新小児科医のつぶやき

2011-12-19 刈谷豊田産科医時間外訴訟2・和解の結末

「2」とあるので「1」もあるのですが、2010.9.25付エントリーの続編です。訴訟の概略は病院での当直業務は時間外であるとの主張で、その理由として、

  1. そもそも労基法41条3号に基く当直許可が存在しない
  2. 当直業務内容も労基法41条3号及び関連通達に定める当直業務でなく通常勤務である

この2つの理由から当直勤務とされて当直料として支払われたものは時間外勤務であるから、これを支払えというものです。実は訴状が手許にあるのですが、全部で9ページもある上にjpgファイルでOCRの変換効率が宜しくないので全文掲載は断念しています。訴状の画像ファイルのみ示します。

請求金額

請求した金額は「請求の趣旨」にあり、

  1. 被告は、原告に対し、金280万円1290円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払い済まで年5分の割合による金員を支払え
  2. 訴訟費用は被告の負担とする

との判決及び仮執行宣言を求める。

この金280万円1290円はどれほどの回数の当直で算出された金額であるかですが、「原告の宿日直勤務の労働実態」に、

  1. 原告は、平成21年4月から同年9月までの間に、以下のとおり、平日宿直18日、休日宿直1日、日直後に続けて宿直を行なう場合が4日、勤務を行った。(以下略)

簡単には半年の間に23回の宿日直を行ったと考えても良いかと思います。宿日直回数と言うか負担自体はビックリするようなものではありませんが、23回分の宿日直を時間外手当で換算すると不足分が280万円になるのにチョット驚きました。細かい計算式は8-9ページにあるのですが、最後のところだけ引用しておくと、

  1. 割増賃金合計額

      上記割増賃金を合計すると、合計金364万1485円となる。

  2. 既払い金

      被告からは、原告に対して、当直手当として84万0195円が支払われている。

  3. 差引金額

      割増賃金合計から、既払い金を差し引くと280万1290円となる。

至極大雑把に言いますと当直1回あたりで10万円以上の支払いが不足している事になります。


交渉の経緯

これは「1」の時にあれこれ書いたのですが、訴状には、

原告は、平成22年6月14日、被告に対して、当直・宿直勤務について割増賃金を支払うよう請求したが、当直手当の支払いで精算が終了している、労働基準法に違反していないと主張し、話し合いに応じなかったため、本訴に及んだ次第である。

この経緯は原告が弁護士に依頼した後のものであり、それ以前に原告が弁護士に依頼する前に労基署詣でを頻繁に行ったエピソードは「1」を参照にしてください。


宿日直許可証

裁判の基本構図は原告が働いた時間帯が当直業務なのか通常業務なのかで争われているとして良いかと思います。当直業務として認定されるためには

    必要条件:労基法41条3号の宿日直許可が存在する
    十分条件:業務内容が宿日直許可の条件を満たす

このどちらかではなく両方を満たす事が求められます。片方だけでは不十分であるのは奈良産科医時間外訴訟を参考にしてもらえれば良いかと思います。奈良のケースは必要条件である労基法41条3号の宿日直許可は存在していますが、十分条件である業務内容で被告である奈良県は一審、二審とも退けられています。要するに被告としては争うには、必要条件である労基法41条3号の宿日直許可がないと勝負の土俵にも上りにくいと私は思います。

訴状からです。

  1. 名目上、宿直・日直勤務であるとされていても、原則として割増賃金の支払い義務があり、例外的に「監視又は断続的労働に従事する者で、使用者が行政官庁の許可を受けたもの」である場合に限り、割増賃金の支払い義務を免れる(労基法41条3号)。宿直・日直については、さらに労働基準法施行規則23条の規定があり、「使用者は、宿直又は日直の勤務で断続的な業務について、様式第10号によって、所轄労働基準監督署の許可を受けた場合」に限り、労働者を、法第32条の規定にかかわらず、使用することができると定めている。

    そのため、所轄労働基準監督署長の許可を受けていない限り、使用者は、割増賃金の支払い義務を負う。
  2. 原告は、平成21年4月1日付で、愛知労働管理局に対して、行政機関の保有する情報の公開に関する法律に基づき、被告が宿日直勤務について所轄労働基準監督署長の許可を得ているかどうか調査したところ、断続的な宿直又は日直勤務許可申請書及び許可書は、申請がないため存在しないの回答を得ている。

訴訟は原則として原告側に立証責任があるとなっていたはずです。原告は宿日直許可に関して労基署に公式に情報公開を請求し、

    断続的な宿直又は日直勤務許可申請書及び許可書は、申請がないため存在しないの回答を得ている

つまり必要条件である宿日直許可自体が存在しないとの証拠を示しています。被告側はここで「はい、そうです♪」と認めてしまうと訴訟の形勢はそれだけで大きく傾いてしまいます。奈良の時のように十分条件の業務内容を争う以前の問題なるとすれば宜しいでしょうか。刑事ではなく民事ですから、直接に労基法違反の有無を争う訴訟でないにしてもしても、裁判官の心証が原告有利・被告不利になるのは誰が見ても当然です。

そこで被告は労基署にも公式には存在しないとされた申請書と宿日直許可証を探し出してきます。驚くべき事にこれがあったのです。

とりあえず反証として被告側が証拠として提出したものですから最新の許可証であると考えられますが、その許可年月日は、

昭和38年(1963年)に許可されたものである事が確認できます。それにしても時代を感じる許可証と言うか申請書で、手書きである点に懐かしさを感じます。それと驚かされるのは申請書が横書きが右から読むスタイルになっている事です。ちょっと自信がないのですが、昭和38年当時でも横書きは既に左から読むに代わっていた、いやそうなってそれなりの年数が経っていたはずと思うのですが、記入者のクセと言うか年配の人なのかもしれません。

