改めて言う必要もないだろうが、大ベストセラーとなった村上春樹の小説。ブームが去ったためか、たまたま近くの図書館の書架にあったので、借りて読んでみた。
上手いと思うところはある。オーウェル「1984」を意識したタイトル、ビッグブラザーに対するものとしての「リトルピープル」という存在、そして、他の作品にも共通するが、ミステリ風に謎をちらつかせながら話を進めて行く語り口。手練の小説であることは間違いない。
しかし結論から言えば、大した小説ではないと思う。小学校の同級生であった二人の主人公「青豆」と「天吾」が、再び出会って終わりというロマンチックラブストーリーは、まさに予定調和ではないのか。オウム真理教(およびヤマギシ会)を直接に連想させる宗教団体は、想像力の枯渇ではないのか。繰り返される性交と死とで読者の感情を揺さぶる手口は、「ノルウェイの森」などで春樹が何度となく使ってきたものだ。そして、わざとなのであろうけれど、初めから英語からの翻訳作品のような、登場人物たちの会話体の不自然さ。宗教団体で育てられた「ふかえり」が変な発話をするのはよいとして、「青豆」や「天吾」の会話も、相当に変だ(そう言えば登場人物の命名も、「青豆」というのは狙い過ぎだろう。「深田恵理子」だの、「安達クミ」だのというのも、実在の芸能人を思わせる)。
読ませる力はあるが、では読んで何が残ったかと言うと、「やれやれ」である。こんな小説が売れるのは、小説家にとっては希望だが、日本文学全体にとっては「?」だ。これを村上春樹というネームヴァリューなしに、どこかの出版社に持ち込んだとしたら、出版されていただろうか?
- 作者: 村上春樹
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2009/05/29
- メディア: 単行本
- 購入: 45人 クリック: 1,408回
- この商品を含むブログ (1247件) を見る
- 作者: 村上春樹
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2009/05/29
- メディア: 単行本
- 購入: 40人 クリック: 432回
- この商品を含むブログ (925件) を見る
- 作者: 村上春樹
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2010/04/16
- メディア: ハードカバー
- 購入: 70人 クリック: 2,125回
- この商品を含むブログ (644件) を見る