2016片渕須直監督
地味な映画なのに、見た人はみんな絶賛のなんとも不思議な映画。でも観たら確かに誰かに勧めたくなる映画でした。
川崎市アートセンターで、昨日から上映されていて、お休み最終日の今日観に行きました。113席というミニシアターですが、上映開始前でチケット完売しており、続々とくるお客さんを職員さんがお断りしていました。
舞台が戦前戦中の広島・呉なので、当然のようにラストは原子爆弾の投下〜終戦なのですが、そこに向かうまでにすっごいドラマがあるわけでもなく、ヒロシマで生活をしていた女の子、すずが軍港の街、呉に御嫁入をして、そこでの戦時中の生活が淡々と描かれます。でもそこには厭戦感を想起するものはそれほどなく、だんだんと食糧事情が悪くなり、庶民の中にも徐々に戦争の影響が出始め、ついに空襲警報が頻繁に鳴り響くようになるその様子が2時間描かれるだけ。ところが、一瞬たりとも目が離せない。
「君の名は。」みたいに現実と見まごうような風景描写ではなく、どちらかといえばジブリ高畑勲監督作品のような水彩画風のアニメらしい画。キャラクターも、皆ほんわかした感じで戦時中を描いていると思えない。でも爆風と一緒に消えてしまったヒロシマの街や70年以上前の呉の街は確かにこうだったんだろうな、と思える不思議な感覚。
お勧めなんだけど、「どういう映画?」と聞かれると答えるのが難しい。舞台的には「火垂るの墓」なんだけど、主人公のすずさんのキャラクターの為「火垂るの墓」よりも前向きで明るい。
昨日、若松孝二監督の「キャタピラー」を観ました。四肢を戦場で亡くした長男が戻ってきて、村の人から軍神と崇め奉られるけど奥さんの心境は複雑。所々に挟まれる実写の戦争ニュース映画が"実話"風にしているけど、「この世界の片隅に」と比べると逆にこういう演出があざとらしく感じてしまう。「キャタピラー」は寺島しのぶが2010年ベルリン国際映画祭で最優秀女優賞(銀熊賞)を取っただけあって鬼気迫る演技がすごいですが。
「この世界の片隅に」、感動する映画というだけでは足りない。"お涙頂戴"映画というのでもない。絵が綺麗な映画というだけでもない。感動する台詞があるというわけでもない。そういう作為的な盛り上がりを一切排していながら、特にすずさんのその時々の想いが、妙に心に残る作品です。
大きな劇場で大々的にロードショーをしていないので、観る為にはちょっと探さないといけないですけど、戦争ものって色眼鏡ではなく、できればスクリーンで観てほしい作品です。
あ、のん(能年玲奈)の声がすごくよかった。声優いけるやん。
(予告編)
(お勧め評論1)
(お勧め評論2)