懐かしさを感じるのは良いとしても、申請書の中味の判読が難しいと存じます。私だって読み難いのですが、どういう風に書いてあるのか原告側が読み取った情報がありますので、現在の病院側の実際の状況と合わせて表にして見ます。


1963年の許可申請書内容 現在との相違点(原告の指摘点)
宿直 総員数 7名 1200名(医師191名、看護職員607名、医療技術者245名、事務員110名、その他47名)
1回の宿直員数 4名
宿直勤務の闘始及ぴ終了時刻 午後5時より翌午前8時半まで 午後4時45分より翌午前8時30分まで
一定期間における1人の宿直回数 1ヶ月に2回 現在の回数と明らかに異なる
1回の宿直手当 400円 現在の実態と明らかに異なる
就寝場所 不明(読めない) 現在5棟構成に拡大されており場所が変わっている可能性が高い
勤務の態様 電話応答。急患応対処置の連絡 これは訴訟の焦点
日直 総員数 7名 1200名(医師191名、看護職員607名、医療技術者245名、事務員110名、その他47名)
1回の宿直員数 5名
宿直勤務の闘始及ぴ終了時刻 午前8時から午後5時まで 午前8時30より翌午後4時45分まで
一定期間における1人の宿直回数 3ヶ月に1回 現在の回数と明らかに異なる
1回の宿直手当 400円 現在の実態と明らかに異なる
勤務の態様 電話応答。急患応対処置の連絡 これは訴訟の焦点


実際の文面を読みながら補足情報を加えておくと、勤務の態様で「急患」としていますが、「急患」の文字が読み取り難く、見た目は「急看」に見えて仕方がありません。実際の拡大画像を示しますが、

注目してもらいたいのは右側の「看護婦宿直室」です。これは就寝設備のところにある記載ですが、文脈上からもそう読むしかないところです。「看護婦宿直室」の「看」の字と「急患」と読みたい「患」の字がどう見ても同じです。どうも記入者がマジで「急患」とは「急看」と書くと勘違いしていたんじゃないかと考えられます。


総員数も訂正印らしいものがあって判読が難しいのですが、ここも拡大画像を示しておきます。

訂正印の横に「七」の字は読み取れます。読み取れるのですが原告弁護人が読んだ様に総員数が7人はチト少なすぎます。刈谷豊田総合病院はホームページの沿革・診療実績によると

・昭和37年9月 医療法人豊田会設立
・昭和38年3月 刈谷豊田病院開院(病床数200床)診療科10科目

開院当初から200床規模であった事がわかります。200床病院をたった7人で運用していたとは思い難いところです。そこでもう1回良く見てみると、訂正印を押してあるほうは「四」に見えます。ただし二重線は下に伸びているだけでなく「四」の下にも文字らしきものがあります。また「七」の下にも文字らしきものが見えます。

申請書の書式は1回の宿直員数のところが参考になるのですが、単に数字で示しています。つまり「○人」とか「○名」の表記でないのも確認されます。訂正印の個所が「四」の下に伸びているのは、「四」に続く漢数字も同時に訂正したと考えるべきじゃないかと思われます。つまり元もとは40人台の総員数が記入してあったと考えるのが妥当です。

そうなると訂正後の「七」の数字の下にもなんらかの文字らしきものがあります。つまり原告弁護人は「7」だけと読みましたが、実際は70人台の総員数が記入してあったと考えるべきじゃないかと言う事です。

ただ200床の病院に総員数が40人台なり、70人台は今の常識からして余りに少ないと感じます・・・そっか、そっか、きっと200床は許可病床で開院時はフルオープンじゃなかったんだ。古い病院の沿革には「職員もそろい全病床が稼動」みたいな表現を時に見ますし、話にも聞いた事があります。40人なり70人で200床ではなく、もっと少ない病床数でスタートしたのではと思います。


もう一つ、ついでの謎があります。刈谷豊田は沿革によると昭和38年3月に開院となっています。なぜに4月でないのであろうはおいといて、労基署に申請書を提出したのは昭和38年4月13日となっています。ところが労基署の受理印の日付は「38.5.13」になっており、許可証が下りたのは「昭和38年5月24日」となっています。

さらに受理が「38.5.13」になっているのですが、申請書の提出日は許可と同日の「昭和38年5月24日」となっています。受理から許可までは役所内の手続き問題としてとりあえず置いとくとして、申請から受理までがチト長いの指摘が某所にありました。

あえて推測するなら総員数の訂正に関連するんじゃないかと考えられます。そこしかオリジナルからの変更点が無いからです。どういう事かと言うと当初40人台の申請を出したら受理を保留にされた可能性です。つうか4月13日の時点では本当に総員数が40人台であったんじゃないかの可能性です。40人少々で宿直4人、日直5人体制なんて無理の指摘です。そこで申請書を受理してもらうために1ヶ月の間に急遽職員を増やした形跡ではないかの推理です。

もう少し言えば、総員数が40人台でOKかどうかでもめて、受理の日時からさらに許可を受けるまでに訂正が行われたんじゃないかの推測も成立します。最終的に70人余りがようやくそろったのが許可が下りた「昭和38年5月24日」であったんじゃないかです。受理時点で「必ず増やす予定である」みたいな形です。謎が多いところです。


余談ついでなので就寝設備は一部判読可能のところがあります。読める範囲で書けば、

医師当直室 1
看護婦当直室 1
事務当直室 1

場所についてはその横に細かい文字で記入してあるのですが、確かに判読不能です。ここも不思議なのは宿直が4名であるのに対して部屋が3室と言うのも面白いところです。相部屋と言うか2人部屋があったんでしょうねぇ。まあ畳部屋であった可能性も無いとは言えませんから、2人部屋もアリかもしれません。

