アイドル声優年代記 〜「第4次声優ブーム」か、「アイドル声優時代」か〜

先日、ウィキの声優の項を見ていて、不思議に思った事がある。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A3%B0%E5%84%AA#.E7.AC.AC.E4.B8.89.E6.AC.A1.E5.A3.B0.E5.84.AA.E3.83.96.E3.83.BC.E3.83.A0.E3.81.AE.E5.BE.8C

1999年頃からは、上記の第三次声優ブームほどのブームは影を潜めたものの、声優人気はまだまだあった。

そうか、第3次声優ブームは既に終っていて、まだ次のブームは来てない事になっているのか。
まあ、ウィキが絶対、という事は無いだろうが、第4次ブームと殊更言い立てる報道や人が居なかったという事なのだろう。
実際の所、どうなのだろう。少し第3次声優ブーム以降を思い返してみる。特に興味のある女性アイドル声優について。

  • 声優ファン絶望の年 -1998〜-

ウィキによると、第3次声優ブームが終わったのは、1998年という事になっている。色々調べて見ると、確かにこの年から相次いで声優マニアにとって辛いと思えることが起きている。
まず、声優の結婚が立て続けてあった。最も大きいのは林原めぐみだろう。まあ、彼女の場合ドル売りをしていたわけではないので、概ね祝福された結婚だったろうが、ファンの中では色々気に揉む人もいた事だろう。
他にも、宮村優子岩男潤子も結婚している。この第3次声優ブームの最高潮はエヴァブームであったが、そんなエヴァ声優の中でもアイドル声優的な存在が揃って結婚している訳だ。
これらの動きが、他のアイドル声優的な活動をしていた存在にも微妙な影響を与えたのだろうか。翌1999年には、椎名へきるがアーティスト宣言をしてファンから総スカンを食らっている。丹下さくらも妙な方向に行ってしまい、ほぼ休止状態。純粋なアイドル声優的な存在であった桜井智などは、この年に結婚していたのにその事実を隠していて、後に発覚した時かなりの非難を受けたようだ。
その翌2000年には小西寛子が消えている。そして2003年、第3次声優ブームのアイドル声優最後の生き残りとも言える国府田まり子が結婚し、声優ファンによる有名なコピペが記され、ブームの息の根は止まった・・・。
で、終っていれば簡単なのだけれども、実際には、次の波がこの時既に来ていたと言える。

エヴァブームの後もオタク文化がその力を保ち続けていたように、実際にはアイドル声優市場的なものもそれほど減退していなかったのではないかと思える。確かに、幾つかの声優雑誌が休刊などしていたかもしれないが、実際には、オタク産業特需の元に世間では新たなアイドル声優の発掘に躍起であった。数多くのイベントが行われ、事実、この頃から非常に多くのアイドル的な声優が登場している。
そして、そんな中から、非常に大きなスターが誕生している。それが「やまとなでしこ」、つまり堀江由衣田村ゆかりのペアだ。この二人は、正にアイドル声優という存在として、声の良さの他にも、歌唱力、パーソナリティ、ルックス、様々な面で高水準を保っており、鉄壁の地位を築き上げた。第3次声優ブームの後すぐに登場したにも係わらず、未だその地位に君臨し続けている。もし仮に00年代に声優ブームがあるとするならば、彼女達こそがその象徴的存在と言えるだろう。

