「オリンピックの金メダルは金製ですか?」−池水雄一著「金投資の新しい教科書」

気がついたら、8月が過ぎていました。なんだか、ものすごい量(残念ながら、質ではなく・・・)の仕事をしていたような気もするし、今となってはそうでもなかったような気もするし。本は若干読む量が減っていたかもしれません。ただ、訳あって昔の教科書をひっぱり出して勉強したりもしていました。(経営学とか、法務とか、経済学とか・・・。4年前の大学院時代にタイムスリップですね。)

 で、今回はイベントも近いので、この機会に読まなくちゃ!ということで、積読の本の山からさらに「教科書」を一冊読んでみました。私が丸3年ラジオディレクター(私は水曜のみですが)をやらせてもらっているラジオNIKKEI「マーケットトレンド」の金曜日のコメンテーターとしてもおなじみ、池水雄一金投資の新しい教科書をご紹介したいと思います。(あ、別に誰かに頼まれてこの本を紹介しているわけではないです。本も自分で購入していますので。。。)


 池水さんは、80年代半ばから金市場に30年近く関わっていらして、2009年よりスタンダードバンク東京支店支店長です。プロフィールにもありますが、ラジオNIKKEI日経CNBC等、セミナー等で「金の市場について熱く語っています。」また、有料メルマガで、金市場のトレンドを配信しています。

 この本では金にまつわるさまざまなテーマを50個のQ&Aにまとめてご紹介しています。そもそも、金はどのような性質を持ち、どうやって生産され、どうして珍重されたのか。金はどのような形で取引されていて、誰が(どの国が)多く持っているのか、金はどうやったら買えて、買ったらどのような税金がかかるか・・・などなどを知ることで、金を取り巻く状況がよくわかる本になっています。金のことを一から学ぶのにいい本ですから、「教科書」なんですね。

 さて、タイトルに挙げた、「オリンピックの金メダルは金製ですか?」はこの本のラストクエスチョン、Q50に紹介されています。答えですが、
 

オリンピック憲章によれば、金メダルは銀台に金メッキまたは金張りだそうです(後略)

 2020年の東京オリンピックではどのようなデザインのメダルが作られるのか。日本選手はいくつ金メダルを獲得するのか。記念硬貨はどうなるのか。そんなところも楽しみですね。あと、7年後ですか。その頃、金相場はいったい、どのようになっているのでしょうか。今を理解するためにも、今後を考える意味でも、参考になる本だと思います。金市場を取り扱う番組担当者としても改めて勉強させていただきました。

 

 PS.マーケットトレンドのキャスター大橋ひろ子さんとこの本の著者、池水雄一さんをゲストに迎えてのセミナーTOCOM presents「ビジネスパーソンのための経済情報スキルアップ講座」が、今週木曜日12日の19時〜銀座のApple銀座 3Fシアターで行われます。入場は無料とのことですので、お近くの方、ぜひ、お立ち寄り下さい。私もスタッフとして、ちょろちょろしているもしれません。(じゃましないよう、気をつけます!)

 



『「上手くいかない」のも仕事のうち』−森博嗣著「やりがいのある仕事」という幻想

 ひょんなことから始めた弊社の職業訓練も、もう3年目。最初はただ教えることに精一杯でしたが、制度が基金訓練から求職者支援制度に代わり、講義内容も職業支援の在り方も、制度的にも、内容的にも深化してきています。明日からまた新しいコースの募集も始まります。

 おかげさまで、キャリアカウンセリングにも取り組み、さらにその効果を上げるためにはどうしたらよいのかなんてことも考えるようになってきました。その関連の本にも、目が行きます。(とても読み切れてはいないですが。)勉強の範囲というのはきりがないものですね。

 そんな中、今日ご紹介するのは、ちょっと肩の力を抜いて「働く」とか「職に就く」なんてことを考えるのにいい本ではないかと思います。
 
 森博嗣「やりがいのある仕事」という幻想 (朝日新書)。帯には「労働1日1時間の僕が考えていること」とか、「働くことってそんなに大事とか?」ちょっと刺激的な文字が並んでいます。


 
 仕事に悩んだ時、うまくいかないなぁと思うとき。会社やめたいなぁとか、やりがいがないなぁと思った時。仕事は人生の中の一部分、お金を稼ぐための手段。と冷静になれば、少なくても絶望の淵からは救われるのかもしれないですね。というのが私の読後感です。

