希望の党の失速で前原民進党代表はどうなる(1)、策を弄する者は策に溺れる、国民世論は安倍内閣を拒否し始めた(13)、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その85)

 総選挙公示日の直前、かねてから計画していた北海道空知地方の旧産炭地域調査に出かけた。以前からの計画なのでいまさら予定を変更するわけにもいかず、赤平・三笠・岩見沢・歌志内・夕張など空知地方をレンタカーで回ったのだ。同行者3人はいずれも研究室後輩の大学リタイア組で前期・後期高齢者の混成部隊だが、屈強なメンバーばかりなので4日間の走行キロは600キロ近くに達した。

 北海道はいま紅葉シーズンの真っ盛り、空知地方の山々は色とりどりの色彩に溢れていた。だが、その山麓や中腹に広がる旧産炭地域は炭鉱住宅の廃屋が散在するゴーストタウンと化していて、目を覆うばかりの胸の痛む光景だ。その一方、人口減少と財政破綻の象徴となった夕張市では炭鉱住宅の集約化事業がはじまり(いわゆるコンパクトタウン化)、地域を存続させるための努力が地道に続けられていた。人口縮小時代のまちづくりを切り開く先端的な試みだ。

 民進党の解体で全国では野党共闘が分断されたが、北海道ではかなり事情が違う。民進党候補者の多くが立憲民主党に参加して野党共闘が維持され、道内12小選挙区では野党統一候補が11選挙区で健闘している。解散前の議席数においても小選挙区定数12議席のうち自民9、公明1、民主2、比例代表は定数8議席のうち自民3、公明1、民主2、共産1、無所属1とかなり分散していたが、今回の総選挙ではそれ以上の変動が予想されるのだという。

北海道新聞10月12日の衆院選道内序盤情勢の分析によれば、12選挙区のうち立憲民主・共産の統一候補は11選挙区(うち立憲民主8、共産3)で成立しており、民進党から希望の党に移ったのは2人しかいない。序盤情勢はいずれも自民が優勢だとは言え、野党統一候補が激しく追い上げていて情勢は極めて流動的、予断を許さない。ちなみに、希望の党からの候補者は4人しか出ていない。

これらの選挙区の中でも異色なのは、自民の協力で公明が過去3回も議席を維持してきた10区である。前回の総選挙では民進・共産票を合わせると公明票を上回っていることもあって、今回は自公与党の危機感は並大抵のものではない。私たちが岩見沢のホテルを出ようとした公示日の朝、報道陣がホテル前に集まっているので何事かと聞いたら、山口公明党代表が公示日の第一声をここで上げるだという。また、菅官房長官も相次いで10区に入りテコ入れを図った。彼にとっては北朝鮮のミサイル発射よりも公明党議席獲得の方が重要なのだろう(菅官房長官は危機管理に備えて選挙中といえでも首都圏から離れないと言っていた)。

本題に戻ろう。各紙は10月12日朝刊で公示直後の選挙戦序盤情勢に関する世論調査結果を一斉に発表した。各党支持率を見ると、自民・公明両党の議席獲得数は290から300議席になり、自公は安定多数を獲得する見込みだという。それに比べて、当初は110から120議席を取るかもしれないと言われていた希望の党が失速し、50から60議席にとどまるとされている。一方、立憲民主はメディアが安倍政権批判の「受け皿」と持ち上げたこともあって急伸し、40から50議席をうかがう勢いだ。また、共産はその煽りを食って20前後に後退するとの予想が支配的だ。

このままの情勢が終盤まで続くとは思えないものの、それでも希望の党の失速と立憲民主党の急伸は意外だった。前原・小池両氏による民進党解体劇があまりにも露骨だったので、それに対する反発が希望の党へのバッシングとなってあらわれ、同情票が立憲民主党に集中したのだろう。しかもこの勢いは終盤になるにつれて加速され、希望の党がさらに議席を減らす可能性も否定できない。政治は一寸先が闇であり、選挙は魔物だと言われる情勢がいままさに現前で展開しているのである。

私は京都選挙区の有権者の1人なので、とりわけ前原民進党代表の動向が気になる。京都ではいま前原氏に対する不信と反発が渦巻いている。彼の選挙区では優位は動かないものの、これまでにない逆風に直面していると後援会会長が漏らすほどだ。おそらくその結果は得票数の大幅減となってあらわれるだろう。

しかし私の関心事は、そんなところにあるのではない。総選挙後の政党再編の動向がどのような形であらわれるのか、その中で前原氏の行方がどうなるのかという点だ。今日14日の各紙の観測によれば、希望の党の失速を見越した参院民進党の動きが始まっており、無所属で出馬した野田・岡田氏などが(政党を問わず)元民進党候補の選挙応援に駆けまわっているのだという(岡田氏は京都の希望の党候補の応援にもきた)。予想されるのは参院民進党を核に無所属当選組が加わり、民進党の復活に向かっての動きが加速すると言うことだ。そうなると民進党希望の党への合流はご破算になり、政党助成金もそのまま民進党に残ることになる。

前原・小池両氏の民進党解体シナリオは、以下の様なものだったと推察される。(1)保守2大政党制(新保守主義政党+新自由主義政党)の確立のため、神津連合会長の支援の下に小池氏と前原氏が協力して政党再編を仕掛ける。
(2)そのためには民進党リベラル派を切り離すことが条件であり、前原氏が民進党の小池新党合流という流れをつくり、その過程で小池氏がリベラル派を排除する。
(3)小池新党結成の「風」を巻き起こして選挙戦に突入し、小池氏が首班指名者として立候補する(前原氏はおそらく副党首格として処遇されることになっていたのだろう)。
(4)小池新党が過半数を制すればもちろんのこと、過半数割れの場合であっても自民党との挙力関係を構築し(ただし安倍内閣は退陣)、保守2大政党制を確立する。また、それが不可能な場合は自民党との大連立政権を樹立する。

 この前原・小池シナリオが今後どうなるか、その行方はすべて選挙結果にかかっている。中盤戦から終盤戦にかけての選挙情勢を注視したい。(つづく)