それと当直手当400円も時代を感じます。研修医の頃に聞いた話ですが、某県立病院の当直料は、刈谷豊田よりもうちょっと後だったはずですが「タダ」だったそうです。タダではあまりにもヒドいになり、そのあとに500円になったと聞いた事があります。当時であっても400円はいかにも安いと思います(これも古すぎて私でもよくわかりません)し、医師も、看護師も、事務職も同じ手当てと言うのも今から見れば感覚の違うお話です。

私の聞いた某県立病院の当直料も含めて、当直料を幾らにするかの規定がなかったのではないかと推測しています。ここも当時の情報を御存知の方がおられれば教えて頂ければ幸いです。


宿日直許可証の有効性

なんつうても50年近く前のお話ですから、今と異なる点があっても不思議ありません。問題はこの被告側が発掘してきた宿日直許可証が現在でも有効かどうかです。この辺も詳しくないのですが、前に聞いた話では一度許可された宿日直許可証は余程の事がない限り有効性を保ち続けるです。ただ50年前から許可条件は変遷しているはずです。たとえば当直料も現在の許可証では

なお、この金額については、将来においても、宿直又は日直の勤務につくことの予定されている職種の労働者に支払われている賃金1人1日平均額の3分の1を下回らないようにすること。

これは小田原市立病院のものですが、ここに書いてある「賃金1人1日平均額の3分の1を下回らない」はおそらく刈谷豊田病院が許可を受けた後に作られた気がします。他にも原告側が指摘している勤務時間や就寝場所の変更もあれば、許可が続くのは前提としても、ある程度は適宜届出が必要なもののように感じます。何が言いたいかですが、労基局にこの宿日直許可証が存在していない理由はなんであろうかです。

50年の間に幾度か行われたはずの労基法改正(通達を含む)の時に、改正に伴う宿日直許可の再届出の通達でもあったんじゃなかろうかです。その時に再届出を怠った病院(及び事業所)はある時期をもって許可が失効と判定され、許可証の有効性が消失した可能性です。ただ失効になっても、相手はお役所ですから失効になったの書類が残っていそうなものです。しかし原告が情報公開を公式に求めても存在しないとなっています。

謎々みたいなものですが、お役所相手の情報公開請求は木で鼻を括った様な杓子定規なものになると聞いた事があります。どういう事かと言えば原告は「現在でも有効な宿日直許可の存在」を問い合わせたと推測します。公開請求が「現在でも有効」ですから既に無効になった許可証の存在は答える必要がないと判断されたは如何でしょうか。

だから労基局の返答は「存在しない」であり、そこで無効になったものの存在まで公開請求されなかったから返答しなかったと見る事は可能です。公開請求されなかった書類の存在まで教える必要は無いとの判断です。不親切といえば不親切ですが、請求された分だけ公開しそれ以上の情報は公開しないの姿勢と理解すべきかもしれません。

ただそうなると、病院側が所持していた50年前の許可証は労基局サイドでは有効性を失っているとの判断は成立します。労基法41条3号に基づく宿日直許可は労基局が認めてこその許可であり、失効となった許可証を幾ら保持していてもタダの紙切れに過ぎないと言う事になります。

紙切れである傍証は被告側の反応にもあります。原告は労基局に許可証の有無を公式に公開請求しているわけです。それに対して存在する証拠を出してはいますが、これが本当に有効であるかを被告側が労基局に問い合わせたとは私は聞いていません。訴訟の場の証拠ですから、被告側はそこまですれば有効性は証明できたはずです。自分の病院の許可証の有効性を確認して悪い道理もないはずです。

実は問い合わせたのかもしれませんが、私が聞いている限りではそんな攻防はなかったようです。つまりその点の反論は被告側が「出来なかった」と取る事も可能です。

有効性についてはこれぐらいの一般論しか語る知識しかありませんが、それでも労基署に申請書も許可証が存在しないと言うのは裁判官の心証として良くはないだろうとは思います。これについての裁判所判断は後述する様に和解のためにありません。


労働実態を巡る攻防

これについてはさして付け加えれる事はありません。実際の訴訟では被告側弁護士もそれなりに頑張ったところらしいですが、客観的には産科医が、それも月間年間1000件もの分娩がある病院で、労基法遵守の当直業務が出来るはずがないのが実相として宜しいかと思います。産科医でなくとも、二次救急輪番病院の当直でも余裕でアウトです。三次救急でも同上で、救急を当直でになると完全にヘソが茶を沸かせます。

ほかにもICU当直とか、CCU当直とか、NICU当直みたいな凄い当直が幾らでも医療界にありますが、労基法の宿日直勤務の条件を満たしている当直は殆んどないと思います。個人的には税法上の当直条件を満たすのに近いぐらいのものだと考えています。

細かな展開まで知りませんが、労働実態の論戦でも被告側はかなり厳しい状況に追い込まれていったと聞いています。


和解交渉

私は感覚としてわかり難いところがあるのですが、280万円の請求事件にしては裁判は大がかりなものであったそうです。両陪席を従えた3人制で、被告側弁護人は東京から遠征の大弁護団が溢れかえるほどおられたそうです。原告側弁護人は少なからずビビッたとの感想を聞いています。

それでも訴訟は弁護人の多寡ではなく提示する証拠・証言の有効性を争うものであり、訴訟の展開として当直勤務を満たすための必要条件も十分条件も被告側に圧倒的に不利な状況になったそうです。そりゃそうだろうと思います。互いに提示する証拠もなくなり、結審が近いある時期に被告側から和解の申し入れがあったと聞きます。

