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ちくちく日記 このページをアンテナに追加 RSSフィード Twitter

2013-08-28

もじもじカフェ 映画字幕師・佐藤英夫の仕事とデジタル化

もじもじカフェ 第39回「映画字幕師・佐藤英夫の仕事とデジタル化」に参加してきました。

今回のテーマは「映画字幕師」映画字幕の第一人者佐藤英夫氏の仕事と、その文字のデジタル化について。

佐藤英夫氏は映画字幕師として40年以上2500本以上の映画の字幕を手がけてこられた方。「タイタニック」「アラビアのロレンス」「ウエストサイドストーリー」など数々の名作が佐藤氏の作品。残念ながら今年7月に他界されたということですが、その佐藤氏の字幕文字はご子息である武氏により「シネマフォント」としてデジタルフォント化されています。今回は佐藤武氏に映画字幕のお仕事と、そのデジタルフォント化についての話をきくという会でした。

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▲佐藤英夫氏

「シネマフォント」は「さとうけや」で販売されています。

「さとうけや 楽天」http://item.rakuten.co.jp/satoukeya/c/0000000101/

「さとうけや」http://satoukeya.com/index.html

DTPネタからはちょっと離れてるかなーと思いつつも、面白い話だったのでレポートします。

例によってレポートは私の手書きメモからの書き起こしですので、細部に違いがある場合があります。


父が字幕を書くに至るまで

まず、父が字幕を書く事になった経歴を。

父は最初は電機メーカーに就職をしたんですが、そこが退屈ですぐに辞めてしまった。その後叔父の所に居候していたんですが、この叔父というのが高瀬鎮夫氏。『カサブランカ』の「君の瞳に乾杯」など名訳で著名な映画翻訳の第一人者です。

高瀬氏の事務所には、翻訳者と一緒に「書き屋」と言われる映画字幕師のおおいまこと氏などもいました。

当時は終戦後で、映画はアメリカで映画館に配られるポジフィルムの余剰プリントを買ってきたもの。

ポジフィルムなので、直接フィルムに傷を付けて文字を抜く。このポジに字幕をつけるという技術は中国、韓国の方が先行していたので、そこから機械を買って制作していました。

父は子供の頃から手先が器用でした。なので、人の文字を真似して書くのも上手だったんですね。

ある時書き屋さんの一人が急病でその代役として字幕の文字を書く事になった。それがスタート。

当時1タイトル書くと20円。うどん一杯20円の時代です。月に4〜5本の映画をこなすと暮らしていけるぐらいのお金がかせげた。ですからかなり効率のよい仕事でした。

最初は、ポスターカラーで黒く塗った紙の上に筆と白のポスターカラーで文字を書いたそうです。

筆も、そのまま使うとひげが出ちゃうので、毛先をちょっと焼いて平べったくなるようにして使ったり、工夫していました。

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▲字幕原稿

映画の字幕というのは1秒に4文字です。1行で13文字、最大でも2行で収めるというのがルール。

その範囲に収めなければならないので、専用のゲージなどを作ってその枠内に書くようにしていました。

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▲専用のゲージ内に字幕文字を収めるように書く

当然翻訳もその文字数に収まるように翻訳しなければならない、ですから意訳というか細かいところを省いて意味が分かるような翻訳、これは戸田奈津子さんとかが得意なんですが、そういう翻訳をするようになった。

映画の字幕は2行になるとセンタリングをするんですが、これは文字数できっちり割って合わせるのではなく、文字のボリューム、重心がセンターに合うように書きます。ですからデジタルフォントのセンタリングとは同じにはなりません。

また、映画のフィルムはフィルムの縦横比をスクリーンの縦横比に合わせるためにあらかじめ縦長になるような変倍がかけて焼いてあるのですが、字幕の文字もそれに合わせて、投影したときにちょうどいいサイズになるように変形させてかきます。冒頭にでる映倫のマーク、あれも書き屋さんが書いていました。ですから丸の形がちょうどよくなるように調整して書くわけです。

さらに、隣にどんな文字が並ぶかによって、文字のボリュームなどを調整してかきました。

こういった、手書き作業でのポイントというのはそのままシネマフォントを作る時の課題になりました。


最後の手書き字幕

父がよく言っていたのは「字幕の文字は映画のストーリーを邪魔してはいけない」という事、インターフェースとして違和感無く読める文字。どんな字だったかというのが印象に残ってはならない、そういっていました。

