不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

顔のない敵/石持浅海

顔のない敵 (カッパ・ノベルス)

顔のない敵 (カッパ・ノベルス)

 地雷シリーズ6編+デビュー短編1編を収めた短編集。300頁未満と大変薄いが、お買い得感があるのは、各編の作品水準が高いからであろう。
 石持浅海の特徴にして、人によって長所ととるか短所ととるか態度が分かれるのは、作者と物語が登場人物に情けをかけてしまい、また仲間内の情愛に絶大な信頼を寄せているところだ。私自身は、これらを弱点と考えており、巷間それなりによく言われる「石持浅海の作品は気持ち悪い」という感想には大いにシンパシーを感じるところである。『顔のない敵』にそれがないとは言わないが、短編なのでそこら辺の情緒面の描き方がアッサリしており、長編ほどには気にならない。個人的には大変好ましく思った。
 そして、本格としての、突飛な舞台設定(地雷絡みの話ばかり!)と堅牢なロジックは、これまでの彼の業績によって求められる期待値どおり、手堅くも素晴らしくまとまっている。ここでもまた、短編であることがプラスに作用しており、非常にストレートな筋運びと(本格としては)オーソドックスな論理展開によって、ロジック型の本格ミステリを読む喜びを読者に与えてくれるのだ。読みやすいのも好ましい。お薦めです。

新日本フィルハーモニー交響楽団

  1. ワーグナー:歌劇《タンホイザー》序曲(ドレスデン版)
  2. オルフ:カルミナ・ブラーナ

 《タンホイザー》序曲からしてなかなか良い演奏。あっさりとしていたが、こういう清潔感のある方がこの曲は良いと思いますです。オケも概ね好調で、技術精度には改善の余地はあるものの、音楽の魅力を損なうほどではない。さて、本日の白眉はやはり《カルミナ・ブラーナ》。迫力たっぷりで、合唱は技量面でも大健闘。松田奈緒美のソプラノは良かったと思うが、男声の方はまあ普通。つーかテノールには正直不満。もっと裏声を出してください。しかし、オケと合唱はホットな演奏で、満足した。

内田光子

  1. ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第30番ホ長調Op.109
  2. ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第31番変イ長調Op.110
  3. ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第32番ハ短調Op.111

 問題あるのがテクニックなのか暗譜なのか私にはわからないのだが、ミスタッチ云々を越えた水準で乱れる箇所があって残念。Op.110の第1楽章は聴いているこちらの心臓にすら悪かった。タッチとかはまだまだ流石だと思うのですが、試しに暗譜をやめてみてはいかがでしょうか。
 しかしそれでも、いずれの曲もフィナーレでは(意地で?)盛り返していて良かったと思う。特にOp.111のフィナーレは素直に素晴らしかった。内田光子の実演はこの連休が初めてだったこともあり、聴きに行って良かったと思います。