原告の意向は「カネでなく判決文が欲しい」です。280万円の請求と言っても、よく御存知の通り、弁護費用を払うと足が出ない程度のものです。一審だけで終ればまだしも、二審三審と争えば足が出てもおかしくありません。ですから本気でカネではなく判決文が欲しいでした。もちろんできれば「カネも欲しい」とは言ってましたけどね。それでも優先したのは判決文です。

和解交渉には乗り気ではなかったそうですが、法廷戦術として蹴飛ばすのは裁判官の心証形成上宜しくないの弁護士からのアドバイスを受けて、和解交渉に臨んだそうです。最初は「絶対いやだ!」としていたそうですが、被告が請求額の全額を払うと言えば訴訟自体が成立しなくなるとか、なんとか説得されたとは聞いています。


和解交渉と言っても、実際に臨んだ事はもちろんないのですが、大雑把に言うと金額と文面のトレードオフみたいな面はあるそうです。いろんな和解交渉があるので一概に言えませんが、請求額から割り引いた面だけ和解文面、さらには文面の公開の有無なんかで取引する感じと言えば良いでしょうか。

和解交渉の展開は冒頭で裁判官が280万円は無理だから180万円が満額になると宣言したようです。ボーナスが日給計算に入っているのと、就業規則が法定より高いので云々らしいのですが、私にはよくわかりませんでした。その点については原告本人の理解も「そんなもんか♪」ぐらいでサラッと納得してしまったそうです。

満額が180万と言う枠が決まった後に、文面交渉になるのですが、これも判決文が欲しい原告の要求はシンプルで、

  1. 当直が時間外勤務であったと明記する事
  2. もちろん公開する事

この2点は何があっても譲らないし、嫌なら判決文をもらうです。金額については被告側もさして問題視していなかったようですが、文面については渋り、後はなぜか被告側と裁判官が御密談と相成ったそうです。ほいでもって2回目の和解交渉で、被告側は請求額280万円のほぼ満額回答を出して和解です。満額だから文面での云々は無しになっています。


推理遊戯

和解交渉の舞台裏を推理遊戯してみたいと思います。裁判官が持ち出した180万円は判決での認定額であったと考えて良さそうです。しかし判決文となるとなぜに180万円の支払いが必要になるかの理由を書かなければなりません。当然ですが、刈谷豊田の当直業務は時間外勤務であると事実認定することになります。そうしないと180万円は湧いてきません。

被告側は和解条件に当直が時間外勤務であると明記するのを渋りましたが、和解で入れなければ判決文に明記されるとの脅しじゃなかった「ほのめかし」が裁判官から被告にあったと考えます。ここまで来て、被告側が守りたい最後の一線は、当直が時間外勤務であるの裁判記録を残さない事になるかと思われます。

しかし判決文が欲しい被告を黙らせるには、裁判官が示した180万円では無理で、訴訟を吹き飛ばす請求額の満額回答が必要と脅されたじゃなく「ほのめかし」があり、万策尽きて被告側は和解条件を呑んだと見ます。あくまでも推理遊戯ですけどね。


それにしてもわかり難かったのは病院側の動きです。相手も天下のトヨタが動員した大弁護団ですから、訴訟自体に勝ち目があると踏んだのでしょうか。どうにもそういう気は薄かった様に感じてなりません。もちろん原告の主張がアラだらけであれば勝てるかもしれませんが、訴訟前に原告側弁護士が請求した時点でトットと払ってしまうのも一法だったはずです。これは原告側の弁護士が依頼を受けた時のお話ですが、

「これは多分、内容証明のやり取りくらいでパパっと済んじゃうと思う。
 応じなかったら相当のアンポンタンだよね。」

プロから見ればそれぐらい判りやすい事件構図だったわけです。ちなみに原告側弁護士は労働法制の専門家だそうですが、普段は企業寄りの活動をされている方だそうです。そういう専門家が見ても争う余地が乏しすぎる事例だったと言う事です。


それでもあえて争ったのは敵失での勝利の期待のほかに、訴訟で対抗する姿勢を見せたのに意味があった様にも感じています。ハイハイと払うのではなく、訴訟で争わない限り、つまり訴訟費用を積み上げない限り払う気がないの姿勢を見せることです。今回はそれでも280万円ありましたが、もっと少額なら訴訟まで争うとなると足が出るためためらいが出ます。

ホイホイと内容証明で払う前例を作りたくなかったぐらいと言えばよいでしょうか。欲しけりゃ、訴訟費用を準備してかかって来いです。訴訟を起されたがために病院と言うかトヨタの出費は増えましたが、正直なところトヨタにすれば微々たる金額で、類似の訴訟を起そうとするものへの十分なパフォーマンス(威圧)になり、他にも払っていない時間外手当と差し引きすれば算盤勘定は十分に合う計算と考えます。

最後の最後に妥協したのは、争いはするものの「当直は時間外勤務である」の判決なり和解文は回避せよの指令が出たと考えます。そういうニュースがトヨタ発で出ることのイメージダウンです。イメージダウンは直接の金銭換算は出来ませんが、企業ブランドの毀損は簡単に億単位で換算されますから、全部払っても口を封じるべしです、


もう一つ裁判官の動きも興味があります。民事ですから判決にするより和解にする方が望ましいと言うのもありますが、それより判決文をどうしても書きたくなかったように感じます。事実関係は明瞭ですし、まさか「間違い無く当直業務と認定できる」みたいなトンデモ判決を書くのは、裁判官の良心としては出来ないと思います。

では書いてしまえばどうなるかですが、奈良県が頑張ってくれているお蔭で最高裁判例が出来そうにはなっていますが、労働行政・医療行政に大きな影響力を及ぼす判決になりかねません。そんな事は司法に本来関係ないとは言え、心情的に出来る限り回避したいです。被告が判決文欲しいの要求を抑えるためには、まずは和解文章、次に請求額の満額回答しかないと被告側にかなり積極的に誘導したのかもしれません。


