Hatena::ブログ(Diary)

メモリの藻屑、記憶領域のゴミ

20121031(Wed)

[]ゾンビ・コミック2連発〜『ウォーキング・デッド 3』『アイアムアヒーロー 10』 ゾンビ・コミック2連発〜『ウォーキング・デッド 3』『アイアムアヒーロー 10』を含むブックマーク ゾンビ・コミック2連発〜『ウォーキング・デッド 3』『アイアムアヒーロー 10』のブックマークコメント

■ウォーキング・デッド 3 / ロバート・カークマン

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ゾンビ禍により崩壊したアメリカの大地を彷徨う人々の悲痛な運命を描く大河ゾンビ・コミック、TVドラマ版も好調らしい『ウォーキング・デッド』の日本語翻訳版第3巻が発売されましたねえ。なんでもあとがきによると「本国アメリカでは2003年10月から月刊ペースで発行されていて、2012年10月で103巻を数え」るシリーズだということなんですが、この日本版3巻ではやっとアメリカ版54巻まで辿り着いたというわけです。でも本国版が完結しているわけでもないから先はまだまだ長いということなんですね。この日本版もまだ第3巻とはいえ、相当重量級でたっぷり濃い物語展開になっており、目まぐるしく変化してゆく状況に翻弄される登場人物たちの悲劇に次ぐ悲劇の様子を克明に描いているんですね。

まあこの第3巻では刑務所に腰を落ち着けた主人公たちの束の間の平和が冒頭に描かれ、この平和がいつまでも続いてくれたら…と人々は願うわけなんですが、そうは問屋が卸しません。そう、前巻でそのキチガイぶりを余すところなく発揮した「提督」の軍団が遂に刑務所に隠れ住む主人公一行を発見し、「皆殺しだあああ!」の号令一下、戦争をおっぱじめるわけですよ!そしてまたまた繰り広げられる残酷極まりない運命!…というわけなんですが、それにしてもこのコミックは最悪の状況からさらに最悪の状況へと渡り歩き、安心させたと思ったら突き落とし、の連続で、結局は毎回いちから出直しさせられるところが酷なんですよねえ。

この酷なところがホラーなんでしょうが、読んでいて思ったのは、「こういう毎回ご破算にしながら負のスパイラルに落ちてゆくだけの物語なのかあ?」ということで、「で、ずっとこの繰り返しなの?」ということなんですよ。いつまでもスパイラルで物語の核心が見えてこない。そして主人公(とその家族)に物語をクローズアップさせることに固執してしまい、ミショーンみたいな面白い脇役を登場させても上手く使っていない。だから長大な物語なのに物語の変転はあっても膨らみに乏しい。つまりはなんだかだんだん飽きてきちゃったんですよね。ん〜なんだかなあ、次巻も読むかどうかわかんなくなってきたなあ。それとグラフィックが、ゾンビよりも人間のほうが怖い顔で描かれてて…。

ウォーキング・デッド3

ウォーキング・デッド3

ウォーキング・デッド

ウォーキング・デッド

ウォーキング・デッド2

ウォーキング・デッド2

ウォーキング・デッド  ガバナーの誕生 (角川文庫) ウォーキング・デッド Blu-ray BOX ウォーキング・デッド シーズン2  Blu-ray BOX-1 ウォーキング・デッド シーズン2 Blu-ray BOX-2

アイアムアヒーロー (10)/ 花沢健吾

アイアムアヒーロー 10 (ビッグコミックス)

さて『ウォーキング・デッド 3』と同時期に発売された花沢健吾のゾンビ・パニック・サーガ『アイアムアヒーロー』第10巻。ゾンビ出現により崩壊した世界で、ダメ男・鈴木英雄はどう成長するのか?いや全くしないのか?主人公が、彼の名前・英雄=ヒーローのダブルミーニングとなったタイトルからうかがわせるような、"ヒーロー"になることができるのか?というお話なんだと思うんだけど、『ウォーキング・デッド』がある意味無法と化したアメリカ国家を通じて「アメリカ西部開拓史」の再話、もしくはアメリカというもののオリジンを描こうとしているのに比べて、より読んでいる日本人にとっては同時代的な作品として読めます。当然日本が舞台だから、というのはありますが、物語に頻繁に登場する、2ちゃんねるを思わせる巨大掲示板の描写が、現実でもその掲示板を利用しているような、名前もなく社会的に力もない若者たちの存在を浮き上がらせ、主人公と同年代の青年、もしくは主人公と同程度にダメダメだった経験のある人間にはより身近な物語として読めるんです。

それを如実に感じさせたのがこの10巻から突然始まる新章「来栖編」ですね。ここで登場する来栖なる少年は、以前から作品の中にちらちらと存在を匂わせていたけれど、ここにきてやっとその正体を明らかにします。生存することの確信と技術を併せ持ったこの奇妙な少年は、ネットで賛同者を集め生き残りたちの王国を作ろうとするんです。そしてそこに集まる者は多分かつて名もなく力もない、そしてダメダメだったのであろう若者たちなんですね。この「来栖編」は、これまでドキュメンタリー・タッチでゾンビとの戦いと逃走を描くこの物語の路線を別方向へとシフトさせようとしています。それが作品クオリティにどのような影響をもたらすのかはまだわからないのですが、少なくとも終局へ向けて作者にある種の構想が存在していることは確かでしょう。そういった意味で『ウォーキング・デッド』における”似たような危機展開の繰り返し”よりははるかにましに読めましたねえ。

アイアムアヒーロー 10 (ビッグコミックス)

アイアムアヒーロー 10 (ビッグコミックス)

20121029(Mon)

[]ダメダメ男とハチャメチャ爺さんの運命の出会い〜『レオン・ラ・カム』 ダメダメ男とハチャメチャ爺さんの運命の出会い〜『レオン・ラ・カム』を含むブックマーク ダメダメ男とハチャメチャ爺さんの運命の出会い〜『レオン・ラ・カム』のブックマークコメント

■レオン・ラ・カム / シルヴァン・ショメ作 ニコラ・ド・クレシー画

レオン・ラ・カム

  • この『レオン・ラ・カム』は『ベルヴィル・ランデブー』『イリュージョニスト』のアニメーション監督シルヴァン・ショメが原作を、『天空のビバンドム』『氷河期』のニコラ・ド・クレシーがグラフィックを担当したBDなんですね。物語はド・クレシー流のファンタジーではなく、原作であるショメならではのグロテスクでちょっとひねくれた人間模様を描きます。
  • 主人公は化粧品会社を経営する親父の七光りで広報担当をやらせてもらっている息子のジェジェ。実はジェジェは気の弱い役立たずなダメ男なのですが、そのジェジェの勤める会社にある日、会社の創立者でありジェジェの祖父でもある御年99歳のレオン爺さんが数十年にわたる放浪の旅から帰ってきます。あまりに破天荒な行動と言動を繰り返すレオンにジェジェは次第に惹かれて行き、いつしか二人は意気投合、勢いに乗ったジェジェはダメ男返上とばかりに行動を起こすのだが――というもの。
  • こうやって粗筋を書くと普通の人間ドラマのようなのですが、実はまるでそうじゃないんです。まずジェジェのダメっぷりはもはや同情も起きないぐらいヘタレをこじらせており、読んでいてイライラしてくるばかりか、なんとなく気持ちの悪い男でもあるんです。
  • そしてそのジェジェのお爺さんであるレオン。彼は、破天荒どころか、どこか異常で、異様な雰囲気を持つ爺さんなんですよ。冗談めいたことをしてもまるで笑えないばかりか背筋が寒くなるような狂気めいた部分があり、皺だらけの顔は笑っているように見えて目つきが暗く暴力的だったりするんですね。そもそもタイトルである『レオン・ラ・カム』って「麻薬のレオン」って意味で、そんなわけですから気が向いたらハッパふかしてるだけでなく、ジェジェにも「これ吸ってお前も男になるんじゃ」とばかりに一服吸わせ、ジェジェはジェジェでハッパが相当気に入って躁状態でおかしくなっちゃったりしてるんですよ。
  • しかしおかしいのはこの二人だけじゃありません。兎に角登場する人物誰もがどこか狂っていて異様でグロテスク、まあ要するにまともな人間が殆ど出てこないキチガイじみた物語ってことなんですよね!
  • しかしある意味、レオンはジェジェに「この世界はこんなにキチガイじみているんだから、いちいちまともに受け止めないで堂々としてりゃあいいんだ」って教えているのかもしれないんですよね。どこかキチガイめいて見えるにせよ、レオン爺さんは決して回りに迎合せず、たいていの決まりごとは笑い飛ばすアナーキーさと自由さを持ち、さらに「人生は楽しむもの」ということを知っている爺さんでもあるんです。
  • しかし、そのレオン爺さんが工場の毒ガスを吸ってボケを悪化させ、さらにその頃自信の付いたジェジェに恋人が出来たことで、単にグロテスクだった物語は一変します。物語は突然、老いの衰えの悲しみと絶望の物語へ、そして真の幸福を見つけたジェジェの固い信念の物語へと変貌してゆくんです。即ち、後半までのグロテスクの饗宴の物語はあくまで前フリに過ぎず、終盤になって実はその物語が主人公たちの魂の核心を描く物語だったということに気付かされるんですね。特にラスト数ページの展開には鳥肌が立つほど心を動かされました。
  • しかも実は、この『レオン・ラ・カム』、この1冊で終わりじゃなくてまだ続きがあるそうなんですよ。もはやすっかり廃人となったレオン爺さんと、美しい恋人との幸福のために自分の人生と戦うことを決意したジェジェのこの先に何が待っているのか、早く続編の日本語訳を期待したいです。
天空のビバンドム

天空のビバンドム

ベルヴィル・ランデブー [DVD]

ベルヴィル・ランデブー [DVD]

イリュージョニスト [Blu-ray]

イリュージョニスト [Blu-ray]

samejawsamejaw 2012/10/30 19:57 ベルヴィルランデブー、イリュージョニスト観ました!
最初は「気持ち悪いなぁ、この登場人物」って印象を抱くんですけど、見慣れてくると、妙に心地よくなって来るんですよねー。

ブスも3日でナントカって慣用句がありますが、本当そんな感じで、なんだか視野が広くなった気がしましたよ。

globalheadglobalhead 2012/10/30 20:26 おお観られたんですか!「いくらなんでもこりゃデフォルメし過ぎだろ!」と思えて仕方ないキャラばかり出てきましたが、
確かに段々味わい深くなってくるから不思議でしたよね。
あのセンスってやっぱりあちらの国独特のもんなんでしょう、そういった意味では非常に新奇に目に映るし日本じゃ絶対できないよなあ、としみじみ思います。
かといって日本のアニメがあんなのばっかりでも困っちゃいますけどね!まあどっちにしろオレは大好きですね。

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20121028(Sun)

[]日々是日記 日々是日記を含むブックマーク 日々是日記のブックマークコメント

■某月某日

最近歯医者に通っていて何かとユウウツ。今日も口こじ開けられ指突っ込まれ奇怪な機械であれこれギギガガされていた…。

■某月某日

発作的にWindows8Proを導入。アップグレード3300円だったもんだからつい。UIが結構変わってしまい戸惑うが綺麗になったといえば綺麗になったし、やはり動作は早くなったように感じる。ただし起動の度パスワード入れなきゃならなくなったのはかなり面倒。これ回避する方法あるの?

■某月某日

今年の冬はダウンベストでもどうじゃろう、と洋服屋で試着したら、どうもオレが着ると分厚いちゃんちゃんこを着ているようにしか見えないのであえなく断念。

■某月某日

水曜どうでしょうDVD第18弾『ゴールデンスペシャル サイコロ6/onちゃんカレンダー/30時間テレビの裏側全部見せます!』購入。「サイコロ」シリーズは毎回やってることは同じなのにいつも大爆笑させられる。ここぞというときに悪運を掴む鈴井さんが逆に神懸って見えた…。「30時間テレビの裏側全部見せます!」はTV局に30時間居座ってほかの番組の合間に水曜どうでしょう特番の番宣を打ちまくる、というもの。しかし努力の甲斐無く視聴率0%だったという番宣も…。ご苦労様でした!「onちゃんカレンダー」は大泉さんのあまりにセンスのないカメラの腕が逆に素晴らしい!DVD写真横のの写真は今回のDVDのおまけ。(DVDの通販ショップはこちら

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■某月某日

エヴァ目薬を二つも買ってしまう。

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■某月某日

いきつけのビア・バーにて、今年のオクトーバーフェスタ・ビール、ヴェルテンブルガー・アノ1050で乾杯。つまみは鶏の半身のロースト。ビールも鶏も最高に美味かった!(ビールの写真は相方さんが撮ったものをこっそり拝借)

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■某月某日

「心までハダカにされた…」看板が佇んでいた。

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■某月某日

自分で作った(といってもラーメン茹でて出来合いのトッピング乗せただけ)とんこつラーメンが結構上手にできたので記念撮影。しかし残念なことに味はイマイチなのであった…。しかもコスト的にはお店で食ってもあまり変わらないぐらいかかってしまったという。

