4日目:手術本番−2
長い回廊と手術室
そんな病室からの長い移動後、手術室にはいる。スグ手術室!かなと思いきやここからが長い。1つ2つ3つとドアの前を横切る。いくつあるんだろう。そう言えば父親の手術んときも、ICU(集中治療室)ってあったっけ。こんな風に手術室に隣接してICUとかHCUがあるんだろう。とボーっとした頭で思っていると、ついに手術室についた。女医さんがたくさんいて、てきぱきと仕事をしている。手術室は、どう見てもドラマとかでよく見るアノ手術室。但し、ピノコはいない。ヒョウタンツギもいません。ただTVで見た手術室とちょっと違うのは、患者を乗せる台が普通のベッドではなく、沢山の小さなベッドがより固まったみたいな、たくさんの体勢にできる台なところです。カミさんの出産時に見た記憶がある。どうも表現がうまくできない。
頭のうえでは、10個ぐらいの光の玉が光っている。昔流行ったiMacみたいに半透明の筐体の中にどでかいランプ。一つで100Wも200Wもあるような光。とてもまぶしい。それが十数個手術台を照らすようにできている。僕はここで俎上の鯉となるわけだ。もう既にヒレも動かせない鯉みたいなもんだけど。
「名前を言ってください。」と言われ、左手にマジックで書いた自分の名前を出し、声で答える、これは書類だけでやってしまうと、患者を間違ってしまう可能性があるため、ミスを防ぐ上でする確認事項。あと腰の手術である旨も伝える。ここまでは前の日に麻酔科の先生に指示されたこと。ここまで手術室に入ってから5分とかからない。
手術前の記憶
記憶の仕組みは、記憶のブロックがあって、忘れるということはそのブロック単位に記憶したものを忘れてしまうとのことです。なぜこんな事を書いたかと言うと、全身麻酔をすると、麻酔の前後の記憶が無くなることがあるらしいからです。
そのブロック単位で記憶が無くなったりするから、麻酔直前から麻酔が切れるまでの記憶が無くなるのではなく、麻酔直前より前の記憶から麻酔が切れてからそれより後の記憶までがぽっかり無くなるという現象が起きるようです。この点については、漫画家の唐沢なおき氏が「けんこう仮面」で体験談を書いています。一読あれ。
- 作者: 唐沢なをき
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2007/12/01
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僕は、幸運にも麻酔の効く直前までの記憶がある。口の上で人工呼吸器の出す酸素をシューシューとかけられた後、「ふむふむ、無味無臭である」とか余裕ぶっこいていると、「これから麻酔を入れます」って合図で麻酔の汁を点滴に追加される。僕の視界は壊れたビデオテープのように途中で映像が止まった。一時停止のように。眠くなって意識が無くなるんじゃなくて、視界が固まるって感じに止まって見えて、そして向こうに視界が追いやられる。まぶたを閉じたのね。
世界中を瞬間接着剤で固めたようだ。そしてプツンッと意識が無くなる。その間ほんの5秒ほど。映画でクロロフォルムを嗅がされて眠らされるワンシーンのようにスグ意識が無くなる。もっともクロロフォルムは凄く臭くて、意識が無くなるまでひどい苦痛だそうだが・・・ヤレヤレ、もう少し手術室ってヤツを観察していようと思っていたのに・・・あの箱なんか何の・・・プツンッ
4日目:手術本番−1
手術前日の夜
手術当日。前の日から絶食で水も飲まされない。さすがに緊張して眠れないので睡眠剤を飲む際の少量の水ぐらいはゆるしてもらったけど。
手術当日 昼
9:00から手術着に着替え、点滴が始まる。そのときに、右腕に仰々しいまでの点滴の器具を付けられる。これは、これから数日間付けっぱなしになり、点滴がすぐ出来るように工夫されている。1日数回ある点滴のときは点滴の先を付けられて、点滴が終わると看護士さんは針なしの注射器でチュッと生理食塩水か何かを入れてストッパーで止めてやる。
手術当日 昼
12:00ぐらいからストレッチャーに乗せられ、ゆったりするよって言われて肩に注射。筋肉注射ってヤツ。ゆったりするって言うと素人の僕は筋肉弛緩剤ってイメージがあって、昔あった筋肉弛緩剤の殺人がとある病院であったことを思い出す。まさか!僕はここで死ぬんじゃ・・・とか恐怖におののいたりするけど、そうじゃないらしい。当たり前田の寅之助。普通の人はこれがものすごく痛いって言っていたけど、僕の場合は身構えた割りには「へ?」って感じで終わった。看護師さんの腕が良かったのか?