  • CD売り上げブーム到来 -2004〜-

実際の所、今現在「声優ブーム」としての波は来ていると言える。「ブーム」とは世間にその話題が届くほどのものだろうが、そう言える波が2004年に起きている。所謂、「ネギまCDオリコン席巻事件」だ。
CDが売れなくなった時代、「魔法先生ネギま! 声のクラスメイトシリーズ」が度々オリコンに顔を出す現象は、世間から注目されるに値する事件だった。丁度ネットの普及も最盛期であり、ネット上のファン活動の過熱も注目された。また、これ以降「好きな声優のCDを買う」という行為が声優ファンの重要行動と認識されたのかもしれない。世間では売れなくなりつつあるCDは、声優界では逆に売れ続け、以降、声優やキャラソンのCDがオリコンに登場するのは珍しい事ではなくなった。そして、その中から声優史上最大ともいえる存在が生まれてきたわけだ。水樹奈々の登場である。
既に、その歌唱力で一定以上の人気を集めていた水樹奈々だが、時を同じくする2004年の「リリカルなのは」で更なる大ブレイクを果たし、その勢いは今に到るまで続いている。
また、2006年の「涼宮ハルヒの憂鬱」からも平野綾茅原実里などが登場し、そのアーティストとしての歌唱力、ルックス、パフォーマンスなどを高度なレベルで競い合い、CD売り上げ競争も過熱して行った。
第3次声優ブーム初期に「アイドル声優」という存在が認知されてから4半世紀が過ぎたこの頃、言い方は悪いかもしれないが、以前は声優を志していた「平民」がアイドルとして祭り上げれていたのに対し、正に「職業アイドル」としての意識を持った声優が「アイドル声優」になり始めたのかもしれない。

21世紀に入ってからのオタク文化の特色は、ライトオタクと言われる存在が多くなり、少数の濃いオタクだけではなく、それ以外のかなり大きな対象に売れる作品が散見されるようになったことだろう。「らき☆すた」「マクロスF」などはそういったライトオタクまで届いた作品だろうが、声優界においても影響の大きかったのが「けいおん!」だ。この作品で注目された声優の中でも主人公豊崎愛生寿美菜子の存在は、彼女達の所属する声優ユニット「スフィア」の知名度を高める事になった。
既にやまなこの登場から10年近く経ち、ファンも一世代新しくなっていたであろう中で、新しいアイドル声優の出現が、より積極的に求められていたと思われる。
しかし、現在あるアイドル声優は、職業アイドルとして存在しているため、自身の都合や失敗でその場を退くことが無くなり、水樹奈々を代表として、その存在は拡大している。
新旧入り乱れての一種飽和状態となっていった。

  • 311と週刊ミューレ -2011〜-

311は、娯楽である声優界にも相応の影響を与えただろう。勢いだけの人気ではなく、その娯楽の必要性を問い直すような出来事だったに違いない。一種のストーカー被害である週刊ミューレ事件も、そういったファンの心の迷いにつけこむ部分があったからこそ、あれだけの騒動になったと言える。
職業アイドルとして自ら退く事が無くなったアイドル声優たちだが、それでも、これらの出来事は陰りとして影響していると思われる。いわば「声優ファン絶望の年1998」と同じ状況が、外因によって生まれているかもしれない。

その様な影響もあってか、現在、かなりの勢いで若手声優が台頭してきていると思われる。今まで鉄板であった00年代のアイドル声優たちも、彼女達に取って代られている。
しかし、新たに人気が出てきている若手声優たちの特色として「アイドル活動をしない」者が多い。つまり、声やルックス、パーソナリティで人気を得ても、オリジナルソングを出して「自分の存在を売る」者が少ないのだ。代わりに、ミルキィホームズゆるゆりなど、作品に帰属したグループで売る事が多くなっている。それは、個人としての「アイドル声優の不在」とも言える。
これは、きっと声優個人を売る事に対する恐怖心によるものなのだろう。作品上で人気があったとしても、声優個人として人気が出るか、売れるかは別物。声優個人を売る冒険が出来ない現状は、一種声優ブームの限界点といえる。
となれば、第4次声優ブームを2004年からだとすれば、もしかしたら、そのブームの終わりは2011年、と言えるのかもしれない。
いや、それは今年2012年の動向によって明確になっていくだろう。
出来れば今年も様々なアイドル声優が活躍し、単にブームに留まらない「アイドル声優の時代」を続けて行って欲しいものだ。