ENDING ENDLESS 雑記帖 @『ディズニーの隣の風景』 by 円堂都司昭

                    

2017-11-13

[]クイーン『世界に捧ぐ』の思い出

中学の同級生の部屋で『世界に捧ぐ』を初めて聴いた時のことは、よく覚えてる。彼は、クリスマスの時みたいに豆電球のついたコードを部屋中に這わせ、それをチカチカさせながらYMOを聴くとか、なにかと凝る男であった。

で、スピーカーを、天井近くの高い位置に据え付けていたのだ。頭の上からいきなり、あの「ダンッ・ダンッ・チャッ」で始まる“ウィ・ウィル・ロック・ユー”の音が降ってきた時には、そりゃ、たまげましたよ。


美森まんじゃしろのサオリさん (光文社文庫)

2017-10-21

[][]大野雄二と市川崑の金田一耕助シリーズ

犬神家の一族

犬神家の一族

来年4月、『犬神家の一族』、『人間の証明』、『野性の証明』という初期の角川映画3作を彩った大野雄二の音楽のコンサートが開かれる。各作品のハイライト映像をスクリーンに流し、オーケストラが生演奏するという。生まれて初めて自分のこづかいで買ったレコードが『犬神家の一族』サウンドトラックのLPだった私としては、当然、チケットを買った。

http://amass.jp/95947/


角川映画3作のサントラで注目された大野は、第2シリーズ以降の『ルパン三世』の音楽も担当したことでも知られ、今では名匠とされている。

彼の成功の出発点になった『犬神家』サントラは、毎日映画コンクール音楽賞を受賞するなど評価されたし、ダルシマーの印象的な音がメロディを紡ぐテーマ曲“愛のバラード”はよく知られている。だが、監督の市川崑は、大野の音楽が気に入らなかったらしい。サントラ・アルバムを聴いて『犬神家』を見れば、いかに市川が大野の音楽を忌避し、遠ざけたかがわかる。

「キーボード・マガジン」2017年秋号の「特集 映画音楽の技法」には大野雄二のインタヴューも掲載されていた。そこで彼は語っていた。

監督の市川(崑)さんが“こんなのイヤだ”と言って映画ではあまり使われていないのもあって(笑)。

(※引用者注:映像に合わせて演奏するやりかたを語ってから)でも、サントラ・レコードはそうじゃくなくて、『犬神家の一族』の、僕のイメージ・アルバムなんです。テーマ音楽だけは画に合わせて作ってるんだけど、レコードは監督の指示で作っていない分、もっと音楽的に作れる。

市川が大野の音楽を気に入らなかった話に関しては、同誌以外でも目にしたことがある。テーマ曲のモチーフを場面の雰囲気にあわせて変奏するなどして、大野はメロディを重視し、音楽だけ独立しても聴けるという意味での完成度が高い曲を作っていた。それに対し、市川はもっと抽象的な音を欲したらしい。

2人の感覚のズレは、『犬神家の一族』で初めて金田一耕助が登場する場面の音楽の使いかたに現れている。金田一が歩いてくるバックで、ベースのリフを中心とした音楽がほんの短い時間だけ流れる。だが、それをアルバムで聴くと、ピンク・フロイド“エコーズ”をなぞったような構成でドラマチックに展開する7分半の曲“怨念”のなかの一番地味な部分なのである。音楽に映画の部品であることを求める監督としては、作曲家として大野が嗜好する完成度や様式としてのまとまりが邪魔だったのだろう。

悪魔の手毬唄総劇伴集

悪魔の手毬唄総劇伴集

市川崑の金田一耕助シリーズ第2作『悪魔の手毬唄』で音楽を担当したのは、村井邦彦だった。前作の大野の音楽が注目されただけにやりにくかっただろうが、バンジョーを使った“哀しみのバラード”は、中年の悲恋をポイントにした物語の内容によく似合っていたし良い曲だったと思う。なのに、シリーズ第3作以降のサントラは田辺信一に代わってしまい、彼の音楽は印象に残っていない。

(カネボウとのタイアップで作られた『女王蜂』の主題歌は、三木たかし作曲、田辺信一編曲。テレビCMで流されていたが、横溝的世界には違和感のあるポップスだった)

愛の女王蜂 [EPレコード 7inch]

愛の女王蜂 [EPレコード 7inch]

市川崑は金田一シリーズの音楽についてどう考えていたのか。彼のインタヴュー本をめくっても記述がみあたらなかった。だから、最近刊行された『市川崑「悪魔の手毬唄」完全資料集成』に期待したのだが、同書にはそもそも音楽を主題にした記事がなかったのであった。ああ。

市川崑「悪魔の手毬唄」完全資料集成 (映画秘宝COLLECTION)

市川崑「悪魔の手毬唄」完全資料集成 (映画秘宝COLLECTION)


2017-10-03

[][]ディストピア小説と天皇制

カタストロフ・マニア

カタストロフ・マニア

島田雅彦『カタストロフ・マニア』。本を読み終わってから、PVが作られていたことを知った。

https://www.youtube.com/watch?v=mpIxBafFXKo

同作では、太陽のしゃっくりによる大停電やパンデミックに襲われた日本において、皇族は御所に留まっているが、政府は遷都を検討中と伝えられている。

一方、百田尚樹『カエルの楽園』の舞台となるツチガエルの国ナパージュでは、過去の戦争の後に王は退位させられ、王家は名ばかりのものとなって何も命令をくださなくなり、元老たちが統治するようになったとしている。