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■某月某日

有楽町のガード下初デビュー。外で飲むのは気持ちいいやね。焼き鳥・焼きトン美味しゅうございました。しかし気持ち良すぎて結構飲んでしまった…。

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lazy-daisy5113lazy-daisy5113 2012/10/29 00:52 私もエヴァ目薬を買ったよ。フモさんと同じ事をやったと思うと悔しい。

globalheadglobalhead 2012/10/29 08:13 わーいエヴァ友!エヴァ友!ってかなんでレイジーさんがエヴァなのかが謎。

lazy-daisy5113lazy-daisy5113 2012/10/29 21:00 シャキッとする目薬を探していたら、見るからにシャキッとしたパッケージだったから。エヴァに関しては無知…。私は目薬マニアで、涙型、栄養型(年寄り向き)、シャッキリスッキリ型を使いわけてるの。自前の涙が一番だけど、年齢的に水気が足りんのよ

globalheadglobalhead 2012/10/30 00:48 そういえば最近やたら目がショボショボするので、
奮発して1000円超えの栄養型目薬買ってさしたらこれが眼球に吸い込まれていくような差し心地で、
高いだけのもんじゃねえなあ、と感心してしまった。
そう言いつつなんでエヴァになったかというとやっぱり高かったから…。
ちなみにオレは自宅用カバン用会社用といつも3つ目薬買ってるんですよ。

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20121026(Fri)

[]『エル・トポ』のホドロフスキー原作、宇宙最強の傭兵一族の歴史を描くスペース・オペラ『メタ・バロンの一族』 『エル・トポ』のホドロフスキー原作、宇宙最強の傭兵一族の歴史を描くスペース・オペラ『メタ・バロンの一族』を含むブックマーク 『エル・トポ』のホドロフスキー原作、宇宙最強の傭兵一族の歴史を描くスペース・オペラ『メタ・バロンの一族』のブックマークコメント

■メタ・バロンの一族(上)(下) / アレハンドロ・ホドロフスキー、フアン・ヒメネス

メタ・バロンの一族 上 (ShoPro Books) メタ・バロンの一族 下 (ShoPro Books)

この広大な宇宙で最強最悪であり冷徹非道と謳われた殺し屋、メタ・バロン。彼の一族は古来より苛虐な肉体破損と親殺しを条件とした通過儀礼により、その血塗られた名を脈々と受け継いできた――バンドデシネ、『メタ・バロンの一族』はこの呪われた一族の闘争と殺戮に明け暮れる暗黒の歴史を綴った長大な宇宙叙事詩である。

この『メタ・バロンの一族』はもともと、『エル・トポ』『ホーリー・マウンテン』で名を馳せるカルト映画監督アレハンドロ・ホドロフスキーを原作とし、BD界の至宝メビウスがそのグラフィックを担当した伝説的傑作コミック、『アンカル』に登場する宇宙最強の殺し屋、メタ・バロンを主人公としたスピン・オフ作品として企画された。そしてこの『メタ・バロンの一族』では原作を『アンカル』と同じくアレハンドロ・ホドロフスキー、グラフィックは鬼才ファン・ヒメネスが担当し、メビウスとはまた違う濃厚かつ卓越した描写力でもって、おぞましくもまた想像力に溢れた未来宇宙世界を描ききっている。

「『メタ・バロンの一族』は腐敗した銀河帝国で展開する。時にこの世界には善良なるものは何もないと思えることがある」。ホドロフスキーがこう語るように、『メタ・バロンの一族』ではありとあらゆる"非道"が描かれる。メタ・バロンの一族は虐待、肉体破損、親殺し、また時として近親相姦によって成立し、彼らが殺戮を繰り広げる銀河世界では戦争、破壊、侵略、虐殺、征服、奴隷化、さらには星系に存在する知的生物を全て根絶やしにするジェノサイド、惑星の爆破、そして終局ではひとつの多次元宇宙全てを壊滅させるほどの恐るべき戦闘が描かれてゆく。ホドロフスキーはこの作品の中で大宇宙を舞台にしたオイディプス神話をもととするギリシャ悲劇を描こうとしたと語るが、キリスト教史観以前の倫理無き混沌と狂気と激情がこの物語に横溢していることは間違いない。

しかし、メタ・バロンの一族は決して血に飢えた蛮族、狂人の集団というわけでは無い。彼らは日本のサムライをイメージした彼らなりの徹底した規律と教条を持って生きている一族であり、それは恐ろしく歪みきったものではあるが、単に嗜虐を求める者ではなく、戦いの崇高さに忠勇を誓う者たちでもあるのだ。『メタ・バロンの一族』は彼らのそのグロテスクな規律と歪んだ教条の生み出す異様な世界観が迫力に満ちたスペース・アートでもって描写されてゆく。異形の生物と異形の都市、それらを破壊・壊滅する紅蓮たる爆炎と光輪、重々しい輝きを持つスペース・シップで埋め尽くされた暗黒の宇宙、それらスペース・シップが虫けらのように宇宙の塵と化す熾烈極まりない宇宙戦争、退廃と腐臭に満ちた絢爛たる銀河帝国、異常な心理と思考で持って行動する登場人物たち。これら全てが、どこまでもおぞましく、毒々しいまでに華麗で、そして細微に渡って美しく描かれる秀逸のグラフィック。BD『メタ・バロンの一族』は当代随一と表現してもいい超弩級のスペースオペラ・コミックであろう。

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L'INCAL アンカル (ShoPro Books)

L'INCAL アンカル (ShoPro Books)

アレハンドロ・ホドロフスキー DVD-BOX

アレハンドロ・ホドロフスキー DVD-BOX

20121025(Thu)

[]最近読んだ本 / 『夜の姉妹団』『いずれは死ぬ身』 柴田元幸 編・訳 最近読んだ本 / 『夜の姉妹団』『いずれは死ぬ身』 柴田元幸 編・訳を含むブックマーク 最近読んだ本 / 『夜の姉妹団』『いずれは死ぬ身』 柴田元幸 編・訳のブックマークコメント

■夜の姉妹団―とびきりの現代英米小説14篇 / 柴田元幸 編・訳

夜の姉妹団―とびきりの現代英米小説14篇 (朝日文庫)

夜の姉妹団―とびきりの現代英米小説14篇 (朝日文庫)

少女たちが闇の中へと消えていくその訳は?終わりのない新婚旅行って?不倫・猫・肥料、その関係は?人の死は引っ越しと同じ?スティーヴン・ミルハウザーレベッカ・ブラウン、ジョン・クロウリー、ウィル・セルフなどなど、現代英米小説を精力的に紹介しつづける編者が厳選した魅惑の短篇集。

■いずれは死ぬ身 / 柴田元幸 編・訳

いずれは死ぬ身

いずれは死ぬ身

死、喪失、別離、崩壊……人生で避けて通れないそれぞれの瞬間。スチュアート・ダイベック「ペーパー・ランタン」、ポール・オースター「ブラックアウツ」他、17篇収録のアンソロジー。

この『夜の姉妹団』と『いずれは死ぬ身』の2冊は翻訳家・柴田元幸氏が雑誌「エスクァイア 日本版」において氏の好きな現代小説を選んで訳出し、連載していたものを中心まとめた単行本です。柴田元幸氏についてはよく知らなかったんですが、「カリスマ翻訳家」なんていう評判まであったので調べてみたら、優れた翻訳をするだけでなく、なんでも村上春樹氏の翻訳本のバックアップチームの一人だったらしく、そういった方面での人気も高いのかもしれませんね。

さてその柴田元幸氏のセレクトした現代英米文学短編集、ざっくり言うなら"ポストモダン文学"の作品が並んだもの、とでもいえばいいのでしょうか。作家にしても有名作家から日本でまだ知られていない作家まで様々ですが、全体的に非常にインテリジェントな作品が多く感じられました。

『夜の姉妹団』では割と"奇妙な味"の作品が多くこちらのほうが好みでした。夜な夜な秘密の会合を開く女子高生たちの謎「夜の姉妹団」をはじめ、性のもどかしさを詩的な筆致で描くスチュアート・ダイベック「僕はしなかった」、19世紀末イギリスで密かに蔓延した奇妙な疫病の話:ジョン・クロウリー「古代の遺物」、アメリカ人と初めて接したロシア人の屈折した感情を描く「境界線の向こう側」、ポルノ映画館でかつて世話になった男を捜し求める神話的なゲイ物語:ジェームズ・パーディ「いつかそのうち」、ボルヘス作品「南部」のその後の物語を追い求める男が彷徨いこんだ異界:ラッセル・ホーバン「匕首を持った男」、キャットフードのラベルに取り付かれた男を描くルイ・ド・ベルニエール「ラベル」など、スマートな語り口調の中に奇妙な・あるいは奇怪なオブセッションが紛れ込む物語が多かったですね。

一方『いずれは死ぬ身』はタイトルが暗示するように生の寂寞感や虚無感の漂う物語、また逆に死に瀕しながらもしぶとく生き残る物語が多かったでしょうか。それと合わせ、柴田元幸氏の好みだというナンセンス・不条理感漂う作品とが半々ぐらいに並べられていますね。『夜の姉妹団』のオブセッションの奔出と比べると、もっと文学性を感じさせる作品が多く、ある種の点景を切り取ったような静的な作品が並んでいるように感じました。どこか淡々としている分、ちょっと大人しめの作品集になっているんですが、何か奇矯なことが起こるというよりは日常的なちょっとした微妙な感情をクローズアップさせたような物語を中心にセレクトしていました。

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20121024(Wed)

[]「わたしゃ宇宙人のワンあるよ!」とイカ型宇宙人は言った〜映画『宇宙人王(ワン)さんとの遭遇』 「わたしゃ宇宙人のワンあるよ!」とイカ型宇宙人は言った〜映画『宇宙人王(ワン)さんとの遭遇』を含むブックマーク 「わたしゃ宇宙人のワンあるよ!」とイカ型宇宙人は言った〜映画『宇宙人王(ワン)さんとの遭遇』のブックマークコメント

■宇宙人王(ワン)さんとの遭遇 (監督:マネッティ兄弟 2011年イタリア映画)

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  • 中国語通訳を職業とする主人公が政府の秘密組織に連れられ、通訳を頼みたいと対面させられた相手は、なんと中国語を話すエイリアンだった!?というお話です。
  • 最初、この変なタイトルに「なんじゃこりゃ?」と思ったんですよ。しかも中国映画かと思ったらイタリア映画、そして純然たるSFのようなんですね。なんだか変な映画の匂いがプンプンして、こりゃ観に行かなきゃ、と映画館に行ってきました。
  • 主人公女性ガイアは最初エイリアンの姿を観て慌てふためきます。このエイリアン、なんかイカみたいな姿をしていて、手足もいっぱいある。しかし、エイリアンは政府の秘密機関の連中に拉致監禁され、手足を縛られた惨い姿で座らされている。そして、地球来訪の理由を疑い、執拗な尋問を繰り返す政府機関に拷問まで受ける場面を目の当たりにし、ガイアは次第にエイリアンに同情し、なんとかここから逃げ出させられないか、と考えるんですね。
  • 何故このエイリアンが中国語を話すのか?というと、地球で一番話されている言語が中国語だから、とエイリアンは答える。これ、非常に理にかなった説明なんですね。そしてエイリアンは、地球に来たのは、友好の為なんだ、と何度も説明するのですが、疑心暗鬼の塊となっている政府機関は、嘘こけ本当の事を白状しやがれ!の一点張りで、仕舞いには電気ショックによる恐ろしい拷問を始めるのです。
  • SFというジャンルは、現実にある"なにか"を戯画化し、それを誇張することでその現実にある"何か"の問題を浮き上がらせることを非常に得意とするジャンルでもあります。例えば、ハリウッドSF映画に、宇宙からやってきたエイリアン軍団やモンスターが襲い掛かる、という描写が多かったりするのは、エイリアンを現実の敵国の脅威やテロへの恐怖の暗喩として用いていたりするわけです。
  • そうした面から見ると、この映画『宇宙人王(ワン)さんとの遭遇』は、例えば犯罪者やテロ組織構成員と見なされ逮捕された者への仮借ない監禁や尋問、そしてアメリカのグァンタナモ基地秘密収容所における捕虜虐待に見られるような国際法を犯した拷問を秘密裏に行っていることへの恐怖を描いている、と見る事もできます。また同時に、平和と友好を訴える隣国や他国は、果たして本当に信用できるのか?というパラノイアックな恐怖もここには存在しています。
  • そういった、現実の政治的な恐怖というものがこの物語には見え隠れしているんですね。しかも最も面白いのは、このようなテーマのSF映画が、アメリカではなく、イタリアで製作された、ということなんですね。
  • 映画それ自体は非常に低予算で仕上げられているようです。ロケーションは殆どエイリアンが監禁された地下室のような場所だけ、エイリアンの造形も、上手く作ってありますが、まあ作り物臭いといえば作り物臭くはあるかもしれません。CGIなんかも頑張っているようですが、予算ギリギリで作成しました、という拙さはあったりします。しかしテーマそれ自体が秀逸なので、そういった低予算さを気にさせない面白さはあります。この辺はこの間公開された『アイアン・スカイ』に近い製作者の心意気を感じました。
  • それと主人公女性ガイアを演じるフランチェスカ・クティカさんという女優さんがなにしろ綺麗で、殺伐とした映画に華を添えていますね。
  • そして問題はなにしろこのラストでしょう。勿論詳しく書くことは差し控えますが、ハリウッド映画じゃ絶対こんな風にはしなかったであろうヨーロッパならではのシニシズムが全開していましたね。このラストをどう見るかで映画の評価は変わってくるかとは思いますが、テーマの斬新なあり方という点で、ひとつのSF映画として十分評価していい作品だと感じました。

