J・エドガー

FBI初代長官、ジョン・エドガー・フーバーレオナルド・ディカプリオ)は40年間近くアメリカの秘密を握り続けてきた。彼は回顧録を残そうと考えて、自らのキャリアについて語りだす。

1919年、当時の司法長官の家が爆弾テロ事件の捜査で注目された彼は、FBIの前身である司法省捜査局の長官代行となる。そんな彼を支えたのは、生涯彼の右腕であったクライド・トルソン(アーミー・ハマー)と秘書のヘレン(ナオミ・ワッツ)、母親のアニー(ジュディ・デンチ)だった…

観賞日

2012年1月30日





【75点】










FBI長官、ジョン・エドガー・フーバー。「フーバー長官」として名高い(悪名高い)彼の人生を、巨匠・クリント・イーストウッドが描いた。



アメリカの歴代大統領を影で脅かし続けた40年にもおよぶフーバーの物語ということで、ダイナミックな出来事が描かれているかと思われがちだが、驚くほど淡々と事実に即した伝記映画として描かれている。


言わずもがなエドガーが物語の中心になっている。ここで強調したいのは、”フーバー長官”ではなく、”J・エドガー”であること。
長官ではなくて、エドガー個人に迫ったものになっている。


8人もの大統領の時代で長官をしていたが、あまり大統領の影を感じなかったのも事実。まあ似てる人を準備したりするだけでも、大御所の役者を準備したりしなければ世論やホワイトハウスがOKを出さないだろうからいろいろ大変だとは思うが…


















これまでのイーストウッドの映画で描かれたことのあるダイナミズムや感動モノを想像するとあれ?と間違いなくガクッとくると思うのでそこは注意していただきたい所。だらだら系苦手だと寝てしまう恐れも(笑)



だが、イーストウッドの得意とするところは「退き際の人間」の描き方。『許されざる者』、『グラントリノ』、『ミリオンダラーベイビー』などではイーストウッド自らがリタイア後の人間を演じ、『ヒアアフター』では生死の際を描いた。

今作も、キャリアの終盤に差し掛かっているエドガーが自身のキャリアを振り返る、という所でイーストウッドの上手さが生かされている。明確な描き方はせず、それとなく匂わせるのもイーストウッド流か。
















エドガー自身の性癖やマザコン加減、司法省に入る前までの過去など、断片断片の情報は提示されるが観客に判断がゆだねられる部分は数多い。事実を基にしているだけあって、FBI長官がこんなだったのかーと勉強になる点も多い。




ある意味、人間性の一部が屈折しているからこそ、当時としては全く新しい科学的な捜査の導入や指紋データベースを作成するというアイディアなど革新的なことを考案し、実行できたのだろう。
この映画は、エドガーの功績と彼自身の性格を照らし合わせてみると、なかなか面白い。
なので、アメリ近現代史を全く知らないとかなり苦戦すること間違いなしだ。大西洋を横断飛行した英雄リンドバーグや映画『パブリック・エネミーズ』で出てきたギャングスターたち、ケネディ大統領の弟・ケネディ司法長官などがちんぷんかんぷんだと途中でキツくなりかねない。(知らなくてもなんとかはなるけど、知ってるほうが絶対良い)





イーストウッドエドガーをありのままに描こうとしているために、とても共感できる!っていう感じにはならないけれども。それが正しい反応かもしれない。まさしくこの人にして、この組織ありといった具合か。















ディカプリオは20代から70代までを特殊メイクをつかって演じ分けた。


もちろん悪くはないんだけど、やっぱり声が変化しないのが気になった。70代でも声が若すぎる。
欲を言えばそこまでこだわってほしかった。

近現代の時代の変遷の中で、スーツも変化していくのも観ていて面白かった。
ぱっと見、同じようにも見えるスーツだが、服装も要チェックです。

















エドガーはまさしく、アメリカ自身だ。
強さこそが正義の象徴となる、アメリカだ。

エドガーの排他的な思想に基づくアメリカ観は、これまで言われてきた「強いアメリカ」像そのまんま。

2001年の9.11までアメリカを支え続けた「強いアメリカ」像。なぜあの時までアメリカはこうであったのか、今回の映画でなんとなく理解できた。間違いなくエドガーの思想が、エドガーの作り上げた組織の影響が残っていたからだ。

パンフレットには、脚本家がブッシュ政権以降から着想を得たと述べられている。
まさしく「強いアメリカ」が崩壊し、世界で「あれ、アメリカ?」のような疑問符がつくようになった時からだ。







「強いアメリカ」を愚直にも信じ続けて、国”のみ”に忠誠を尽くし、愛した「愛国者パトリオット)」としてのエドガーを描くことで、この映画はアメリカのあり方について観客に問いかけようとしたのではないか。
アメリカの崩壊は、まさしくエドガーの思想の脆さが突かれたことによって生まれたのではないか。

「強いアメリカ」像の崩壊した今だからこそ、この映画は非常に意味のある問いかけだとひしひしと感じた。



↓予告編はコチラ↓
http://www.youtube.com/watch?v=MWzjIPjg4ss







図書館・情報学を学んだ人間としては、アメリ国会図書館に分類別索引カードを導入したことを説明するシーンが面白かった(笑)