通常、映画の字幕だと800〜1000枚ぐらいの字幕を書きます。これが裁判ものみたいなのだと1600枚ぐらい。逆にアクション映画だと少なくて5〜600になる。だから父はアクション映画が好きだと言ってましたね(笑)

父が最初から最後まで全部手書きでやった最後の仕事というのは「タイタニック」です。これが全て手書きで書いた最後の仕事になりました。

その後の「ゾロ」という映画がシネマフォントを使った第一号になります。これは大変苦労しました。


シネマフォント開発のきっかけ

最初にフォントを作ろうと考えたのは、父がだんだん暇そうになってきたのを見たからです。

映画の字幕に写植が使われるようになって、仕事が減ってきたんです。

書き屋による手作業での字幕制作は、すごく急いでやっても1本1週間ぐらいはかかる。人間がやるものだからミスもある。配給会社も安い方がよいので、どんどん写植に仕事がとられてしまう。

その頃レンタルビデオなどが出てきていた頃ですが、ビデオやDVDの字幕はほとんど写植でした。

実は、映画館でみる映画の翻訳とビデオでの翻訳は別なんです。権利の問題で、ビデオ化する時にあらためて翻訳をつけ直す事が多い。当然字幕も別です。映画の字幕は手書き、ビデオは写植ということも多いです。

私は元々半導体を作る会社に就職していて、設計の仕事などをやっていました。ですから、ソフトウェア、ハードウェアの両方が分かったんですね。

で、写植に対抗するにはフォント化するしかないだろうと思いました。

ですがその当時(90年代前半)日本語フォントを作るのはとても大変でした。ノウハウもないし、情報もない。

あちこちに問い合わせて、やっとエヌフォーさんから(1バイトフォントファイルをまとめて日本語フォントファイルにする)ロールアップツールを売ってもらいました。個人に販売したのは私が最初だと思います。

文字をフォント化することについて、父は最初は渋っていました。まず、これが完成すると書き屋の仕事がなくなるだろうという事。

父自身は書き屋という仕事は自分の代で終わりだろうと大分前から考えていました。私が子供の頃、軽く書き屋になろうかなみたいなことをいったのですが、やめておけと言われました。父は弟子もとりませんでした。大分前から父自身は書き屋という仕事がなくなると思っていたようです。

ただ、父以外にも書き屋さんはいましたし、書き屋を育てる学校のようなものもあった。ですからフォントにするとそういう方たちの仕事がなくなってしまうと考えていい顔をしなかった。

最終的に父が折れたのは、結局まぁ私が息子だからというか「(フォントを作って)手書きの仕事がなくなっても、フォントで仕事をすれば家としては仕事があるからそれでいいじゃないか」と説得しました(笑)


フォント化の苦労

字幕の文字をフォント化するにあたって、最初は1文字1文字書いてもらったのを並べればいいかと思っていました。

ですが、実際にそうやって並べてみると、バラバラになってしまって全然まとまらない。

字幕の字というのは、隣り合う文字によって、字のバランスを変えて書いているんです。画数の多い文字が文字数の多い行に入るときは線を間引いてしまって軽く見せたり。

例えば「大丈夫」という文字があります。この「大丈夫」など、3文字で一番上の横線の高さ、肩の高さが揃うように書きます。

ですがこの「大」という字を取り出して他の場所で使われている「大」に並べてみると横線の位置が違うんです。

だから、一文字一文字書いたものを並べてもバランスよく見えない。

隣り合う文字によってバランスを変える必要があることが分かって、今度は膨大な文字の組み合わせをチェックする事になりました。これは家族にも手伝ってもらいました。


シネマフォントでの字幕作成

字幕を作成するのに1本で1週間以上かけていては写植に勝てません。出来るだけ制作作業を短縮する必要があります。

字幕を書いた原稿、スクリプトというのですがこれを管理するのは、原稿の隅っこに書いた通しNoを使います。この番号を指定して修正や差し替えの指示が入ります。この番号の管理や抽出などを素早くやらなければならないので、FileMakerを使って字幕の作成、管理をすることにしました。