(↓とてもお美しい主演女優フランチェスカ・クティカさん)

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D

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20121022(Mon)

[]もう"消耗品"なんて呼ばせねえッ!〜映画『エクスペンダブルズ2もう"消耗品"なんて呼ばせねえッ!〜映画『エクスペンダブルズ2』を含むブックマーク もう"消耗品"なんて呼ばせねえッ!〜映画『エクスペンダブルズ2』のブックマークコメント

エクスペンダブルズ2 (監督:サイモン・ウェスト 2012年アメリカ映画)

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  • あの"消耗品軍団"がさらに男臭く汗臭くパワーアップして帰ってきた!?という主演シルベスター・スタローン他数多くのアクション・スター皆々様が勢揃いで登場するアクション映画続編です。
  • お話は今回満を持して登場のジャン=クロード・ヴァン・ダム扮する悪の武装組織とお馴染み"消耗品軍団"の皆々様が、アルバニアの地下深く隠された旧ソ連の廃棄プルトニウムを巡って血飛沫切り株弾丸砲弾乱れ飛ぶ地獄の戦闘を繰り広げるというもの。まあ要するに、ズドドドドドド!ウギャーウギャー!ドッカンドッカン!なわけですよ。
  • なにしろオープニングから飛ばしまくりブチキレまくりのアクションに次ぐアクションであります。前作クライマックスの大規模破壊行為を髣髴させる壊せ!殺せ!みんな火の海だああ!と言わんばかりのド派手な戦闘が映画開始後すぐ始まっちゃいます!"消耗品軍団"の皆々様、もう阿修羅の如く殺戮・破壊をやりまくってくれるので、そのあまりの無双ぶりに観ていてちょっと笑っちゃいました。いや、楽しくて!
  • しかし"前作を髣髴させる"のはここまで。ここからはジャン=クロード・ヴァン・ダムが親玉を務める【悪の傭兵組織サング】と【消耗品軍団エクスペンダブルズ】との遺恨を掛けた壮絶な戦いへと繋がっていくんですね。いやなんかプロレス団体の抗争みたいだなあ。
  • 前作は「エクスペンダブルズはスゲエんだぜ!?」と知らしめるためにひたすらハイテンションにアクション(と殺戮行為と破壊)を繋げていきましたが、1作目が大ヒットし、メンツのお披露目も終了したということでこの「2」は若干余裕のある造りになっていますね。要するにすっとぼけたシーンや緩いシーンが1作目以上に多かったってことですね。ロックのアルバムでいうとデビュー作がハイテンポの曲ばっかりだったが、2作目はスローな曲やレゲエのリズムの曲を入れてみて変化を狙った、といった所でしょうか。
  • そして今回ジャン=クロード・ヴァン・ダムが悪の親玉ということで、敬意を表してということでしょうか物語の流れがヴァン・ダムとのガチンコ勝負へと収斂して行く、というつくりになっており、前作のような破壊また破壊ばっかり、という流れにはなっていないんですね。
  • それと、スタローンお得意のウエットな人情話(お前らの無念、俺が晴らす!)が前作以上にフィーチャーされていて、ああスタローン本当にこういうの好きだよなあ、とにまにましていました。
  • そしてやはり嬉しいのはスタローン、シュワルツェネッガーブルース・ウィリス揃い踏みアクション・シーンでしょう。まあ仲良く並んで銃ぶっ放してるだけでしたけど、映画ファンにはまさに眼福といっていいシーンでしたね。
  • 善玉は隠れもせず仁王立ちになったままアサルト・ライフルぶっ放しまくってるのに、悪玉の弾丸は善玉にかすり傷さえ負わさず、かわりに善玉の弾丸は全部悪玉をなぎ倒す!という最近のアクション映画なら考えられないような古臭いアクション映画のお約束をてらいもなく運用し、しかしそれでも強引に納得させちゃうのは、このスタローン、シュワルツェネッガーブルース・ウィリス「エクスペ御三家」パワーが合体し人智を超えた神秘のエネルギー場がそこに発生しているから、ということで瞬時に理解できちゃうんですね!
  • おまけに悪玉軍団が善玉軍団にふいうち食わせても、そこで全員ぶっ殺しときゃいいのにそれじゃあ映画が終わってしまうから、「生きて辱めを覚えるがいい!」とか余裕ぶっこいたこと言ったばかりに、後々善玉軍団に追撃されてやっつけられちゃう、というのも今じゃあ誰もやんないお約束ですけど、それさえも納得させちゃうのがスタローン、シュワルツェネッガーブルース・ウィリスの(以下略)
  • しかも絶体絶命のピンチにデウス・エクス・マキナよろしくチャック・ノリスが登場し、赤子の手を捻るよりも簡単にことを収める、という、普通なら禁じ手でしかない展開を堂々と見せちゃう、というのにも逆に度肝を抜かれました!
  • こんな【ご都合主義テンコ盛り】の展開なのにも関わらず、それでも全然問題無い、むしろどんどんやってくれ、ぐらいに思うのは、彼らが「ヒーロー」だからなんですね。スタローンにしろ、シュワにしろ、チャック・ノリスにしろ、彼らはこの『エクスペンダブルズ2』の役柄だけではなく、その背後に数々の映画のヒーローの役柄を背負っていて、その後光があるからこそ、彼らの神がかりとも言える行動は、問題無し!てなことになっちゃうんですよ。
  • こういった「ヒーローはかっこよく登場しそして無敵である」という、複雑化した現代の物語ではもはや通用しないはずの手を、馬鹿馬鹿しくもまた鮮やかに蘇らせちゃった、という部分が「オールスターアクション映画」であることの強みだと感じましたね。"かっこよく無敵のヒーロー"を演じられるのは、かつてかっこよく無敵のヒーローだったエクスペンダブルズ・メンバーの皆々様だからこそ、ということなんですね。
  • そういった意味で、この『エクスペンダブルズ』は、昨今の映画的定説を持つ物語を放棄した、というか相手にしていない、数々のスターの「俺がスターだ文句あるか」のドヤ顔をひたすら愛でるためだけに成立している映像クリップである、という点で、もはや映画ですらないのかもしれないんですよね。いうなれば歌舞伎人気俳優が大見得を切る場面を収集した映像集とでもいいますか、そういった逸脱の仕方が面白いなあ、でも面白いからもっとやってくれ!と思った映画でした。
  • 最後に、パンフに載っていた面白い話を。チャック・ノリスは、かつて手榴弾を投げ、50人を殺害した。その後、手榴弾が爆発した」(チャック・ノリス・ファクト(事実))

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Expendables 2

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20121019(Fri)

[]生きることのニヒリズムを超えて〜映画『スローターハウス5生きることのニヒリズムを超えて〜映画『スローターハウス5』を含むブックマーク 生きることのニヒリズムを超えて〜映画『スローターハウス5』のブックマークコメント

スローターハウス5 (監督:ジョージ・ロイ・ヒル 1975年アメリカ映画)

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映画『スローターハウス5』は、自分が最も敬愛する作家、カート・ヴォネガットの代表作である同名小説を、『明日に向かって撃て!』『スティング』のジョージ・ロイ・ヒルが1975年に映画化したものだ。物語は、過去・現在・未来を自分の意思と関係なくランダムに行き来する運命を背負った男の、その数奇な人生を描いている。

主人公の名はビリー・ピルグリム、彼は地球外知性体、トラルファマドール星人に誘拐され、トラルファマドール星の動物園で、やはり誘拐されてきた地球人、ポルノ女優のモンタナ・ワイルドハックと過ごしていた。トラルファマドール星人は4次元世界の生命体であり、過去・現在・未来をひとところに認知し、その全ての時間軸を行き来して生きていた。そのトラルファマドール星人の影響で、ピルグリムもまた、自らの人生のあらゆる局面を、ランダムに生きるようになってしまったのだ。あるときは子供時代を。あるときは幸せな結婚生活時代を。あるときは自らが遭った飛行機事故からの生還と、妻の事故死の瞬間を。あるときは自らが死ぬときを。そしてあるときは、かつて第2次世界大戦中、ナチス・ドイツ軍の捕虜となり、収容所のあったドイツ東部の町ドレスデンで、連合国の無差別絨毯爆撃に巻き込まれ、この世の地獄ともいえる惨禍を目撃した時代を。

この物語で描かれる【ドレスデン無差別絨毯爆撃】は、原作者であるカート・ヴォネガットが第2次世界大戦で実際に捕虜として体験した事実に基づいている。Wikipediaを引用するなら「4度におよぶ空襲にのべ1300機の重爆撃機が参加し、合計3900トンの爆弾が投下された。この爆撃によりドレスデンの街の85%が破壊され、2万5000人とも15万人とも言われる一般市民が死亡した」とある*1。類推される死者の数に大きな開きがあるのは、当時町に大量の戦争難民が流入していた為、実際どれだけの人間が死亡したのかわからない、ということなのだが、最大で見積もるなら広島・長崎の原爆投下や東京大空襲と比すべき夥しい死亡者を出した大規模爆撃だと言うことが出来る。

原作者カート・ヴォネガットはこの自らの体験を小説化しようとしたとき、そのあまりに恐ろしい惨禍のさまを、その恐ろしさゆえに正面から描くことが出来なかったのだという。そして選んだのがSF的な設定を持ち、過去・現在・未来が細切れに交錯する、奇妙に入り組んだ構成を持つ物語だったのだ。そしてこの入り組んだ構成それ自体が、「あまりに正視し難い現実」という作者の"痛み"を的確に表現する構成となっていたのだ。こういったある意味難解になりがちな構成を持つ物語を、監督ジョージ・ロイ・ヒルは絶妙な編集と表現手腕でもって、実に味わい深く、そして痛ましくもまた美しい物語として映画化することに成功している。監督ジョージ・ロイ・ヒルは、「カート・ヴォネガットの息子」とまで呼ばれる作家、ジョン・アーヴィングの『ガープの世界』も後に監督しているが、『スローターハウス5』と同じように奇妙な構成を持つこの物語をも、実に優れた映画作品として完成させている。

物語は一見SF作品のような体裁を持ち、確かに宇宙人やタイムスリップといったSF的な設定が持ち込まれるけれども、その本質にあるのは、生きるということの残酷さ、生きるということの不条理さであり、そしてその残酷で不条理な人生に対して、人はどのようにして対峙すればいいのか、生きるということの理由を見つけていけばいいのか、ということを描いているのだ。禍福は糾える縄の如し、とは言うが、一歩離れて見るならば、運命というのは、単にシーソーの上がり下がりでしかなく、そのシーソーのどちらか一端で、上がっているのか下がっているのかを、一喜一憂しているだけに過ぎないのではないか。良いことがあれば悪いことがあり、悪いことがあれば、良いこともある。そしてその繰り返し。結局、全ては同じこと。つまりは、全ての中心にあるのは実はシーソーに乗っている、ということだけにあり、即ち、我々は、生きて、そして死ぬだけだ、という事実であり、その、生きて死ぬだけの人生の中で、幸福と不幸との狭間に振り回されている、それが人の運命の本質なのではないか。そして人生とは、"そういうものだ"(原作で繰り返し繰り返し使われる言葉)、と言うしかない、その不条理への、圧倒的な【虚無感】。

物語は、細切れにされた人生の断片を、その幸福と不幸を、主人公の"時間を行き来する能力"でもって、まるで"時間が痙攣を起こしたかのように"ランダムに描いてゆく。細切れにされ、並列に描かれる幸福と不幸には、何一つドラマは無い。そこには、幸福にも、不幸にも、一歩引いて接することしかできなくなってしまった人間の、巨大な【虚無感】があるだけだ。けれども、この物語は、そういった人生への諦観を描きながらも、陰鬱な絶望に堕することを、決して善しとしないのだ。人生とは【虚無】だ。しかし、生きるということのニヒリズムの果てに、物語はその先を描こうとする。例え人生が空しいものであろうとも、それでも人生の良い面だけを見て生きていこうじゃないかと、それでも人生を肯定して生きていこう、と。『スローターハウス5』とは、そういう物語なのだとオレは思う。

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20121018(Thu)

[]もしもマリリン・モンローとアインシュタインが出会っていたら〜映画『マリリンとアインシュタイン』 もしもマリリン・モンローとアインシュタインが出会っていたら〜映画『マリリンとアインシュタイン』を含むブックマーク もしもマリリン・モンローとアインシュタインが出会っていたら〜映画『マリリンとアインシュタイン』のブックマークコメント

■マリリンとアインシュタイン (監督:ニコラス・ローグ 1985年イギリス映画)

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セックス・シンボルと呼ばれた往年のハリウッド女優マリリン・モンロー相対性理論を生み出した天才アルバート・アインシュタインが出会っていたら、どんな会話が繰り広げられるのだろう…という架空の物語がこの『マリリンとアインシュタイン』です。この二人の他にもモンローの夫だった名野球選手ジョー・ディマジオ、そして"赤狩り”で歴史にその悪名を残すジョセフ・マッカーシー上院議員も登場し、物語にかかわっていきます。

