いつもお世話になっている方の出身校が、この小説の舞台になっているそうで、面白いから読んでみて、と貸してくれました。
タイトルにもなってる成瀬さんが、すごく魅力的でした♪
小説の一部を紹介してもよくわからないかもしれませんが(;^ω^)、雰囲気が伝わるかなと思う部分を書きとめておきたいと思います。
P154
「成瀬さんはいつからかるたをはじめたの?」
「高校に入ってからだ」
成瀬さんは三回の大会で初段、二段、三段とストレートで上がってきたという。
「きのうがB級デビューだったが、さすがに厳しかった。もっと上を目指すには、美しい取り方を研究しないとだめだな」
成瀬さんは素振りをするように手を動かした。
「成瀬さんの目標は?」
「わたしは二百歳まで生きようと思っている」
かるたにおける目標を訊いたつもりだったのに、壮大な目標を聞かされて面食らう。冗談かと思って表情をうかがうが、いたって真剣そうだ。
「さすがに二百歳は……大変そうだね」
否定するのもよくないかと思い、率直な感想を述べた。
「昔は百歳まで生きると言っても信じてもらえなかっただろう。近い将来、二百歳まで生きるのが当たり前になってもおかしくない」
成瀬さんは生存率を上げるため、日頃からサバイバル知識を蓄えているそうだ。
「わたしが思うに、これまで二百歳まで生きた人がいないのは、ほとんどの人が二百歳まで生きようと思っていないからだと思うんだ。二百歳まで生きようと思う人が増えれば、そのうち一人ぐらいは二百歳まで生きるかもしれない」
唐突に、成瀬さんが好きだ、と思った。認めた、と言ったほうが正しいだろうか。もっとそばにいて、もっと話を聞いていたい。このままずっと、ミシガンが琵琶湖の上を漂ってくれればいい。視界の隅で結希人が俺たちの方にスマホを向けているのが見えたが、構っている暇はない。
「成瀬さんは、好きな人いるの?」
仮にいなかったとして、俺に勝機はあるのだろうか。今日中に広島に還らなくてはならないし、頻繫に会いに来るような財力はない。
「それはつまり、恋心を抱く相手がいるかという質問か?」
「うん」
成瀬さんは「はじめて訊かれたな」とつぶやき、顎に手を当てて何やら考えている。
「そのような質問をするということは、西浦はわたしが好きなのか」
我ながらカッコ悪すぎて、奇声を上げて琵琶湖に飛び込みたくなった。回りくどい質問などせずに事実を伝えたらよかった。
「ごめん、なんでもな……」
「この短時間でわたしのどこに惹かれたのか教えてくれないか」
成瀬さんが俺の目を見て尋ねる。
「だれにも似てないところかな」
考える前に口から出ていた。少なくとも、これまで俺が出会ってきた女子の中に成瀬さんのような人はいなかった。成瀬さんは「なるほど」とうなずく。
「しかし大津にもわたしに似た人はそうそういないはずだが、好きだと言われたことはない。おそらく西浦に引っかかる何かがあったんだろうな」
成瀬さんは再び視線を遠くに向けた。もっと気の利いたことを言うべきだったのだろうか。さっきは心地よく感じられた沈黙も、今はじわじわ俺を責めているような気がする。
「一周してきたけど、すごいね」
結希人が興奮気味にやってきた。助けに来てくれたのか、単なる偶然か。
「西浦にもほかの場所を案内しないとな」
成瀬さんは何事もなかったかのように立ち上がり、階段に向かって歩いていった。