ブログトップ 記事一覧 ログイン 無料ブログ開設

成毛眞ブログ RSSフィード

2012-02-07

『ルポ資源大陸アフリカ』が文庫本になりましたので「解説」書きました

09:27

ルポ 資源大陸アフリカ 暴力が結ぶ貧困と繁栄 (朝日文庫)

ルポ 資源大陸アフリカ 暴力が結ぶ貧困と繁栄 (朝日文庫)

本書は2009年7月に単行本として出版された傑作ノンフィクションである。それから2年半がたち、文庫化するにあたって、巻末の解説をあらたに書き起こすことを引き受けた。以下のレビューは2009年9月に週刊朝日で掲載されたものだ。自分でいうのも変だが、本書を読み終えたときの熱気が伝わってくるようだ。ノンフィクションファン、アフリカ・資源関係ビジネスパーソン、冒険好きなどにおススメだ。文庫版は本日発売である。

------------------------------------

本書のテーマはアフリカの地下資源と暴力についてである。著者によるまとめがわかりやすい。「地球規模の格差社会の底辺に置かれているアフリカから染み出す犯罪などの負の側面は覚悟の上で、競争礼賛で弱肉強食の道を突き進むのか(中略)私たちは今、命の価値を巡る一つの岐路に立たされているのではないだろうか」と読者に問いかける。

とはいえ、よく見かける外国の記事やレポートをまとめて、社会正義を熱く語るだけの評論家や学者の本などではない。すべて著者自身による戦慄的な直接取材によるレポートなのだ。表紙写真はスーダンダルフール地方反政府戦闘員の姿だ。著者はこの「至上最悪の人道危機」と呼ばれている紛争地帯に、密入国までして取材に向かった。

スーダン政府は30万人もの自国民を虐殺したといわれている。現在の国家元首であるアル・バシル大統領国際刑事裁判所逮捕状を出しているほどだ。もちろん、無政府国家で、海賊が多発するソマリアにも取材に向かう。事前に準備したのは現地私兵である。10人の重機関銃を持つ完全武装の男たちを雇ったというのだ。

しかし、けっしてこれが過剰反応ではないこと読者は知ることになる。ホテルの窓はジュラルミンで覆われており、外では銃声が絶え間なく聞こえる。国家がないので殺人などの犯罪を取り締まる機関どころか、法律そのものがないのだ。もちろん著者は無事ではすまない。ヨハネスブルグで留守を預かる家族が強盗に襲撃されている。南アフリカの強盗事件発生率は日本の120倍である。ワールドカップの開催が予定されていて、比較的安全といわれている国ですらこの状態なのだ。

ところで、著者はスーダンソマリアコンゴなどで資源に群がる中国人の影を見ている。紛争国に資金供給して資源を得る中国。その中国から資源が姿をかえただけの製品を買いたたく先進国。負の連鎖が止まらない。

久しぶりに熱い本を読んだ。本書はホンモノの新聞記者という、日本の希少資源の重要性を気づかせてくれる良書でもある。

2012-01-30

『銃の科学』

| 11:20

著者は元自衛隊、武器補給処技術課研究班勤務。Wikipediaによると、陸上自衛隊は1998年までだが、武器補給処は霞ケ浦、需品補給処は松戸、施設補給処は古河・通信補給処は大宮・衛生補給処は用賀という具合に5つの駐屯地に機能分散をしていたのだという。そこでは調達や補給だけでなく、調査研究も行っているのだという。だから補給所じゃなくて補給処なんだと妙に納得。

ところで本書は全ページフルカラーで「銃とはなにか」「銃の歴史」「弾薬」「拳銃とサブマシンガン」「ライフル」「機関銃」「弾道」「散弾銃」「銃床」の9章建て。ミリタリーマニアや銃マニアには物足りないかもしれないけれど、本マニアにとっては興味深かった。たとえば、世界を不安定化している要因の1つであるAK47は「突撃銃」というカテゴリーに属しており、これは第2次世界大戦ナチスドイツがつくりだしたStG44が原型だということ。しかも、現在世界で使われている小銃はすべてこのカテゴリーだということ。ナチスドイツ機関銃でもMG34,MG42という汎用機関銃をつくりだし、現在でも機関銃といえばこのカテゴリーを意味するのだということ。つまり、ナチスドイツは銃器と運用のドクトリンのマザーだったのだ。

