大学院はてな :: 粉飾決算を行っていた営業所長のうつ病自殺と安全配慮義務

 研究会で前田道路事件松山地裁判決・平成20年7月1日・労働判例968号37頁)を題材に議論。
 ある建設会社の営業所長が経理操作によって1800万円の過剰出来高を計上したことが明るみになり,支店長から「会社を辞めれば済むと思っているかもしれないが,辞めても楽にはならないぞ」と叱責された数日後に自殺。使用者には安全配慮義務違反があったものと主張する遺族から損害賠償請求が提起された事案です。
 この種の事案だと,まず労働者が自殺しているという現実(結果)があります。ところが「叱責」の態様についてみてみると,人格を否定するような罵倒ではない。こんなことを言われたら多くの人が死にたくなるよね,というものでもない。さらに,問題となった粉飾決算にしても,決して褒められるものではありませんけれども,帳簿上の操作であって実際に損害を出しているわけでもない(かといって,事後的に回復可能な程度の金額でもない)。さらに,自殺した労働者は,うつ病に罹患した人に典型的にみられる症状(エピソード)を会社の人達には気づかれないまま自殺に至っており,予見可能性ないし結果回避可能性が著しく乏しい事案。
 裁判所は,上司による叱責と労働者の死亡との間に相当因果関係を認め,執拗な叱責は違法であり精神障害発症の予見可能性があったと構成したうえで,原告労働者の側の過失を6割として減額することにより処理しました。しかしながら,判決の理論構成が決め手を欠くものであるということもあり,参加者の中でも論点の捉え方をめぐって相当に議論の分かれる事案でした。うつ病による自殺についての事案であっても長時間労働といった事情が存在していない本件は,損害発生に対する本人の寄与を議論するうえでは興味深い事案でありましょう。
 

大学院はてな :: 終了のお知らせ

 長らくご愛顧いただいておりました(?)当コーナーですが,今回をもちまして終了いたします。このたび大学院を退学することになりましたもので……。新年度からは,従前からの専門学校講師ならびに公務員・教員予備校講師に加え,某大学にてスペイン語の非常勤講師として勤める予定です。任用手続については当の本人も把握できていないのですが,シラバスに自分の名前があったので,公表しても差し支えないでしょう。
 語学教育についての打診は数年前よりいただいていたのですが,外国語を専門としておられる方にお任せするべきだろうと思い,お断りしておりました。ただ,具体的にお話を聞いてみたところ,確かに時間単価は最低賃金の8倍近いのですけれども,地方都市だと担当可能なコマ数が少ないので,わざわざ“内地”から移住してきていただいても生活するには足りない収入にしかなりません。すでに札幌にいる人で遣り繰りしなければならないという事情があり,かつ,母校の新入生が大学に馴染んでいく時期に支えていくという仕事ができる――ということで,お受けした次第です。
 H大学でスペイン語の教育にあたる者は総勢7名ですが,その中でみても(さらには全国的にも)法学を出自とする者ということで相当に異色の存在かと思います。これを機に,私自身も大学教育のあり方について実地に経験を積みながら勉強していくつもりです。2009年度の前期は文系4学部(文・教育・経済・法)のクラスを担当します。(未だお会いしてもおりませんが)担当学生の皆さん,どうぞよろしく〜。
 なお,在野の身ではありますが労働法&社会保障法の研究も続けていきます。取り上げ方は変わっても社会問題への関心を無くしたわけではありませんので,今後も形を変えつつ,話題を取り上げていくつもりです。
 ちなみに。これで「地理学」「歴史学」「SPI対策」「ビジネス文書」「政治(憲法)」「知的財産(特許法)」「行政法」に加えて「スペイン語」まで教える科目の幅が広がりました。器用貧乏