この注射、だんだん効いてくるらしくて、酔っ払った感じでもなく、ボヤーっとした感じになってくる。瞳孔を開く点眼をされたときのように、目がチカチカしてきて、なんだか目の前が明るくてしょうがなかったけど。
ボヤーっとしてきて、気分がよくなってきたので、多分この注射は手術を受けるっていう決意を今から辞めたいなんて思い起こさなくするためにするんだなって勝手に解釈。もういいや!いったれー!って感覚になってくる。アレだアレ、映画「ファイトクラブ」の飛行機中のワンシーンで、緊急時に酸素を吸った人の絵が気分が良くなって運命を受け入れた顔をしているのが写るシーンがあったけど、あの心境だろう。
多分このままバンジージャンプを飛べって言われても高いところは嫌いだが「ヒャッホー!」とか言いながら操作が間違って画面の外に落ちていくマリオのように運命を受け入れてジャンプしてしまうに違いない。1プレイヤー失う。「チャチャッチャ、チャチャチャチャン♪」
ストレッチャーが動き出し、ついにそのときが来たか!と意気込んで手術室に向かう。心の中で「I'll be back!」と言っていたに違いない。でも本人ボヤーっとしているから「ま、いいや」程度にね。胸の鼓動はイヤでも高鳴る。でも「ま、いいや」程度にね。
ストレッチャーが病室から手術室まで転がされていく。時代劇で大八車に乗せられた病人のようになって一般外来を通って人の目に晒されながら転がされていく。ボヤーっとした意識で天井を眺めながら、少々恥ずかしいとおもったが「ま、いいや」程度にね。
どうやら僕も運命を受け入れたようだ。付き添いが「頑張ってね」イヤイヤ頑張ってって言われても僕はいまから意識を無くすんだし、何を頑張れって・・・とにかく日本人は「頑張れ」って言う言葉が好きだけど、この言葉にはどんな意味が隠れて・・・「ま、いいや」
3日目
医者の30秒診断
同室の方に医者が診断に来た。来て言った言葉がこれ。
先生:「酸素はずすから」
先生:「心電図のトレースも、もういいな・・・」
患者:「風呂・・・入りたいんだけど・・・」
先生:「風呂か・・・いいよ」
これで終わってしまった。この間1分とかからない。
その方いわく、看護婦さんに聞いたら、看護婦さんにもこんな感じらしい。余計な言葉は一切言わない。まるでゴルゴ13。そのうち「オレの背中に立つな」とか言いそう。第一話のように後ろに立った女性(看護師)が殴られる事態になるとかを想像してしまった。大病院はよく、2時間待って3分診療って揶揄されるけど、こりゃ究極だね。ま、その方は良くなっているということで、余計な言葉は要らないんだろう・・・と勝手に納得することに。
僕はカブトムシ
専用のコルセットが来た。先日頼んだ26,560円とすんごく馬鹿高いコルセット。これが僕の背骨を支える代わりとなるもの。正確にはこのコルセットの中に入った金属が僕の背骨を支える。後日聞いたことなんだけど、このコルセットにはもう一つ役割があって、腰をヒネるという動作をさせないってのがあるらしい。横の物を取るときなんかに、腰をヒネってって動作をしたりすると思うけど、コレが腰に悪いらしい。なので、コルセットで腰全体を覆い、体全体で横を向くように強制させるらしい。
つけてみると股間の上から胸まではコルセットで硬い甲羅に覆われてしまったようだ。中世の女性になった気分。そもそもアノ人達はもっと腰を細くしようと努力していたのでこのコルセットの比ではないと思うが。言うなれば、ぼくはカブトムシ。昆虫または甲殻類になった気分。霊長類 ヘルニア属 昆虫科 学名 コルセットン。カブトムシは夏に沢山の子供達に嬉しがられるけど、コルセットンは違う。会社の隅で腰が痛いとのたうちまわったり、電車で虎視眈々と座席をねらう、うすら暗いモノたちだ。ちょっと考えていて悲しくなった。
消えた痛み