ほかにも合掌造りで有名な岐阜県白川郷富山県五箇山では、江戸時代に硝石造りを秘伝として行っていたこと。人体にあたると銃弾が潰れ大ダメージを与えるために、国際法で禁止されているダムダム弾の名称はインドのダムダム兵器工場からきていること。日本の警察だけでなく世界中の対テロ部隊で使われているMP5というサブマシンガンの構造とか、ともかく実生活にはまったく役に立たないトリビア満載だ。

2012-01-29

第36回俳優祭

| 01:49

f:id:founder:20120128224710j:image

第36回俳優祭を観てきた。「絵本太功記」と「殺陣田村」という真面目な出し物、お楽しみ模擬店、幹部勢ぞろいの3部構成だ。「絵本太功記」と「殺陣田村」の間に1/4のワインを1本、模擬店でさらに1本。ほろ酔い加減で幹部勢ぞろいを楽しんで帰って来た。模擬店では田之助丈にのみ握手をしてもらった。ほかにも握手してほしい役者はいるのだが、70%は御婦人客であり、それをかき分けて同年輩か年下の役者に必死に握手を求めることなど、どうにも抵抗があったのだ。途中、橋之助丈の御子息三兄弟がとても売り子役を楽しんでいるので、思わず歌舞伎揚げを買ってしまった。このようなイベントに難などあるわけもなく、いつまでもこのような平穏がつづきますようにと願うだけだ。

この俳優祭の模様はNHKの「芸能百花繚乱」で放送されるようだ。テレビ番組ごときをもってして伝統芸能に新規の観客を呼び込もうと妄想するあまり、昔から伝統芸能を見ていたファンを失ったという、ナゾのマイナスオーラ教養番組にとっては格好のネタなのであろう。イヤミはともかく、自宅に帰ってからほろ酔いで見たのは、なぜか以前にWOWOWで放送されていた立川志の輔の2010パルコ寄席だった。ハードディスクにためておいたのだ。最後の「中村仲蔵」でボロボロ泣いてしまった。忠臣蔵五段目斧定九郎の話だ。今日は昼から笑って、最後には泣いて、じつに良き日であった。

2012-01-26

壽初春大歌舞伎 平成中村座・昼の部

| 01:49

f:id:founder:20120125103028j:image

2012年1月は新橋演舞場国立劇場平成中村座ル・テアトル銀座浅草公会堂、大阪松竹座の6劇場で歌舞伎が上演されている。これは戦後最多だそうである。もはや、お財布的にも時間的にも、贔屓の俳優が出演している劇場にしか足を運べそうにもない。お能文楽も観客が押し寄せているらしく、何百年前の演劇を当時のままの形で、しかも日常的興行として、大入りになっている国は日本だけかもしれない。

東京博物館の特別展「北京故宮博物院200選」もものすごいことになっているらしく、1月18日の朝にふと思い立ってトーハクのサイトを見たところ、博物館への入場は80分待ち、目玉である「清明上河図」に至っては240分待ちとのことだった。異常である。歌舞伎も美術館も「団塊世代の暇潰し」だけで混んでいるとも思われない。意外にも若いカップルなども混じっているのだ。

それもそのはず、歌舞伎は花形がすこぶる良い。染五郎(73)、松緑(75)、亀治郎(75)、菊之助(77)、海老蔵(77)、勘太郎(81)、七之助(83)、梅枝(87)。それぞれ力強くて美しい。愛之助は同年代の72年生まれなのだが、すでに中堅という感じがするのが不思議だ。

