積読日記

新旧東西マイナー/メジャーの区別のない映画レビューと同人小説のブログ

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絶望

 何か秋葉原界隈がいろいろ大変なようで。

■NIKKEI NET:秋葉原で通り魔 13人が重軽傷、うち5人が心肺停止
http://www.nikkei.co.jp/news/shakai/20080608AT3K0800908062008.html

 ……何でしょうか、あの辺に集まっている人たちに理不尽な怒りでも感じたんですかね。
 まぁ、日々の生活にすら困っているような人間が日曜日の秋葉原に来ているわけがないのも事実なので、喰うや喰わずの最底辺の貧困層にいる人からすれば、怒りの矛先にしたくなるのも判らなくもないのですけど。
 幸せそうにしている人間を見ているだけで、腹が立って殴りたくなるって時が人間にはあるからなぁ……。
 何でも自己責任にして弱者を切り捨てにして目先の経済効率だけを追いかけて、切り捨てられた層の絶対数が一定の閾値を越えると、こういう反社会的行動に実際に踏み出しちゃう人間が増えてくるんだって。
 だから、社会全体の底上げをしなくちゃいけないし、創作者はそうした社会の「絶望」を掬い上げて「ちゃんと君達のことは忘れていない」「君の苦しみもちゃんと判っている」というメッセージを出し続けなければならない。そうやって「君」と「僕」が地続きのひとつの社会に生きているんだと確認しつづけることが、こうした「絶望」と戦う唯一の手段なのだと、アマチュアとは言え創作者の端くれとして常に自分に言い聞かせています。
 今の時点では犯人がどんな人間か判りませんが、単純に「頭のおかしな奴」で片付けないで、いちオタクとして彼のような人間を救う術はないのかを、我が身にひきつけて考える人が少しでもいてくれるといいのですけど。
 
 さて。
 年頭から週末企画としてはじめたこの小説連載も、今週でひとまず最終回です。
 最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。
 最終回記念として現在執筆中の『マルス・ライナー』のプロローグ部分を掲載いたします。
 小説連載の再開は、この作品が完成してからですね。
 
 んで、来週からは『GALACTICA/ギャラクティカ 【起:season 1】DVD-BOX 1』を毎週1話づつレビューしてゆく予定です。
 今後ともよろしく。

義忠『マルス・ライナー』プロローグ#1&2:まえがき

 宇宙開発が進む22世紀半ばの太陽系を舞台に、テロと謀略の渦捲く世界で繰り広げられる少年と少女の物語(ボーイ・ミーツ・ガール)──
 
 前々からちょくちょくここのブログでも触れてきましたが、本作は今を去ること13年も前に一度トライして結局、放り出してしまった作品です。
 放り出してしまった理由は……まぁ、ここでくどくど書いても仕方がないのではしょりますが、冒頭のオープニング部分を抜き出し、いろいろ加筆修正して先日のコミティアで配布させていただきました。
 で、それからちょこちょこと修正したのが今回のバージョン。
 前回小出しにして最後まで辿りつけなかった反省があるので、次に公開するのは完成後のオフセット版となる予定なんですが、そこでも多少いじるかもしれません。

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義忠『マルス・ライナー』プロローグ#1「端緒」

「……空間震(コーマ)航法システム、最終チェック・シークエンス開始」
 視認性を優先して照明の落とされたコックピットの中で、機長は厳かに告げた。
 長い歳月の艦隊勤務に裏打ちされた機長の静かな宣言に応え、残り六人の乗組員達(クルー)はこの機の存在意義そのものともいうべき「システム」の最終チェックに取り掛かる。
「最終チェック・シークエンス、オン」「渦状電磁流体制御システム、演算系稼働率、第一演算回路(サーキットワン)99.99999998(テン・ナイン・エイト)%、第二演算回路(サーキットツー)99.99999996(テン・ナイン・シックス)%、第三演算回路(サーキットスリー)99.99999997(テン・ナイン・セブン)%。相互審判テスト開始──テスト完了。全演算系相互検証結果、誤差許容範囲内」「機体表面温度上昇」「外殻冷却系、主系統、サブ、ともに稼働順調」「外殻震動フィードバック回路、機体全域チェック開始」「…………」
 自動化の進んだ昨今の艦船と比べれば数倍の長さに及ぶチェック項目を、乗組員達はわざわざ口頭で確認してゆく。その声にわずかの緩みもない。それどころか、誰かがひとつのチェックを終えるごとに、コックピット内の緊張が静かに水位を上げる。言葉のひとつひとつの音韻が重ねられ、いっそ宗教的な荘厳さすら帯びた呪的空間が形成されてゆく。
 それは、ここにいる乗組員全員が、これからこの機体と自分達が成し遂げる行為の成否がもたらす意義を完璧に理解している証拠でもあった。

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義忠『マルス・ライナー』プロローグ#2「旅立ち」

 地球と月の間にある重力の焦点――ラグランジュ・ポイントL1の宙域に、巨大な人工構築物が浮かんでいた。シュールな前衛芸術家の作品を思わせる無骨な構造材の組み合わせからなるそれは、視認性の向上と宇宙線による材質の劣化を防ぐために表面を白い特殊塗料で塗られ、各々数キロにも及ぶ、合わせて八本の長大な腕には大小さまざまな宇宙船が鈴なりに停泊していた。
 現在、木星軌道にまで広がった人類社会を支配する五大国の内で最大の勢力を誇る亜州同盟の民間軌道ステーション、〈新大連(シンターリエン)〉である。
 もっとも、民間専用港とはいいながら客船用の接岸埠頭は全体のごく一部で、ほとんどがガントリー・クレーンを備えた貨物専用埠頭のエリアで占められていた。これは今のところ、地球発の旅客航路らしきもので採算ベースに乗るのは、大規模な移民の行われた月や火星への航路ぐらいしかないためである。おまけに、この10年ほどで地球から月へは直通のシャトル便が当たり前となっており、この〈新大連(シンターリエン)〉では旅客管制部門は肩身が狭くなる一方だった。
『──先日の閣議決定を受け、空間震航法の実用化と普及に向けての研究開発を対象とした助成金制度が議会の全会一致で承認されました。また宇宙省では新航法導入に伴う未来の航路管制システムの研究開発に着手する事を発表し、そのための研究部会を発足させたことを発表しました。
 関連して、北米連合のチェスター国防大臣は、近日中に有人機での空間震航法の実用実験が行われるのでは、との記者会見上での問いにこれを否定しませんでした。実際に実験が行われれば、EUに続いて世界で三番目となります──』
 ロビーの高い天井に浮かぶホログラフィックパネル上で、女性アナウンサーが滑らかな口調でニュースを読んでいる。
 実験の成功から半年──しばらく落ち着いてきたと思っていたこの手の話題が、ここへ来てまた増えてきているような気がする。実験直後に仕込まれた政策的な動きが、芽を出し始めたということだろうか。
 指向性スピーカーの可聴ゾーンに立ってぼんやりと頭上のパネルを眺めていた五代健一は、嬌声を上げて送迎ロビーの分厚い気密ガラスに駆け寄る少女へと視線を向けた。

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