 森さんは今は作家として、1日1時間だけ執筆をされているとこの本には書いてあります。若いころは寸暇を惜しんで研究をされていて、出世したら研究の時間が減っていって、小説を書くようになったら成功して、大学の世界を抜け、今では、模型製作が一番の大切なことである。こう書くと、なんだか自分には遠いなぁと思ってしまいますが、人生の楽しみ方は、森さんのこの本にも書いてある通り、ひとそれぞれ。そういう考えに触れられるのも本の魅力です。

 

「今の仕事がどうしても嫌で、とにかく死にたいくらい落ち込んでいる」という人は、その仕事を辞めればよい、と僕は思う。実際にそういう相談を受けたら、「辞めたら」と答えるだろう。仕事は辞めても取り返しはつく。<中略>
 「希望する仕事に就けない」と悩んでいる人は、とりあえず、できる仕事をすれば良いと思う。バイトでも良い。どんな仕事でも、恥ずかしいことはない。<中略>
 「良い就職ができないから、良い結婚もできない。だから、良い人生が送れない」と考える人は、「悪い就職をして、悪い結婚をして、悪い人生を送ってみてはどうか」とすすめたい。僕は、そういうものはないと考えているからだ。悪い人生って、なんだろう?(pp211-212)

 まず動いて見て、やってみると意外に楽しい世界があったりするものですしね。ま、仕事は楽しくなくてもやらないとならないこともありますけど。肩の力を抜いて、取り組んでみましょうか。大切なものは、意外なところで見つかるもののようですしね。


『平和を望むのであれば、過去の戦争を研究すべき』‐野中郁次郎編著「戦略論の名著」

 お盆の時期。平和な3連休の中日。こういう日だからこそ、あえて「戦争」「戦略」を考える本をご紹介しましょう。今日も新書からです。


 野中郁次郎編著「戦略論の名著」 - 孫子、マキアヴェリから現代まで (中公新書)。昨日、1日で一気に読み切りました。

 野中さんといえば経営を学ぶ人なら、戦略論ではかならず文献に当たるはず。失敗の本質―日本軍の組織論的研究 (中公文庫)とか知識創造の経営―日本企業のエピステモロジーなど、太平洋戦争での日本の戦略の誤りを分析から現代の情報社会での経営の在り方まで、戦略を幅広く研究されている方です。

 その野中氏が中心となって、戦略本の名著と言われる12冊を、解説しているこの本。孫子の兵法、マキアヴェリから、シーパワーといえばマハン、そして宇宙時代の戦略と提言までがぎゅっとつまっています。

 そういえば昔マキアヴェリ読んだなあ。「君主は狐とライオンに学ぶべき」とか。クラウゼヴィッツ「戦争は政策遂行の一手段」だとか。これから戦略を学ぶ人にも、これから勉強する方にもおすすめです。ただ、内容はかなりハードです。そしてこの新書ではあくまで武力を中心とした「戦争」をテーマにしていて、「企業経営」の話は直接は出てきません。その点はご注意ください。

 そして、タイトルにも挙げましたが、平和を欲するのなら、現実から目をそらさずに、戦争の意味をしっかり学んでおくべきという野中氏の巻頭の総論をかみしめながらもう一度読んでみようかなと思っています。



『われわれは大量の情報が氾濫する時代を生きている。しかし、情報それ自身には意味はない。人間がアタマを使って情報に関わってはじめて意味を持つ』-楠木建著「経営センスの論理」

 いやぁ、夏ですね。アイスが美味しい!冷たい飲み物(特にビール<爆>)がありがたい。冷房は大発明だ。なんて、感謝したくなる今日この頃です。

 3年前のような長くて厳しい夏になるのか、注目ですね。

 少し更新は遅れてしまっていますが、地道に本は読み進めています。ここのところ、続けて新書を読んでまして、今日ご紹介するのは楠木建経営センスの論理 (新潮新書)。楠木さんといえばビジネス書の分野でベストセラーになった「ストーリーとしての競争戦略」 (Hitotsubashi Business Review Books)の著者で、現在一橋大学大学院の教授をなさっています。「ストーリーとしての競争戦略」では、常識では考えずらい組みあわせで成功されている企業の戦略を取り上げ、だからこそ競合が真似をしても、うまくいかない。その仕組みをわかりやすくストーリー仕立てで説明されていて、なるほどなんて思いながら読ませていただきました。私の住んでいるところに近いマブチモーターの成功例などは、目からうろこという感じでした。

 その楠木先生の本ですので、きっとわかりやすくのだろうなと思って読み始めると、「わかりやすい+身近+自分ネタが豊富」ということで、エッセイを読みながら、それが経営戦略の話につながる面白くて、ついでにためにもなる(ごめんなさい)というのが読後感です。

