メディア・アート2

複雑系科学とアート』


複雑系とは?

複雑系(ふくざつけい complex system)とは、多数の因子または未知の因子が関係してシステム全体(系全体)の振る舞いが決まるシステムにおいて、それぞれの因子が相互に影響を与えるために(つまり相互作用があるために)、還元主義の手法(多変量解析、回帰曲線等)ではシステムの未来の振る舞いを予測することが困難な系を言う。

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ニュートン力学に始まる近代科学が世界を機械と見做し、ある事象を把握する際、物事を分析(分解)しいくのに対し、複雑系は近代科学では把握できない事象を把握するため、物それ自体でなく物と物との関係において世界の把握を試みる方法を採用する。
例えば、中学生の時に行った理科の実験では、世界に生じる事象を世界から切り取り、さらに他の要素が関わることのない条件化で実験を行った。複雑系は事象を世界から切り取ることなく、様々な要素の絡まりを絡まりのまま把握する方法。

次のようなものが挙げられる
非線形科学:非線形的な現象についての科学
 線形科学とは、例えば、現象を比例によって説明すること、一方、その比例では割り切れない部分までをも扱 うことが非線形科学だと言える。

フラクタル:自己相似形
 例えば、海岸線などが挙げられる。全体の形が部分においても見出され、その部分の形がさらにその部分にお いても見出される形を言う。

・自己組織化:生物のように、他からの制御なしに自分自身で組織や構造を作り出す性質 

自己組織化の代表例には、生物のDNAを設計図として原材料から自ら機能を持った組織をつくり出している、という性質がある。

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・カオス:非線形科学によって捉えられる現象
 例えば、落下する木の葉や水滴の落下中の振る舞いや落下地点を予測することはできない。つまり、あるシス テムが確固たる法則に従って変化しているにも関わらず、非常に複雑な動きをして近未来の結果を決定できな い現象を扱う。

・バイオ・カオス:心拍、脳波、体温変化、歩行リズムといった生体システムが生み出すカオス。例えば、健常者の心拍はカオス的 に揺らいでいるが、時間スケールの変化に対してフラクタル性を示す。

 例

彼らが1999年10月13日の「Nature Bionews」に発表したその内容を、ちょっと紹介しましょう。
まず被験者の足首に、小型の記録装置をつけます。かかとなり、爪先なりが地面について加重がかかると、装置につながったパッドがシグナルを出し、次にまた足が着くまでの時間がモニターできるしくみです。
これで1時間ほど調べた結果、健常者の場合、一歩前進するのにかかる時間がフラクタルなパターンを示すことがわかりました。
つまり、健常者の歩数とステップ時間の関係を見てみると、一定してはいないけれどデタラメでもなく、1歩目・10歩目・100歩目・1000歩目……には、何らかの相関が見られたということです。

・ホメオ・ダイナミクス(動的平衡)
 ダイナミカルな状態を積極的に自律生成することによって機能を維持する生体の制御情報原理を言う「ホメ  オ・ダイナミクス」という。生体における諸現象が健康なときはカオス的に揺らいでいるが、不健康になると 規則的になる。

人工知能

人工知能(じんこうちのう、英: Artificial Intelligence, AI)は、コンピュータに人間と同様の知能を実現させようという試み、あるいはそのための一連の基礎技術をさす。これと対となるスラング人工無能と言ったものも存在する。

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『心の社会』マーヴィン・ミンスキー(1990)

→脳はトップダウン形式ではない、単純なユニットの関わりによって意識が生じる。

・人工生命

人工生命(じんこうせいめい)は、人間によって設計、作製された生命。コンピュータ上のモデルやロボットや生化学を使ってシミュレーションすることで、生命に関するシステム(生命プロセスと進化)を研究する分野である。

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 炭素ベース(動物)の「生命」に加え、シリコン・ベースのもの(コンピューターの中の生命とか)も生命とみな すこと(クリストファー・ラングトン)
 →物質のみでなく、パターンとして生命をみなす(メディア・アート1のテライン)