映画の字幕では句読点がつきません。代わりに読点は半角スペース、句点では全角スペースを開ける。

手書きだともっと細かくニュアンス的なスペースやカーニング処理をしている。でもFileMakerだとそれはできないので、フォントに細スペースなどを追加して、それを入れることで対応しました。

字幕には縦書きの物もあります。

字幕独特の処理として縦書きのイタリック処理がある。これは右上がり左下がりの斜体。

手書きではイタリックにしても太さを一定に書く事が出来るが、フォントを機械的に斜体にするとどうしても太いところ細いところができてしまい鼻につくようになる。

また縦中横の扱いなども難しい。縦中横フォントをつくったとしてもFileMakerでは呼び出せない。

FileMakerでこれらを解決するのは無理なので、早々にあきらめて、こういった処理はIllustratorでやるようにしました。


フォントワークスでの製品化

シネマフォントはフォントワークス社からも「ニューシネマ」というフォントとして製品化されています。

フォントワークスは手書き風フォントを多数だしているところと言う事で、手書きのテイストを残してフォント化してもらいました。

製品化された物を見て、最初は「(画一化されて)普通の丸ゴシックみたいにみえるなぁ」と感じましたが、実際ニューシネマで色々と熟語を組んでみるとどれを並べてもそれなりにしっくりとする。

字幕の文字としては自分の考える(父の書いた文字と同じような)ベストではないけれど、こういう風にある程度割り切らないとフォント化はできないだろうなと感じました。

フォントワークスのニューシネマは大分浸透してきたようで、たとえば山手線の動画CMなどみていると10分に1度ぐらいの割合で使われている。

父が常に言っていたように、文字自体が主張することなく、自然に使われているのをみるのは嬉しい。

シネマフォントは手書き字幕フォントとして、さとうけやで販売をおこなっています。「シネマフォント」という名前も商標登録しています。

もう10年ぐらいシネマフォント自体の開発はしておらず、使用したいところにロイヤリティとして貸し出すというような業務がメイン。

シネマフォントはニューシネマよりもっと特徴があるので、こだわりのある業務やテロップなどに利用されています




――ここから、参加者からの質問などに答える形に。トピックとしてメモしたものを載せます。質問の順番等は多少入れ替えています。また、その場で話した内容だけでなく後から懇親会で聞いた話なども含めています



学校を卒業した後、文字の仕事がしたくて書き屋の門をたたいたが『現在フォントを開発中でもう書き屋の仕事はなくなるから』といわれて断られました

それ(フォントを開発してるからというより)多分もともと採る気がないからそういったんだと思いますよ。


『大統領の陰謀』という映画があるのですが、背景が白い壁の前に字幕がでることがあって全く読めなかった

今はデジタル化してるので、うすく影をつけたりするけど、昔はポジを焼いて抜いていたので、どうしようもなかった。そういうクレームは多かった。

背景が白い場合は字幕の位置をずらして見えるところにおく、などしていた。

どうしようも無い場合に背景に黒い帯をつけて字幕を出すという処理もある。でもこれは自分も一度しか見た事が無い。


話を聞くと、手書きの字幕では改行のバランスの取り方や、スペースの入れ方、カーニングの入れ方など大変細かい独自のノウハウがあった事が伺われるのですが、こういったノウハウは今後失われてしまうのではないでしょうか?

まったくその通りでおそらく絶えてしまうでしょう。実際、父に直接話を聞いた自分でもすべてを吸収できていない。


佐藤さんのポリシーとして「インターフェースとして違和感無く、映画を邪魔しない文字」というのがあるようですが、それにしてはシネマフォントはとても個性的で独特の形をしています。これはどうしてでしょう?

半分ぐらい想像を含めて話をします。

シネマフォントの独特な文字というとたとえばひらがなの「る」「う」「ら」などが特に個性的だと思いますが、多分映画で字幕を読むというのは皆さんある程度速読しているという状態だと思います。ですので、誤認しやすい文字をあえて特徴的な形にすることによって認識しやすく、読み間違えないようにああいう形になっていったのではないかと思います。

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▲「る う ら」など特徴のある文字



シネマフォントはなぜ線が途中で切れているのでしょうか?