平成中村座1月昼の部は、獅童の忠信、梅枝の静御前、萬太郎の義経亀蔵弁慶で「鳥居前」からだ。千穐楽も近いので、諸家の劇評やブログを参考に見てから劇場に足を運んだ。多くの人が褒めているように梅枝・萬太郎兄弟の気品が目立つ。というより、目立とうとしないから目立っている、という印象だ。とはいえ、舞台はあと2日で終わりというリラックスした雰囲気が感じられる。それはそれで良いと思う。梅枝は新橋演舞場との3舞台掛け持ちだったのだ。お疲れさま。

中村座の良いところは、ほかの劇場とはまったく異なる観客がいることだ。勘三郎の一挙手一投足を、いまかいまかと待ち構え、大笑いするために来場している人が半分ほどもいるのではなかろうか。いびきのように鼻を鳴らす様式としての「元禄見得」で大笑いすることなど朝飯前だ。彌十郎の奥方と組む勘三郎の「身替座禅」はまさにその観客への直球演目だ。もはや、その流れに身を任せて笑うしかないのだが、それはそれで本当に面白いと思う。この演目で完成の極みにある勘三郎彌十郎のコンビに獅童が絡んだのだが、獅童は小さく見えた「鳥居前」よりこちらのほうがはるかに良い。昨年12月の勘太郎の「車引」の印象が強すぎたのかもしれない。

「直侍」といえば菊五郎劇団だ。菊五郎直次郎、田之介の丈賀、時蔵の三千歳、団蔵の丑松、大蔵と徳松の蕎麦屋夫婦がもはや定番だ。菊五郎蕎麦を食うのを見るだけで、いいものを見たとなあいう本当に不思議な演目だった。ところが今回の中村座では大口屋寮の場のほうが印象に残った。ひとつには蕎麦屋の夫婦が良くなかったことがある。「天はヤマになりました」などという台詞がはっきり聞こえない。蕎麦汁の匂いが劇場真ん中まで漂ってくるという過剰演出も気になった。いっぽうで、大口屋寮の場の橋之助七之助はじつに生々しく絡み、エロティックだ。

ところで、直次郎は回向院下屋敷に葬られるのを覚悟すると言うのだが、この回向院下屋敷とは本所回向院が小塚原の刑場を持地とし、ここを別院の常行庵としたところだ。これが千住小塚原回向院の始まりだ。小塚原の由来は刑死者の遺体が白骨化して散乱していたことから「骨が原」だったとも言われている。当時の観客の常識であったであろう。現代的な笑いで楽しめる「身替座禅」と江戸タイムトリップを楽しむ「直侍」の落差は見た目以上に大きいのだ。

2012-01-17

『なかのとおるの 生命科学者の伝記を読む』で散財する

| 10:19

いやはや正月早々大変な目にあってしまった。お屠蘇気分でほいほいやっつけてみようと本書を読み始めたのだが、意外にも内容がこってりと濃く、たっぷり時間をかけて楽しむことになった。つまり、しばらくかかりっきりになったのである。それどころかあまりの面白さに、本書が取り上げている書籍を14冊も買ってしまったのだ。大散財である。そのほとんどが絶版なので、とりあえず買うことができるうちに古本を買ったのだ。本書の読者が増えるにつれ、市中相場は上がるであろうから必死である。そして、そのうちの何冊かをリファランス的に読みはじめてしまったのだ。HONZは新刊しか紹介しないので、もはや営業妨害である。

本書は17人の生命科学者の伝記本を紹介するというシンプルな構成だ。『細胞工学』という専門誌に20回にわたって掲載されていた記事をまとめたものだがから、すべての章は読み切りだ。取り上げられている生命科学者野口英世ロザリンド・フランクリン、リタ・レーヴィ=モンタルチーニ、北里柴三郎など、活躍年代が18世紀後半から現在までの科学者たちだ。

