"Citizenfour"


"Citizenfour" 写真クレジット:Radius-TWC
本年のアカデミー賞ドキュメンタリー映画賞を受賞した傑作ドキュメンタリー映画を紹介しよう。13年に米国の中央情報局(CIA)と国家安全保障局NSA)による盗聴、個人情報の収集について内部告発したエドワード・スノーデン元局員のドキュメンタリー映画だ。
本作のどこがすごいかと言うと、米国で国家を揺るがす重大事として報道されたこの告発を、告発者に密着しながら、彼が初めて告発をしたその瞬間から逮捕を逃れて潜伏し、ロシアへ一時的亡命を果たすまでを映像として捉えていたからだ。刻一刻と変わる告発後のスノーデンの運命、緊迫した内容はあたかもスパイ・サスペンス映画を観ているようだった。

監督のローラ・ポイトラスは、13年に「シチズンフォー」と名乗る人物からメールを受信し、送信者が誰でどんな組織に所属しているかも分からないまま、彼が重大な国家機密を伝えようとしていること知り、彼との交信を始める。
その後、彼から直接会って告発をしたいので記録して欲しいという依頼を受け、彼がいる香港のホテルに向かう。そこで彼の告発の第一報を書くことになる英国『ガーディアン』紙のグレン・グリーンウォルドとユーウェン・マカスキルと共に彼の告発に立ち会い、カメラでその一部始終を記録した。

スノーデンの告発内容は、CIAとNSAによる大手電話会社を利用した一般加入者の個人情報、通話記録詳細の取得、MicrosoftGoogleFacebookYouTubeSkypeAppleなどを使って、個人のメールやテキスト、動画/写真、ファイル送信、登録情報などの収集。加えて、世界各国の大使館へ盗聴や他国の政治/経済に関する情報のハッキングなど多岐に渡っていた。
彼らの情報収集の偏執ぶりはゲンナリするような回数と膨大さで、今やプライバシーは死語と肝に銘じる時なのだろう。ちなみにグリーンウォルドはこの内容を著書『暴露:スノーデンが私に託したファイル』で詳しくに語っている。
インタビューはスノーデンが泊まるホテルの部屋で行われたが、突然電話がかかってきたり、火災報知器が何度も鳴だしたりして、スノーデンやグリーンウォルドを緊張させる。その時の二人の張り詰めた表情と硬い部屋の空気が、ポイトラスのカメラにしっかり収められている。CNNなどで放映され、世界に衝撃を与えた彼が最初の告発する映像を撮影したのもポイトラス監督だった。

彼女の監督としての経歴は長くないが、9/11以降は「テロへの脅威」キャンペーンに疑問を投げかけるドキュメンタリー作品を精力的に作り続けてきた。06年のアカデミー賞候補「マイ・カントリー、マイ・カントリー」ではイラクで選挙に立候補した医師を、10年の『The Oath』ではウサーマ・ビン・ラーディンのボディーガードと運転手だった男性らを撮っており、本作は3部作の最後に当たる。
また、NSAで30年以上勤務したウィリアム・ビニーによるNSAデータマイニング・プログラムによる国民監視体制への告発を追った短編作品も撮っており、スノーデンが彼女に連絡を取ったのは、そんな彼女の活動への信頼感によるものだった。

ポイトラスは本作で初めて自分の声で語り、暗号ソフトを使ってのスノーデンとのメールのやり取りを再現させている。自己顕示ではなく、期せずしてスノーデンの告発の一翼を担うことになった自分の立場と役割を明らかにするためである。
初めて彼からコンタクトを受けた際に、なかなか正体を見せない彼の言葉に信憑性があると直感的に感じたというポイトラス。その直感に従って香港への飛び、20時間の撮影をし、彼の逃亡を間接的に助け、何度も国境で足止めを食らい、フィルムが米国政府に奪われることを恐れてドイツで本作を完成させた。

本作を通して若い情報工学者スノーデンの勇気に打たれる共に、ポイトラスの生き方にも感銘を禁じ得なかった。作り手の生き方は作品は反映される。米国にはすごい女性映画作家がいる。
上映時間:1時間54分。
"Citizenfour" 英語公式サイト:https://citizenfourfilm.com/