12年06月03日(日)
■名古屋旅行日記 その9
春の太陽は少しずつ空の頂上に近づいてきていた。極度の汗っかきである私は、わき汗が気になり始めたが、まだ大丈夫だろうと思った。暑かったらTシャツ一枚になればいいし、そうすれば汗染みができるほどにはならないだろう。
白川公園は御園座からすぐ近くにあった。公園に足を踏み入れた私は、まずトイレットを探した。トイレットに行って、みっともなく伸びたヒゲを剃らなければならなかった。私がトイレットに望んでいたのは、ヒゲが剃りやすい雰囲気をかもし出していることであった。そして、白川公園のトイレットは、やや広い遊歩道に面しており、洗面所はトイレの入口の外に露出していた。しかし、人通りはほとんどないため、ヒゲを剃るのに問題はなさそうであった。私はちょっとテンションが上がった。やっとヒゲが剃れる。顔が洗える。歯もみがける。
とりあえずトイレットに入り、おしっこをした。ちんこをつまみながら、私は性欲のようなものをほとんど感じなかった。ちょっと前に漫画喫茶で東京大学物語の遥ちゃんにかなり欲情したはずだったが、どうしてだろうか。太陽の熱で、精液が蒸発してしまったのかもしれなかった。私はいつもの残尿感が膀胱のあたりに渦巻いているのを感じながら、小便器から洗面所へと向かった。
入口の外に設置されている洗面所は、トイレに面した遊歩道から丸見えであった。しかし人通りは少なかったため、私はあるていどの心の余裕を持って、電動シェーバーのスイッチをオンした。そしたら、けっこう音が大きいような気がした。平日の正午前の公園は、とても静かだったので、電動シェーバーの音はけっこう広範囲に響き渡るように思われた。私は心の余裕がなくなってきた。近くの通路を歩いてくるかもしれない人間たちのことが気になって、鼓動が不自然になりはじめた。若年ホームレスだと思われるかもしれない。あるいはネットカフェ難民か。でもそんなことはどうでもいいじゃないか。私だって将来的にそうならないとも限らないわけだし、というかそうなる可能性がけっこう高いような気もするし、だったら予行演習みたいなものじゃないか。私は電動シェーバーを丁寧に肌に当てていく。その洗面所には鏡がなく、無愛想な壁が目の前に屹立していた。シェーバーの立てるジョリ音で、ヒゲの処理され具合を確認する必要があったので、ジョリ音に耳を澄ませながら、シェーバーを動かしていく。すると後ろの方から、何者かの足音が聞こえてきた。人が来ちゃった!と思った。善良で模範的な市民である通行人が、私の背中に冷たい視線を送っているような気がし、背中に軽い痺れのようなものが走り、冷や汗が少しずつ滲んできた。しかし私はシェーバーの電源をオフにはしなかった。オフにしたら負けのような気がしたのである。そして私は勝った。見事に剃り上げた。これで、ホームレスになるための第一準備が整ったような気がした。嬉しくもないし、悲しくもなかった。
12年05月27日(日)
■名古屋旅行日記 その8
舞台が行われる御園座(みそのざ)と、その近くの白川公園の場所をパソコンの中に住むグーグル大先生に教えてもらっていた私は、名古屋駅前の漫画喫茶から歩いて向かいました。まだ午前9時くらいだったが、太陽が素晴らしく照り付けていたため、歩きながら汗が滲んできました。私は、前田敦子女史がCMに出ていることで有名なジーユーで買ったグレーのカーディガンの前のボタンを外し、ゆっくり歩を進めていった。いやに巨大な交差点を渡っているとき、チャリンコに乗った男の人が、紙パックのオレンジジュースを落としてしまい、黄色い液体が横断歩道の上に豪快にぶちまけられた。その黄色い液体は、素晴らしく照りつける太陽の光をあびて、白い輝きを放っていた。僕はその大事件を見て、とくに声をかけるでもなく、無表情のまま黒目を動かした。チャリンコに乗ったその男性は、「しまった」という顔をしてUターンし、オレンジジュースの紙パックを拾い上げ、黄色い液体をそのままにして走り去っていった。