そこまで推理遊戯を巡らすと、本当の勝者はトヨタであったかもしれません。少なくともトヨタの中ではそういう風に総括されているような気がします。とは言え、原告の産科医もよく頑張ったと思います。「個人 対 大トヨタ」の争いですし、刈谷豊田と地裁がある愛知県もトヨタのコチコチのお膝元です。これ以上の成果を求めるのはないものねだりとするのが妥当と思います。

御苦労様でした。


あとがき

単なる感想なんですが、なんとなく民事訴訟の本質が見えた気がしています。誤解があれば「優しく」訂正して頂きたいところです。話を一般論にしてしまうと拡散してしまうのでこの訴訟での理解にします。この訴訟は「かくかくしかじか」の理由で○○万円払えの請求です。払ってくれないので訴訟になっているのですが、訴訟中であっても「やっぱり払う」と改心すれば訴訟は終ってしまうの理解です。

「払え」と言われて拒否しているから訴訟になるわけで、「払う」となれば原告が訴訟を続ける理由が消失してしまうと言えばよいでしょうか。被告が請求通りに払うと申し出た時点で訴訟が実態を失うみたいな理解です。それでも判決をあえて求める選択枝がどれぐらいあるかは私にはよくわかりません。あるとは思うのですが、その辺をどう解釈するのかは私には知識不足と言うところです。

それと請求額の満額支払いが決定した時点で、「かくかくしかじか」の理由について不問となる様にも見えます。「かくかくしじか」の裁定は判決になって初めて示されるものになると言う事です。私有財産の強制移動命令ですから、法に基づいた判断理由を裁判所は明示しなければならなくなる関係です。問答無用の「とにかくアンタが悪い、黙って払え」にならないとすれば良いでしょうか。

見えたと言いながらモヤモヤしたものは残るのですが、そんな事を考えさせられる訴訟でした。

江原朗江原朗 2011/12/19 07:53 江原朗.休日・夜間の救急診療を宿日直ではなく時間外勤務とした場合,当直料はいくらになるのか.日本医師会雑誌 2009;138:723−726http://pediatrics.news.coocan.jp/my_paper/ishikai2009_7.pdf

よろしかったら、ご覧ください。
1回の当直で約10万円の人件費です。

元法学部生元法学部生 2011/12/19 08:13 36協定、就業規則など、労基署に届け出る書類の類いを、労基署が保管してないのは普通の状態です。(たぶん単純にn年で破棄していいことになってるんだと思います)

つまり労基署の記録から適正な労務管理をしていることを証明できないので、事業主は自前で受領印を受けた副本を全部保管しておかないと碌なことがありません。

まさか届出制の書類だけで無く、許可制の書類まで保管してないとは知りませんでしたが。

YosyanYosyan 2011/12/19 08:18 元法学部生様

 >労基署に届け出る書類の類いを、労基署が保管してないのは普通の状態です

そうなんですか! こりゃ勉強になりました。

京都の小児科医京都の小児科医 2011/12/19 08:38 >36協定、就業規則など、労基署に届け出る書類の類いを、労基署が保管してないのは普通の状態です。(たぶん単純にn年で破棄していいことになってるんだと思います)
>つまり労基署の記録から適正な労務管理をしていることを証明できないので、事業主は自前で受領印を受けた副本を全部保管しておかないと碌なことがありません。
>まさか届出制の書類だけで無く、許可制の書類まで保管してないとは知りませんでしたが。

ものごとを悪意でもって判断してはいけないかも知れませんが、法に違反しないならさっそく本ブロク・コメントを読んで書類を破棄される事業主もおられるかもしれないと思いました。

midbreumidbreu 2011/12/19 08:39 ■労働実態を巡る攻防 の二行目 月間1000件→年間1000件 ですよね?
フランスだと年間10000件以上月間1000件前後という施設も珍しくないですけど、日本ですもんね。

YosyanYosyan 2011/12/19 08:46 midbreu様

御指摘ありがとうございます。謹んで訂正させて頂きます。

法務業の末席法務業の末席 2011/12/19 09:51 >それと当直手当400円も時代を感じます。

昭和38年の学卒初任給の賃金統計データです。
 ・大卒男子 (事務系)19,839円 (技術系)20,107円
 ・高卒男子 (事務系)13,609円 (技術系)13,758円 (現業系)13,653円
 ・中卒男子 (現業系)10,382円

現在の学卒初任給は大卒が概ね20万円台半ば、高卒が概ね20万円前後ですから、14倍になってます。昭和38年当時の宿直手当の400円は、大卒初任給約20,000円を1/25で日給換算(当時は週休1日で月25日就業)した半日分、高卒初任給13,800円では日額の75%ぐらいでしょうか。現在の宿日直許可の条件である「賃金1人1日平均額の3分の1」は満たしていると思えます。ただし医師を除く病院職員であればという条件が付きますが…。

MLML 2011/12/19 10:02 都立松沢病院の宿直許可書は昭和23年のもので、縦書きです

あと、申請制じゃなく、許可制なので、申請してから調査が行われますので、申請⇒許可のギャップは当然あります。

それにしても勝訴したら、付加金つけて倍返しの金額が取れたかもしれないと思うと、この和解が良かったとしても、ベストかどうか・・・・裁判官に半分言いくるめられた気がします

アメリカだったら集団訴訟+懲罰的罰金でトヨタが吹っ飛ぶかもしれないくらいの訴訟になって、弁護士が寄ってたかって丸裸にしちゃうんだろうなぁ。。。

元ライダー元ライダー 2011/12/19 11:11 どうしても文書が欲しければ、請求金額を法外なものにするというのがこの件からの教訓でしょうか。
例えばですが、訴訟費用は高くなりますが慰謝料などを含め、請求金額を2,800万円としていた場合、被告側は満額回答に応じたでしょうか、法外な請求でも満額回答をするという前例もまた被告側に都合が悪いはずです。ときどき法外な請求金額と思われる訴訟を目にしますが、それは訴訟自体を吹き飛ばさないための戦術なのでしょうね。

