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咢が王様なパラレル小説です。 1 2



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 指定された待ち合わせ場所は、亜紀人のアパートから電車で三十分ほどの場所ー『上野』という駅だった。
 この日の為にガイドブックを何冊も購入し、一人で電車やバスに乗る練習を重ねた亜紀人は、強ばった表情で、初対面の王様を待っていた。所謂接待とは言え、正装では遊ぶのに適していないだろうから、白いシャツの中にきれいな色のタンクトップ、カーゴハーフパンツ、ワンショルダーの軽装だ。王が来るまでにと、通販で布団やパジャマも買ったし、光ケーブルも繋いでエアコンも設置した。準備万端だ。完全に自力で用意できたわけではない、が、自立するにはちょうど良い訓練かも知れない。
(日本語は大丈夫だって言ってたよね?ヘンに目立つのも良くないし、会話は基本的に日本語にしよう。どこに案内すれば喜ぶのかな?食べ物は、好き嫌いはないかな?うう、緊張するな〜動物園でパンダ見せてあげたかったけど、人多過ぎだよ…これが、夏休み、かァ。みんな、楽しそうだな…)
 本当の事を言うと、パンダは自分が見たかった。前に上野動物園を訪問した時は、パンダが居ない時期だったのだ。
 パンダは残念だが、上野には大きな博物館や美術館もあるので、王様にはその辺りを案内するのが良いかも知れない。きっと、学問好きな人だろうから。
(ずっと隠れてた間、きっと勉強ばかりしてたんだよね。僕、なんだかんだで遊ぶ時間もいっぱい貰ってたからな…)
 仕事のうちとはいえ、日本の色々な場所を観光する機会にも恵まれていた。特に、京都は素晴らしかった。
(時間はいっぱいあるし、京都もいいよね。新幹線、ちゃんと乗れるかな?うわー、ワクワクしてきた!)
 色んな楽しい事を想像して、一人にやつく亜紀人を、少し離れた場所から一人の少年が眺めていた。真夏だというのに頭のてっぺんからくるぶし丈まで真っ黒、足下のローラーブレードのみが目に鮮やかな赤。シックさと奇抜さを兼ね備えた謎のカラーリングに加え、何とも言えないオーラを漂わせている。
 駅構内でブレードとは駅員に注意されそうなものだが、これは、今流行のA・Tという高性能電動スケートである。ロックをかけている時は、普通の靴と同じように歩行する事が可能だ。流行と言っても、スポーツ用品としてはかなり高級な代物で、庶民にはなかなか手が出せない。駅を行き交う子供から大人までが、羨ましそうに彼の足下をチラチラ眺めていた。
 時計の針が動く、きっかり約束の時刻だ。少年は、大股で歩き出した。
 
 
(お昼は公園でサンドイッチでも食べようかと思ったけど、暑すぎるかな。熱中症とかにさせちゃったら一大事だしなァ。僕も暑いの苦手だし…そうだ、ハンバーガー!ファーストフード、何度かこっそりメイドさんが買ってきてくれたのを食べた事があるだけだけど、アレ美味しいんだよね!そうしようかな、何軒もありそうだし…って、)
「…って、痛ッ!?」
 誰かに頭を叩かれて、亜紀人ははっと我に返った。慌てて周囲を見回す。
「こっちだ、ハゲ」
 呼ばれた斜め後ろの方を見ると、そこには自分より少し背の高い、自分と同じ顔の黒づくめの少年が立っていた。
「え…」
 亜紀人は混乱した。
(不良?どうしよう、カツアゲってやつ!?て言うか、同じ顔、まさか、僕のおにいさ…)
「ボケーッとアホ面晒しやがって、それでも“俺”か?」
「……あ……」
 まさか。まさかまさか。
 ーひと目で分かりますよ、Mr.SANOにはそう言われていた。この世にたった一人、自分と同じ顔の人間がいる。その人は。
「もしかして…王?」
「ウゼぇからその呼び方はヤメろ、反吐が出るぜ」
「………」
 自分より背が高いと思ったのは、A・Tを履いていたからだ。あまり上手くないが、亜紀人も持っている。良かった、取り敢えずひとつ趣味が合った。
 いや、そんな事より。
「えええぇぇぇ!?」
「でけェ声出すんじゃねーよ、ファック!」
「そっちの方が大きいよ!」