舞台は50年代のNY、アインシュタインが宿泊するホテルの部屋に、ひょんなことからマリリン・モンローが現れるのです。物理学の天才学者と肉体美を売りにするハリウッド女優、まるで水と油のように思えるのですがそうではありません。モンローはつっかえながらも自分の理解している範囲で特殊相対性理論とはどういうものなのか、アインシュタインの前で語ります。モンローは彼女なりのインテリジェンスを持っていたにもかかわらず、"セクシー女優”という肩書きを持つばかりに世間から自らのインテリジェンスを評価されないことに不満を持っていたんですね。そんなモンローをアインシュタインは目を細めながら見つめ、楽しそうに理論の補足をしてゆくんですね。この、"モンローが解説する特殊相対性理論”のシーンは、モンローとアインシュタインの掛け合いも含め、フィクションというものが再現できる芳醇な想像力に満ちていて、屈指の名シーンということができるでしょう。

そしてそこに現れるのが嫉妬に狂ったモンローの夫ディマジオ、さらにアインシュタインを反共産主義の道具として使おうと脅しをかけるマッカーシーなのです。もちろん、歴史上にこの4人がひとところにいた事実はありませんが、それではなぜこの物語でこの4人の邂逅を描こうとしたのでしょう。それは、アメリカ50年代を代表するこの4人のそれぞれが胸の内に抱える喪失感を描くことによって、アメリカの歴史上最も豊かで輝きに満ちていたはずの50年代をその【喪失感】というキーワードで批評しようとしたのではないのかと思うんです。

モンローは世間の持つイメージと本当の自分との乖離に悩み、さらに子供を生める体ではなく、望みながらも幸福な家庭を築けずにいた。アインシュタインは自らの理論が原子爆弾という恐るべき兵器に流用され多くの人命を奪ったことに悩んでした。ディマジオは野球選手としては一流でも一般人としては単なるボンクラでしかない自分の知性の低さに劣等感を抱いていた。そしてマッカーシーは誰にも好かれる子供時代を持つ自分が、今や蛇蝎の如く忌み嫌われる政治家になってしまったことに密かに苦悩していた。そしてこの4人の喪失感と苦悩が交差しながら、映画はそのクライマックスに禍々しいまでに美しく幻想的なカタストロフの様子が用意されます。

アインシュタイン、モンロー、ディマジオ、マッカーシー、類稀なる知性、類稀なる美貌、類稀なるスポーツ能力、そして反共・資本主義礼賛という類稀なる"狂信"。これら、当時の世界で類稀なる豊かさを誇っていた栄光の50年代アメリカを代表し象徴する者たちの、その喪失と虚無、それは、続く60年代におけるアメリカの、挫折と失墜を予期し、または用意した巨大なる"空洞"だったのではないでしょうか。この映画『マリリンとアインシュタイン』の原題は「インシグニフィカンス」(=無意味なこと)、全ての栄光がやがて無意味なものと化してゆくこと、映画は、それを描こうとしていたのかもしれません。

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マリリンとアインシュタイン [DVD]

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20121017(Wed)

[]最近ダラ観したBlu-rayだのDVDだの (その3) 『戦火の馬』『海の上のピアニスト最近ダラ観したBlu-rayだのDVDだの (その3) 『戦火の馬』『海の上のピアニスト』を含むブックマーク 最近ダラ観したBlu-rayだのDVDだの (その3) 『戦火の馬』『海の上のピアニスト』のブックマークコメント

■戦火の馬 (監督:スティーヴン・スピルバーグ 2011年アメリカ映画)

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一頭の馬を通して第一次世界大戦の趨勢を追って行く、という映画ですね。なにしろ主人公は軍馬として戦場で使役されることとなった馬、この馬の周りに様々な人が現れては消えてゆくんですが、それはイギリスやフランスの農民であったりとかイギリスやドイツの軍人であったりとか、そのときそのときで馬の持ち主が変わり、そして持ち主が変わるたび第一次世界大戦で敵対する両陣営がどのような戦いを繰り広げていたかが分かる仕組みになっています。そして面白いのは映画が進むにつれ戦争テクノロジーが徐々に進化していってる様を描いているんですね。最初は騎馬隊で突撃、とかやってたのが次がガトリング砲、次が大砲、最後には戦車、さらに毒ガス戦、といった形で、第一次世界大戦における戦闘方法と兵器の変遷が上手に盛り込まれているんですよ。その反面、馬とからむ人間は次々に変わってゆくので、人間そのものの描かれ方というか掘り下げ方は大甘な上にざっくりしているんですね。この辺、実にスピルバーグ映画らしくて、ヒューマン・ドラマ撮ろうとして惨たらしい戦闘シーンに思いっきり力が入っちゃった『プライベート・ライアン』とか、やっぱりヒューマン・ドラマやろうとしてユダヤ人殺戮場面にメッチャ力が入ってしまった『シンドラーのリスト』を撮ったスピルバーグらしい本末転倒ぶりが微笑ましいですね。スピルバーグ自体第一次世界大戦モノは初めてだったそうですが、クライマックスの塹壕戦とかその描写なんかが「戦争映画好き」していて惚れ惚れしちゃうぐらい禍々しいんですよねえ。そういった意味でこの『戦火の馬』、オレは「馬と人々との魂のふれあい」の映画というよりも「ヨーロッパ近代戦争史」として楽しんでしまいました。

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戦火の馬 ブルーレイ(2枚組) [Blu-ray]

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海の上のピアニスト (監督 ジュゼッペ・トルナトーレ 1999年イタリア・アメリカ映画)

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船の上で生まれ船の上で暮らし天才的なピアニストとして人々に愛されながらも生涯ただ一度も船を下りることのなかった男を描いたドラマです。設定それ自体も普通に考えたら有り得ないような風変わりなものですが、お話のほうも人間ドラマというよりはひとつのファンタジーとして観るべき映画でしょう。特に嵐の中、木の葉のように揺れる船上で、ツルツルクルクルと床を滑るピアノを超絶的な技巧で演奏するシーンの幻想味、天才ジャズマンとのピアノ一騎打ちのエキサイティングな楽しさ、さらに船窓から見える少女に恋して即興でピアノ曲を弾き始める美しいシーンなどは、どれも映画という表現ジャンルの醍醐味に満ちた宝石のように輝く素晴らしいシーンでした。しかし、主人公がなぜこうまでして意固地に船を下りないのか、が観ていてどうしても理解できないんですよねえ。船の上にい続けることが自らの芸術性を守る必須の条件なんだ、ということのようなんですが、外の世界を知らないまま、芸術に身を捧げることだけが自らの人生なんだ、と言い切ってしまうことは実は不幸なことなのではないのか、と自分などは思ってしまいました。ここからはネタバレになっちゃうんですが、結局、主人公は廃船となった船と共に自らの生涯をも閉じてしまうことを選ぶのですが、これでは死を選ぶことが最良の方法と言っているようなもので、実はこの映画、かなりペシミスティックなものであると言わざるを得ないんですよね。しかし考えてみると人っ子一人いない廃船で生活し続けるのはどうにも無理がある話で、ラストに登場した主人公というのは、実は亡霊であったのではないのか、とふと思ってしまいました。でなければ、この物語の狂言回しであるトランペッターの、彼自身の一時代の終焉を象徴させたものであるとか、いろんなことを想像してしまったラストでしたね。

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海の上のピアニスト [DVD]

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20121016(Tue)

[]最近ダラ観したBlu-rayだのDVDだの (その2)『Black&White/ブラック&ホワイト』『アポロ18最近ダラ観したBlu-rayだのDVDだの (その2)『Black&White/ブラック&ホワイト』『アポロ18』を含むブックマーク 最近ダラ観したBlu-rayだのDVDだの (その2)『Black&White/ブラック&ホワイト』『アポロ18』のブックマークコメント

■Black&White/ブラック&ホワイト (監督:マックG 2012年アメリカ映画)

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容姿も性格も三人並みの平凡な女性がある日突然二人のイケメン男性に惚れられたばかりか、その二人はなんと諜報機関の同僚同士だった!?という映画です。平凡な一般市民の女性とスパイの男、という組み合わせはシュワの『パーフェクト・ライズ』やトム・クルーズ&キャメロン・ディアスの『ナイト&デイ』やその二番煎じ映画『キス&キル』なんていうのがあり、既に定番的なテーマというか食傷気味のテーマではありますが、この『Black&White/ブラック&ホワイト』では"男2人"というのが新しいのでしょうか。物語自体は「モテない私がいきなり謎めいた男二人にモテモテになった挙句その二人が私を取り合って争っているの!」というどっちかっていうと女性客向けの願望充足映画になっていて、男の自分としては「こんなどうでもいい女が突然モテるわけないだろ」とか突っ込んじゃいそうですが、「モテないボクが突然絶世の美女に惚れられた!」なんていう物語も多分数多くあって、そういった願望充足物語っていうのはお互い様だから簡単に馬鹿にしちゃいけないな、ともちょっと思いました。

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アポロ18 (監督:ゴンサロ・ロペス=ギャレゴ 2011年アメリカ映画)

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アポロ計画はアポロ17号で終了の筈だったが、実は公式には存在しない筈の18号が秘密裏に打ち上げられており、さらにそれは月で"何か"に遭遇し、その事実は40年間隠蔽され続けてきた!?…という胡散臭い陰謀論バリバリの映画、『アポロ18』です。映画は"回収されたフィルム"をもとにして作られた、というP.O.V.視点のドキュメンタリー・タッチのもので、結構ホンモノっぽくつくってあるんで感心しました。しかし"月面にいる何か(ナチじゃないよ!)"が登場した段階でころっとリアリティが失せて下らなくなる辺りもこの手のP.O.V.映画の定石を守っており、胡散臭さをさらに加速させておりますが、なんだか見世物小屋的な"安さ"は意外と嫌いじゃありませんでした。だいたい「回収されたフィルム」って、宇宙からいつ誰が回収したんだよ!?しかしアポロ計画が40年前って、本当に昔日の思いですねえ。

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20121015(Mon)

[]最近ダラ観したBlu-rayだのDVDだの (その1)『セレニティー』『アーティスト』 最近ダラ観したBlu-rayだのDVDだの (その1)『セレニティー』『アーティスト』を含むブックマーク 最近ダラ観したBlu-rayだのDVDだの (その1)『セレニティー』『アーティスト』のブックマークコメント

■セレニティー (監督:ジョス・ウィードン 2005年アメリカ映画)

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この『セレニティー』は大ヒットした映画『アベンジャーズ』の監督ジョス・ウィードンが2005年に撮ったSF映画で、ヒューゴー賞ネビュラ賞、プロメテウス賞と有名SF賞を総なめにした作品でもある、なんて知ったのでちょっと観てみました。物語はざっくり説明すると遠い未来を舞台にしたスター・ウォーズみたいなスペース・オペラで、もともとジョス・ウィードンが原作・脚本を手掛けていた『ファイヤーフライ 宇宙大戦争』というSFTVドラマシリーズの映画版完結篇として製作されたそうなんですね。で、こうやって書くと物凄く面白そうなんですが、もともとのTVシリーズを知らないとちょっと楽しめる部分が分からないような消化不良な出来になってて、少々残念でした。勿論TVシリーズを観ていなくても人間関係や物語の筋運びは理解できるようには出来ているんですが、TVドラマシリーズの映画版ということでそれぞれのキャラや物語背景の掘り下げが省かれている分、物語に初めて接する身としてはなにもかも薄っぺらく感じてしまい、単なるダイジェスト映像を見せられているような気分になってしまうんですよね。それと物語の中心となる、"未知の超能力を秘めた少女"が、その"未知の超能力"を最後まで全然つかってくんなくて、お陰で登場人物の皆さんがいろいろ大変な目に遭ってしまい、観ていて「もったいぶってるだけで全然使えねえなこの超能力少女!」とちょっとイラッとするんですよねえ。SF的な世界観や小道具、VFXもとりたてて目を惹く物がなく、その辺でも退屈しちゃった映画でした。

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セレニティー [Blu-ray]

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■アーティスト (監督:ミシェル・アザナビシウス 2011年フランス映画)

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モノクロ・サイレント映画時代のとある男女映画スターの盛衰をモノクロ・サイレントでそのまま撮っちゃいました、という作品です。ノスタルジックさとサイレント映画への郷愁がテーマとなっているんですが、ノスタルジックなものにあんまり惹かれない上に台詞がサイレントで美しい音楽で綴られていくこの映画、観ているうちにうつらうつらしてしてしまいました。ノスタルジックなものをそのままやっちゃうんじゃなくてそれなりに批評とか対象化とかあってもよかったのではないかと。

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20121012(Fri)

[]共産主義のヒーロー・スーパーマン v.s. レジスタンス・バットマン共産主義のヒーロー・スーパーマン v.s. レジスタンス・バットマン!を含むブックマーク 共産主義のヒーロー・スーパーマン v.s. レジスタンス・バットマン!のブックマークコメント

■スーパーマン:レッド・サン / マーク・ミラー、デイブ・ジョンソン、キリアン・プランケット

スーパーマン:レッド・サン (ShoPro Books)

「もしもスーパーマンがソ連のヒーローだったら?」というコンセプトのもと生み出されたのがこの『スーパーマン:レッド・サン』です。そう、このコミックでスーパーマンは、クリプトン星からアメリカ合衆国・カンサスの田舎町に飛来したのではなく、旧ソビエト連邦・ウクライナのコルホーズ=集団農場に落ち、そこで育てられたという設定なんですね。超人の能力を持つスーパーマンはヨシフ・スターリンのもと、共産主義国家の正義のために日夜活躍するのですよ!これを快く思わないのが自由主義国家アメリカで、スーパーマンの脅威を排除するため天才科学者レックス・ルーサーが陰謀を巡らすのです。一方、ソ連の中でもスーパーマンの覇権による全体主義社会を打倒すべく、一人のレジスタンスが立ち上がりテロ行為を繰り返すのですが、なんと、そのレジスタンスの名はバットマンなんですね!いやあおもしれえわコレ!

