伊藤計劃トリビュート

伊藤計劃トリビュート (ハヤカワ文庫JA)

伊藤計劃トリビュート (ハヤカワ文庫JA)


伊藤計劃作品のオマージュを含む8名の作家による短編集です。読み通した感じでは、伊藤計劃作品の雰囲気よりも各作家さんの特徴が出た作品の方が多かったかな。まあこういうのって難しそうですよね。アマチュアの二次創作的なものになってしまうのもどうかと思うし、あまり距離を置きすぎてもトリビュートに載せる意味がなくなるし。読む方としては途中から伊藤計劃さんあんまり意識しないで読んでました。まあちょこちょこ彷彿とするようなところはあったけど。それよりもここ最近の日本SFを知る一つの集大成という感じなのかも。
まあ、とはいいつつもタイトルにある「伊藤計劃」ぽいところを探りながら感想をまとめようと思います。

  • 公正的戦闘規範(藤井大洋)

虐殺器官」の戦場をイメージさせる作品。ですが、読みながら思っていたのはMGS4でした。機械に奪われた戦争という物語を人間の手に戻すための戦い。仮想現実が「現実」として目の前に立ち現れる悪夢。ストーリーの運びの巧さと中国語読みの機械やキャラクターがとても面白かったです。

  • 仮想の在処(伏見完)

「ハーモニー」の柔らかさと鋭さが同居する雰囲気のお話。映画「her/世界でひとつの彼女」を想像しました。人工知能との対話は自分自身との対話とも取れ、その自分の境界が曖昧になったり確かなものだったりする、その波のような揺らぎがとても素敵でした。

「ハーモニー」の意識の最適化を突き詰めたような作品。まああの後人間はどうなっちゃうのかな、というのは「ハーモニー」を読んだ後なら誰しも考えりしたのではないでしょうか。映画のフィルムを編集するように、リアルタイムで意識をエディットする、そのシーンがフィンチャーの映画のようでかっこ良かったです。

  • 未明の晩餐(吉上亮)

虐殺器官」の器官をイメージするような、「食欲」という人間の脳の、原始の機能についての物語。SF的なネタも良かったけど、危険で猥雑な街角やキャラクターたちの生活の描写が、昔懐かしいサイバーパンクな感じで良かったです。それにしてもかっこいい女性が活躍するお話っていいですよね。

蛮族ものっていうのがちょっと分からないんだけど、そういう作品のようです。どちらかというと、ル・グィンの短編「孤独」に近い、異文化から鑑みる、にんげんのお話なんだと思います。局所的な視点から不意に極大の視野に移る、「トリップ」した感じが素晴らしかった。

  • ノット・ワンダフル・ワールズ(王城夕紀)

銃で脅されても悠長に構える黒幕とか、ネタの仕掛けが「っぽく」て好きです(笑)この作品の中に出てくる、都市計画に沿って自動的に建設する「eシティ」というもの、イメージ的にはゲーム「マインクラフト」なのかもしれないけど、漫画「BLAME!」に出てくる建設者ぽいなーと思いました。

新装版 BLAME!(1) (KCデラックス)

新装版 BLAME!(1) (KCデラックス)

この作品が一番トリビュートぽいかも。「屍者の帝国」のようにエンターテイメントしてて楽しめました。「屍者の帝国」の歴史改変から、さらに歴史の裏を突くような構成とシンプルなラブストーリーが良かったです。あれはロマンス、だよね?
ちなみにまだ発売が先だけどゲーム「アサシンクリード シンジケート」もこういう改変ものの作品です。今作はちょうどこの作品と同時代でナイチンゲールと女王陛下が登場するとか。おお、ちょっとかぶってる?まあ屍者は出てこないけど、こういう改変ものって面白いですよね。

AIをバディにした、Sins of the Father(父の罪)の物語。いや、これってファントムペインだわ。隻眼のボスだし。悪だと知りながらもその道を往かざるを得ない人間の、恐らくその末路のお話しになるのだと思います。なんでも長編の第1章だとか。途中まで仁義なき戦いinキューバはどこまで続くのかなあ、と不安になりましたがちゃんとSFしてて良かったです。AIと人間の関係を描いた「BEATLESS」の変奏というかたちでもありそうだし、劣悪な環境下で酷使されるコンピュータと言う点では「チャッピー」もちょっと想像しました。


伊藤計劃さん的なところを探したつもりが、自分のすきなものを挙げただけになりました。うーん。まあいいや。