元法学部生元法学部生 2011/12/19 12:25 京都の小児科医様

いや、逆です。逆。ちゃんと保管して置かないと、あそこは届け出を出してないって誰かにいちゃもん付けられたときに、届けてあることが立証できないんですよ。労基署には残ってないので。

YosyanYosyan 2011/12/19 12:35 元ライダー様

満額回答の和解の場合の訴訟知識が乏しいので、なんとも言えません。今回の場合は和解交渉の経緯自体が、どうしても和解にしたいのなら「満額なら考慮する」と原告側から出たと言うのもあると聞いています。これは和解条件と言うより、そこまで条件を吊り上げれば和解に応じないだろうの駆け引きのつもりであったとも聞いています。

それから先はエントリーに書いた様に、裁判官が180万円の案を出し、原告が和解の文面条件を提示し、被告側が渋るの展開です。これも良く分からないのですが、和解時にも請求額以上の金額が成立するかどうかも存じません。漏れ聞いた話では「むつかしそう」な印象を抱きました。

裁判官の意図は永遠に不明ですが、どうも原告が満額回答なら和解に応じるの言質をうまく活用した様に感じています。被告にとっては大した金額ではないとも言えるからです。原告側にとっても「まさか」の満額回答なので応じないわけにはいかなかったと言う展開になったと考えても良いような気がします。

和解交渉は判決もにらんだ心理戦の側面が大きいですから、自らが提示した満額回答を蹴飛ばすのは躊躇されたと推察されます。

法務業の末席法務業の末席 2011/12/19 12:36 元ライダー様
>請求金額を法外なものにするというのがこの件からの教訓でしょうか。
>例えばですが、訴訟費用は高くなりますが慰謝料などを含め、請求金額を2,800万円としていた場合

民事訴訟では、賠償請求する金額の計算根拠は原告側に立証責任があります。今回の裁判では23回の宿直で合計金364万1485円、そこから既払いの当直手当84万0195円を差し引いて、請求額が280万1290円という計算額は、訴状の中で原告が計算式を明示して積算します。

この支払請求額の計算が具体的な根拠が無く、かつ社会常識に反する法外な金額、例えば、オレ様は1時間あたり10万円以上稼げる能力があるから、一晩の宿直勤務で150万円以上払うのが当然!こうした根拠の無い請求に原告が固執するのであれば、裁判所は原告の立証不十分として請求全額を棄却する判決をするでしょう。つまり労基法違反の具体的な審理に入る前の、門前払い的な原告側の全面敗訴とする可能性が出てきます。

さらに濫訴により迷惑を被ったとして、被告(本件では病院側)より、逆に損害賠償の反訴を受ける可能性もあります。280万円を根拠無く十倍の2,800万円に吹っかける提訴は、原告側に圧倒的に不利です。

また、労基法37条の時間外労働割増賃金の支払請求訴訟で、支払が為されなかったことに対する精神的損害として、慰謝料が認められた判例は聞いたことがありません。このような未払賃金請求訴訟で原告が慰謝料を請求したとしても、精神的損害の有無について踏み込んだ審理に入らず請求が棄却されると思われます。

なおML様が触れていますが、この賃金未払の精神的損害の賠償請求(慰謝料の請求)ではなく、労基法114条では未払賃金と同額の付加金の支払いを、原告労働者が請求することを認めています。この付加金は、裁判所が使用者の労基法違反の事実を認め、かつ付加金支払いを命令するに値する悪質性があると認めた場合は、和解ではなく付加金支払いを命ずる判決となります。

ただし付加金の支払判決は、当初の訴状の中で原告が付加金支払の請求を行っていることが条件です。民事訴訟では、原告請求の無い金銭の支払いを命じる判決出来ませんので、付加金が当初の訴状で原告側から請求(提訴後の追加請求も裁判所が認めれば可能)されていなければ、裁判所は付加金については一切審理しません。

こうした訴訟上の駆け引き戦術の面からは「本当の勝者はトヨタであったかもしれません」という、日記最後の推理部分でのYosyan先生の感想も、あながち的外れとは思いません。

元法学部生元法学部生 2011/12/19 12:41 いちゃもんを付けられたときだけじゃ無くて、たとえば「○○休業制度を新規に導入した場合」だの「定年年齢を新たに延長した場合」などの条件で受給できる補助金・奨励金の類いがもらえたりする制度が出来た場合にも、古い就業規則を自前で保管してないと、労基署には古い就業規則は残ってないので、補助金・奨励金をもらう申請書類を出せずにガッカリすることになったりします。

MLML 2011/12/19 13:25 >付加金の支払判決は、当初の訴状の中で原告が付加金支払の請求を行っていることが条件です

判決を求める原告の意思に忠実だったら、付加金を含めた賠償請求になるはずなのに、さて担当弁護士さんは労働訴訟に馴染んでおられたのか?という疑問が残ってます

悪質性といえば、深夜労働を連続でさせて安い当直料で酷使していたのだから、悪質だと思います。もちろん、全国の救急告示病院が悪質なので、平均よりチョい悪かもしれませんが。。。。

元ライダー元ライダー 2011/12/19 13:49 どのくらいの金額なら満額回答を阻止できるか私には漠然としていたので2,800万円は例えなんですが、原告がお得になり、被告が満額回答をためらう金額を請求できれば、文書を得られる可能性は高くなると思われます。ML様のおっしゃるように付加金を請求すればどうなんでしょう。被告病院も「欲しけりゃ、訴訟費用を準備してかかって来いです。」で対処するより、最初から時間外手当を払ったほうがお得だとソロバンを弾くんじゃないでしょうか。そうなれば文書を得るのと同じ効果です。