コミックではスーパーマンもバットマンもロシアっぽいイメージのコスチュームにマイナーチェンジしており、オリジナルとの微妙な違いを眺めるのも楽しかったりします。スーパーマンは全身黒のコスチュームで、胸にあるお馴染みの赤い《 S 》のマークは、共産主義のシンボルである槌と鎌に変えられ、物語の後半ではロシア高級官僚みたいな詰襟まで付け加えられています。対するバットマンはどことなく野暮ったいダブダブの軍服姿でマントはボロボロ、さらにマスクの額部分には寒いからでしょうか、毛皮までアレンジしている始末、マスクから覗く口の周りは無精髭だらけで実に貧乏臭いのが特徴です。しかしこの二人のロシア版アレンジ、意外と違和感無い、というか格好いいんですね。(下のイラスト参照)

スーパーマンの尽力の賜物で世界の殆どの国はソ連の同盟国となり、これらワルシャワ条約加盟国はマルクス・レーニン主義の名のもと幸福な社会を実現します。一方、資本主義国は地球上にアメリカとチリの二ヶ国のみとなり、アメリカは高い失業率と貧困から体制が崩壊しつつある国家と成り果てます。いやあ、共産主義はやはり正しかった!人民を真の幸福に導くのは共産主義だったんです!マルクス万歳!レーニン万歳!…という恐ろしくアイロニカルなテーマがこのコミックでは展開してゆくんですね。

この物語の中でスーパーマンは本人の望むと望まないに関わらず、正義と真正をスローガンに掲げるビッグブラザーとして扱われます。しかし、そもそもスーパーマンというのは正義と真正の人なのであり、それが行使されるのが共産主義なのか自由主義なのかという違いがあるだけなのです。それは大違いだろ、とも言えますが、正義と真正というものが、実は諸刃の剣であり、その行使のされかたによりこうも違ってしまう、というのがこの物語の面白さであり、それと同時に、ヒーローの正義ってなんなんだ?ということまで考えさせられます。そういった部分で、実に批評的な視点を持ち、作品としても完成度の高い物語と言えるでしょう。

ちなみにこの『スーパーマン:レッド・サン』は「深町秋生のコミック・ストリート」で深町さんが紹介されていて(『正義とは? 読者に鋭く迫る傑作「スーパーマン:レッドサン」』 )、とても面白そうだったので読んでみました。

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[]バットマンとジョーカーとの運命の初邂逅を描くコミック『笑う男』 バットマンとジョーカーとの運命の初邂逅を描くコミック『笑う男』を含むブックマーク バットマンとジョーカーとの運命の初邂逅を描くコミック『笑う男』のブックマークコメント

バットマン:笑う男 / エド・ブルベイカー、ダグ・マーンキ、パトリック・ジーカー

バットマン:笑う男 (ShoPro Books)

ゴッサム・シティの廃工場で顔を笑ったように醜く歪め白く変色した死体が大量に発見されます。それはゴッサム・シティを死と混乱の街に変えようと企むジョーカーの最初の挨拶状だった…というのがこのコミック『バットマン:笑う男』です。解説によると本書は『バットマン:イヤーワン』の直接的な続編として企画され、さらにジョーカーの初登場作品をリメイクしたものだということなんですね。バットマンとジョーカーの初顔合わせの物語は『ウォッチメン』のアラン・ムーアが原作を務めた既約作『バットマン:キリングジョーク』をはじめ、これまでにも数多く描かれているらしいのですが、"闇の男"バットマンが"虚無の男"ジョーカーと初めて対峙する、というテーマはなぜこれほど好まれるのでしょう。ジョーカーは常に謎と不条理に満ちた存在であり、その異常さが最も驚きを持って迎えられ、さらのバットマンを混乱の極みに陥れるのが彼の初登場のときだからこそ、こうして何度も「ジョーカー初登場」の物語が再話されるのでしょうか。

なおこの『バットマン:笑う男』ではジョーカー初登場作「笑う男」の他に、バットマンとグリーンランタンが連続殺人事件の謎を追う「ウッドキラー」も収録されています。

バットマン:笑う男 (ShoPro Books)

バットマン:笑う男 (ShoPro Books)

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20121011(Thu)

[]わしの心理を解明する わしの心理を解明するを含むブックマーク わしの心理を解明するのブックマークコメント

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暗黒皇帝である。苦しゅうない。このブログ「メモリのなんちゃら」を書いているフモという年寄りが「仕事忙しくて日記書いてる暇が無い」などと"とっても仕事している自分アピール"をしてきたのである。戯けた男である。この宇宙全てを統べるべく日々戦いを繰り広げるこのわしの労務と比べるならフモなる年寄りのやっていることはハナクソほじり以下である。まあしかし、フモなる年寄りは地球におけるわしの玉音の代理発言者なのでいたしかたない。そういうわけで久しぶりにこのわしがこの日記に登場することとなったのである。正確に言うとこのわしがわざわざキーボードなどという我が暗黒皇帝星では既に石器時代のものとも言える技術を使ってこの文章を書いているわけではない。地球から1万光年離れた我が暗黒皇帝星に存在する銀河暗黒大宮殿のわしの玉座から原始的な地球人どもには考えも及ばない超科学技術を使って地球のウサギ小屋に住むフモの脳内にわしの思念を送り、その思念をフモが代筆しているのである。どちらにしろ安寧の日々にうつつをぬかす怠惰な臣民どもよ、このわしの降臨に狂喜乱舞するがよい。

というわけでフモなる虫けら、犬、片方しかない靴下(そのこころは役立たず)に何を書けばいいのかできるだけイラついた口調で問い詰めたところ「なんか最近ツイッターでみつけた心理テストがあるので面白そうなのでやってください。ネタが無いときは心理テストに限ります」などとほざくではないか。心理テスト。下らん。そんなものは女子供のやるものである。「銀河を統べるこのわしに心理テストとはなにごとじゃ。そもそもこのわしをテストするなど不届き千万じゃ。貴様をサーラックの穴に落して百年掛けて消化させようか?」とフモの神経系に電撃ダメージを与えながら問い詰めたのである。するとフモはそのメタボな体躯を醜くヒクヒク痙攣させながらちょっぴりおしっこまでちびらせ「ひいい!すいませんすいません許してください戸棚にあった牡丹餅をこっそり食べたのはこのオレですお母さんごめんなさいもうしません」などとわけのわからないことを口走り卒倒してしまったのである。口ほどにも無いやつじゃ。まあしかしこの愚か者をいつまでもからかっているわけにもいかないので、こやつの言うようにその心理テストなるもので遊んでやろう。それが以下のものである。

【次の言葉で始まる短い文章を作りなさい】

1:しかし 2:やがて 3:ただ 4:だって 5:そして 6:水たまりは 7:あの子って 8:今日の私は 9:すこしは 10:涙は

わしの答え:

1:しかし征服する
2:やがて征服する
3:ただ征服する
4:だって征服する
5:そして征服する
6:水たまりは征服する
7:あの子って征服する
8:今日の私は征服する
9:すこしは征服する
10:涙は征服する

心理テスト結果。

【あなたが作った文章が意味するのは】 

1:今までの人生 2:恋人との行方 3:一人の時のあなた 4:あなたの嫌なところ 5:あなたの老後 6:あなたの本当の姿 7:好きな人の前にいるあなたの態度 8:ウソをついている時のあなた 9:今年の目標 10:初体験の時

この心理テスト結果からわしの心理を読み取るならば:

1:今までの人生…征服に明け暮れていた
2:恋人との行方…征服した
3:一人の時のあなた…征服している
4:あなたの嫌なところ…征服ばかりしているところ
5:あなたの老後…征服している
6:あなたの本当の姿…真の征服者
7:好きな人の前にいるあなたの態度…征服している
8:ウソをついている時のあなた…征服している
9:今年の目標…征服する
10:初体験の時…征服した

…ということになるのである。

【結論】わしは征服が大好きである

それでは地球の臣民どもよ、さらばである。

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20121010(Wed)

[]ドライヴ』はとてつもなくカッコいい映画だったな(ただし『ヴァルハラ・ライジング』はええっと…) ドライヴ』はとてつもなくカッコいい映画だったな(ただし『ヴァルハラ・ライジング』はええっと…)を含むブックマーク ドライヴ』はとてつもなくカッコいい映画だったな(ただし『ヴァルハラ・ライジング』はええっと…)のブックマークコメント

■ドライヴ (監督:ニコラス・ウィンディング・レフン 2011年アメリカ映画)

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昼はカー・スタントマン、夜は強盗の逃走専門運転手として働く主人公。その彼がある人妻に岡惚れしてしまいその彼女を助けたいばかりに女の旦那のヤヴァイ仕事を請け負ってしまい、裏社会の血みどろな陰謀に巻き込まれてしまう、というお話。この『ドライヴ』、劇場公開時はスルーしちゃったんですが、レンタル出たので観てみたらこれがもうメッチャ面白くてオレ好みの作品で、劇場で観なかったのを本当に悔やんじゃいました。でも映画館でやってたときの評判や宣伝がどうもオレが実際映画を観たときの感想とずれてて、「80年代風」とか「変な映画」とか言われてたけど、むしろ変というよりリンチ風のビザールな味わいだと言うべきだし、80年代的な暑苦しさとかマッチョさが皆無な分現代的だと思ったんですけどね。で、なにより燃えたのはその唐突に展開するバイオレンス・シーンの狂い方ですね。どことなく孤独な影を引き摺る男が女のために止むに止まれぬ狂ったような超絶暴力に打って出る。この辺、男の不器用な寡黙さと唐突な暴力描写は初期の北野映画や『タクシー・ドライバー』を思い出させるんですよ。ある意味北野武が撮った『タクシードライバー』ということも出来ると思うんですが、北野と比べると女の描き方が数段上手いし、どこかタガが外れたような危険なロマンチックさを併せ持った映画でもあるんですよね。確かに物語だけを追いかけると今まで散々作られてきたようなクライム・サスペンスでしかないんですが、その見せ方の要所要所がイカレている、というか、独特過ぎる奇妙な美意識に彩られている。そのドラッギーともいえる美しくそして凄惨な描写にとことん魅せられてしまう、そんな映画でした。

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ヴァルハラ・ライジング (監督:ニコラス・ウィンディング・レフン 2009年デンマーク・イギリス映画)

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とってもカッコよかった映画『ドライブ』の監督の前作、ということで観てみたんですが、これがなんかそのー、雰囲気だけで撮られたみたいな妙な映画で、ぶっちゃけて言うならあんまり面白くなかったんですけどねー、お話はまだまだ文明も存在しなかったような太古のスコットランド、そこの族長を殺して脱走した奴隷戦士が聖地エルサレムを目指すバイキングの一団と合流してどことも知れぬ土地に流れ着きそこで散々な目に遭う、というものなんですが、なんか主人公の"寡黙な奴隷戦士"が単なるええカッコしいにしか見えないばかりか彼とエルサレムを目指すバイキング連中の行動があまりに行き当たりばったり過ぎてアホなんちゃうこいつら?としか思えず、バイキングのくせにちゃんと海路わかってないばかりか辿り着いた謎の土地がエルサレムでもなんでもなかったにもかかわらず「でもここでいいや。蛮族征服しちゃえ」とかいきなり言い出し、かといってもともと無計画だから仲間割れした挙句頭おかしくなったり蛮族に次々に殺されて行ったりしてグダグダぶりがさらにグダグダになる、という恐るべき展開で、実の所なにやら宗教的な意味合いがある物語なのだろうけれどもあんまりそういった意味を汲みたくなるような面白さを感じられないまま映画が終わってしまったのが残念。水のシーンはちょっとタルコフスキーっぽかったでしたね。

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OsamoonOOsamoonO 2012/10/11 09:24 こんにちは。
小説は読んだのですが、映画は未見です。
小説では仰るところのバイオレンスシーンが突然すぎる印象を受けたので、映画はスルーしてしまいました。レンタルで観なくっちゃ!

globalheadglobalhead 2012/10/11 12:21 こんにちは、コメントありがとうございます。
自分は原作のほうは読んでいないんですよー。
ただ話だとシナリオの段階で相当の台詞を削ったらしく、完成した映画もかなり台詞の少ないもので、原作と比べたらかなり印象の違う作品になっているかもしれませんね。
映画は自分的にはかなり気に入ったんですが、OsamoonOさんも楽しんでもらえたら嬉しいです。

20121009(Tue)

[]日本暴力団株式会社〜映画『アウトレイジ ビヨンド日本暴力団株式会社〜映画『アウトレイジ ビヨンド』を含むブックマーク 日本暴力団株式会社〜映画『アウトレイジ ビヨンド』のブックマークコメント

アウトレイジ ビヨンド (監督:北野武 2012年日本映画)