交差点を渡りきって、御園座へ向かって歩いた私は、先のほうに御園座らしき建物を発見した。その手前にはコンビニがあった。「もしかしてこのコンビニに、梨華ちゃんが来たりしていないだろうか。いたらどうしよう」と思い、ガラス越しに店内をのぞいてみたが、梨華ちゃんはいなかった。まあそりゃそうか、もうすぐ公演が始まるし、いまごろ着物を着ているはずだし、梨華ちゃんがコンビニに買出しにくるわけがないか、と思って御園座へ向かった。
インターネットでチケットを購入していた私は、チケット発券機で発券してもらわなければいけなかったので、その機械がある場所へ行った。そこでクレジットカードを差し込むと、すぐにチケットが吐き出された。座席は前もってわかっていた通り、2階2等席、7列13番だった。そうである。2等席を購入したのである。16,000円くらいの特別席にしようかすごく迷ったけど、国民年金保険料のこともあり、8,000円の2等席にしてしまっていた。2階7列だから、梨華ちゃんは遠くて肉眼では表情がよく見えなかったし、声も聞こえにくいときがありました。がっつりマイクを通してるわけじゃなく、舞台の前端にマイクが置いてあった(たぶん)ので、2階だとやや声が遠く感じられました。
チケットを手に入れた私はとりあえず安心し、御園座の入口の方に歩いていきました。そのあたりには、着物を着た上品なご婦人たちが散見されました。ああ、こういう人たちが来るような舞台なんだなあ、僕はちょっと場違いな感があるなあ、と居たたまれなくなっていると、壁に背をもたせて座り込んでいる30代前後の男性を発見しました。見るからにヲタっぽかったので、あ、梨華ちゃんヲタだ、と思いました。相手も、僕のことを梨華ちゃんヲタだと思ったかもしれません。でも僕には梨華ちゃんヲタの友達が一人もいないので、もちろんその人と面識はなく、声をかけなかったし、かけられることもありませんでした。
そのまま御園座の壁沿いを歩いていくと、細雪のポスターがありました。艶やかな着物を着た梨華ちゃんの姿も、そこにとうぜん写っていた。僕はそのポスターを記念に携帯カメラで撮影しようと思ったが、近くで何やら作業をしている黒服の男がいたので、とりあえず遠くを見つめながら一度ポスターの前を通り過ぎた。黒服の男は、会議室に置いてあるような茶色いテーブルの上に、引き出物のようなものを並べていた。その周囲には着物を着た婦人たちが集まりそうな感じになっていた。一度素通りした僕は、ある程度進むと、体を反転させて、再び細雪のポスターににじり寄った。テーブルの近くで作業をしていた黒服の男が僕を見ているような気がしたが、気にしないようにした。「僕はべつに悪事を働いているわけではないのだから、この黒服の男にどんな目で見られようが、気にする必要はまったくない。堂々とポスターを見ればいいし、堂々と写真を撮ればいい」と自分に言い聞かせながら、携帯をポケットから取り出し、ポスターをファインダーに収め、撮影ボタンを押した。どのように撮れたか確認しようとしたが、真っ昼間であるため、光が画面に反射してほとんど視認できなかった。うっすらと梨華ちゃんの着物姿が窺えたくらいのものだったが、まあ問題ないだろう、夜になったら、きっとクッキリ写っていることが確認できるに違いない、それはそれでロマンチックだよね、と思った。ポスターを観て、撮影も済ませた僕が次にするべきことは、ヒゲを剃ることであった。さっきの漫画喫茶で調べておいた白川公園に向かって歩いていった。
12年05月22日(火)
■名古屋旅行日記 その7
今日は梨華ちゃんの舞台を観るのだし、梨華ちゃんのブログの最近のエントリーを読んでおこうと思い、「石川梨華」で検索してみました。すると、梨華ちゃんが処女を告白した、という旨のまとめサイトが上の方に出たので、私の筋肉に不自然な力が入り、リクライニングチェアが360度リクライニングしそうになりました。「知ってた。梨華ちゃんがいまだに処女なのは知ってたけど、マジかよ! 本人が言ったのかよ! うおー!」となり、気持ちが高揚していくのを感じました。でも実際のところは、生まれてこの方、彼氏ができたことがない、ということのようでした。