シネマフォントには「パチパチ文字」と「焼き込み文字」の2種類があります。これはそれぞれ字幕の入れ方の違いなのですが「焼き込み文字」というのはネガフィルムに使う文字で一緒に文字を焼き込んでしまう。ですのでこれは文字の線が切れていません。

「パチパチ文字」というのはポジフィルムの方につかいます。これはすでにあるポジフィルムに対して、文字の部分だけ色層の部分を焼いてしまいます。

焼く為に、銅などで凸版のはんこを作るのですが、この銅のはんこを作るのにエッチング処理をするとき、流した液が逃げるところが必要なんです。なので、液が逃げるように文字のところどころに切れ目が入ったようなデザインになります。

ただ、不思議なのは、たとえば「ぴ」とかのまんまるの部分、こういうまんまるのとこだと切れ目がなくても大丈夫らしいです。この辺は自分もちょっと納得できてないんですけど。

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「パチパチ文字」はフイルムに穴を開けるので切れてしまわないように所々つなげていると聞いた事があるんですけど?

いえ、実際にはフィルムの色層の部分だけを削るような形なので、穴はあかないです。金属のはんこをフィルムにあてて削っていくんです。その時にフィルムが版にあたる音が「パチ、パチ」というので「パチパチ文字」というんだそうです。フィルムに触ってみると傷があるというか文字の形にくぼんでいるのがわかりますが、穴はあいていません。

画数の多い文字が続くときは略字に変更する。例えば「攻撃準備」の「撃」など、崩した略字にする。それだけ出されると読めないが、文章として入っていると不思議と読める。

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▲「撃」を略字にした例

画数を抜くのは「パチパチ文字」の時。画数が多いとつぶれてしまうので。もんがまえなども、略字にします。しかしこれをやると小学校中学校の先生から「間違った字を書くな」とクレームが来たりする。

書き屋としては「パチパチ文字」より「焼き込み文字」の方がいいお金になったので、皆こちらをやりたがったそうです。

でもフォント化する時は父には「『焼き込み文字』より『パチパチ文字』の方が映画らしくていい」といってこちらから作りました。


翻訳者の翻訳が気に食わないときなどはなかったのか

基本的に力関係は翻訳者の方が上なんです。書き屋は配給会社から仕事を貰うだけですから、文句を言ったりしたら仕事が貰えなくなってしまいます。ただ、付き合いが長い翻訳者さん相手だと、長年の経験でこうした方がいいよとアドバイスをすることはあったようです。


「書き屋」は今でもいるんですか?

私自身は一人も存じ上げません。職業としてはもう成り立たないと思う。定年後とかに趣味で書いているというような人はいるかもしれない。

でも父もそうだったんですが、しばらく書かないでいると書くための道具なんかにも錆がでちゃったりして、道具を整えるだけで一日かかったりするんです。それにこれは父だけかもしれませんが、しばらくぶりだと手が震えちゃって思うような線が書けないと言ってましたね。


現在の映画の字幕では、手書きのような細かい調整はやっていないのか

手書きほどの調整はしていませんが、カーニングとか、ある程度はやっています。

例えば「ハリーポッター」みたいな絶対にヒットすることが分かっている映画では、かなり調整します。

でもインディーズ映画とか低予算のものだと調整せずただ並べるだけみたいなのもあります。


「大丈夫」という文字の並びでは「大」の字形が変わるなどの組み合わせによる字形変更調査をやったという話がありましたが、実際にその字形が変わるというのをシネマフォントでどうやって再現しているのでしょうか?

家で字幕を組んでいたものについては、数種類フォントを作って使い分けていました。


(会場にいるフォントメーカー関係者数名に)前後にくる漢字によって、字形を使い分けるというのはフォント技術として可能か?

イワタ「機能として搭載するのは可能だと思います。たとえば欧文のリガチャ機能でfとiがきたときに字形がつながるという処理がある。ああいった仕組みと同じように考えれば可能」

タイプバンク「タイプバンクではかなフォントですが下の字を受けて上の字がかわるというフォントをだしています。GSUBなどの仕組みをつかえばそういうことは可能です。ただし、これを全ての漢字に対してやるというのは大変。技術的には可能でも、コストの面でペイ出来ないので」

大日本スクリーン「技術的には可能だけど、テストが大変だし、コストが問題だと思います。ただ、かづらきフォントのように連続する日本語フォントというのも最近でてきていますし、今後そういうフォントの開発に適したツールがでてくれば開発のハードルは下がるかもしれません」