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  • 北野武やくざ映画アウトレイジ ビヨンド』を観てきました。
  • 前作『アウトレイジ』はアナクロニズムの塊としか思えない暴力団員の描写とトゥーマッチとも言える暴力描写と笑っちゃうほど繰り返される「テメーバカヤローコノヤロー!」という怒号の掛け合いの連続で、これってビートたけし一流のギャグ映画なんじゃ?と思ったほどでしたが、逆に言うと暴力描写と怒号の応酬ぐらいしか記憶になくて、この続編が「前作で死んだはずのビートたけし演じる主人公が生きていた!」という粗筋だと聞いたときは「ええっと前作で主人公って死んでたんだっけ?」と一瞬考えちゃったほどでした。
  • さて今作では前作ほどのきっつい暴力描写と怒号の応酬は見られません。それなりに暴力描写はあるんですが、随分と大人しくなっていて、レーティング落したのか?と思ったんですが、調べてみたらレーティングは前作と同じR15+指定でしたね。
  • ビートたけし演じる主人公・大友も前作と比べたら随分枯れてしまい、「もうやくざ稼業にはかかわりたくない」なんてやる気のなさぶりを最初からアピールしており、まあそれでも結局やくざ同士の抗争に巻き込まれてぶっ殺されそうになったりぶっ殺したりしてるんですが、あまり物語の中心にはおらず、いい所に出てきて美味しい役かっさらう、といった感じでしたね。
  • そういった部分で前作ほどの狂騒的なトゥーマッチぶりは影を潜めてはいるんですが、クライマックスに近づくほどにじわじわと屍累々となってゆく物語にはやはり北野武ならではのタナトスの表出を感じました。
  • 北野武はこれまでにもやくざ映画を撮り続けていましたが、そこには北野なりの諦観や虚無感、といった作家性が漂っていたんですね。しかし『アウトレイジ』はもっと大衆受けしやすく分かりやすい馬鹿馬鹿しいまでの暴力描写で全てを牽引していたんですね。所謂"受ける映画"を撮ろうとした結果なのでしょう。しかし監督・北野武自身は自分の作家性、といったものへの未練が捨てがたく、この『アウトレイジ』も3部作になる予定らしいのですが早くももう「やくざ映画飽きた」とか漏らしていて、そういった部分で前作よりもちょっと引いた演出になってしまったのかな、とも思えました。しかし映画それ自体は前作には無いじわじわとした緊張感に満ちていて、北野武にはつまらない芸術映画なんか撮らないでこっちの方向でもっとはっちゃけて欲しいんですけどね。
  • それと映画を観ていて感じたのは、やくざ組織同士の腹の探りあい、足の引っ張り合い、騙しあい、組織への忠誠の名を借りた強要、恫喝、不信、懐疑、虚偽、これら全てが、業績の名の下にしのぎを削る日本によくある会社組織のありかたとなーんも変わらんじゃないか、ということでした。やくざなんかよりやくざみたいなブラックな企業のほうが日本には沢山存在し、やくざなんかよりも悲惨で悪どい被害を与えてるんじゃないか、と思えてしまいましたね。これら"日本暴力団株式会社"の数々は拳銃ぶっ放して人殺しをしたりはしませんが、精神を病んじゃったり挙句に自殺しちゃったり過労死する人は相当の数がいるわけで、さらに実際に物理的な害毒流しちゃったりしている企業だってありますし、そう考えると『アウトレイジ』をはじめとするやくざ映画の漫画みたいなやくざの皆さんよりも、法律的にグレイなゾーンで嫌らしいことをしている会社企業の連中のほうが、現実にはずっと多いんだろうな、とちょっと思いましたね。そういった意味で『アウトレイジ ビヨンド』は日本の社会のある種の戯画化されたものだといえるのかもしれません。

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jkjk 2012/10/09 12:57 1作目は三池カントク超えの『行き過ぎた暴力はお笑いに』でドカーンと行ってほしかったんですけど、2作目は雰囲気がまた違うみたいですね。

globalheadglobalhead 2012/10/09 19:11 これはこれで面白かったんですが、1作目『アウトレイジ』のパワフルさとは違って昔の北野武のやくざモノから諦観と虚無感抜いたような出来でしたね。
実は1作目それほど心に残んなかったんでこの出来も好きなんですけどね。意外と武は迷走しているのかもしれませんね。

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20121005(Fri)

[] オレの45作・漫画篇  オレの45作・漫画篇を含むブックマーク  オレの45作・漫画篇のブックマークコメント

ちょっと前に「オレの45曲」というのをやったんですが(記事はこちら)、あれって選んでる自分が一番楽しい企画でしたね。それに味をしめて、今回は「オレの45作・漫画篇」というのをやってみようと思います。子供の頃から沢山の漫画を読んできましたが、その中で思い出深く、そして衝撃を受けた自分の漫画読書体験をつらつら並べてみようかという企画です。なにしろ今年50歳になるという年寄りなものですから、古い作品ばかりですし、最近の漫画はあんまり詳しくないので、若い方にとっては「あれがない!これがない!」と思われるだろうセレクトになってしまいましたが、まあ「この日記の作成者はこんな漫画読んで育ちました」程度に楽しんでもらえれば嬉しいです。なお、1作家1作品にしようと思いましたが、手塚治虫だけはどうしたって神であり別格なもんですから、4作品を選ぶことにしました。

1.ノーマン / 手塚治虫

ノーマン(1) (手塚治虫文庫全集)

ノーマン(1) (手塚治虫文庫全集)

月を舞台にした手塚のスペース・オペラ。まだ小学校に上がる前に雑誌連載を読んでいたのですが、めくるめくSF設定にすっかり魅せられました。そして異星人ヒロイン・ルーピはガキンチョのオレの心をときめかす萌えキャラでした。しかしあまりにも悲劇的なラストは子供の頃に相当なトラウマとなってしまいました。

2.ザ・クレーター / 手塚治虫

ザ・クレーター (手塚治虫文庫全集)

ザ・クレーター (手塚治虫文庫全集)

手塚のSF短編集。暗い話がとても多く、これも子供の頃のオレのトラウマになりました。

3.タイガーブックス / 手塚治虫

タイガーブックス(1) (手塚治虫文庫全集)

タイガーブックス(1) (手塚治虫文庫全集)

これも手塚の短編集ですが、SFのみならずファンタジーや時代漫画なども描かれ、手塚の多彩な才能が堪能できます。雑誌連載で読んでいたのですが、子供の頃こんなに素晴らしい作品群を読めたのは本当に幸せだと思います。

4.火の鳥 / 手塚治虫

火の鳥 全13巻セット (角川文庫)

火の鳥 全13巻セット (角川文庫)

この作品に説明などいらないでしょう。まさにライフワーク、どの作品も心にズシンとくる完成度ですね。

5.リュウの道 / 石森章太郎

リュウの道 (1) (竹書房文庫)

リュウの道 (1) (竹書房文庫)

石森章太郎が『2001年宇宙の旅』にインスパイアされて描き上げた人類の滅亡と再生の物語。クライマックスの神話的な展開に気が遠くなりそうでした。

6.デビルマン / 永井豪

デビルマン (1) (KCデラックス (435))

デビルマン (1) (KCデラックス (435))

これも日本漫画史に残る傑作中の傑作ですね。友達の家で全巻読破して、あまりの衝撃に自分でも全巻揃え、それこそ何度も何度も読み返し、ラストの完膚なきまでの絶望感に酔い痴れました。

7.天才バカボン / 赤塚不二夫

天才バカボン (1) (竹書房文庫)

天才バカボン (1) (竹書房文庫)

ギャグマンガの金字塔であり原典であるこの漫画、実はおそろしくシュールな漫画でもあったんですね。特にまともに描くことを放棄したような後半の展開には度肝を抜かれました。

8.デスハンター / 桑田次郎

デスハンター(上) (マンガショップシリーズ)

デスハンター(上) (マンガショップシリーズ)

原作・平井和正のSFストーリー。冒頭から登場人物たちが次々に惨たらしく死んでゆき、しかもこの死と殺戮は最後まで続く、という徹底的に暗く非情な展開に唖然とさせられました。

9.ワースト / 小室孝太郎

ワースト (1)

ワースト (1)

ある日突然世界中のほとんどの人間が化け物に変身し、残された人々を襲い始めます。吸血鬼やゾンビ・ストーリーを思わせる人類滅亡とサバイバルのドラマ。これも作品全体を覆う絶望感がよかった。

10.ワイルド7 / 望月三起也

ワイルド7 1 野生の7人編 (ぶんか社コミック文庫)

ワイルド7 1 野生の7人編 (ぶんか社コミック文庫)

これも説明のいらない傑作漫画ですね。クライム・アクションというジャンル自体子供の頃は新鮮でしたが、望月三起也の描く描線はそれまで少年漫画で接したことのない洗練されたものを感じました。

11.地獄くん / ムロタニ・ツネ象

完本・地獄くん (QJマンガ選書 (04))

完本・地獄くん (QJマンガ選書 (04))

地獄からやってきた地獄くんが悪い奴らを懲らしめる、というお話なのですが、コミカルでホラーでシュールで、といった作品内容が楽しかった。単行本に同時収録されている「人形地獄」は子供の頃とってもエッチな作品に思えていろいろ興奮してしまいました。

12.悪魔くん千年王国 / 水木しげる

悪魔くん千年王国 (ちくま文庫)

悪魔くん千年王国 (ちくま文庫)

水木しげる作品も1作だけ選ぶのが難しいですね。「河童の三平」もよかったなあ。水木作品はその幻想的な異界の描写と、全体に漂う生への諦観が素晴らしいです。

13.魔太郎がくる! / 藤子不二雄A

魔太郎がくる!! (1) (中公文庫―コミック版)

魔太郎がくる!! (1) (中公文庫―コミック版)

ブラック・ユーモアと藤子不二雄Aのホラー趣味が全開になったこの漫画、そのマニアックさと多彩な展開に毎回よくこんなことを思いつくなあと感心していました。

14.藤子・F・不二雄SF短篇集 / 藤子・F・不二雄

藤子・F・不二雄SF短篇集 (1) 創世日記 中公文庫―コミック版

藤子・F・不二雄SF短篇集 (1) 創世日記 中公文庫―コミック版

藤子・F・不二雄のSF短編はどれも非常にクオリティが高くそしてSFファンのツボを押さえた名作揃いです。全集で全て読みつくしたいですね。

15.アゲイン / 楳図かずお

不思議な薬で若返った老人が巻き起こす大騒動。ホラー漫画で知られる楳図かずおが描く、狂騒的な笑いに満ちた超スラップスティックコメディ!そしてこの作品から人気漫画「まことちゃん」が生まれたんです。

16.亡霊学級 / つのだじろう

亡霊学級 (秋田文庫)

亡霊学級 (秋田文庫)

それまで一般的だった怪奇漫画から実話風の怪談話を描いて一世を風靡したつのだじろうのホラー短編。いやこれは怖かった。暫く一人でトイレに行けなかったよ。

17.ブルーシティ / 星野宣之

BLUE CITY CHRONICLE ? (光文社コミック叢書signal)

BLUE CITY CHRONICLE ? (光文社コミック叢書signal)

ウィルスとオゾン層破壊により絶滅した人類、たった一握りの人々が海底都市ブルーシティに生き残っていたが、その彼らを亡き者にしようとさらなる策略が進行していた…という未完の人類絶滅SFストーリー。絶望がさらに絶望へと連なる展開が魅力的でした。

18.生物都市 / 諸星大二郎

失楽園 (ジャンプスーパーコミックス)

失楽園 (ジャンプスーパーコミックス)

この作品が少年ジャンプの手塚賞作品として雑誌に掲載されたときは本当に驚愕しました。生物と無生物が融合する謎のウィルスが宇宙から持ち込まれ、全てのものがどろどろと溶け合ってゆく異様な世界。この1作を持って自分は諸星大二郎作品の虜となってしまいました。

19.1・2の三四郎 / 小林まこと

スポーツにはまるで興味がない自分でしたが梶原一騎作品は結構読んでいたりしてたんです。しかしこの作品はそういった梶原メソッドのスポ根セオリーを徹底的に覆した笑いと力強さを持ったスポーツ漫画として完成していたのがとても新鮮でした。

20.魔獣戦線 / 石川賢

魔獣戦線 THE COMPLETE 1 (アクションコミックス)

魔獣戦線 THE COMPLETE 1 (アクションコミックス)

石川賢の全篇にパワー漲りまくっているSF作品はとても好きだった。この作品は動物と融合しながら力を得てゆく者同士のおぞましくグロテスクな戦いを描きますが、石川のグロ生物描写は惚れ惚れするような出来でした。

21.風の谷のナウシカ / 宮崎駿

風の谷のナウシカ 全7巻箱入りセット「トルメキア戦役バージョン」

風の谷のナウシカ 全7巻箱入りセット「トルメキア戦役バージョン」

これも説明の必要のない名作中の名作でしょう。宮崎駿がここで成し得たのはアニメ誌という日本の漫画界とはまた別のフィールドであったことが大きかったのでしょう。

22.男おいどん / 松本零士

男おいどん (1) (講談社漫画文庫)

男おいどん (1) (講談社漫画文庫)

中学生の時の憧れはこの『男おいどん』だったんですよ。それまで履いてたブリーフを捨て、「カパカパのサルマタ」に乗り換えたぐらい影響受けましたよ。まあ着用済みサルマタを溜めたりはしませんでしたが!