それはそれでやはり、嬉しいような気持ちになりました。というのは、梨華ちゃんが処女じゃなくても気にしないココロの広い大人に将来的にはなるつもりだけど、今のところは、エグザイル的な男に抱かれてるところを想像するだけでも、不可避的にふみゅうとなってしまうからです。また、「梨華ちゃんに未だにスキャンダルが一つもないのは、ふちりんに惚れているからなのでは?」という説を、友人から一笑に付されながらも僕は地味に提唱していたのですが、その説が説得力を増すことになったな、と思いました。あと、関係者の見解として、「石川は風呂に1週間入らなかったりする汚ギャルだから、男が寄り付かないのではないか」というものがありました。そんなわけないじゃん。バカじゃないの。おまえ超バカ。梨華ちゃんクラスの美しすぎる女性だったら、1週間お風呂に入らないことくらい全く屁でもないでしょうよ大抵の男は。僕なら、梨華ちゃんが1ヶ月間お風呂に入らなくてもぜんぜんオッケ〜☆(ローラ風)だよ。僕が1週間お風呂に入らなくても怒られずにすむわけだし、いいじゃん。梨華ちゃんが寝てる間に、体中をペロペロして綺麗にすることだって僕は厭わないわけだし、まったく問題ない。
そのまとめ記事を読んで大いに気をよくした私は、リクライニングソファーにゆったりと身を預け、少しの間、目をつむった。もちろん、繊細すぎる性質の私は眠れるはずもなかったが、クソみたいな乗り心地の夜行バスのおかげでアホほど疲れていたので、心と体を休める必要があったのだ。そして、まぶたの裏側の暗闇のなかで、そろそろ髭を剃る必要があることに思い当たった。そこで問題となったのが、いったいどこでこのクソ髭を剃るか、ということであった。こちらの漫喫のトイレットで私のクソ髭を剃らしていただこうかしら、と考え、トイレッツに行ってみたものの、そこは、持参した電動ヒゲ剃りをブイーンという音を出しながら使っていたら大いに目立ちそうなトイレッツであった。何度も言うけど、私は繊細な性質にできているので、化粧室でヒゲを剃るのはあきらめることにした。この漫喫に丁寧にも設置されているシャワー室を使うのはどうか、と考えた。そこでシャワーを浴びるついでに、髭を剃るのである。300円くらいかかるが、一石二鳥であり、よさそうであった。しかしシャワー室に空きがあるとは限らないし、3時間パックの終了時間もすぐそこまで迫っていた。僕は漫画喫茶で髭を剃ることを断念した。
モテキの主人公をややモテなくした感じの受付の兄ちゃん(すみません)にお金を支払い、外に出ると、きれいな水色が空に広がっていた。太陽が顔を出しており、少しく暖かくなっていた。私は春っぽい陽気に包まれて気分が良くなった。でもまったく眠っていないし、疲れていたので、プラスマイナスゼロといったところだった。とりあえずこのクソみたいな髭を剃らなければならなかった。このみっともない髭面を晒しながら、歴史ある舞台『細雪』を観にいくわけにはいかなかった。それは人間として恥ずかしいことだし、梨華ちゃんファンの印象が悪くなるようなことはしたくなかった。梨華ちゃんの悲しむ顔は見たくない。梨華ちゃんが誇りに思えるようなファンに私はなりたいんだ。そんな立派なことを言えるような日記を書いてきたとは到底言えやしないのに、そんなことを思ってしまいました。すみません。今後はもっと立派な日記、モーヲタテキサイ大手みたいな日記を書いたり、自作の暖簾をプレゼントして梨華ちゃんのブログにその画像が載ったりする、梨華ちゃんが誇れるようなファンになりたいです。とは言え、オナニーのこととかは書くかもしれなくて、ていうか書くんだけど、それはやむにやまれずというか、書かなければならないという気持ちがあります。そこを避けて日記を書いても、真実の何かには辿りつけないだろう、そういう直感があるのです。でも、もし梨華ちゃんに怒られるようなことがあったら、すぐに訂正したり消去したりして、頭を3分刈りに丸め、謝罪と反省の日記を1ヶ月にわたって書きつづけますし、梨華ちゃんの家にゴキブリが出たらたとえ深夜でも無言でかけつけて無言で退治し、無言で引き上げます。


