陽気な容疑者たち/天藤真
陽気な容疑者たち―天藤真推理小説全集〈2〉 (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)
- 作者: 天藤真
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 1995/02
- メディア: 文庫
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田舎の大地主にして横浜の鉄工所経営者(たぶん兼株主)吉田辰造。彼がいきなり鉄工所を解散すると言い始め、労組の抗議も虚しく、主人公・沖が勤める計理事務所が手続を進めていた。そして沖は、最後の手続を準備すべく、田舎の吉田邸に赴く。しかしその翌朝、トーチカさながらの倉に篭もった辰造は、それきり外へ出て来ることはなかった……!
非常に凝ったプロット、活き活きとした登場人物、ふくよかで内容の詰まった筆致、しっかり作り込まれた《仕掛け》と伏線等、二拍子も三拍子も揃った素晴らしい作品である。密度も高く、歯応えもある一方で、欠片も読みにくくない。ユーモアに取り紛れて、冷静に考えると不自然なある状況を、読者にまるで悟らせない腕前にも敬服あるのみ。そして、天藤真の作風を決定付ける《一見ユーモア・ミステリだが、よく考えるとかなり重い》特徴が既に打ち出されている。
『陽気な容疑者たち』は、あの伝説の第8回乱歩賞の輝かしき敗者である。だからと言ってどうだというわけでもなく、単体として評価しても傑作であると考えるが、戸川昌子・中井英夫の事実上の同期生として、歴史に想いを馳せるのもまた一興であろう。そしてこれを契機に、天藤真という素晴らしい作家の傑作の森に足を踏み入れるのも、随分と乙なものであるはずだ。
エフゲニー・キーシン
細部への必要な十分な目配り、適度な繊細さ、そして曲趣に沿った適切な情感を持つ解釈をベースに、豪壮華麗にピアノを鳴らしてゆくという芸風。若干ミスタッチが聴かれたが、ほとんど気にならない。やはり打鍵が素晴らしく、音自体でご飯三杯は行けるからであろう。リズム感もただただ素晴らしい。ある意味理想のピアノかも知れない。
……ただ、特に根拠はないのだが、この人は調子良ければもっと凄いかも知れない、なんてことを思った。あと、34歳のむくつけきオッサンの来日に、ママと82歳の先生(女性)が未だに付いて来るというのはどうなんだという気がしないでもない。