題行動や学校での問題を抱える場合
 -出来事に対して極端な悲嘆反応を示す、あるいは逆にほとんど反応を示さない場合
 -以前に別の事故・事件の被害者であった場合
 -家族を始めとする人間関係の問題、健康問題、あるいは精神的な疾患を持つ場合

 

同じ日に2つの悲しい出来事

 兵庫で小5女児が転落し死亡…「自殺」ほのめかすメモ(読売)

 
1日午前8時半ごろ、兵庫県加古川市内のマンション(15階建て)から小学5年の女児(11)が転落したのを下の通路にいた母親(40)が見つけた。女児は通路にあおむけに倒れており、病院に運ばれたが、全身を強く打っており、間もなく死亡した。

 加古川署の調べによると、女児は同日午前8時ごろ、マンションの自宅を出た後、13階と14階の間にある階段踊り場の手すり(高さ約1メートル)を乗り越えた。

 白色のポロシャツに紺色スカートの学校の制服姿だった。ランドセルは自宅玄関に置いてあった。通路にいた母親は「やめなさい」などと叫んでいたという。踊り場には乗り越えた跡があり、自宅には自殺をほのめかすメモがあったという。女児が通う小学校によると、女児は長期欠席や、校内でのいじめなどはなかったという。

 小6女児、同級生に切られ死亡 長崎・佐世保(毎日)
1日午後0時45分ごろ、長崎県佐世保市東大久保町の市立大久保小学校(出崎睿子校長、児童数187人)から「6年生の女児が血を流している」と110番通報があった。同署員と消防署員が駆けつけたところ、女児が首などを切られ、既に死亡していた。同級生の別の女児がカッターナイフで切ったとみられ、佐世保署は殺人事件として加害女児の身柄を確保した。

 死亡したのは、同市天満町、毎日新聞佐世保支局長、御手洗恭二さん(45)の長女で、6年生の怜美(さとみ)さん(12)。校舎3階の教室で倒れていたという。学校関係者によると、体中に傷があったという。

 同市教委によると、事件当時は給食が終わった後の昼休み時間中で、現場となった教室は「学習ルーム」と呼ばれ、普段の授業ではなく、少人数を対象にした授業で使っていたという。

このような不幸な事件や事故のあと、子供たちにも、また親や教師にも様々な心理的・身体的な影響が出る可能性が高いです。早期の対応が望まれます。

 自治体によっては、地元精神科医臨床心理士などによる緊急介入(Crisis Intervention)が行われることがあります。大抵はチームでの対応ですが、特に心理的な影響が大きい人へは個別の対応をすることがあります。

 とにかく、同日に小学校の子供たちが巻き込まれる大きな事件があったのは、非常に残念な事です。

*Silent Voices Professional Editionの誕生

 ココログにSlient Voicesを登録して早くも6ヶ月になりました。最初はちょっとのつもりで始めたブログも、そのうちやりたいことや書きたい記事などが出てきて、いつの間にか記事数も100を越えるまでになりました。

 ココログは手軽ですぐに取りかかれる利点があるのですが、心理学について紹介する時に、どんなに頑張っても専門用語を抜きにすることができないので、分かりやすく書くのも限界があり、何か用語集のようなものを作るか、あるいは挫折して途中で投げ出したHPをもう一度作り直して、そこに専門用語集のようなものを作ろうかとしばらく考えていました。

 そんなときに、はてなダイアリーの存在を知り、「これだ」と思いました。

 Slient Voicesはこのまま更新を続けていきますが、その中の記事に出てくる専門用語の意味や、いろんなこころの病気や問題の診断基準など専門的な情報は、こちらに記事を順次追加していきながらリンクを使ってより分かりやすくしたいと思います。そのことで、ココログでできなかったことを補えるだろうと思います。

 …ということで、とりあえずできることから少しずつ始めようと考えています。こちらのブログもよろしくお願いします。

 Slient Voices http://sana0329.cocolog-nifty.com/silent_voices/