カエルの楽園 (新潮文庫)

カエルの楽園 (新潮文庫)

日本をモデルにしたディストピア物語を書く場合、たとえ積極的に扱わないにしても、皇室の存在に触れないままではいられないということだろう。

だから、矢野利裕が「群像」2015年6月号の書評で田中慎弥『宰相A』に対し、天皇制について書かれていないと批判したことには一理あると思った。

ただ、最近、必要を覚えて「新潮」2015年5月号の田中慎弥と中村文則の対談「AとXの対話」を読んでいたら、次のようなやりとりがあった。

中村 『宰相A』にも天皇が登場するかなと思って読んでましたが、最後まで出てきませんでした。でも、よく考えてみると、あの世界ではそれが必然ですよね?

田中 親米保守を徹底すれば、天皇は出てこないですからね。

1カ月違いで発表された対談と書評のスケジュールから想像すると、矢野はこの対談を読む前に『宰相A』評を書き、双方の見解がすれ違ったのではないか。同作での天皇制スルーは妥当だったのか、書くべきだったのか、そのことについてなにか語った人はいたのか、少し気になっている。

宰相A

宰相A

2017-10-01

[][]リセット、希望

「希望の塾」なる政治塾を開いていた小池百合子が「希望の党」を立ち上げた。小池は、新党の命名理由に関し「日本にはさまざまなものがあふれているけれども、希望がちょっと足りないんじゃないですか?」と語ったが、それについて村上龍のパクリではないかと上西小百合が噛みついてちょっと話題になったりした。村上龍『希望の国のエクソダス』(2000年)では、「この国には何でもある。ただ、『希望』だけがない」がキャッチフレーズになっていたのだった。

また、小池は、「日本をリセットする」ともいっていた。


村上龍『オールド・テロリスト』(2015年)には、こんな部分がある。

オールド・テロリストたちの目的は何?


もう一度日本を焼け跡というか、廃墟に戻すということらしい。腐りきった日本をいったんリセットする、ということだけど


(単行本483頁から抜粋)

『オールド・テロリスト』は、『希望の国のエクソダス』の続編でもある。そして、村上龍は『絶望の国の幸福な若者たち』の著者と対談していたのだった。

http://books.bunshun.jp/articles/-/2611?page=2

オールド・テロリスト希望の国のエクソダス (文春文庫)絶望の国の幸福な若者たち (講談社+α文庫)

2017-09-25

[]「新本格」30周年

私の本に入っていた栞。

f:id:ending:20170925094120j:image

『七人の名探偵』参加作家のうち、山口氏以外の6人については、それぞれの作家論を『「謎」の解像度』(2008年刊)に収録した。綾辻、歌野、有栖川、我孫子の各氏については、文庫解説を書いたこともある。綾辻、歌野、法月、有栖川の4氏にはインタヴューもしたし、有栖川&山口氏については座談会のまとめをした。他にもあれこれ各氏関連の原稿は書いてきた。

で、歌野、我孫子両氏とは、本格ミステリ作家クラブ編ベスト・アンソロジーの作品選考委員を一緒に務めた。法月、麻耶の両氏とは近年、作家クラブの会議で同席している(以前は綾辻、歌野、有栖川の各氏とも)。

一方、『七人の名探偵』よりは全般的に世代が若い『謎の館へようこそ 白』のほうでは、東川氏のインタヴュー、座談会をまとめたことがあり(現・本格ミステリ作家クラブ会長なので会議でも同席)、古野、周木両氏の文庫解説を担当したことがある。また、澤村作品の書評をしたことがあり、青崎氏に対してはベスト・アンソロジーへの作品収録に関して事務連絡した。

――てなことをふり返りつつ、自分もそれなりに「新本格」にかかわってきたのだなと、感慨を覚えている。


  • 最近自分が書いたもの
    • 鳥飼否宇『紅城綺譚』、早坂吝『ドローン探偵と世界の終わりの館』の書評 → 「小説宝石」9月号(『紅城綺譚』評はこちらへも転載 https://www.bookbang.jp/review/article/536950
    • 森高千里がたどり直す“変化の時期”――歌手デビュー30周年、3ツアー再現ライブの意義とは http://www.realsound.jp/2017/09/post-104298.html
    • 遠藤武文著『原罪』の文庫解説
    • 第21回「日本ミステリー文学大賞新人賞」予選委員からの候補作選考コメント https://www.mys-bun.or.jp/news/index.html#20170919news
    • 夜明けの紅い音楽箱(今回取り上げたのは松尾由美著『ブラック・エンジェル』) → 「ジャーロ」No.61
    • 岡田秀文著『帝都大捜査網』の書評 → 「ハヤカワミステリマガジン」11月号
    • 全オリジナル・アルバムのレヴュー → 『THE DIG ピンク・フロイド

THE DIG Special Edition ピンク・フロイド (シンコー・ミュージックMOOK)