KEIKEI 2011/12/19 13:50 今回の和解による解決について、冷静に考えてトヨタの勝ちです。「損して得取れ」ですね。

原告にしてみれば、結局全部認容判決に等しいわけですから今後本件に関して同一の訴えを起こすことができなくなるばかりか、時間外であったことやら既判力を持って判断されていませんから、280万はもらったけど、「労して益なし」状態です。

一方被告にしてみれば280万円支払うことで、「その他の請求(原告が求めていた文言等)」を裁判所に判断されることがありませんから、280万円の性格も「口封じの解決金」のような性格といえそうです。痛い腹を探られないような。

したがって、原告はたとえ180万円の一部認容判決であっても「判決文」を得ることが今後のためにも必要であったのではないかと、今回最悪何も解決していない状況では、結局原告は今回の裁判で何がしたかったのかと疑問ではあります。

裁判的には原告は280万円の請求に対して280万を得たわけですから「全面勝訴」なんでしょうが、そもそも請求の趣旨に掲げられていないことに既判力が生じないわけですから、結論は見えていたともいえますが、、、。

法務業の末席法務業の末席 2011/12/19 14:21 この裁判(和解)を被告の病院側から見れば、続く同種訴訟に判決文を使われない(つまり既判力が無い)形で終結させたから、KEI さまの仰るトヨタの勝ちという見方も成り立つでしょう。

でも、訴訟を起こした産科医個人は、病院の同僚医師達を救う為に訴訟を起こしたのか?
最初に考えたのは、自分に対して払うべき賃金を払わなかったことへの怒りでしょう。
先ずは私に払え、これが第一であって、病院の同僚医師へ同様に、というのは順位的には下でしょう。

言うならば280万の支払確定がメインで、同僚医師にも同じようにはオマケの部分でしょう。
メインとオマケの比重をどう取るかは、外野が決めることではなく、訴訟を闘った原告自身の評価で決まることでしょう。私は原告がこの和解に満足しているならそれで良し、と受け入れるのが外野の弁えだと思います。

luckdragon2009luckdragon2009 2011/12/19 14:41 ま、生活保護の件でもいえるのですけどね。
実質は、フェアトレードの原則が労働でも確立するのが第一ですね。

無論、個の救済のための争議は大事ですが、個に責を追わせすぎるのは、ちょっと過酷かと。

まずは社会のフェアを確立するのが大事でしょう。

労基法の遵守も含め、適正な労働環境を確立すること。
それが大事だと信じていますし、私はそれを目指します。

元ライダー元ライダー 2011/12/19 15:12 法務業の末席様

本来ブログ主がレスすべきことでしょうが、Yosyan先生はお忙しいようなので。
エントリ本文からですが、
「原告の意向は「カネでなく判決文が欲しい」です。280万円の請求と言っても、よく御存知の通り、弁護費用を払うと足が出ない程度のものです。一審だけで終ればまだしも、二審三審と争えば足が出てもおかしくありません。ですから本気でカネではなく判決文が欲しいでした。もちろんできれば「カネも欲しい」とは言ってましたけどね。それでも優先したのは判決文です。」

YosyanYosyan 2011/12/19 16:06 原告が判決文を望んでいたのは嘘偽りではありません。そういう姿勢をかなり頑張って示していたのも間違いありません。しかし訴訟は不慣れなものを消耗させる場です。気合を支える気力の消耗は微妙な関係で和解交渉に影響します。そもそも和解交渉の場と言うのも微妙なところで、判決を下す裁判官が入る場です。

情勢判断的に有利そうだと感じたところで、訴訟は水物です。勝利をどういう形で受け取るかで心理的に揺れ動く場でもあります。原告が満額支払いと言う形で勝利を受け止めた事に、私は非難をする気にはまったくなれません。外野から見れば不満足な部分もあり、原告自身も不満足な部分はあるとは思いますが、トヨタが支払った事は事実です。

エントリーの中でトヨタに利があったんじゃないかの論評をしていますが、この訴訟をどう活かすかは後に続くもので変わると思っています。たとえば訴訟に訴えても、さして手元に残る金がない、もしくは持ち出し覚悟で臨む者が増えればトヨタの思惑は狂います。またそういう戦術を取ると言う事を念頭においての戦いになれば、次はどうなるかは予断を許しません。

当事者のギリギリの判断は尊重すべきと思っています。原告は一つ道を切り開いたパイオニアとして敬意をもって接すべきだと私は考えています。

名無しのごんべ名無しのごんべ 2011/12/19 16:14 本来の趣旨からはずれてしまいますが

わたしはまったく違う分野ではありますが、同様の裁判(判決(+お金) or 和解(+お金)が選べる状況になった)を闘ったことがあります。
私の場合は一審で和解の謝罪書面なしに終わりました。(判決→和解で謝罪書面あり→和解で謝罪書面なしに流れていきました。。。)

かなりの特殊な状況下で相手のことだけでなく、裁判官の心証なんかも考慮して闘います。
本心から判決がほしくても和解のテーブルにつかないと裁判官の心証が悪くなるんじゃないかってのもすごくわかります。

お金ももちろん考えます。。。生活がありますから。。。
でもそれ以上に二審三審と争ったときの時間です。
その時間はすさまじいものです。
一審だけでも1年や2年なんかすぐです。(わたしは1年半かかりました。)
その間中、相手のことが憎らしくて。。。気づけばそのことばかり考えて、いつも心が黒い感情で覆われます。
心の疲労は言葉では表せません。
二審三審と考えただけでもおそろしいです。

