自分の肉を食らって生き延びようとするかのようなやり方

事業仕分け第3弾前半戦 ジョブ・カード事業廃止など制度自体のあり方見直す判定相次ぐ
http://www.fnn-news.com/news/headlines/articles/CONN00186871.html


 政府の行政刷新会議による事業仕分け第3弾の前半戦が、国の特別会計を対象に始まり、「貿易再保険特別会計」の制度廃止や、「職業情報総合データベース運用」の事業廃止など、制度自体のあり方を見直す判定が相次いだ。


 27日午前中に仕分けが行われた「貿易再保険特別会計」は、「制度を廃止し、現在国が行っている業務を独立行政法人の業務へ統合」、「漁船再保険及び漁業共済保険特別会計」は、「特別会計内3勘定の統合と、『農業共済再保険特別会計』などとも統合」などと、いずれも制度のあり方を抜本的に見直すべきだと結論づけられた。


 また、「労働保険特別会計」の仕分けでは、職業訓練の経歴をカードにまとめて記載して、就職活動に役立てるという「ジョブ・カード事業」の有効性について、仕分け人が厳しく追及した。


 仕分け人の枝野幸男議員が、「普及させるためには、このカードを持ってたら『就職に有利です』っていう実態をつくらないと、カードを普及させる意味がないですよ。そういう仕組みの普及促進をどれくらいやってますか?」とただすと、省庁の説明者は「(求職者が)自分が気がつかない点を、キャリアコンサルティングによって気づいていただけると...」と答えた。


 枝野議員は「それは、キャリアコンサルティングというのは、別にやってるんでしょ! このカードじゃなくても。就職に有利だっていう実態がなかったら、カードを作る意味ないじゃないですか」と追及した。


 結局、ジョブ・カード事業は廃止、インターネットでさまざまな職業を紹介する「職業情報総合データベース運用事業」も、「効果について疑問がある」として、廃止と判定された。


 これまでの事業仕分けと変わらない、仕分け人と省庁の説明者による激しいやり取りで、事業や特別会計自体が相次いで「廃止」とされる一方で、これまで2回の事業仕分けとは異なって、一般傍聴席は午後になっても空席が目立った。
(10/27 20:14)


 雇用に関連する予算が「事業仕分け」で「民間に任せるべき」などと批判されて削減されている。個々の事業の妥当性は専門家の判断に委ねるしかないが*1、そもそも日本はほとんど公的な雇用保障が薄く、「民間に任せている」という状態なのに、そしてそれが十分に機能していない(民間にはコストを担えない)からこそ行政が乗り出しはじめたのに、また「民間に任せるべき」というのは意味が分からない。しかも、民間企業が職業訓練のコストに極度に消極的になっている、この深刻な不況下においてである。そして何度も言っていることだが、「民間に任せる」というのは、「自分でカネを出してサービスを買うべき」ということで、負担の配分の方法が変わるというだけの話なのに、相変わらずなぜか「民間に任せると国民の負担が減る」かのような話になっている。

 思うに日本では、教育・雇用に関する社会保障が依然として「福祉」の範疇に入ってない。「福祉」というと、依然として医療と年金そして介護の話で、若年者向けには「福祉」はないことになっている。さらに言えば、「日本は雇用のコストが高すぎてグローバルな競争に太刀打ちできない」という経済人と、「若者は会社で泥まみれになって働くなかで一人前になるもの」という高齢世代の「昭和的価値観」とが不幸な形で結合して、政府による雇用保障なんて「税金の無駄」でしかないかのような世論が形成されてしまっているように思われる。教育・雇用が充実してこそ高齢者福祉も持続可能なものになる、というのは「福祉国家」が成立して以来の基本原則のはずだが、「事業仕分け」は逆に教育・雇用に関連する予算を減らして、その浮いた分を高齢者福祉の財源に回そうとしている。まさに、自分の肉を食らって生き延びようとするかのようなやり方だが、与党はそれで「国民の生活を守る」などと胸を張っている。

 官僚が予算を守るための手練手管が大げさに取り上げられ、それが「税金の無駄遣い」の根拠であるかのように語られているが、こういう見え透いた世論誘導の手法が通用している現実には本当にうんざりしてしまう *2。それともやはり、自分の頭のほうがおかしいのだろうか。

*1:しかるべき専門家が判断していない(どころかその分野では素人であるはずの人が曲がりなりにも専門家である官僚を一方的に批判している)のがそもそも「事業仕分け」の問題ではある。

*2:一瞬つい「それは怪しからん」と思ってしまう自分も含めて。