科学者の伝記本のみを紹介する本など、なにが面白いと思われるかもしれないが、本書の面白さはその伝記本の紹介方法に新風を吹き込んだことにあろう。緻密だがスピード感のある文章で、一気に核心となる物語を紹介する。さらに専門家としての著者の見立てや、科学ノンフィクション好きの観点からの解説などで修飾する。科学者の人生からなにかを学ぶというよりも、物語を読み、その背景を知ることで、いい年をした大人をわくわくさせるということに成功しているのだ。

たしかに著者は「あとがき」で「いまさら言うのも何なのではあるが、他人の人生から記号化されたメッセージを読み取ろうというのは、伝記の楽しみからとして正しくない。(略)心静かに、ほぉ、こんなことがこういったことにつながっていくのか、運命っちゅうのはおもろいもんやなぁ」という。ちなみに、このあとにつづく5行の締めくくりは、読書の価値に関して書かれた文章として最高の一篇のひとつだと思う。

ちょっと本文を覗いてみよう。第3話はラルフ・W・モス著『朝からキャビアを』アルバート・セント=ジェルジの伝記だ。ハンガリー生まれの科学者であり、ビタミンCの発見者、TCAサイクルの研究、アクチン・ミオシンの重合という高校の生物の教科書にも載っている大業績を上げている。ビタミンCの発見経緯だけでもむちゃくちゃ面白いのだが、その後のセント=ジェルジの人生も面白い。彼はハンガリーの密使として連合国側に接触し、その高い諜報能力ゆえにヒトラーからは連行命令が出たほどだったという。終戦後ソ連を支持したため、ソ連からは最高レベルの賓客として朝からキャビアがでるほどもてなされた。が、その後アメリカに移住した。この時期のハンガリー人は超天才が揃っていたので異星人ではないかと言われていた。本著の著者はそこで『異星人伝説―20世紀を創ったハンガリー人』というベストセラーを参考図書としてとりあげながら、最後にはBBCアーカイブで見ることができるセント=ジェルジの動画サイトまで紹介するのだ。まさに生命科学者満漢全席

つづく第4話はアッカ―クネヒト著『ウィルヒョウの生涯 19世紀の巨人=医師・政治家・人類学者』だ。24歳には血栓白血病の研究を開始し、雑誌を創刊し、細胞病理学の概念を作り、下院議員になり、ビスマルクと対決し、2000編の論文・著書を執筆し、2万点以上のプレパラートと4千点の頭蓋骨を整理・分類し、法王と呼ばれたが、貴族の称号は拒否し、科学的な討論をするときにはとどまることにない喧嘩好きだったという。伝記本を紹介した本をさらに紹介するというにはじつに難しい。ただでさえ要約されているものを、屋上屋を重ねて要約することになりかねないから、本文の紹介はこの辺で止めておこう。

第1話から第4話までは第1章としてまとめられていて、章の見出しは「波乱万丈に生きる」である。この章を読むだけでも、稀有壮大な気持ちになり、日常の細々したことをうちゃって、堂々と生きて行こうと思ってしまう。つづく第2章は「多才に生きる」、第3章は「ストイックに生きる」、第4章は「あるがままに生きる」だ。ボクの好きな言葉が並んでいる。

ところで、本書を真面目一辺倒の本だと思ってはいけない。こてこての関西人ギャグも散りばめられていて、ときどき爆笑することになる。それもそのはず著者は大阪生まれ大阪育ち大阪大学幹細胞病理学教授だ。本書をべた褒めしているが、お会いしたことはなく、本書ももちろんAmazonから買った。しかし14冊の追加出費は痛く、いつかは苦情をいいに行こうと思っている。その時には落とし前としてHONZの著者インタビューに出ていただこうと思っている。

ちなみに本書が取り上げている伝記とは別に、参考図書として紹介されているリストも素晴らしい。『異星人伝説』『囚人のジレンマ』『フルハウス』『ロゼッタストーン解読』『死体はみんな生きている』『完全なる証明』『暗号解読』『血液の物語』『科学の終焉』『歴史は「べき乗」で動く』『セレンディピティと近代医学』『免疫意味論』などだ。

本書は2012年最初の超おススメ本である。

なかのひと