天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

月の詩情(12/12)

山廬(webから)

□逝去(昭和三十七年十月三日)
 四男の龍太は、父母の死に際して次の追悼句を詠んだ。いずれも月が
 入っている点、印象的である。月の持つ「はるけさ・懐かしさ・
 哀しさ」といった象徴性と浄化作用が現れている。リアリティに
 裏打ちされていて身近に感じられる秀句。
     月光に泛べる骨のやさしさよ
                 『麓の人』(父・蛇笏の死)
     母逝きしのちの肌着の月明り
                 『麓の人』(母・菊乃の死)


おわりに
俳句において月と取り合せることで喚起されるさまざまの詩情を見てきた。現代の読者にとっては、飯田蛇笏の諸例が一層身近に感じられるのではないか。
なお古典を踏まえた俳句は、現代俳人も作っている。国文学を専門とした川崎展宏は、古典文学からの本歌取りを得意とした。月の俳句にも次のような作品がある。
     業平忌月やあらぬの月もなく
これは在原業平の歌「月やあらぬ 春や昔の 春ならぬ 我が身ひとつは もとの身にして」を踏むユーモアの句。


参考文献
 (一) 堀信夫監修『芭蕉全句』小学館 
 (二) 藤田真一・清登典子『蕪村全句集』おうふう 
 (三) 丸山一彦校注『一茶俳句集』岩波文庫 
 (四) 高浜虚子選『子規句集』岩波文庫 
 (五) 『新編 飯田蛇笏全句集』角川書店
 (六) 丸山哲郎『飯田蛇笏秀句鑑賞』富士見書房
 (七) 石原八束『飯田蛇笏』角川書店
 (八) 『季題別 飯田龍太全句集』角川学芸出版
 (九) 『春 川崎展宏全句集』ふらんす堂
 (十) 佐佐木信綱校訂『山家集岩波文庫
 (十一)福田甲子雄『蛇笏・龍太の山河』山日ライブラリー
 (十二)福田甲子雄『蛇笏・龍太の旅心』山日ライブラリー
 (十三)佐伯梅友古今和歌集岩波文庫
 (十四)佐佐木信綱校訂『新古今和歌集岩波文庫
 (十五)久保田 淳校注『千載和歌集岩波文庫
 (十六)『飯田龍太全集』第三巻、第四巻 随想Ⅰ、Ⅱ 角川書店


[注]これまでに「雪の詩情」(2017-04-05から2回)と「花の詩情」(2017-04-12から6回)
   について、私の考えを述べたが、ここでは「月の詩情」を取り上げた。これで詩歌の
   風雅の三要素「雪月花」に関する私の考察がまとまった。