1Q84

改めて言う必要もないだろうが、大ベストセラーとなった村上春樹の小説。ブームが去ったためか、たまたま近くの図書館の書架にあったので、借りて読んでみた。
上手いと思うところはある。オーウェル「1984」を意識したタイトル、ビッグブラザーに対するものとしての「リトルピープル」という存在、そして、他の作品にも共通するが、ミステリ風に謎をちらつかせながら話を進めて行く語り口。手練の小説であることは間違いない。
しかし結論から言えば、大した小説ではないと思う。小学校の同級生であった二人の主人公「青豆」と「天吾」が、再び出会って終わりというロマンチックラブストーリーは、まさに予定調和ではないのか。オウム真理教(およびヤマギシ会)を直接に連想させる宗教団体は、想像力の枯渇ではないのか。繰り返される性交と死とで読者の感情を揺さぶる手口は、「ノルウェイの森」などで春樹が何度となく使ってきたものだ。そして、わざとなのであろうけれど、初めから英語からの翻訳作品のような、登場人物たちの会話体の不自然さ。宗教団体で育てられた「ふかえり」が変な発話をするのはよいとして、「青豆」や「天吾」の会話も、相当に変だ(そう言えば登場人物の命名も、「青豆」というのは狙い過ぎだろう。「深田恵理子」だの、「安達クミ」だのというのも、実在の芸能人を思わせる)。
読ませる力はあるが、では読んで何が残ったかと言うと、「やれやれ」である。こんな小説が売れるのは、小説家にとっては希望だが、日本文学全体にとっては「?」だ。これを村上春樹というネームヴァリューなしに、どこかの出版社に持ち込んだとしたら、出版されていただろうか?

1Q84 BOOK 1

1Q84 BOOK 1

1Q84 BOOK 2

1Q84 BOOK 2

1Q84 BOOK 3

1Q84 BOOK 3

どん底

福岡県南部の立花町(現在は合併して八女市の一部)で発生した、部落差別自作自演事件を徹底して追ったルポルタージュ
部落に住む市役所の臨時職員で、地区の部落解放同盟の会計係をしている山岡一郎(仮名)のところに、「辞めさせてください」との「差別葉書」が届く。その後も断続的に、山岡や、同僚のところに、葉書のみならず、カミソリを入れた封書が届いたり、山岡が預かっていた同盟の積立金70万円が盗まれる、といった事件が続くのである。
実は当初から、山岡の自作自演ではないかと疑う者はいた。山岡はその後、経験を講演して歩くことで、相当の講演料を手に入れていたからである。また、山岡が、結婚によって部落の姓を奥さんの姓に変えていたことも、部落の内部の人にとっては、癪の種であった。「それなら部落を出て行け」という者もいた。つまり、部落としての特典(安い公営住宅など)を受けながら、自分は部落を捨てようとしているのではないかと思われたのである。
結局警察が大々的な捜査を始めると、指紋やDNAなどの物的証拠からやはり自作自演であることが判明し、山岡は執行猶予付きの有罪判決を受けることとなる。
著者高山文彦氏の、山岡に対する視線は厳しい。特に、山岡が真剣に反省をしていないように見えるところが、高山氏の怒りを買っているようだ。確かに彼は犯罪者であり、部落への裏切り者であり、また、安月給であるのにパチンコにはまるなど、だらしのない人物でもある。だが、差別に直面してきたという点では嘘はなかろう。市役所等に多大な迷惑を掛け、部落解放運動に対しては大きな汚点を残すことになったのは間違いないが。
どん底 部落差別自作自演事件