(そういった合字などの)様々な機能を盛り込んでOpenType化するとして、どのぐらいの文字数が必要だと思いますか

(まず機能を盛り込むという事について)最初にシネマフォントで字幕を作った時、全体の半分ぐらいの文字はやり直した(機能をつけるといっても)そのぐらい大変。

文字数については、実際映画で使われる文字というのはかなり少なくて、私もフォント化する時に父のいままでに書いた文字などをあつめてきてみたら同じ文字は何度も何度もでてくるんだけどまったく出てこない文字というのもある。

フォントには記号や罫線といったものも必要だから、そういった物も父に書いてもらった。漢字ドリルのような升目を作ってそこに書いていってもらうんですが、めんどくさがってましたね(笑)

写植の字幕が出てきた時に「いままでの(手書きの)字幕の方が読みやすい」というような投書もあったりしたんです。それで父はフォント化をやろうと思ったのかもしれません。


(参加者の一人から大量の字幕文字原稿の持ち込み)実際に映画の字幕で使われた原稿をもっているのですが、佐藤英夫氏の字かどうか判定してもらえませんか?

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▲参加者の方が持ち込んだ字幕原稿のうちの一つ

うーん…これは多分父の字ではないですね…。ちょっと細かいところが雑というか…。

たとえば、この「おおおお」と同じ文字が続いている部分、父が書くとスキャナでとって重ねたときにぴったり同じに重なるんです。この字はちょっと点のあたりとかにばらつきがありますね。

字幕というのは基本的に一人で1本の映画を全部担当します。

なぜなら、ストーリーの途中で文字が変わると違和感を感じるから。文字はロットリングペンで書くのですが、映画の最初から書いていって、最後の方になるとペン先がつぶれて、スタート時に1mmだったのが最後には1.2mmになってる。だからペンも同じ一本のペンで最初から通して書いていきます。途中で急に太さが変わると違和感がでてしまうからです。

父は器用でしたので、他の書き屋さんの文字をまねる事ができました。ですから急遽文字をまねてのピンチヒッターをやることもあったようです。

腕は大事にしていましたね。子供の頃から右手では絶対に腕相撲をとってくれませんでした。これでお金を稼いでいるのだからといって。

基本的に書き屋さんは、紙に書いた文字を見られるのはいやがりますね。映像と一緒に流れていくものなので、紙で見られるとやっぱりアラが見えてしまう。


(もちこまれた字幕文字原稿をみて)これは日本語映画のようですが、それでも字幕があるんですか?

聴覚障害者用に字幕がつく上映があるんです。台詞以外にも足音など音声になるところを字幕にします。

父は電話で話しているシーンなどで、電話だということが一言で分かるように台詞の頭に電話の絵文字をいれたり、カモメの鳴き声である事がわかるようにカモメの絵を入れたり工夫していました。


佐藤氏の普段の字はどんな文字でしたか?字幕の文字に似ていたのでしょうか?

まったく違いました。私と同じように汚い字で、読むのに苦労をするぐらい(笑)

「ちゃんと書いてよ」というと「金にならない字は書かない」っていってました。

ただ、手先が器用だったのでレタリングとかそういうのは上手だったようで父が高校時代に文集の表紙を書いたというのが、まるでワープロで打ったようにきれいな明朝体でした。あれを見た時は「すごいなぁ」と尊敬しました。


縦書きの字幕というのはどのぐらいの割合であるのか

昔の映画は縦書きが圧倒的でした。今でもノスタルジックな雰囲気を出す時に縦組にしたりします。

横組が増えてきたのは、縦だと視線が左右に移動するので下に横書きで置いた方が読みやすいからだと思います。

挿入歌の歌詞などは縦で置いたりしますね。最後のエンドロールが流れるので、それを邪魔しないように。



字幕は中央揃えで書かれますが、その理由は?左揃えの方が読みやすいのでは?

好みの問題だとおもいますが、中央揃えで字形の重心が揃っているほうがよみやすいのでは

字幕の中でもたとえば記事などを読み上げているような部分では、左揃えにします。

あと、父が韓国語、中国語の字幕を引き受けたことがあったのですが、それは左揃えでしたね。


映画で横書きが増えたのはいつ頃からか

はっきりとは分かりませんが30年前ぐらいまでは縦書きが多かったと思います。

そのころから字幕を書く為のケージに横組のものがふえてきた。


縦書きと横書きで、文字を変えているところはあるのか

手書きでは3〜4割の文字に違いがあったと思う。ただ、シネマフォントの方ではその辺の違いは追いきれていません。


1行13文字で入りきらない文字量が来たときはどうするのですか?