わたしが言いたいのは「本気でカネではなく判決文が欲しいでした。」とありますが、途中で思いの比重が変わったり、メインとオマケが入れ替わったりもしたのではないでしょうか。あと判決文とお金以外にもいろいろと要因があっても終わってしまい他のだれかに話すときは最初の思いだけを伝えてしまう。

経験したものでないとわからないこと、言葉には変えがたいこと、うまく伝えれない感情、、、
それほどまでに特殊な状況下なのです。裁判とは。。。

きよ@XXXきよ@XXX 2011/12/20 06:05 こちらのブログにはいつもお世話になっております。この裁判をトヨタの勝ちとするかどうかは他の医師次第ではないでしょうか。Yosyan先生がおっしゃるとおり、次に続く(気概がある)人に一つ道が切り開かれたのは事実です。産婦人科勤務医を続けながらトヨタ相手にこれだけの成果を勝ち得られた原告先生は素晴らしいと思います。

10年ドロッポ10年ドロッポ 2011/12/20 09:36 >エントリーの中でトヨタに利があったんじゃないかの論評をしていますが、この訴訟をどう活かすかは後に続くもので変わると思っています。たとえば訴訟に訴えても、さして手元に残る金がない、もしくは持ち出し覚悟で臨む者が増えればトヨタの思惑は狂います。またそういう戦術を取ると言う事を念頭においての戦いになれば、次はどうなるかは予断を許しません。

そういや武富士って潰れたんだよね(ぼそっ

>その間中、相手のことが憎らしくて。。。気づけばそのことばかり考えて、いつも心が黒い感情で覆われます。
心の疲労は言葉では表せません。

それだけに完全勝訴の判決文は値千金なんですよね。私も貰った事ありますがw、憎い憎い相手を完全否定してやったあの高揚感、達成感!物理的に亡き者にしてやったとしてもあそこまで気分はよくないでしょうねさすがに経験はないけどw。苦労の甲斐はあった、と断言出来ます。
*個人の感想ですw

none_2217none_2217 2011/12/20 21:21 労働基準法37条に違反すると、6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金という罰則を喰らうと書かれていたんですが、それは適用できなかったんですかね…
適用できれば、トヨタのイメージ低下は免れないと思うのですが

法務業の末席法務業の末席 2011/12/20 22:25 >労働基準法37条に違反すると、6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金という罰則を喰らう

同じように当直勤務の時間外労働割増賃金を請求した、奈良県立病院の民事訴訟を覚えておられますか?
奈良の件では、1審2審とも当直は時間外労働と認め、労基法37条に定めた通りの時間外割増賃金の支払いを命じる判決が出ています。その判決を根拠にして、労基法37条違反で奈良労基署に刑事告発した人がいるのです。
http://d.hatena.ne.jp/Yosyan/20101125

奈良労基署はこの告発を受理して、奈良県知事など病院設置者の刑事捜査を行い、奈良地検に書類送検しました。しか〜し誠に残念ですが、奈良地検は最終的に不起訴としてしまい、病院設置者の奈良県知事を刑事訴訟の法廷に引きずり出すことは実現していません。

民事訴訟で完璧に時間外労働と認めた判決が出た奈良県立病院事件でも不起訴です。この刈谷豊田病院の民事訴訟は和解で終わっていますので、奈良県立病院での結果とも条件が違っています。

労基法違反での刑事罰(刑事裁判での有罪判決)は、なかなかハードルが高いのです。。。。

名無しのごんべ名無しのごんべ 2011/12/21 09:46 10年ドロッポ様

>それだけに完全勝訴の判決文は値千金なんですよね。
もらってみたいです。。。高揚感、達成感、想像しただけでも気持ちよさそうですね。しかも実際になってくるとさらに想像以上の。。。うらやましいです。が、もう一度という気にはならない(なりたくない)ので一生味わうことはできないでしょうね

none_2217none_2217 2011/12/21 17:10 >法務業の末席
ふむぅ、結構厳しいんですね
ここらへんのハードルが低ければ、ブラック企業とかサービス残業も横行せずに済むのですが…

お弟子お弟子 2011/12/22 00:24  他の分野だと、裁判に向けての証拠能力の問題や、裁判してもその影響力の低さ(刑事裁判は一罰百戒効果も狙われるので)を検討されるのですが、こと医療業界に対してはその影響力の広がりが逆に考慮されて起訴が抑制的になっているふしがあるのではないかと。つ〜か、もっと早々にやっていればと思わないでもないです。「これらの法律の規定に違反している事実が認められた場合には使用者に対し是正のための指導を行うほか、悪質な事案については刑事事件として取り扱うことも含め、厳正に対処していくこととしている」なんて答弁が小泉総理大臣時代にもなされているんですけどね。。。http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/syuisyo/154/touh/t154001.htm

YosyanYosyan 2011/12/22 08:33 お弟子様

 >こと医療業界に対してはその影響力の広がりが逆に考慮されて起訴が抑制的になっているふしがあるのではないかと

労働訴訟全般にそういう傾向があるように感じています。本来的には労働組合が、訴訟に依らずして交渉でなんとかすべきぐらいの考え方がベースにあるような気がしないでもなく、個人が訴訟でなんとかするは例外的な手法ぐらいに置いている感じなのでしょうか。もともと実質的に労組が存在しないと言う意味では勤務医はやや特殊なのかもしれません。


 >つ〜か、もっと早々にやっていればと思わないでもないです

時代の流れ、勤務医の意識の変化を考えると「難しかった」とするべきのように思います。お弟子様が経験された様に、当時はそういう行動をするというだけで医師からも総攻撃を受けかねない時代でしたから、仕方がない気もします。無関心でしたからねぇ。

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