23.日出処の天子 / 山岸凉子

日出処の天子 第1巻 完全版 (MFコミックス)

日出処の天子 第1巻 完全版 (MFコミックス)

日本の中世を舞台に、超能力を持つバイセクシャル聖徳太子が活躍する…というだけではなく、飛鳥時代の権力闘争と愛憎の物語を、あたかもギリシャ悲劇の如く描き切った筆力の凄まじさに息を呑みました。

24.綿の国星 / 大島弓子

綿の国星 (第1巻) (白泉社文庫)

綿の国星 (第1巻) (白泉社文庫)

大島弓子の魅力について書こうとしてはたと困ってしまった。絵柄の優しさ、ファンタジックさ、風変わりなストーリー、卓越した心理描写、性善説、ハッピーエンド。それらを作品の中に盛り込んだ漫画家はごまんといる。しかし大島弓子がそれら凡百の漫画家と決定的に違う何か、それを的確に言い表す言葉が思い浮かばない。むしろ、大島は他から徹底的に抜きんでたり違っていたりはしない。にも関わらず、大島は大島である。あえて言うなら、大島の作品は水のように空気のように心に沁みわたる。無理もなく特別でもない、しかし替え難い何か。それが大島の魅力なのかもしれない。

25.チョコレートスフィンクス考 / 伊藤重夫

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今回紹介する中で最もマイナーな漫画家になるかもしれないが、ポップで親しみやすい絵柄とは裏腹に、大胆に説明を省いているが故の難解なストーリーが奇妙に心を惹きつけ、この漫画家は何を訴えたいのだろう?とつい何度も読んでしまうのだ。基本的には10代の少年少女のラブストーリーなのだけれども、その物語は不可思議な逸脱を見せ、喪失感に満ちたラストを迎える。特に少女の造形が美しかった。

26.おんなのこ物語 / 森脇真末味

おんなのこ物語(ストーリー) (1) (ハヤカワコミック文庫 (JA835))

おんなのこ物語(ストーリー) (1) (ハヤカワコミック文庫 (JA835))

森脇真末味のロック青春群像漫画は連作短編集「緑茶夢」の頃から好きだったが、長編として描かれたこの作品は、あるセミプロ・ロックバンドの興隆と崩壊をよりドラマチックにエモーショナルに描き出す。タイトルとは裏腹に、主人公は青年だし全然おんなのこっぽくない物語だというのが面白い。

27.ねこぢるうどん / ねこぢる

ねこぢるうどん

ねこぢるうどん

ねこぢるうどん主人公のねこ姉弟の目は黒く穿たれた虚無の穴のようであり、そこには脊髄反射な生反応はあっても理解や共感や感情移入というものが徹底的に欠けている。だからこそ猫なわけだ。この”ケダモノ並み“の感受性は逆に言葉や理屈をすっ飛ばした直観的な世界へと繋がっている。直観のみで構成された世界はどうなるのか。それがねこぢるうどんの世界なのだ。

28.バタアシ金魚 / 望月峯太郎

バタアシ金魚(1) (ヤンマガKCスペシャル)

バタアシ金魚(1) (ヤンマガKCスペシャル)

この主人公好きだったなあ。馬鹿で単純で自己中心的で独りよがりでまっすぐで澱みがない。でもなんだか憎めない。そして望月峯太郎の絵がとても魅力的だった。

29.ノアの末裔 / 高山和雅

ノアの末裔

ノアの末裔

ガロ系のSF漫画なんですが、太古・現代・未来を舞台にした稀有壮大な物語で、しかも謎だらけのまま未完となってしまい、逆にその広げるだけ広げた大風呂敷の結末が気になって仕方のない作品でした。特に現代編、大多数の人々が眠りから覚めなくなり、それを逃れた少数の人たちが謎を追う、というストーリーが実に魅力的でした。

30.情熱のペンギンごはん / 糸井重里、湯村輝彦

完本情熱のペンギンごはん (ちくま文庫)

完本情熱のペンギンごはん (ちくま文庫)

元祖ヘタウマ漫画ですが最初読んだときはそのグジャグジャの描線に戦慄しましたね。しかもお話までグジャグジャでメチャクチャなんですよね。でもなんだかそのアナーキーさに引き込まれてしまうんですよ。

31.不条理日記 / 吾妻ひでお

定本不条理日記

定本不条理日記

吾妻さんの漫画は結構昔から読んでいたんですが、ここまでディープにSFな人だったなんてびっくりしましたね。つやつやした描線の後ろからじっとりと重く暗いものを滲ませているのも凄味があった。

32.ネ暗トピア / いがらしみきお

いがらしの初期4コマ漫画はギャグ漫画なのにもかかわらず凄まじいルサンチマンニヒリズムを漂わせ、凡百の4コマ漫画など足元にも及ばない暗く凄惨な笑いに満ちていました。そしてこのニヒリズムを通過したいがらしの諦観が「ぼのぼの」という傑作を生んでいったのです。

33.無能の人 / つげ義春

無能の人・日の戯れ (新潮文庫)

無能の人・日の戯れ (新潮文庫)

駄目になってしまいたい。世間から消え去ってしまいたい。どこまでも後ろ向きに後ろ向きに生きる、そんな静かな破滅願望、失踪願望。しかし、時々、人はそんなに前向きにばかり生きる必要はないのではないのかとも思う。人並みに生きられないものが即ち落伍者であるということは言えないのではないかとも思う。何も望まず、僅かなもので満足し、蜻蛉のように生きて死ぬこと。つげのこの作品は、高度経済成長後の豊かな暮らしへのアンチテーゼとして存在していたのかもしれない。

34.護法童子 / 花輪和一

護法童子

護法童子

日本中世を舞台に描かれる異形の者たちの物語。異能の漫画家・花輪和一の作品には絶望と虚無、冷笑と諦観が横溢するが、それと同時に至高なる者との対話と救済も描かれる。独自の宗教観と唯一無二の世界観を持つこの漫画家の作品は日本漫画界の至宝といえるだろう。

35.百物語 / 杉浦日向子

百物語 (新潮文庫)

百物語 (新潮文庫)

江戸時代を舞台に繰り広げられるあやかしの物語。ここで描かれる怪異は、何一つ説明がなく、それが起こった理由も結末も描かれないままに物語が唐突に終わる、という小編が並んでおり、読者は物語から投げ出されたままただ異様な感触だけが脳裏に残ってしまう、その不安さ、不安定さが、非常に優れた怪談として機能していた。

36.生きる / 根本敬

生きる 増強版

生きる 増強版

どこまでも汚い描線で人間のダメさバカさを徹底的に描きヒューマニズムと民主主義を肥溜めに叩き落とす根本の漫画にはおそろしくはまりました。

37.かっこいいスキヤキ / 泉昌之

かっこいいスキヤキ (扶桑社文庫)

かっこいいスキヤキ (扶桑社文庫)

駅弁のおかずを食う順番への凄まじい葛藤、これだけで一つの漫画にしてしまうというのにびっくりさせられましたね。ミニマムでどうでもいいことへのこだわり、しかし本人には大問題である、ということに注目した作風が面白かった。

38.寿五郎ショウ / 江口寿史

寿五郎ショウ (Action comics)

寿五郎ショウ (Action comics)

江口寿史は代表作よりもこういうしょーもない脱力ギャグが続く短編集のほうが好きでしたね。絵柄が綺麗で、内容が無意味、という素晴らしいギャグ漫画集でした。

39.愛のさかあがり / とり・みき

とり・みきの描く漫画の雑学に溢れ、いろんなことに興味を持って相対する姿勢と、非常にバランスのいいギャグのまとめ方は、オタクの一言では片づけられない知性を感じます。

40.サルでも描けるまんが教室 / 相原コージ竹熊健太郎

ギャグ漫画で何ができるのか、を全て種明かししてしまったこの漫画は、両刃の剣となって自らの漫画家生命を奪うであろうことも分かっていながら、それでもやってしまった文字通り捨て身の漫画という意味で凄味がありましたね。

41.AKIRA / 大友克洋

AKIRA(1) (KCデラックス)

AKIRA(1) (KCデラックス)

これも日本漫画の一時代を築いた金字塔的な作品ですね。短編『ファイアーボール』の頃から一部のコミックマニアの間で騒がれていた大友克洋がメジャーデビューで大作、ということで大いに騒がれていました。これの連載されていたころは完結まで死ねないなあ、と本気で思っていましたよ。

42.攻殻機動隊 / 士郎正宗

攻殻機動隊 (1)    KCデラックス

攻殻機動隊 (1) KCデラックス

サイバーパンクSFの極北をいきなり描いてしまったのと同時にこれを超えるSF漫画がいまだ現れない、といった意味で凄まじいハイクオリティの作品でしたね。作品の随所に書き込まれた膨大な情報量とそれとは裏腹な萌え要素のアンバランスさがまた面白かった。

43.寄生獣 / 岩明均

寄生獣(完全版)(1) (KCデラックス)

寄生獣(完全版)(1) (KCデラックス)

血!殺戮!死体!人類侵略テーマのSFなんですが、乾いた描線と冷徹な視点で描かれた屍累々の物語には魅せられましたね。

44.ベルセルク / 三浦建太郎

ベルセルク (1) (ヤングアニマルコミツクス)

ベルセルク (1) (ヤングアニマルコミツクス)

血!殺戮!死体!剣と魔法の物語ですが死と絶望に満ちた血なまぐさい物語展開は凄まじいものがありますね。

45.GANTZ / 奥浩哉

GANTZ 1 (ヤングジャンプコミックス)

GANTZ 1 (ヤングジャンプコミックス)

血!殺戮!死体!ありふれた日常的な風景の中で理由すらも分からず異様な敵と戦いを繰り返さなければならない不条理感が凄かったですね。

というわけで45作並べてみましたが、オレって死と絶望の物語が大好きなんだってしみじみわかりましたよ!

20121004(Thu)

[]最近読んだ本あれこれ / 『予告された殺人の記録』『インド夜想曲』『ブエノスアイレス食堂』 最近読んだ本あれこれ / 『予告された殺人の記録』『インド夜想曲』『ブエノスアイレス食堂』を含むブックマーク 最近読んだ本あれこれ / 『予告された殺人の記録』『インド夜想曲』『ブエノスアイレス食堂』のブックマークコメント

■予告された殺人の記録 / G・ガルシア・マルケス

予告された殺人の記録 (新潮文庫)

予告された殺人の記録 (新潮文庫)

町をあげての婚礼騒ぎの翌朝、充分すぎる犯行予告にもかかわらず、なぜ彼は滅多切りにされねばならなかったのか?閉鎖的な田舎町でほぼ三十年前に起きた幻想とも見紛う殺人事件。凝縮されたその時空間に、差別や妬み、憎悪といった民衆感情、崩壊寸前の共同体のメカニズムを複眼的に捉えつつ、モザイクの如く入り組んだ過去の重層を、哀しみと滑稽、郷愁をこめて録す、熟成の中篇。

マルケスが自身の最高傑作と呼ぶこの『予告された殺人の記録』は、実際の事件をモデルにマルケスがフィクショナブルな要素を混在させたルポルタージュ・フィクションといった体裁をとっている。貧しく閉鎖的な田舎町の外からやってきた金持ちの男が町の娘を見初め、破天荒なほどに大盤振る舞いの婚礼を挙げるが、その翌朝、娘の二人の兄がある男を殺す、と町中に触れ回り、そして町人たちが周知の中、誰も止められないままに惨たらしい殺人事件が行われてしまうのである。その事件の経緯を、マルケスは住民たちの様々な視点を通し、時間軸を錯綜させながら、「それはなぜどのようにして起こったのか」をじっくりと物語ってゆくのだ。それ自体が異様な殺人だが、物語は決して単なる犯罪ドラマに至ることなく、マルケスの筆致はあたかも殺人でさえある種の祝祭であるかのように描写する。絢爛豪華な婚礼の儀と呼応するかのような、生贄の儀式にも似た血塗れの殺人。マルケスは、『百年の孤独』をはじめとするマジックリアリズムとはまた別の方法論で、古い因習と土俗が何一つ躊躇することなく近代を飲み込んでしまう様を描き出そうとしたのだろう。

■インド夜想曲 / アントニオ・タブッキ

失踪した友人を探してインド各地を旅する主人公の前に現れる幻想と瞑想に充ちた世界。ホテルとは名ばかりのスラム街の宿。すえた汗の匂いで息のつまりそうな夜の病院。不妊の女たちにあがめられた巨根の老人。夜中のバス停留所で出会う、うつくしい目の少年。インドの深層をなす事物や人物にふれる内面の旅行記とも言うべき、このミステリー仕立ての小説は読者をインドの夜の帳の中に誘い込む。イタリア文学の鬼才が描く十二の夜の物語。

アントニオ・タブッキはイタリアの小説家。ヨーロッパ人がアジアやアフリカなど文化の違う国を訪れてその異質な文化に飲み込まれ、西欧白人的アイデンティティを失う、という話はよくあるのだが、この『インド夜想曲』はそういった異文化衝突の話というよりは、主人公がヨーロッパ人的なアイデンティティのまま異国であるインドの国を楽しみながら観光している、といった風情が漂う。なんというかいいホテル泊まり過ぎ。だがしかしそれはそれでインドの町を観光客的に眺めている描写は楽しめるし、その中で描かれる奇妙なもの、異様なものとの遭遇は語り部である主人公と一緒になって驚いたり怪しげな気分になったりできる。言うなれば「ちょっと不思議なインド紀行」といった感じの小説に仕上がっている。


ブエノスアイレス食堂 / カルロス・バルマセーダ

ブエノスアイレス食堂 (エクス・リブリス)

ブエノスアイレス食堂 (エクス・リブリス)