フレキシブルに対応してました。たとえば「" "」や「―」といった文字は文字数としてカウントされないんです。

ですから、そういう文字が入ってきたときは他の文字をつめたりして調整します。


イタリックの出方など、映画字幕ならではの文法のようなものはありますか

イタリックの法則 今、画面に出ていない人が話している言葉はイタリックでだします。

例えば、電話の相手の声とか、回想シーンで「○○年○月ベルリン――」のような。イタリックにするかどうかの指定は翻訳者さんから指定がはいります。

" "は言葉にそれ以外の意味を持たせる時に使用。

例えば「あの男がそういったんだ」「"あの男"がそういったんだ」のように、言葉に含みを持たせる

文字の強調は圏点で。文字のボールド指定ができないので、強調したい文字については圏点をつける

句読点はなく、スペースで表現。カタカナの「タ」「ト」のようにつながると他の文字に見間違えてしまう文字列なども間に微妙にスペースをいれたりして見間違わないようにする

2行で収まらず次の字幕につづくときは「―」と1.5倍角の音引きが入る


シネマフォント(とニューシネマ)が広告などで使われているという話で、実際に町の広告をみるとフリーフォントのもっと安い字幕風フォントが出回って使われているようですが…

フリーフォントは手軽につかえて映画っぽいイメージをだすのに使ってるのだと思う。高級志向の広告などではちゃんとシネマフォント(やニューシネマ)を使ってもらってます。

ちなみに、あのフリーフォントとシネマフォントの違いは「の」の形を見てもらえばすぐわかります。

字幕で使われているあの文字をみて「映画っぽい」と感じるのは日本だけです。ですのでシネマフォントは海外では売れません。


なぜシネマフォントで制作する字幕をFileMakerで制作しているのでしょう。単純に番号管理したいだけなら、ファイル名に番号をつけてIllustratorで作成した方が細かい調整ができるのではないか?

番号で抽出したいというだけならそうなんですが、実際には全ての台詞のなかの特定の文字だけ差し替えたいなど、台詞の内容まで含めて抽出するような細かい検索抽出が必要なので。


【感想】

手書きの字幕文字というのは、良くも悪くも職人技だったのだなーと。

それぞれの字幕ごとにバランスを変えて書くといった細かい調整はデジタルの画一フォントではなかなか処理できないところ。

武氏がシネマフォントを制作し、字幕制作をデジタル化するにあたって、英夫氏の仕事を再現するためにかなり細かいノウハウを積み重ねているようなのですが(たとえば「大丈夫」という熟語を表現するのにその為のフォントを作成し切り替えたり、細かいスペース調整を行う為に幅の違うスペースを作って入力したり)武氏の制作環境(FileMaker+シネマフォント)にカスタマイズされたかなり独自のノウハウとなっているため、これを他に展開するのは難しそう。武氏も「息子にこれ(シネマフォントを使った字幕制作のあれこれ)を引き継がせようとは思わない」といったお話をされていたので、残念ながらこういった手書きのノウハウというのはもう失われてしまうのでしょう。

しかし、正真正銘腕一本、文字一筋で40数年家族を養いしっかりとお仕事をされきったという佐藤英夫氏の人生には尊敬と同時に羨ましさを感じます。

ご本人も映画が大好きだったという事で、完成した映画の試写を楽しみにしていたというお話からはお仕事を楽しんでいらしたのだろうなとうかがえました。

字幕というのは映画の裏方で、書き屋の名前は表にでることはないといいますが「あの文字をみるだけで映画を連想するのは日本人だけ」というぐらい、文字を見ただけで日本人のほとんどが映画が連想できてしまうほど、佐藤英夫氏(と、その他の書き屋の皆様)のお仕事は日本人に浸透しています。それは名前が出る事よりもよっぽどすごいことなのではないかと思ったりもするのです。

文中、佐藤英夫氏のお写真などは「さとうけや」より転載させていただきました。

快く転載の許可をくださった佐藤武様、ありがとうございました。

また、字幕文字の例文はフォントワークスの「ニューシネマ」で作成しています。(…シネマフォントもってないので…)

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