インセプション

 予告での、町が奥からめくれあがって上下が完全に逆転するシーンで、完全に心を鷲掴みにされた映画、「インセプション」。絶対に見に行く! と決めておりました。「inception」を辞書を引くと「始まり」や「発端」という意味。しかし、この映画はどこから始まるのか分かりません。そもそも、何が現実で何が夢なのかわからないのですから。

 コブ(レオナルド・ディカプリオ)はターゲットの夢の中に侵入し、「アイデア」を盗み出す産業スパイ。人の精神の中に入り込むと聞くと、サイコダイバー(←引き合いに出してるが未読w)とか、ジェニファー・ロペスが主役張ってた「ザ・セル」が思い浮かびます。

 新幹線に乗るターゲット・サイトー(渡辺謙)を眠らせて、さっそく侵入するものの、邪魔が入って失敗。しかし、逆にサイトーから依頼を受ける事になります。巨大化したライバル会社の勢いをそぐため、その会社の社長の息子・ロバートに「組織を解体する」というアイデアを植え付けろと――。

 一度は断るコブですが、彼は妻殺しの容疑をかけられていて故郷に帰れない身。家族に会わせてやるとサイトーに約束されて、コブは依頼を受ける事に。
(以下、ラストのネタバレあり)


 夢は多重階層になっており、深く潜れば潜るほど危険度も増します。夢から目覚めるためには、その世界での「体」をキックしなくてはならないのですが、ロバートは潜在意識の防御の訓練を受けていたために、一筋縄では行きません。ピンチに次ぐピンチで、ミッションの成功の可否よりも、メンバー全員がちゃんと精神崩壊を起こさずに戻ってこれるのか?! と最後までハラハラドキドキさせられました。コブの相棒のアーサーが大活躍! 別のメンバーに「あまり役に立たない」などと言われてましたが、コブよりもよっぽど役に立っていたような気がします(笑)。

 レオナルドは、「シャッター・アイランド」でも妻を亡くした男の役を演じていましたが、本作でも妻を亡くし、その時の辛い記憶に苦しめられています。あともう一作、似た境遇の役を演じてるそうです。「妻に先立たれ三部作」なんでしょうか、これ(笑)。

 何かにつけ邪魔をしてくる美女・モルはコブの亡き妻。コブの潜在意識に深く入り込んでいるので、なかなか厄介な存在です。そんな彼を何とか引き戻そうとするのが、新しくプロジェクトに関わることになったアリアドネ。名前からして、ギリシア神話テセウス王子をミノタウロスの迷宮から救った王女を彷彿とさせますが、残念ながらモルほどの美女ではありません(失礼w)。コブとアリアドネが恋に落ちて、コブが救われる――という展開にまで行きつかず残念(笑)。

 むしろサイトーの方がコブを現実につなぎとめていたような気がします。夢の第一階層で、早くもお荷物になっていたという意味でもそうですけど、夢から目覚めて現実に戻るという執着をコブに起こさせたのは、サイトーとの約束にあったのかも。思わず腐女子的妄想をしてしまったじゃないですか!(笑)

 夢の中で何度も繰り返し出てくる亡き妻と、会いたくても会えない可愛い子供たちの幻に、コブには何とかして夢から目覚めて、未来のある現実に戻って欲しいと祈りながら見ていました。

 エージェント達は、現実と夢との区別をつけるためのアイテム「トーテム」を持ちます。コブの場合は、「回らない独楽」。それが回り続けたら、夢の中にいるということです。ラストでは独楽が回り続けていました。あの独楽は止まるのか? それとも回り続けるのか? はっきりしないまま、映画は終わってしまいます。観客の解釈に委ねられるラストってきついわ。コブが辛い思いをしている分、余計に。

 このお話で唯一の救いが、サイトーの思惑通りとは言え、ロバートが父親との思い出を昇華させて前向きに慣れた事でしょうか。いやいや、もしかして、それも夢なのでしょうか? ――ああ、考えれば考えるほど分からなくなりそう!

胡蝶の夢」「一炊の夢」という言葉がしっくりきそうな、夢・また夢の物語でした。
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