故郷喪失者のイタリア人移民の苦難の歴史と、アルゼンチン軍事政権下の悲劇が交錯し、双子の料理人が残した『指南書』の驚嘆の運命、多彩な絶品料理、猟奇的事件を濃密に物語る。「アルゼンチン・ノワール」の旗手による異色作。

邦題である『ブエノスアイレス食堂』だと異国情緒溢れる人間ドラマを連想させられるが、実はこの作品、原題を訳すと『食人者の指南書』ということになっている。確かに冒頭ではおぞましい食人事件が描かれるのだが、それは冒頭だけで、残りの殆どのページはアルゼンチンのある町に建つブエノスアイレス食堂がどのように始まり、どのような料理人がその店で腕をふるい、どのような極上料理を供し、それがどれだけグルメたちの絶賛を浴びてきたのかを事細かに描写するのに費やされる。料理人たちは殆どがイタリア系移民だが、実際にもアルゼンチンのほぼ50%は多かれ少なかれイタリアの血を引いているのだという。そんな食にうるさいといわれるイタリア人の、その料理人が作る料理を、ありとあらゆる食材や調味料の名前を列挙しながら、これでもかこれでもかと紹介してゆくのがこの物語のメインなのだ。正直、読んでいてこんなに腹の減る小説も珍しかった。しかしこの小説は決してグルメ物語というのではなく、冒頭の食人エピソードが最終的にどういった物語に繋がってゆくのか、読むものにじっとりした不安(と期待)を与えながら進んでゆくのが面白かった。

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20121003(Wed)

[]最近聴いたエレクトロニカなど (その2) ちょっぴり暗黒面 / Holy Other、Mohn、Silent Servant、Silent Harbour、Deepchord、Barker & Baumecker 最近聴いたエレクトロニカなど (その2) ちょっぴり暗黒面 / Holy Other、Mohn、Silent Servant、Silent Harbour、Deepchord、Barker & Baumeckerを含むブックマーク 最近聴いたエレクトロニカなど (その2) ちょっぴり暗黒面 / Holy Other、Mohn、Silent Servant、Silent Harbour、Deepchord、Barker & Baumeckerのブックマークコメント

■Held / Holy Other

Held

Held

ウィッチ・ハウス系アーチスト、Holy Otherによるデビュー・フル・アルバム。メランコリックなヴォーカル・サンプリングが飛び交い幽玄なメロディが奏でられる非常に美しいサウンド。 《試聴》

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■Mohn / Mohn

MOHN

MOHN

ドイツ名門レーベルKOMPAKTのWolfgang VoigtとJörg BurgerによるコラボレーションMohn。ダークで荘厳なアンビエント・テクノ。 《試聴》

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■Negative Fascination / Silent Servant

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SANDWELL DISTRICTレーベルの主力アーティストでもあるロス在住のJohn Juan MendezによるプロジェクトSilent Servant。ノイズ、インダストリアル、ドローン系のこれまたダークな音世界が展開する好盤。 《試聴》

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■Silent Harbour / Silent Harbour

Silent Harbour

Silent Harbour

デンマークのEchochordよりリリースされたオランダのプロデューサーCONFORCEによる変名プロジェクトSilent Harbour。これもまたダークなアンビエント・テクノ・サウンド。 《試聴》

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■Sommer / Deepchord

Sommer

Sommer

SOMAからリリースされたデトロイト在住のダブ・ユニットDeepChordのニューアルバム。ディープなダブ・テクノ世界は相変わらずだが、これまでよりもずっとリラックスした美しいサウンドが展開している。 《試聴》

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■Transsektoral / Barker & Baumecker

Transsektoral (import)

Transsektoral (import)

ベルリンのクラブBerghainのレジデントDJも務めるBarker & BaumeckerがOstgutよりリリースした1stアルバム。ひんやりとした空気感の中にソリッドなビートが飛び交うアンビエント/ミニマル・サウンド。 《試聴》

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20121002(Tue)

[]最近聴いたエレクトロニカなど (その1) / Deadbeat、Shed、Black Dog、Nick Solé、Yagya、Marcellus Pittman 最近聴いたエレクトロニカなど (その1) / Deadbeat、Shed、Black Dog、Nick Solé、Yagya、Marcellus Pittmanを含むブックマーク 最近聴いたエレクトロニカなど (その1) / Deadbeat、Shed、Black Dog、Nick Solé、Yagya、Marcellus Pittmanのブックマークコメント

■Eight / Deadbeat

Eight

Eight

ダブ・テクノ・ユニットDeadbeatの8thアルバム。ズブズブと重いベース音に反響するビート、そしてこれまで以上にアグレッシブなエレクトリック・サウンド。 《試聴》

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■The Killer / Shed

Killer

Killer

ベルリン・アンダーグラウンド・テクノのShedによる3年ぶり、期待の3rdアルバム。前作ではダブ・テクノへの接近もあったが今作ではそれを噛み砕いた上での上質なテクノ・サウンドを聴かせてくれる。 《試聴》

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■Music For Real Airports / Black Dog

Music for Real Airports

Music for Real Airports

Enoの『Music For Airports』の向こうを張り静謐かつ陰鬱なアンビエント世界を奏でるBlack Dogによる2010年リリースの作品。 《試聴》

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■Flowers For You / Nick Solé

Flowers For You

Flowers For You

Nick Soléによるビート・ダウン系のスモーキーな浮遊感に満ちたディープ・ハウス。 《試聴》

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■The Inescapable Decay Of My Heart / Yagya

THE INESCAPABLE DECAY OF MY HEART

THE INESCAPABLE DECAY OF MY HEART

アイスランド在住のYagyaによるアンビエント・ダブ風味でエモーショナルなディープ・ハウス。2CDで1枚目がヴォーカル、2枚目がインスト。 《試聴》

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■Pieces / Marcellus Pittman

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デトロイト・ビートダウン系のベテラン・プロデューサーMarcellus Pittmanがその長いキャリアから満を持してリリースした1stアルバム。 《試聴》

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namaniku_keronamaniku_kero 2012/10/02 23:04 僕もDeadbeatのEight買いましたよ!パッキパキが好みなので愛聴してます。

globalheadglobalhead 2012/10/03 11:02 Deadbeatいいですね。今日も面白いエレクトロニカ紹介しますのでよろしく〜。

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20121001(Mon)

[]月面ナチスがUFOに乗って襲ってくる!?〜映画『アイアン・スカイ月面ナチスがUFOに乗って襲ってくる!?〜映画『アイアン・スカイ』を含むブックマーク 月面ナチスがUFOに乗って襲ってくる!?〜映画『アイアン・スカイ』のブックマークコメント

アイアン・スカイ (監督:ティモ・ブオレンソラ 2012年フィンランド・ドイツ・オーストラリア映画)

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  • 「月からナチスが攻めて来る!」。一発ネタとしか思えない題材を映画化した『アイアン・スカイ』ですが、これがキワモノB級SF映画と思いきや、それを逆手に取った実にユニークな風刺映画に仕上がっていて、観てビックリしました。
  • 第2次世界大戦で月の裏側に逃げ込んだナチス・ドイツ軍が軍事力を蓄え、世界を征服するため再び地球に襲い掛かる。まあそれだけのお話でもそれなりに自分は楽しんだでしょうが、この『アイアン・スカイ』はもう一捻りしてあって、ナチスの全体主義を描くふりをしながらそれを迎え撃つアメリカの、民主主義に名を借りた全体主義ぶりを皮肉っているんですね。この辺、この間観たサシャ・バロン・コーエンの『ディクテーター 身元不明でニューヨーク』を思い出しました。
  • 実の所、世界をもう一度掌中に収めんと画策する月面ナチスの連中など、仮面ライダーのショッカー軍団程度の子供じみた脅威でしかありません。月面ナチスの連中はなにやら物々しい兵器で武装して地球を襲いますが、物々しいだけでアナクロな臭いすらします。一応凄まじい最終兵器も持っていますが、やっぱりどこかアナクロなんですね。一方それに対抗するアメリカをはじめとする国連軍団は、もっと遥かに進んだ、そして遥かに驚異的な科学力と兵器で月面ナチス軍団を追い撃ちます。
  • 結局、月面ナチスよりも真に恐ろしいのは、月面ナチスの連中が第2次世界大戦以来守り抜いてきた旧態依然としたプロパガンダ思想を、「これは使える」とばかりアメリカ大統領の選挙キャンペーンに流用する無節操で恥知らずな大統領選広報官と当のアメリカ大統領だったりします。そして月面ナチスとの戦闘すら選挙を有利にもっていこうとする材料として使おうとするのです。確かにナチス・ドイツは大戦中世界に恐ろしい戦禍をばらまきましたが、この今、この現代でもっと恐ろしいのは覇権国家アメリカじゃないか、というのがこの映画のテーマになっているんですね。
  • そして映画は、今も生き残るナチス・ドイツの時代錯誤的なアナクロニズムを嘲笑うのと同時に、抜け目無く覇権国家の権力を維持し、利権を独占しようとするアメリカの悪辣さを黒い笑いでもって描ききるのです。そしてB級SFというジャンルは、こういった風刺、諧謔、皮肉を描くのにとても適したジャンルだったんですね。
  • SF作品としてみると、科学考証などはメチャクチャではあるのですが(あれだけの建築物とエネルギーと人間を生活させるための資源を月でいったいどうやって調達できるんだ?とか月重力の問題とか)、なにしろ「月面から攻めて来るナチス」というテーマが非常に楽しいので"こまけえことはいいんだよ!"ということにしておきましょう!そして月面ナチス軍団のどこかスチーム・パンク的な建造物・兵器のデザインもSF作品として十二分に楽しめるビジュアルで、さらにクライマックスに用意されたスター・ウォーズ並みの宇宙戦闘シーンも馬鹿馬鹿しいながら迫力あるものとして仕上がっています。低予算だそうですがビジュアル的に全然遜色なかったですね。また、先のスター・ウォーズスター・トレック、そして『博士の異常な愛情』あたりからのパロディ・シーンなども探しながら観ると楽しいものとなるでしょう。
  • 作品としてみるなら編集がいまひとつドタドタしていたのが難かもしれません。不必要なシーンやもう少しシェイプ・アップしたほうがいいシークエンスも散見しました。しかしフィンランドというハリウッドから遠く離れた場所で、ハリウッド的な映画製作方法とは別の製作方法を模索しながら作られた(インターネットによる資金やアイデアの調達など)この作品には、野心的で斬新なものを作ろうという気構えを感じました。内容は全然違いますが、SF作品としてはニール・ブロムカンプの『第9地区』に通じるものがあるように思えましたね。
  • 今後の展開として口裂け女が月から攻めて来る「口裂けスカイ」、人面犬の群れが月から攻めて来る「ワンワン・スカイ」、死んだはずのエルビスが月から攻めて来る「ブルー・スェード・スカイ」などの映画化が望まれます。

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Iron Sky (Soundtrack)

Iron Sky (Soundtrack)

ナチスとNASAの超科学 (5次元文庫)

ナチスとNASAの超科学 (5次元文庫)

azecchiazecchi 2012/10/01 18:08 僕は月面から軍隊が、と聞いて真っ先にタイタンの妖女を思い出しましたが、その要素はなかったんですかねー。

globalheadglobalhead 2012/10/01 23:08 月面から杵を持ったウサギの軍団が地球人を亡き者にしようと襲い掛かる、という要素はありましたね。嘘です。ありません。

maruchan51maruchan51 2012/10/02 19:12 >>globalhead様
いつも楽しく映画評を拝読しております。ときどき、あんまり面白い文章が出てくるので、
ゲラゲラ大笑いしてしまうのが難ではありますが(笑)。

しかし、面白そうな映画ですね。日本でもこういう作品を作ってほしいものですが、
きっとスポンサーもなにもつかないでしょう(涙)。ああ、世間の風は厳しい……。
月に逃げ込んだアトランティス大陸人の生き残りが地球に攻め込んできて、それを海底軍艦が迎え撃つ、
とかいうバカ映画をつくるぜ!とかいう企画があったら、一生懸命バイトして寄付しますよ。

globalheadglobalhead 2012/10/02 21:16 こんにちは、コメントありがとうございます。
それにしても月の裏側、寒いし暗いし空気も無いし、ネットも繋がんないしAmazonで買い物も出来ないし、
コンビニも無いしピザの宅配もしてくんないし、多分ビール買うのも大変でしょうし、
なんでみんなこんなところに逃げ込みたがるのでしょうねェ。
ひょっとしたらその辺の普通の地球人にはわかんない物凄い楽しいことが待ってたりするんですかね。
朝は寝床でグ−グーグーであり学校も試験も仕事も会社もなく夜は月面で運動会なんでしょうかね。
みんなで歌おうゲゲゲのゲ。(なにか違う話になっている)

OsamoonOOsamoonO 2012/10/11 12:22 こんにちは。
とても面白かったです。
封切一週間にして一日一回の上映に成り下がっていましたが。
面白さは語りだすと止まらないくらい、いろんなシーンに散りばめられていましたね。

globalheadglobalhead 2012/10/11 12:35 ご覧になりましたか。
公開時は「なんでこんなに全国展開してるの?」と(この映画にしては)上映館の多さにびっくりしたものですが、さすがに封切り一週間後はそんな感じでしたか。
どちらかというとマニアックな映画ですが、沢山の人が観て「なんじゃこりゃ!」とびっくりしたり吹き出したりして楽しんでくれたら嬉しいですね。

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