明日の手術を前に先生達に診断をしてもらう。いろいろな体勢をさせられたり痛みを図るために体中をチクチクされたり。映画「ナインハーフ」でもそんなことしないよ。
でも先生たちが思ったほど痛みが自分にないらしく、お互いを見ていた。僕の場合、朝が歩くのがやっとで昼間はあまり痛くならない。座ったあとに尻から足にかけて痛みが「ジュワー」っとやってきてその場に立ち尽くすというのがいつものパターン。
なんか先生の反応をみていると、実は今回手術を受けるまでではなかったのではないかという気がしてきた。背中を開けてみたら「あ、ヘルニア無い!」なんて。そんなんだったら冗談じゃないよね。結構不安になる。
オムツ
手術後、当日は意識が朦朧としているらしく、オムツらしい。なに!オムツ・・・そんなこと聞いていないぞ。切ったらスグ病室につれられてきて、2週間ほどで退院・・・そのなかにオムツなんて・・・ということは、看護婦さんにオムツを交換されるってことで、ものすごく恥ずかしい。心の中の和久井さん(担当看護士)が交換するのか??ものすごくはずかしい。カミサンにも交換してもらったことが無いのに、他人様に交換されるとは・・・あと、尿は管を入れて取るらしい。あぁ、もう駄目だ。この年で恥ずかしすぎ・・・明日の手術本番が不安・・・
1日目 入院
入院前に自分専用のコルセットを作らなくてはならない。これは手術後から付けて、自分の背骨を外側から支える筋肉の変わりになるものです。コルセットの会社の人がきて、自分の腹に5分で乾く石膏みたいな濡れ包帯をまいていく。当然出た腹はカッコ悪いので、キュッとしぼませてね。でも乾いたその型を見て唖然。なんか恥ずかしいほど腹が出ていた。オッサンのキュッなんて一夜漬けの勉強みたいなもんなんだろう。その担当者に「毎回みんなそうやっているよ!」って見透かされたような気分になり、ひどく落ち込む。orz...
看護婦さんは1人が退院まで見るのだろうか。「担当のxxです」と言う部屋まで連れて行ってくれた。マスクから素顔は見えないが、目がぱっちりしてきれいな方なんだろう。名札の写真を見て、んー誰かに似ているなと思ったら、和久井恵美とか菅野美穂そっくりな美人さんでした。どっちも系統が違うだろう!って声は置いておいて、いいねぇ。僕的には和久井恵美が好きだったのでこれから心の中では和久井さんと呼ぼう。
術式について
ヘルニアの手術にはいくつかあって、次のようなものがあります。
レーザー治療 高出力レーザー 経皮的髄核減圧手術(PLDD)
- はみ出た椎間板にレーザーを当てると、椎間板が熱で縮んではみ出た部分を元に戻す。
- 注射針程度の穴で済む
- 手術時間はごく短時間(10数分)で入院の必要がない
- 保険適用外のため、手術費用が20〜50万程度かかるのが難点
内視鏡下ヘルニア摘出術(MED法)
の3つが主流らしい。そのなかで僕のケースはラブ法(LOVE法) 。当初、地元の医者からは「内視鏡下ヘルニア摘出術(MED法)」だからスグ退院できるよって話をきいていたけど、手術前日の説明で主治医から再度聞いた限りは、ラブ法(LOVE法)・・・話が違う・・・と一瞬思ったけど、まぁ、安全、確実なほうがいいしね、という事で納得。明日の手術を待つことに。
そのラブ法(LOVE法)だけど、概要を言うと、
- 背中をぱかっと7cmほど切ります。
- 背骨に張り付いている筋肉を剥離します。
- 背骨の邪魔な部分をちょっとばかし削ります。
- 神経索が見えてくるので、よけながらヘルニアを切り取ります。
- 縫合して終わりとなります。
あとは経過が順調で良ければ、退院となります。
手術には全身麻酔が行われます。そう、全マです。なにか卑猥な響きがありますが、気のせいでしょうか。多分気のせいでしょう。意識がなくなっているうちに切ってしまおうってアレです。そもそもWebでどこを調べても、全身麻酔が何故効くか、全身麻酔から何故覚めるか等が書いていないので、もの凄く不安になります。と、ここで一応不安にさせときます。