セル・オートマトン

セル・オートマトン (Cellular automaton, CA) とは、格子状のセルと単純な規則からなる、離散的計算モデルである。計算可能性理論、数学、理論生物学などの研究で利用される。非常に単純化されたモデルであるが、生命現象、結晶の成長、乱流といった複雑な自然現象を模した、驚くほどに豊かな結果を与えてくれる。

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以上に関する参考映像


■クリスタ・ソムラー、ロラン・ミニャノー
インタラクティブ・プランツ・ドローイング》(1992)

仮想三次元空間での植物の成長の原理と,リアルタイムに起こる変化や変異をテーマとしたインスタレーション.来館者は,設置されている生きた植物に近寄って触れ,その手を動かすことによって,プログラム化された仮想植物体の成長をコントロールすることができる.このように仮想植物を人工的に成長させることによって,つねに特定の生物の形質変換や形態発生によってしか定義されない,生命の原理を解き明かすことをめざしている.

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植物に観者が触れると植物の電位が変化する。その電位を変換してCGの植物が生成される。植物がインターフェイスとなっている。


《A-volve》(1994)

水中を舞台とした仮想生物とのインタラクティブ・リアルタイム・インスタレーション。タッチスクリーンで好きな形の仮想三次元生物を描くと、その人工生物は即座に「生きて」実際に水の入ったプールを泳ぎはじめます。空間における行動は形態の表現であり、形態は環境への適応力を表現しています。形態と行動は密接に関連しており、人工生物の行動能力がプールでの適応力を決定します。最も適応力のある生物が生き残り、生殖、出産することができます。人工生物は、捕食する側とされる側に分かれ、互いに競争し、強い人工生物同士が出会った場合は、子孫を作り、新しい生物が生まれることもあります。生まれた子孫は、親の遺伝コードを受け継ぎます。突然変異と交配によって、メンデルの法則に従った自然に近い再生産メカニズムが実現するのです。作者が開発したアルゴリズムは、自然な「動物」らしい動きを可能にしています。人工生物は全てリアルタイムで、人間と他の人工生物とのインターラクションから生まれるため、その形態の種類は人間の進化の法則同様無限です。現実の自然空間としての水と仮想の人工生物の空間を密接に結びつけることによって、この作品は、「現実」と「非現実」の境界線をぎりぎりまで近づけ、『成長する植物』からさらに一歩進んだ「自然のインターフェース」と「リアルタイム・インターラクション」の探究の世界を創造しています。

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■クリスチャン・メラー
《virtual cage》(1993)


ある空間の中にレーザーとスモークによって作り出された膜、その中心に板がある。観者はその板に載る。観者の移動により板が傾く、それにつれ膜が空間全体に傾く。
また、その傾きによって虫の映像(void)によって可視化された音の群れが移動。
→レーザーの膜によって空気を可視化。つまり実際はインタラクティブかつダイナミックな世界の可視化であ る。また、虫(音)は各個体は単純な動きしかしないのに、全体としては生命体(群れ)のような動きをする。


■木本圭子
《imaginary nambers》


映像1
http://www.kimoto-k.com/imaginary_numbers/movie.html
映像2
http://www.ntticc.or.jp/coupled_oscillator/outline.html

《多義の森》は,木本圭子が継続して展開してきた《イマジナリー・ナンバーズ》と,今回初めて発表される,リアルタイム演算による映像で構成されています.《イマジナリー・ナンバーズ》は,非線形力学系の1つの数式をコンピュータにゆだねて生み出された形態を,オブジェやパネルなどによる解説や,静止画および動画という複数の方法で展示しています.奥の部屋の映像は,1つの数式からなる同じ振動モデルを多数結合させたシステムで,生命体のようにたえず変化していくその形態は,個々の振動からは予測できない,全体ではじめて発現する複雑な様相を呈しています.数式によって状態変化のモデルを作り,その多様な形態やリズムの中に,自然に潜む雄弁な多様性を見出していくこと.それがここでのアーティストの役割といえるでしょう.

*8
空虚の空間それ自体が情報に満ちている。その情報が何らかの作用によって我々の前に表れてくる。

などなど