PAMELA bares all

http://physicsworld.com/cws/article/news/36534

2006年6月15日にロシアのロケット”ソユーズ”と共に打ち上げられ、2009年12月まで観測予定の宇宙放射観測衛星PAMELA(Payload for Antimatter Matter Exploration and Light-nuclei Astrophysics)の観測結果の全体像がようやく明らかにされたという記事。この衛星、イタリア・ロシア・ドイツ・スウェーデンが共同開発した広範囲の粒子(電子・陽電子)のエネルギー分布を測定可能な特殊装置を搭載した観測衛星で、ターゲットは主に素粒子物理や宇宙物理で広く話題になっている、宇宙の物質構成の25%を占めると目されてる暗黒物質ダークマター)の間接的証拠を得ること。これまでは銀河内の恒星軌道と電波観測のギャップから、どうも光では捉えられないダークマターなるものが銀河周辺を取り巻いているらしいということは言われてきたんだけど、PAMELAのような衛星を用いて粒子測定をする本格的観測は初めてということで、かなりの期待が持たれている。それで、最近になって信頼性の高いダークマターの存在の兆候が見れたかも知れないという噂が巷で広がっていただけに、専門家はその詳細を心待ちにしていた結果発表だった。
じつはこの論文発表以前の8月にフィラデルフィアで行われた高エネルギー物理学国際会議(ICHEP)で準備段階の結果が報告されていたらしいんだけど、英国物理学誌『ネイチャー』に投稿予定なため、そのポリシーによりプレスリリースは論文発表後(arXive)ということで一般には内緒にしていた。だけど、その会議の出席者が発表スライドを写真に撮り、それをBlogに載せちゃったもんだから、結構揉め事に発展したみたいだ。下手すればネイチャー投稿のポリシーに違反することにもなりかねないし、それにこういった国際会議の発表資料は内容を精査していないものが多いため、解析が不十分だったり人為的ミスがあったりで結果が180度変わることはよくあること。しかもそれが注目されている内容であればなおさら慎重にならないと、信頼に傷が付きかねない(発表を急いだため後で不名誉なレッテルを貼られた例はいくらでもある。これは実験屋の場合なんだけどね。)から、この手のことには誰もがナーバスなんだ。

発表した内容は、銀河中心から来る陽電子のエネルギー分布を数MeVから80GeVの広範囲で測ってみたところ、非常に高精度の結果が得られ、かつ分布が理論的予想から統計的に優位にずれていたということ。その起因として考えられる可能性の一つにダークマター同士の対消滅で生成されるというモデルもありえるかもということなんだけど、そのほかにも例えば近くのパルサー(超高速回転する中性子星)の磁気圏から発生したものかもしれないし、太陽活動の影響(低エネルギー領域)もあるということで、まあはっきりしたことはよく分かっていない。もしかしたら、陽子と陽電子を取り違えて観測している可能性もないことはない(1/100,000の頻度であり得る。非常に小さいように思えるが、実は陽子は周囲に幾らでも飛び交っているので、確率的には決して低くない。)らしいが、その関連の系統誤差は十分予想できているので、極力排除するための装置は施してあり、無視できるほど小さいと自信を見せている。まだあと1年稼動予定なので、200GeVまで広げて観測したいとのこと。その間にも常時情報は提供して解析を進めて考えられる可能性を一つ一つ潰していくんでしょう。勿論、別の観測とも照らし合わせながら。その結果、ダークマターであることに確信がもてることに繋がればかなり強力な証拠となると思う。それまでは宇宙物理屋のお仕事。