 第2章「戦略」の論理では、企業戦略と一緒に極私的な戦略論が登場。H&D戦略ということでH対抗戦略は髪を剃ってしまう。D作戦は筋トレで、おなかを目立たなくするという「攻撃は最大の防御」という論理を展開されています。

 タイトルに挙げたのは、第6章「思考」の論理から。(p219)現代社会は情報があふれている。「情報」が増えれば増えるほど「注意」が減る。仕事を「アウトプット」を挙げることと考えると、漫然とインプットばかりしていてもそれは「趣味」の世界で、アウトプットにつながる注意を向けられる対象どうやって「情報」を絞り込んでいくか。その対象を考える作業が大切になってくるとお考えのようです。大変参考になります。



 身近な出来事、話題から楽しく経営が学べる、考えるきっかけを提供してくれる手軽な新書です。是非ご一読を。

 

 今日はお盆で墓参り。その前に読書がはかどるあの場所へ行ってきます!
 












『イベントは「心に残るひと言」「他人に伝えたいひと言」を生み出す営みである。』−堺屋太一著「人を呼ぶ法則」

 本を読むには旅に出るか、献血をするのが私にとってはベストのようです。家にいれば、何かするか寝ているか。仕事をすれば、忙しくしてしまう。強制的に、「非日常空間」を作ることで、ちょっとした隙間を作ることができます。
 
 もちろん、旅の途中では現地でしか味わえないもの、そこに行ったからこそ楽しめることを欲張らずにしてきます。結局食べ過ぎたり、疲れすぎると気分が乗らなくなってしまうので、ほどほどが私にはいいようで。そんなことを思えるようになったのも、ある程度の年齢を経たせいでしょうか。

 さて、旅の動機には「イベント」見学、体験、開催や出展なんていうのもあると思います。今日ご紹介する本は、日本で指折りの大イベントであった「大阪万国博」の仕掛人であり、この日本の万博を上回る数を集めた上海万博の海外アドバイザーで日本産業館出展合同会社代表 堺屋太一さんが書いた人を呼ぶ法則 (幻冬舎新書)です。最近、私も千葉・船橋市異業種交流会の主催なるものを始めて、人を集めるためには、何が必要なのかな。という思いもあって、(万博と交流会ではあまりに規模が違いますが。)本を買ってみて気づきました。そういえば、堺屋太一さんって、私が通った社会人大学院の学督で(私の在学中にはもう堺屋さんの講義はなくなっていましたが。)、イベントに関する講義も設定されていたなぁ。なんて。そうかぁ、あのとき、もう少し欲張ってイベントの講義取っておけばよかったという後悔も持ちつつ、その分この本で吸収すればいいかと気を取り直して、読み始めました。

 この本では、大阪万博が開催されるまで。その後、たくさんのイベント・博覧会が企画され、テーマパークも作られましたが、うまくいかなかったその理由。そして、沖縄海洋博や北京万博で堺屋氏が考えていたことや、コンパクトにまとめられています。

 たとえば、
 

イベントとは

 「臨時的な装置と演出によって
 非日常的な情報環境を創造し、
 多数の人に対して、
 通常では感じられない心理的肉体的な刺激を与え、
 特殊な情報伝達状況を生み出す」
 事業である。(p31)

 イベントは「心に残るひと言」「他人に伝えたいひと言」を生み出す営みである。(p34)

 イベントは「ひと言」を作る場ですか。これができれば別の人にも伝わるというわけですね。

 
 そして、今後参考になると感じたのはイベント「プロデュース10段階」。(p223)
 

 1.意志の確立=理念の設定
 2.コンセプト(概念)の明確化
 3.ストーリー・メーキング
 4.シンボルの設定
 5.基本構想(プラン、スケジュール、仕組み)
 6.基本設計(空間計画、運営構想、予算設定)
 7.問題点の究明と相互関係の確認
 8.実施計画
 9.総点検
 10.実施設計、実行スケジュール、資金計画の確認

 新規の単発的な事業を起こすときにも参考になりそうです。プロデュースの際にはぜひこの10点を考えつつ、やってみようかな。そういえば最近そんなお話をお手伝いする話もありましたね。お役に立てればよいのですが。



 




「明日の自分は今日の自分より一歩前に進んでいる」という気持ち−丹羽宇一郎著「北京烈日」−

 つい先日、名古屋に行っていた気がするのに、もうそこから1週間以上過ぎていることにびっくりしています。それだけ毎日、いろいろなことが起き、なんとか(ほんとなんとか・・・)やってきている証拠なのだと思います。先週も水曜日にはセミナーを、金曜日にはピンチヒッター、土曜日は診断士の協会の会合に参加してここでもミニセミナー受講などもありつつ、日頃の仕事も・・できてるかな?