全身麻酔は、素人には口に付ける呼吸器からシャーっと出て、それを吸って患者はすぐ、うっすらと意識を失うってイメージがあります。TVでもそういう場面が多いしね。
でも今は、点滴に麻酔薬を入れるそうです。この利点は、「点滴からなので、スグに効果が現れる」とのことで、呼吸からだと、効果が現れるまで時間がかかり、麻酔薬のイヤなにおいを長時間嗅がなくてはならず、患者に負担がかかるが、点滴からだとそれが無いと、麻酔科の先生が言っていました。
ただ、子供のような点滴がしずらい患者の場合については、口から吸ってもらってゆっくり寝てもらうケースも今でもあるそうです。僕は立派なオトナなので、点滴から一気にいくそうです。ちなみに全身麻酔は大酒のみにはあまり効かないって言われますが、アレはウソらしいです。アルコールと成分も違うしね。ま、そうでしょう。
僕は普通にしているときの呼吸が浅いです。時々浅すぎて「はぁぁぁ」って深呼吸することもあります。全身麻酔では呼吸が浅くなり、時には止まるとのことで、全身麻酔中は人工呼吸器で酸素を脳に送ります。人工呼吸器は喉まで管を入れるために手術後、声がガサガサしたりします。付ける時間や、人によっては声帯がやられたりして声が出なくなります。ウチの親父がそうでした。
スケジュール
スケジュールの概要は入院して手術する1週間、あとはリハビリの2週間+αです。図にするとこんな感じ。だいたい、入院から退院までが3週間のスケジュール
になっていると思います。
1日目 | 火曜日 | 入院 | |||
2日目 | 水曜日 | 検査日 | |||
3日目 | 木曜日 | 予備日 | |||
4日目 | 金曜日 | 手術当日 | |||
5日目 | 土曜日 | リハビリ | |||
6日目 | 日曜日 | リハビリ | |||
7日目 | 月曜日 | リハビリ | |||
8日目 | 火曜日 | リハビリ | |||
9日目 | 水曜日 | リハビリ | |||
10日目 | 木曜日 | リハビリ | |||
11日目 | 金曜日 | リハビリ | |||
12日目 | 土曜日 | リハビリ | |||
13日目 | 日曜日 | リハビリ | |||
14日目 | 月曜日 | リハビリ | |||
15日目 | 火曜日 | リハビリ | |||
16日目 | 水曜日 | リハビリ | |||
17日目 | 木曜日 | リハビリ | |||
18日目 | 金曜日 | 退院 | |||
19日目 | 土曜日 | 自宅療養 | |||
20日目 | 日曜日 | 自宅療養 | |||
21日目 | 月曜日 | (自宅療養) | |||
22日目 | 火曜日 | (自宅療養) | |||
23日目 | 水曜日 | (自宅療養) | |||
24日目 | 木曜日 | (自宅療養) | |||
25日目 | 金曜日 | (自宅療養) |
最期の一週間の自宅療養がカッコしてあるのは「可能なら」という主治医の見解のためです。始めは退院で即仕事に復帰可能と言う話を聞いていたのですが、入院後、すぐではなく、ある程度自宅療養をしてからの方がいいよと言う事実が分かりました。
上でリハビリって書いたけど僕の年齢だと手術後、傷口の経過を見るぐらいで、リハビリらしいリハビリプログラムは一切無し。放っておかれるみたいでいわゆる放置プレイ。しかも3食昼寝付きの黄金生活。まるでアニメ「アルプスの少女ハイジ」でペーターが放牧するヤギのように1日中草を食み、「メー」と鳴いているような生活です。ボクハユキチャンニナル。おおー!、「本大量に持って言って読むぞぉ!」「PC持って行って何か作るぞぉ!」「xxxするぞぉ・・・」会社で頑張っている人達には悪いのですが、夢は広がるばかりです。