 さて、今日は先週水曜日、いつものラジオNIKKEIさんでのお仕事が終わった後、大手町・日経カンファレンスホールで行われた「日経電子版特別セミナー」丹羽宇一郎さんのトークセッションで来場者プレゼントとして配られた本北京烈日をご紹介したいと思います。

 セミナーで、中国にいて怖くなかったのか?という質問に対し、丹羽氏は「別にビビることはなかった」とお答えになっています。伊藤忠商事の経営者時代には、車を使わず満員のJRに乗って毎日通勤していらして、「あの当時も周りからは警備の都合で車をなんて言われたけれど、そういうことは大丈夫だから」と。実際に北京で、車につけた国旗を取られた事件の時も隣に乗っていた公使に「俺は平気だから、今の状況を写真に収めておきなさい。もし、万が一のことが起きれば、それが証拠になって、問題提起ができるから。と言ったのだけど、公使は写真なんて撮ったことないものだから、なかなか撮れなくてね。」なんてとぼけたことをおっしゃって笑いを取っていました。フランクな方ですね。

 順番が後先になりましたが、丹羽宇一郎さんは前中国大使。民主党時代の民間登用の目玉人事でした。その前は伊藤忠商事に長くお勤めで、社長・会長にも就かれています。伊藤忠で社長に就任直後、累積債務を一気に償却したのち、業績をV字回復させたことを覚えていらっしゃる方も多いのではないでしょうか。

 さて、本書。丹羽さんが中国で感じたこと。そして「愛国親中」(P178)。国を愛した上で、中国と親善を結ぶということで、愛国が先に立つといいます。その愛国の思いを、例えば第5章の「日本経済をデザインする」という章では、国のグランドデザインを示すという形で表現しています。

 今日の表題はその中から。丹羽さんは日本と中国との差を、教育の行き届き方の差が大きいとご覧になっているようです。傷ものは売らない日本のスーパー。その正直さが信頼を生み、リピートにつながります。一方、多少の傷は隠しても、正規の値段で売りつけるのがいいとする中国流の考え方。だから日本から進出したスーパーは現地で成功するのだといいます。この差を埋めるために、今中国は、教育に国家予算の多くを割き始めています。

 日本においてもエリート教育の強化が叫ばれています。この本で丹羽さんはエリートもブルーカラーの精神を持つよう努力することが必要だといいます。

 

そう、ブルーカラーもエリートも、その目指すところはまったく同じなのです。良いものをつくるためにコツコツと働き、その積み重ねが人のため、社会のためになるのだ、という心がまえ―これこそが、今の若い人に最も不足していて、最も私たちの社会に求められているものなのではないでしょうか、

 若い人たちにはぜひ、3Kでも4Kでも辞さないぞという気概で事に当たっていただきたい。そこで大切なのが「明日の自分は今日の自分より一歩前に進んでいる」という気持ちだと思います。
(本書 p103より)

 私も、一歩でも前に進むお手伝い(求職者支援講師)から今週のお仕事スタートです!ついでに自分も少しでも進歩していたいと思っています。(もう若いとはいえない歳ですが・・・。)
 

 この他にも、尖閣の問題、世界の食糧事情、今後の中国との付き合い方など、今後の日本とアジア・太平洋を考えるということでもかなり役立つ資料などもあり、考える上でのヒントになる本だと思いました。この分野に興味を持つ方には、お勧めしたい本だと思います。



「もう、後戻りはできないのだ」−村上春樹著「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」

 久々の旅です。新幹線はネットと読書に最高ですね。ノートPCの電源をお借りしながら、安心してネットもつなげます。

 今回の旅のお供は話題の「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年。

 超話題作でもあり、そのくせネットでの評判はそれほどよくなく。私も読み始めたときはちょっと物足りなさを感じたのですが、最後まで読むと「ああ、なるほど」と思うところがありました。青春小説のその後、みたいな感じですね。ちょうど私くらいの年代が読むのに、ジャストフィットしている感じがします。そういえば、この小説に出てくる5人組が高校時代を過ごしたところが、今日の目的地だったりして・・・。

 人はそれぞれ事情を抱えて生きていく。もう後戻りはできない。でも悩みを抱えつつ、生きていていいんじゃないですかね。きっと。